「お腹が鳴って恥ずかしい」「おならが出やすくて困っている」「人前でおならがでて恥ずかしい」という悩みや問題で苦しんでしまうことがあります。
お薬や食事などで治ればいいのですが、そこには独特な難しさがあることがあります。
ここでは「お腹が鳴りやすい」「おならがでやすい」ことへの理解とカウンセリングの有用性について説明していきます。
もくじ
おなかが鳴ってしまうこととは
グーっと鳴ったり、グルグル、キュルキュルとおなかが鳴ることはだれでも経験したことがあると思います。
空腹時やふとした瞬間に起こりますが、多くの場合、胃腸の蠕動運動やガスの移動などの動きによる一過性のものです。
空腹時は消化管の蠕動運動が強くなる傾向があるためよくお腹が鳴ります。
このようなお腹が鳴ることを「腹鳴(ふくめい)」と呼びます。
おなかが鳴ってしまうことは誰でもありますが、そこに「恥ずかしさ」を感じるかどうか、恥ずかしさの度合いは人によって異なります。
恥ずかしさを感じたり、強い羞恥心を感じると「お腹が鳴ること」を気にしてしまい、緊張したり、不安になったり、時には恐怖になってしまいます。
このようになってしまうと
不安や恐怖
↓
身体注目
↓
自律神経の乱れや緊張
↓
本来の動きができない身体
↓
お腹が鳴る
↓
恥ずかしさや傷つき
↓
不安や恐怖
というような悪循環が起きやすくなります。
また胃腸や身体が本来の動きが行えない為に「おなかが鳴ってしまう」こと自体が増えてしまうこともあります。
この流れは、精神的なショックや傷つきをたくさん感じてしまい、自分への自信や自己肯定感を失いやすく、うつうつとする抑うつ状態になってしまうこともあります。
しかもこの恐怖や不安が強いため、なかなかお薬の効果が得られないこともあり、どのように改善すればいいか悩まれる方も多くいます。
おならが出やすいこととは
おならとは、肛門から排出される気体やガスのことで、多くは食事などの時に取り込んだ空気や消化などから生まれる腸内発生ガスなどです。
おならが出やすくなるにはさまざまな要因があります。
・身体機能(胃腸機能)の低下
・腸内細菌の状態
・脂っこい食事の摂取
・繊維質の多い食事
・食べ過ぎ(許容量を超えた)
・ガスが出やすい食べ物の摂取
・便秘の影響
・ストレスの影響
・過敏性や癖
・空気を飲み込む
・恥ずかしさや恐怖
・身体注目
などの影響が考えられます。
世界の平均値を調べたAsapSCIENCEによると、おならは1日に14回が平均で、ガスの量は500~1500mlが平均のようです。
意外と多いように思いますが、個人によって異なるものです。
出やすい方もいれば出にくい方もいますし、出やすい時もあれば出にくい時もあるものです。
オナラが出ることに対して気になる人もいれば、あまり気にならない人もいます。男性と女性では意識も異なります。
回数が気になる方もいれば、臭いが気になる方もいます。
人によっては一日に数十回や数百回もおならや音が出る方もいらっしゃいます。
お腹が鳴るのと同様に、おならが「恥ずかしい」と思ったり、その羞恥心が強ければ強いほど悩みに発展してしまいます。
先ほど説明したように
不安や恐怖
↓
身体注目
↓
自律神経の乱れや緊張
↓
本来の動きができない身体
↓
おならがでる(でやすくなる)
↓
恥ずかしさや傷つき
↓
不安や恐怖
という流れで非常に苦しい思いをされてしまう方がいらっしゃいます。
このような流れから胃腸や身体が本来の動きが行えない為に「おならが出やすくなってしまう」ことを増強してしまうことがあります。
「おなら恐怖症」という言葉があるくらい強烈な恐怖症と不安、緊張を感じてしまい、本来のからだの状態が維持されなくなってしまいます。
学校や職場、コミュニティーの参加が難しくなったり、それらを辞めてしまって自宅にひきこもる状態になってしまうこともあります。
恥ずかしさや人目が気になる
「お腹が鳴って困っている」「おならがたくさん出て困っている」というご相談をたくさん受けてきた中で共通するのが恥ずかしさと人目が気になるというところです。
それも軽いものではなく、トラウマのようなレベルで恥ずかしいため、人の目が非常に気になります。
シーンとした静かな授業中や職場、人が密集する場所で嫌な経験をしてしまい、苦手になってしまうことが多々あります。
