ニューロセプションという新しい言葉をご存じでしょうか?
この記事ではニューロセプションについて説明し、最後に活用例なども紹介してみたいと思います。
ニューロセプションとは何か?
「ニューロセプション(neuroception)」とは、直訳すると「神経の知覚」という意味になりますが、人間は無意識的な神経プロセスで「安全かどうか」を察知していると考えられ、神経生理学者ステファンW.ポージェスの「ポリヴェーガル理論」のひとつの概念として生み出された言葉です。
※ポリヴェーガル理論(直訳:多重迷走神経理論)では、従来の交感神経と副交感神経のバランス理論とは異なり、2つの防衛機能である「交感神経系」「背側迷走神経系」と社会交流機能である「腹側迷走神経系」の多重な神経システムによって安全か危険かを判断していると考える理論です。人間は他者とつながることで自律神経系が健やかに機能していくこともこの理論の大事なポイントです。
その危険察知は、考えたりする意識的な認識や知覚とは異なり、動物的な思考を伴わない自然察知で働きます。
「なんとなく感じる」「嫌な感じがする」と意識に上がってくる感覚というとわかるかもしれません。
危険を察知すると身体に緊張が走ったり、内臓に影響を与える場合もありますよね。
そして危険から回避(逃避)したり、闘争して生き延びてきたという考え方になります。
視覚と聴覚から多くの情報を得ますが、第六感的な肌感覚や直感なども含めてその危険性を察知しているといわれています。
察知するのは、
- 安全な場所かどうか
- 安全な人かどうか
- 安全な環境や状況かどうか
- 安全な未来かどうか
といった自らがかかわるすべてに関してです。
その危険察知は、人によってその対象は異なり、その強さも異なります。
- 性格的にこういう人が苦手
- 昔○○を経験してあの場所(ああいう人)がダメ
- ○○に行くと拒絶反応が出る
- 理由はわからないけど嫌な感じ
- 考えるだけで鳥肌が。。。(緊張する。。。)
- 体調が悪くなる
- ストレスを感じる
こういったことは誰でもありますよね。
その対象や強さは人によって異なりますが、なぜでしょうか?
私の感じるところでは、
- 動物的な危険察知
- 遺伝的影響によるもの(先祖の経験や神経の使われ方)
- 生まれ持ったその個人の特性と好み
- 生まれてからの経験によるもの
- そこから生まれる思い込みや信じている情報の影響
といった影響を受けているように思います。
脳神経系に刻み込まれた危険対象は簡単に外すことはできません。
かといってなくならないものでもありません。
神経可塑性(英語:synaptic plasticity)について以前書きましたが、脳や神経系は経験によって学習し、その関連する神経が強化されたり、弱化されたり、消失したりします。
よく使われるものは使いやすく神経系が発達し、あまり使わないものは使いにくく減退していきます。
簡単ではありませんが、自分の持つ感情な危険察知システムを変化させることはある程度できるということです。
心理的安全性とニューロセプション
心理的安全性(psychological safety)とは、チームにおいて、的外れでも自分の意見を言うことに心配や臆することなく発言できるような安全性が確保できる心理状態があることを指します。
安全性が確保できる心理状態には、
●自分が発言することに恥じる必要がない状態
●拒絶される心配がないこと
●罰を与えられる不安がないこと
●チーム内が安全であるという認識
といった心理状態やチーム内認識があることが重要です。
このような場所や人間環境ではニューロセプションも「安全な場所」であると知覚しやすいと思います。
安全な場所では心身もリラックスしやすくなります。
反対に心理的安全性を邪魔するものとして、
①無知だと思われる不安や恐怖(例:こんなこともわからないなんて)
②無能だと思われる不安や恐怖(例:こんなこともできないなんて)
③邪魔をしているんじゃないかという不安や恐怖(例:上記2つや言われなくても表情や空気から感じる)
④ネガティブだと思われる不安や恐怖(例:いつも否定ばかりして)
などが挙げられています。
このような心理的安全性が低いチームのメンバーは、「自己呈示行動」や「自己印象操作」を行って、自分をよりよく見せたり、偽る行動をとることが多くなるとされています。
職場や学校だけでなく、安全なお家でもこのような不安や恐怖がある場所になってしまうとリラックスすることができません。
「受け入れる」という感覚もニューロセプションが知覚し、安全か?危険か?判定をしているような気も私はしているように思います。
例えばあまり好きではなかった他者の特性に対して「受け入れる」気持ちを持って接すると、相手がこちらを「危険」だと感じず、リラックスし、嫌な行動が減った。
こういった現象は非常に多く起きているような気がします。その知覚はこのニューロセプションで行われているということでしょうか。
私たちが感じる「嫌な感じ」「いい感じ」の判定はこのような仕組みも知覚しているのかもしれませんね。
問題行動や変な行動も関係している?
ニューロセプションを活用してみる
このニューロセプションについて科学的な研究はまだ私の知り限り明らかになっている様子はまだあまりないように思います。
しかし体感的にはこのようなシステムや現象は存在しているように思います。
自分の思いや姿勢が変化すると醸し出す雰囲気が変わったり、相手が変化することが起きることをたくさん見てきました。
この知覚を利用することは非常に有用に思いますので活用例を書いてみたいと思います。
- その人への感情や思い、要求が自分の中で変わることで相手への印象が変わり、相手の気持ちや行動に変化が出た
- お客様が心地よく安全に利用できるようにと思いを変えると行動も印象も変化し、満足度が増える
- 部下への気持ちが変化することで部下の働きが変わった
- 発達障害のお子様が安全に感じられるように設計して対応すると問題行動が減った
- 妻や旦那が安全に生活できるようにと注視すると相手が変化してきた
- 子供が安全さを感じられるように対応すると逆に言うことが聞けたり、信頼関係が強まった
- クレーマーに心の安全性を確保するように対応すると落ち着くようになった
- みんなの安全性を確保する意識や環境を整えると非常に良い場所やチームになった
安全性を高めることによって「心地よさ」や「受け入れられている感覚」などが得られると人の感覚も変化し、思考や行動に変化を与えられることも多いかもしれません。
それだけですべての問題は解決できるものではありませんが、非常に有用な視点かもしれません。
「その人を嫌うとその人にも嫌われるよ」といった言葉にもあるように他者に不要な「危険意識」をもたれないこと、「嫌な感じ」といったい感覚を持たせないようにすることも大事かもしれません。
すべての環境や人間関係を「安全」にできないかもしれませんが、大切な場所や人との関係に応用してみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
記事監修
公認心理師 白石
「皆様のお役に立つ情報を提供していきたいと思っています」