知っていると役に立つ専門用語「行動変容ステージモデル」について詳しく解説していきます。
もくじ
行動変容ステージモデルとは何か?
人のこころには、「アンビバレンスという両価性(りょうかせい)」があります。
「愛する気持ちと憎しみの気持ちを併せ持つ」というように2つの相反する気持ちを持っている状態です。
「変わりたい」という気持ちと「変わりたくない」という気持ちは、双方併せ持つ場合も少なくありません。
「そろそろ自分を変えなくちゃ」と思っても「なかなかうまく変われない」という時、「変わりたくない自分」の気持ちとの折り合いが上手くいかないこともあるかもしれません。
行動変容(読み:こうどうへんよう、英語:behavior change)とは、読んで字のごとく、行動に対する変化のことを指します。
「行動変容テクニック」や「行動変容の技法」という言葉があるように行動に変化を起こすための方法や技術の研究が多くされています。
心の変化に関しては「心理的変容」、態度の変化に関しては「態度変容」、意見の変化は「意見変容」と呼んだりします。
行動変容ステージモデルは、Prochaska と Clemente (1983)によって考案さ
れた多理論統合モデル(Transtheortical Model:TTM)の中で紹介されたモデルです。
行動変容の5つのステージ
行動変容には5つのステージがあります。
6ヶ月以内に行動を変えようと思っていない「無関心期(前熟考期)」
6ヶ月以内に行動を変えようと思っている「関心期(熟考期)」
1ヶ月以内に行動を変えようと思っている「準備期」
行動を変えて6ヶ月未満の「実行期」
行動を変えて6ヶ月以上である「維持期」
人が行動を変える多くの場合、「無関心期(前熟考期)」→「関心期(熟考期)」→「準備期」→「実行期」→「維持期」の流れで5つのステージを通ると考えられています。
行動変容を実行していくにあたってまず大切になるのは、今自分がどのステージにいるかどうかを知ることです。
無関心期(前熟考期)
関心がない、無関心であることや「変わらないとまずい」と思うものの変わることに対して抵抗感が強い状態です。
「このままではまずい」という危機感やこれからの自分の人生の変化を肯定的に捉えることができるかが重要なポイントになります。
「必要性はない」と思ったり、言ったりしていても、必要性を感じていることもあります。
そういった場合、「変わりたくない」「今の状態を維持したい」「別れられない」「失いたくない」という思いが強い状態です。
ですので「変わりたくない」気持ちが「変わりたい」気持ちより優っている時がこのステージに該当することが多いかもしれません。
熟考とは、気持ちを込めて熱心に考えることを指す言葉ですが、このステージでは熟考の前段階といったところです。
あまり考えたくない方も多いですが、このままいくとどうなるか?変わればどうなるか?といった考えることの不足や情報の不足、偏見なども多いため、適切な熟考や情報収集、自分が持っているバイアスなどを知る必要があります。
関心期(熟考期)
「変わろう」と思っていて関心はあるけれど、まだ実行はできていないステージです。
「変わりたくない」気持ちと「変わりたい」気持ちが拮抗していることが多いかもしれません。
悩むことにより気持ちの整理をつけていくので、前熟考期よりも熟考は進んでいます。
適切な情報を知り、リスクや危機感などの検討とともにどのように生きていくか?どのような生きたかがしたいか?という「生き方」が次の判断に重要なファクターになります。
準備期
行動を行いたいと考え、準備をしているステージです。
この段階では、「変わりたい」気持ちが「変わりたくない」気持ちを優っていることが多いものです。
決意ができている場合もあれば、こころの揺れがありながらも建設的に進めようとしている場合もあります。
何を?どのように?どれくらい?行っていくかを具体的に決めていくことが大切です。
特にそれを持続させる環境設定をどのようにしていくかが大切です。
実行期
実際に行動変容を行っている時期です。
行動変容によって生まれたメリットや喜びを享受できる反面、行動変容によって生まれた歪みやストレスの影響を受けます。
その歪みやストレスをいかに扱うかという「解釈」や「捉え方」、そこからどのように「対処」してくかによって負の影響が大きくも小さくもなりえます。
「変わりたくない」気持ちと「変わりたい」気持ちのバランスが変化しやすい時期かもしれません。
「習慣化」するには時間が必要という理解が必要で、地道に一歩一歩を大切にすること、焦らないことが大切です。
維持期
行動変容が6ヶ月以上立っている状態ですのである程度無理していたことでも「習慣化」して慣れてきている状態です。
このくらいの時期になると「自信」や自分は実現できると思える「自己効力感」も向上しています。
これらが向上すると「やる気」や「気力」なども高まります。
活動的でアクティブな側面も強まり、良いスパイラルが出来上がっていきます。
動機付けが必要なものもあれば、必要なく維持できるものもあります。
気を緩ませると戻ってしまうこと(逆戻り現象)もありますので、必要に応じて注意をはらう必要があります。