誹謗中傷や意地悪、いじめ、悪口、陰口などを目や耳にしてしまい、またそんな風に思われているかも知れないと思ってしまいます。
時にそのような思いが強くなり実際はそこまで思われていなくても、「みんなはそう思っているはずだ」という認識をしてしまうほど強烈な苦しみに襲われます。
そしてなかなか改善しないために傷つきや精神的ショックを日々繰り返し感じてしまい、自信や自己肯定感などは崩れていってしまいます。
これらの状態は非常に苦しく、経験したことがなければなかなか理解できないため、周囲の理解が少ない傾向があります。
このようなことも含めて非常に苦しい毎日を過ごされています。
その苦しみを癒しながら自分が持っている「恥ずかしさ」や「人目が気になる」性格的特徴や「傷ついたこころ」をいかに救い、改善、修練していけるかが重要な鍵になります。
気にしたくなくても気になってしまう
そんなに気にしたくなくても気になってしまうのが「腹鳴やおならがでやすい状態」です。
お医者さんや家族、周囲の人から「気にしないように」と言われてもなかなかうまくできずに、その言葉に傷ついてしまうこともあります。
「そんなことできたらとっくにしてるよ!!」という強い情動がでてくるくらい頑張っても難しい時は難しいのです。
気にならなくなるのは、「恥ずかしさ」や「恐怖」が軽減してくることに連動して起こります。
ですのでそういった根本的なところが改善していけるようにアプローチ先を変更していくことが得策です。
ストレス性と心因性の腹鳴やおならがでやすい状態
「心因性腹鳴」「心因性のガス腹」という言葉があるほどストレスや心理的な影響と関係が深くあります。
※心因性とは、心理的な要因によって引き起こされる場合に用いられる言葉です。
それほどストレスや心の悩みや問題が深く関わっています。
ストレスを自覚している場合もあれば、医師の「原因はストレスでしょう」といった言葉で認識するようになる場合もあります。
※自覚的にストレス性だと思っても念のため医師による診断や検査を行うことを推奨します。
臨床相談の実例から、ストレスを感じてすぐに症状が出る方と少し時間をおいて症状が出る方がいるようです。
また対象の誰かと同じ空間にいると症状が出たり、対象の場所に行くと症状が出たりすることもあるようです。(行く前から症状がでることもあります)
ストレスがなくなると症状もなくなるケースもあれば、ストレスがなくなっても症状が治らないケースがあります。
前者であれば問題もないのですが、後者の場合、何が原因かわからない不安やどうすれば治るかわからないつらさを伴います。
その場合、後述する「神経可塑性(シナプス可塑性)」などによって学習が繰り返され、「癖(くせ)」になってしまっていることや過敏性、身体注目による影響の可能性があります。
作用機序などまだわかっていないところがある前提でどのようなメカニズムによって「ストレスによる腹鳴やおならが出やすい状態」が起きてしまうのかを考察していきます。
自律神経失調モデル
一般的によく説明されているのがこの「自律神経失調モデル」です。
精神的ストレスによって自律神経のバランスが失調し、
・胃腸の機能が低下する
・胃腸の蠕動運動の異常
・胃腸に関連する筋肉の異常
などによって腹鳴やおならが出やすい状態が誘発されてしまう可能性があります。
自律神経が整ってくると回復していく「腹鳴やおならが出やすい状態」がこのモデルに該当すると思われます。
ストレスや囚われがなくなることによって改善しやすい傾向があります。
緊張モデル
ストレスや無意識的な力み(りきみ)などによって自分でも気づいていない緊張によって発現してくる「腹鳴やおならが出やすい状態」のモデルです。
リラックスできない、安心できない、気が抜けないなどの状況も緊張による弊害となります。
緊張する場所にいなくても「また鳴ったらどうしよう」「またでたらどうしよう」と気が休まらず緊張状態が持続してしまうこともよく起こります。
リラックスしたり、緩めたり、ほぐしたりすることも効果がありますが、緊張してしまう癖や心理的な馴化(慣れ)・成長・修正・変容などできることは多く、さまざまなアプローチを駆使して緊張を和らげていく必要があります。
その場合、心理療法やカウンセリングが有効です。
感覚過敏モデル
腹鳴やおならが出やすい状態をくり返し、それらに関係している神経などが過敏になってしまうことにより発現してしまうモデルです。
