「アーリースタート・デンバーモデル(ESDM)」とは何か?


アーリースタート・デンバーモデル(英語:Early Start Denver Model、以下略名:ESDM)とは、1歳前後~4歳(5歳)くらいまでの自閉症および発達障害の子供に対して早期介入を行い、その有用性がランダム化比較試験により確認されている療育プログラムです。

カリフォルニア大学デイビス校の教授サリー・ロジャース博士とTEACCHの開発にも関わったデューク大学医療センターのジェラルディン・ダーソン博士によって2010年頃開発されました。

ESDMは、科学的根拠に基づいた包括的な楽しい遊びを使って学習・療育できるように設計されています。

アーリースタートという言葉にあるように1歳前後から行うことができる早期介入がこのプログラムの重要なポイントです。

ESDMの特徴としては、

  • セラピストだけでなく保護者が関与し、共同活動を行う
  • 様々な職種と連携してチームを組むこと
  • 相互関係の結びつきを大切にする
  • 子供が興味を持つ機会をつくり、模倣や学びを促す
  • 2人1組で笑顔と楽しさを感じられる設計を行い、認知機能の促進に焦点を当てる
  • シェアすること、非言語のボディランゲージを習得する
  • 自発性や主体性を促し、同等のパートナーシップを学ぶ
  • 順番・手順を教えるジョイント・アクティビティの活用
  • 何度も繰り返して遊び、模倣し、習得できるようにする
  • 遊びの中から柔軟性や社会性、創造性を育む
  • 応用行動分析(ABA)から引き出された自然主義的戦略

などがあります。

特に、

①模倣
②言語的コミュニケーション
③非言語的コミュニケーション
④社会的発達
⑤遊び

の5つを重視しています。

もともと2~5歳の自閉スペクトラム症(ASD)を持つ幼児に開発されたデンバーモデルをベースとして、さらに早期介入ができるように応用されたのがこのESDMです。

このデンバーモデルの理論的基礎はピアジェの認知発達理論になります。

■ピアジェの認知発達理論
ピアジェは、以下の①から④の認知発達を見積もった上で内的動機付けになる課題を出すことが必要と唱えました。
①「感覚運動期(0〜2歳)」では、自分の観点から自己中心的にしか見えない時期であり、感覚と運動が「表象(イメージ)」を介さずに結びつき、反射的な行為が多い。「対象の永続性」、繰り返し行動の「循環反応」、真似をして学ぶ「模倣行動」などが特徴的です。
②「前操作期(2〜7歳)」では、思考に比較や検討ができる論理性が備わり、あらゆるものに命が宿っていると考える「アミニズム」、想像と現実が区別できない「リアリズム」、自然なものでも人間が作ったと思ってしまう「人工論」などが特徴的です。この期間の前半を「象徴的思考期」後半を「直感的思考期」と呼びます。
③「具体的操作期(7〜12歳)」では、数や量の保存概念が成立して情報処理を頭の中で行えるようになり、自己中心性から相対的な観点が備わってきます。
④「形式的操作期(12歳以降)」では、抽象的な概念を操れるようになるため推論や推測、仮説に基づいた思考ができるようになります。観察から得られたものではなく想定したものから判断して結論づける「形式的演繹」なども特徴的です。

その上で「機軸行動発達支援法(PRT)」や「応用行動分析(ABA)」を組み込み、プログラムを発展させたのがESDMとも言えます。

機軸行動発達支援法(PRT)

機軸行動発達支援法(英語:Pivotal Response Treatment、以下略名:PRT)とは、

①動機付け
②対人へのやりとりのきっかけ
③多様な刺激に対する反応性
④自己管理
⑤共感

といった中核になる領域「機軸」に焦点を当てて介入を行っていく技法です。

PRTでは、自然な遊び場を設定して子供の主導で自然な強化子を用いてセラピーが行われます。

PRTでは、

  • 注意を引く
  • 多様な手がかり刺激を与える
  • 明確で適切な先行刺激を与える
  • 子供が主体的に活動を選択する
  • 最適な強化子を提示する
  • 試み行動を強化する
  • 習得した課題と新規の課題を混合させる
  • 交互交代を行う