心理的なかなり無理をしている、ストレスの蓄積を感じる場合は日常的に発散できる、解消できる術を見つけることが大切です。
大切な自己効力感
自己効力感はセルフ・エフィカシー(英語:self-efficacy)とも呼ばれ、心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念です。
意味としては、自分がある状況において必要な行動をうまく実行できることを信じ、自分の可能性を認知していることを指します。
要するに「自分は実現できる能力がある」という認知ができていることです。
■「認知」について
認知とは、物事を知覚した上で判断したり、解釈したりして認識することを指します。物事をそのまま認識することもあれば、自分の価値観や捉え方などを通して解釈が行われて認識することもあります。
自己効力感が強いほど、実際にその実現性は高くなると言われていますので「無関心期(前熟考期)」や「関心期(熟考期)」をあまり必要としなかったり、「準備期」、「実行期」、「維持期」をうまく乗り越え、維持させる力の源となります。
また自己効力感は、困難や壁にぶつかっても、実現できるという確信度合いや信じる気持ちが立ち直りを早くし、チャレンジ精神を復活させます。
「逆戻り現象」が起こる可能性を抑えてくれる役割も果たします。
この自己効力感を高く認知したり、低く認知したり、個人によって異なるのは、過去に経験した成功と失敗が深く関わっています。
成功してきた事例があればあるほど、それに関連する事例に対して自己効力感は高くなります。
新しい挑戦に関しても成功事例を多く経験していると「実現できる」という確信度合いは高まります。
実現できるという確信は、やる気やモチベーションを向上させ、実現の成功確率を高めます。
反対に失敗を繰り返すことにより「実現できない」という確信度合いが高まり、やる気やモチベーションを低下させ、時に不安や恐怖といった感情にとらわれ、失敗の可能性を引き上げてしまいます。
このような自己効力感は人格の特性として長期的に形成されることもあり、「特性的自己効力感(GeneralizedSelf-Efficacy)」と呼ばれることもあります。
学習性無力感に注意が必要
学習性無力感(英語:Learned helplessness)とは、ポジティブ心理学で有名なマーティン・セリグマンが提唱した概念で、努力を重ねても望む結果が得られない経験が続くと「何をしても無駄だ」と認知するようになり、不快な状態を乗り越えようとしたり、脱する努力を諦めてしまうことを指します。
学習性無力感は、乗り越えよう、戦おうという方向に行かないばかりか、逃げたり回避しようとすることすらできなくなることも意味しています。
繰り返し失敗してしまうことによって「もう無理だ」と諦めた経験はないでしょうか?
だれでも軽いものであれば経験したことがあると思います。
自分が苦手だと思う領域の中には、このような失敗の繰り替えしと学習性無力感によって形成されたものも多くあるかもしれません。
重いものになるとやる気が出なくなり、無気力状態になってしまいます。
監禁、虐待、暴力、人格否定、いじめ、モラルハラスメント、自分の価値や尊厳が踏みにじられる経験によって大きな精神的ストレスとなり、学習性無力感に悩まされてしまいますが、繰り返し小さな挫折や失敗を繰り返しや積み重ねによっても発現します。
学習性無力感は、不快な感覚である嫌悪刺激の量に左右されるというより、コントロール不可能な体験によって学習性無力感は大きな影響を受けるとされています。
大きな目標ばかり計画し、小さな積み重ねや達成を無視していると「達成できない」「なんでこんなに実行できないんだろう」と思い込んでしまうことも多いため、小さな目標をコツコツ積んで達成グセを付けていくことが大切です。
おわりに
「行動変容ステージモデル」と自己効力感、学習性無力感について説明をしてきました。
自分が「変わることがあまり得意でない」と思っていても、やり方や捉え方、努力の方向性が変化すれば、行動変容が実現できることもあります。
行動変容に自信が出てくると、自己効力感も高まり、実現性が高まります。
その繰り返しができるようになれば、行動変容はより行い易くなります。
変容には、サポートや第三者の目が大切になることもあります。
当カウンセリングでは、行動変容、心理的変容、生活習慣の変容などのサポートや支援、セッションなどを行っております。
より良い行動変容のためには、
・自分の特徴を知ること
・変容に対する正しい知識
・なぜ失敗したか?
・なぜ成功したか?
・どのようなバイアスを持っているか?
・どのように行動すればいいのか?
・どのようにモチベーションを保てばいいのか?
・どのように生きるのか?
などを改めて明らかにしながら最適なプランを考えていくことが大切です。
記事監修
公認心理師 白石
「皆様のお役に立つ情報を提供していきたいと思っています」
全国どこからでも専門的なカウンセリングと心理療法を受けることができます。
一度限りですが「10分無料電話相談」ができます。ミスマッチの回避や自分に合う相談先かどうかを判断することなどにお使いください。(メールではなく直接お電話ください)
電話番号:090-2862-4052
メール:mail@s-counseling.com