その背景には、トラウマや恐怖条件付けなどが関連している可能性があります。
過敏性が穏やかになり本来の鈍感性を取り戻すことにより変容するタイプの「腹鳴やおならが出やすい状態」がこのモデルに該当すると思われます。
学習-神経可塑性(シナプス可塑性)モデル
神経やシナプスは、くり返し長期にわたって使用することによりその神経(シナプス)を強化したり、新たな神経を形成する可塑性(かそせい)という仕組みがあります。
「腹鳴やおならが出やすい状態」につながる条件付け学習などによってこのように神経の形成や強化が行われ、発現してしまうモデルです。
長期的に原因不明の「腹鳴やおならが出やすい状態」に悩まされている場合、このアプローチが経験的に功を奏すことが多くありました。(エビデンスレベルは個人レベルですので低いです)
既存の学習を強化しないようにすることを基本として、消去する、新たな学習で再構築することによって改善するタイプの「腹鳴やおならが出やすい状態」がこのモデルに該当すると思われます。
恐怖-不安-傷つきモデル
恐怖や不安が強ければ自律神経も乱れやすく、感覚を研ぎ澄まして身構える必要があるため「過敏」になりやすくなる傾向が有るように思います。
「腹鳴恐怖」や「おなら恐怖」、また出たらどうしようという「不安」、それら症状に対して強い感情が現れる場合、自律神経が乱れやすくなり、長期化してしまう傾向があります。
また精神的ショックな出来事によって精神的に傷つき、恐怖や不安が出やすくなることがあります。
恐怖や不安、傷つきに対してアプローチを行い、それら感情が軽減すると改善がみられる「腹鳴やおならが出やすい状態」がこのモデルに該当します。
身体化モデル
抑圧された衝動や葛藤、不安、ストレスなどが様々な身体症状となって表れる適応・防衛機制のことを「身体化」といいます。
人間には欲求が満たされない場合や心理的苦痛から自我を適応させたり、守るための働きがあります。
そのことを心理学では「適応機制」とか「防衛機制」といいます。
身体化は以下のようにさまざまな捉え方ができます。
- 抑圧された衝動や葛藤、不安、ストレスの身体化
- 相手にストレスを抱えていることを示すための身体化
- 助けて欲しいという抑圧を表現する身体化
- もう限界なのに限界と思えない自分に対しての身体化
- 休む必要があるのに休まないことによる訴えとしての身体化
などのように自分や周囲の状況によってこのような捉え方が役に立つことがあります。
認知的評価と性格的傾向モデル
「認知」とは対象を知覚した上で、それが何であるかを判断したり解釈したりする過程です。
ものごとの考え方や捉え方、信念、バイアス(偏り)などの認知によりストレスが大きく感じたり、小さく感じたりするものです。
また性格的傾向もストレスや緊張と関係が深いものです。
性格的傾向を「性格」という言葉にしていないのは、変化する性格もあれば、変化しない性格もあり、またそれには個人差もあるため境界線を引きにくい傾向があります。
またストレスを強めてしまう解釈や捉え方にもアプローチを行うことも大切です。
このような認知的評価と性格的傾向が変化したり、成長することで「腹鳴やおならが出やすい状態」が軽減、改善する場合、このモデルの影響があったということです。
個人による差異
上記のような7つのモデルが単体もしくは複雑に絡み合って発現している可能性があります。
これらは、お腹が鳴ったり、おならやガスが出やすい悩みに対するカウンセリングと心理療法を多く行ってきた経験から考察を行いました。
人それぞれ気になるところや背景などが異なっており、一概にひとくくりにできないような傾向があるように感じます。
腹鳴やおならが出やすい状態に対するカウンセリング
病院やクリニックに通い、主治医がいらっしゃるケースではカウンセリングを行うこと、併用することを主治医に伝え、許可を得てはじめてカウンセリングを行うことができますのでご了承ください。
死にたくなるような非常につらい苦しみを抱えているケースもあり、そのこころの痛みや苦しみを話しながら少しずつ心が癒されていくように丁寧にカウンセリングを行っていう必要があります。
周囲から理解が得られず、孤独感や孤立感が強いこともあります。
そういった自分の気持ちや状況を相談者さん(以下クライエント)は自分のペースで話しながらカウンセラーは受容的・共感的にお話を聞いていきます。
