この記事では「知的障害」の特徴と困り事(得意なこと)について書いていきたいと思います。
もくじ
知的障害とは?
知的障害(英語:Intellectual Disability、略名:ID)とは、18歳までの発達期に生じる「知的機能」および「適応機能」に制約や支障があることをさします。
また、
①概念的(学習・理解・判断)
②社会的(対人スキル・社会的理解と判断)
③実用的(責任・日常生活・自己管理)
の3つの領域における知的能力と適応能力に支障がある障害とも言えます。
読み書きや計算、論理的・抽象的思考、計画と判断など一般的な学習や適応のための知的能力に支障がある状態が特徴的です。
医学的には「知的能力障害(知的発達症)」や「精神遅滞」と呼び、学校教育的には「知的障害」といった呼び方がされています。
有病率は人口の100人に1人の約1%で、軽度知的障害では男性(男児)1.6に対し女性(女児)1、重度知的障害では1.2対1といった比率で男性(男児)が少し多い傾向にあります。
知的障害の診断や判断は、
- 田中ビネー式検査
- ウェクスラー知能検査(WISC)
- K-ABC
などの心理検査により調べられる知能指数が70以下の場合に可能性を評価、判断されます。(平均は100)
しかし知能指数の値だけで判断するのではなく、適応機能も含めて総合的に評価、判断されることが推奨されています。
適応機能とは、食事の準備など日常生活、コミュニケーションなどの対人関係、お金の管理など「自立」ができるかどうかの重要な能力になります。
適応機能を評価するにあたり用いられるのが「日本版Vineland-II適応行動尺度」という心理検査で、対象年齢も幅広く、適応行動を評価するのに優れています。
知的障害の原因と要因
知的障害の原因や要因に関しては、
①生理的要因(身体に異常なし)
②病理的要因(後に記述)
③心理社会的要因(虐待など不適切環境)
の3つに分類して考えます。
病理的要因では原因疾患の有無を調べる必要があり、
- 染色体異常(遺伝子異常)
- 胎児期の感染症
- 先天代謝異常
- 中枢神経感染症
- 神経皮膚症候群
- 脳奇形
- てんかん
- 中毒(水銀や鉛)
- 低酸素性虚血性脳症
- 出生前母胎環境(アルコール・薬物など)
- その他併発している疾患
などがあるかどうかを検査や問診により明らかにしていきます。
知的障害の重症度判定
知的障害の重症度は、
「1度(最重度)」知能指数20以下、意思表示できること少なく、生活全般に援助が必須
「2度(重度)」知能指数21~35、簡単な会話ができるが学習が難しく、個別的援助が必要
「3度(中度)」知能指数36~50、会話、学習、生活はある程度できるが部分的援助が必要
「4度(軽度)」知能指数51~70、生活や基本会話ができ、保護は必要ないことが多い
の4つに分けられます。
厚生労働省が発表している判定の導き方の基準は以下のとおりです。
また保健面・行動面から判断することも行っています。
知的障害者手帳(療育手帳)を取得すると、手当や控除、支援援助などさまざまなサービスと支援を受けることができます。
知的障害の症状と困り事
知的障害の特徴的な症状や困り事として、
- 同年齢の子供との交流やコミュニケーションが難しい
- 言葉の発達に遅れがある
- 授業についていけない(学習困難)
- 周囲の状況を察知するのが難しい
- 複雑なルールの理解と参加が難しい
- 暗黙のルールやマナーの理解が難しい
- 臨機応変が難しい
- 計画を立てることが難しい
- 抽象的概念の理解が難しい
- 高度な熟練技術の習得が難しい
- 困っていても助けを求められない
- わからないことが多い
- 判断を誤ることがある(だまされやすい)
などがあります。
知的障害と一言で言っても先ほどのように重症度が異なり、また同じ重症度であっても個性があるため何が苦手で困っているかも人によって異なります。
現在少しずつ障害者雇用や福祉的就労の整備が行われていますのでさまざまな制度を利用することによって就職や社会参加もできる可能性が増えてきています。
ASD(自閉症スペクトラム障害)やADHD(注意欠陥多動症)と併発していることもあり、その場合、それらに特徴付けられる苦手さや困り事も加わります。
知能指数が35以下では半数以上の方が自閉症を併発しているというデータもあります。
知的障害では認知症や糖尿病、高血圧、糖分や脂肪分の摂り過ぎには注意が必要です。
身体に異常がなく偶発的に知能指数が低くて知的障害と判断された生理的要因の場合、健康状態は良いことが多いとされています。
そのため知的障害の診断を見過ごされ、障害の自認がないまま大人になるかたも多いようです。
この生理的要因による知的障害は全体の約8割といった大部分を占めているとも言われています。
学習障害(LD)では学習面の障害はありますが、会話や判断力での障害はありません。知的障害ではその両面において障害を持つということが特徴で違いがあります。
知的障害の強みと得意なこと
できないところ、苦手なところ、困り事にフォーカスをして、繰り返し練習して身につけ、学習することはとても大切なことです。
しかし同時に得意なことや強み、興味があることも同じくらい重要視する必要もあります。
知的障害と一括りにはできないかもしれませんが、視覚情報の処理が得意な方(子)が多くいます。
また自分の興味があることや得意なことも個性によって異なり、その分野を探求、練習させてあげることでその能力が伸びていく可能性もあります。
一度覚えたことは繰り返すことによって習得していける方もいますので、将来のお仕事として作業系のルーティーンワークでの就職も可能かもしれません。
なによりネガティブな側面とポジティブな側面のバランスに注意しながら療育、成長、発達を意識していくことが大切です。
知的障害と仕事
厚労省の調査によると令和2年に約13万人の知的障害者が雇用されています。
軽度知的障害の方は約7割が一般企業、約3割が作業所、中度~最重度の知的障害の方は、半数以上が作業所にて勤務されています。
知的障害を持つ方は集中力が高く、単純作業でもコツコツとまじめに取り組む方が多くいらっしゃいます。
そのため頭と指を動かすパソコン作業および事務が得意な方もいれば、体を動かす作業、清掃、メンテナンス業務が得意な方もいます。
仕事は、
①一般枠(一般の方と同じ仕事と待遇ですので同じものを求められる)
②障害者雇用枠(配慮が得られやすいが仕事内容と給与が限定的になる傾向)
③福祉的雇用枠(アドバイスをもらいながら就労移行支援で成果に応じた工賃を貰う)
の3つがあります。
自分の障害度、個性、得意なこと、苦手なことなどを総合的に加味しながら自分にあった職場や制度を利用することが大切です。
参考文献
知的障害(精神遅滞)e-ヘルスネット 厚生労働省
知的障害児(者)基礎調査:調査の結果 厚生労働省
記事監修
公認心理師 白石
「皆様のお役に立つ情報を提供していきたいと思っています」