といった点を重要視しています。

つぎにESDMのもうひとつの理論・技法のベースとなっている「応用行動分析(ABA)」について説明していきます。

応用行動分析(ABA)

「応用行動分析(Applied Behavior Analysis:ABA)」 とは、アメリカの行動分析学の創始者とされているバラス・スキナー(Burrhus Frederic Skinner)によって体系化されたオペラント条件づけの理論に基づき、行動に着目し、行動分析を行うことで問題の解決や改善に活用していく心理技法です。

簡単に言うと「やりたいことをやれるようにするため」の心理学の方法です。

基本的には、特定の状況下で自発的または道具を使って行った行動に対して、報酬または罰を与えることにより、その行動を起こす頻度を強化する学習反応のことを指します。

応用行動分析(ABA) で良く用いられる「ABC分析」は、

①先行事象(Antecedent)
②行動(Behavior)
③結果(Consequence)

の3つの要素(頭文字)から構成されています。

もう少しわかりやすい言葉でみると、

①どんな時に(環境や欲求含む)?どんなきっかけで?
②どんな行動をして?
③どんな結果になった?

という内容を明らかにすることから始まります。

問題行動には、

  • 何かを手に入れたい(物の獲得)
  • 誰かの注意・注目を得たい(注意の獲得)
  • やめたい・避けたい(逃避)
  • 刺激を得たい(刺激の獲得)

などの目的があり、ABC分析を行っていく中でどこにアプローチするのか?どのような環境設定や対応を行うことが望ましいかを決定していきます。

その内容から本人が行いやすいようにスモールステップ化していきます。

これはシェイピングという技法で、行い易いところから始め、少しずつ目標を引き上げ(漸次的接近法)、目標達成したらすぐに報酬や賛辞を与え、挫折した時は、戻ったり、目標を引き下げたり、再設定をします。

プロンプト・フェイディングという技法では、目標行動がとれるように「ヒント」や「手助け」などの刺激(プロンプト)を与えていきます。

また「行動連鎖(チェイニング)」というABAの技法では、

●逆行連鎖化・逆行性チェイニング(最後の手順やステップだけ本人が行う)
●順行連鎖化・順行性チェイニング(最初から教わりながら一つずつ本人が行う)
●総課題提示法(最初から最後まで本人が行う)
●行動連鎖中断法(行動連鎖の中で目標行動を成立させるために中断状況を設定する)

といった方法を当人に最適な形で適応します。

このようにピアジェの認知発達理論をベースにしたデンバーモデル、機軸行動発達支援法(PRT)、応用行動分析(ABA)の理論と技法によってESDMが成り立っています。

ESDMの効果


ESDMの効果としては、

  • 知力や発達の向上(短期的および長期的)
  • 自閉症症状の軽減(中核症状の改善)
  • 自閉スペクトラム症の発現の抑止
  • コミュニケーション能力の向上
  • 適応的・社会的行動の増加
  • 学習能力および言語能力の向上
  • 脳活動の活性化
  • IQが療育を行っていない幼児と比べ10ポイント高い(海外の調査)

などが挙げられています。

おわりに


早期介入を行うことはそのお子さんの予後の発達と成長にとって非常に有益となります。

海外でのエビデンスも多く、早期介入が可能な「アーリースタート・デンバーモデル(ESDM)」は今後ますます活用されていくものだと思います。

少しでも参考になれば幸いです。

 参考文献

応用行動分析学と作業療法 ー自閉症スペクトラム障害児に対する早期介入を中心にー 塩津裕康 倉澤茂樹


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記事監修
公認心理師 白石

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