話すということは基本的な欲求でありながら、好きなように話せるという機会は一般的に少なく、通常は制約があります。
そのような制約の少ない、秘匿性の高い守られた場所で話していく様はなかなか経験できるものではありません。
自分の中で処理しにくい問題でもそのような場で、共感的・受容的な態度に見守られながら話していくことで気づきが生まれたり、言葉に出して初めて外に出すような経験を通してすっきりしたり、気持ちが楽になっていったりします。
しかしこの悩みに関して、なかなか話すだけでは解決しないことも多く、腹鳴やおならが出にくくなるような計画を行いながら、「恐怖」や「恥ずかしさ」といったところへのアプローチを行うことが大切です。
自分がどのようなとき、どのような状態で腹鳴やおならが出やすくなるかを徹底的にリサーチしていきます。
そこには、基本的で重要なことが明らかになったりします。
食事、生活習慣、リラックスできる時間、感情にとらわれている時間、睡眠の質、排便の状態、ストレス発散方法などです。
そこから改善に至るポイントが出てきますので、計画的に実行に移します。
腹鳴やおならが出やすい状態は、心理的な恐怖や恥ずかしさの影響からさまざまな感情や自己批判が生まれるため、丁寧に心理的なアプローチを行っていきます。
そういったことで軽減や改善を行いながら馴化(慣れる)作業や神経可塑性(しんけいかそせい)の技法を用いてクライエント独自の心理的アプローチを構築していきます。
ストレスという言葉は、幅広く捉えることができ、自分の中で何がストレスになっているか実は気づいていない場合もあったりします。
そういった点を踏まえながら、クライエントのストレスになっている事柄についてカウンセリングを行っていきます。
ストレス性の強い事柄もあれば、ストレスを強くしてしまう性格的傾向や認知的評価をしている場合もあります。
そういった特性もクライエントの意志次第で修正も成長も行うことができます。
腹鳴やおならが出やすい状態は、症状自体が強いストレスになっていることもあり、「腹鳴やおならが出る⇒強いストレス⇒自律神経の乱れや無意識的緊張⇒腹鳴やおならが出やすい」といった悪循環が起こっている場合も少なくありません。
そのためストレスだけではなく、症状自体のストレスも含めて「心的苦痛」や「つらさ」にスポットを当ててカウンセリングを行う場合が多くあります。
クライエントの状況から上記に挙げた
・自律神経
・緊張
・感覚過敏
・学習-神経可塑性(シナプス可塑性)
・恐怖-不安-傷つき
・身体化
・認知的評価と性格的傾向
に対してアプローチを行っていきます。
上記の7つのモデルを理解していくことによって、原因がわからない苦しみが癒されたり、希望が持てるようになることもあります。
少しずつ気持ちが楽になり、息苦しさも自然に改善が進んでくるとさらに気持ちが軽くなり、自律神経にも身体にも好影響を与えます。
「なんであんなに悩まされていたんだろう」という状態へ持っていけるように一歩ずつ丁寧に進めていきます。
学習性の癖になっている場合は、「焦り」が禁物です。
「まだ治ってない」「まだ治ってない」と毎度のように刷り込んでいくようなことが起きないように気をつけなければなりません。
どのように焦りを扱うか、どのように改善していくは人によって異なることもあり、カウンセリングの中でクライエントに最適化していきます。
ストレスの耐性(抵抗力)や回復力、対処能力(コーピング能力)を向上させることにより「ストレスに強くなる」といった成長を加える事ができるのもカウンセリングならではかもしれません。
そのような自己成長につながると、カウンセリング終了後の人生において大きな心的財産をつくることに繋がります。
カウンセリングの中では、苦痛を伴う「受け入れ」を行わなければならないこともあります。
しかしそのような苦痛を乗り越え、受け入れた先には新しい世界が待っています。
あの腹鳴やおならが出やすい状態が軽減、消失、気にならない状態になっていけるよう全力でサポートを行っていきます。
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記事監修
公認心理師 白石
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