この記事では発達障害のひとつとして知られる「注意欠如・多動症(ADHD)」について詳しく書いていきたいと思います。

ADHD(注意欠如・多動性症)とは?


注意欠如・多動症(英語:Attention Deficit Hyperactivity Disorder,略名:ADHD)とは、

①多動性(じっとしてられない)
②衝動性(思いつくと行動してしまう)
③不注意(集中力がない)

の3つの症状を特徴としており、症状の現れ方によって、

  • 多動・衝動性優勢に存在(不注意が強くない)
  • 不注意優勢に存在(多動・衝動性が強くない)
  • 混合して存在

といったように分類されます。

近年の調査によると子供の約5%、大人の約2.5%の方にADHDの症状があり、男児は女児の約2倍くらい多いと言われています。

また行動を制御・コントロールしている前頭葉などの脳神経系の働きが弱いことが関係しているとも示唆されています。

多動・衝動性優勢型はSSRIやメチルフェニデートが効果的なため「脳内ドーパミン系ーセロトニン系障害」、不注意優勢型メチルフェニデートしか効かないため「脳内ドーパミン系障害型」という言い方がされることもあります。

自閉症や学習障害など他の発達障害と同じように親のしつけや養育の問題にされる誤解がまだあるかもしれませんが、遺伝や周産期、環境などの偶発的影響によって特性付けられるとされています。

多動や衝動性は目立つために問題が起きやすく、ADHDの診断へとつながりやすいですが、不注意優勢型は「のび太くん型」とも呼ばれており、問題行動が少なく、なかなかADHDだと診断される機会が少ないようです。

ADHDの可能性

国立精神・神経医療研究センター(NCNP病院)にて公開されているADHDの可能性の指標がありますので引用してご紹介します。

以下の9つの症状がそれぞれ(不注意と多動・衝動性)6項目以上みられて、それらが6か月以上継続し、家庭や学校など二つ以上の環境で、生活や学業に悪影響をきたしているときにはADHDの可能性があります。

不注意

学業・仕事中に不注意な間違いが多い

課題や遊びの活動中に、注意を持続することが出来ない

直接話しかけると聞いていないように見える

指示に従えず、業務をやり遂げることが出来ない

課題や活動を順序立てることがむずかしい

精神的努力の持続を要する課題を避ける、いやいや行う

なくし物が多い

他の刺激によって気が散りやすい

日々の活動の中で忘れっぽい


多動・衝動性

手足をそわそわ動かしたり、いすの上でもじもじする

授業中に席を離れる

不適切な状況で走り回ったり高いところに登ったりする

静かに遊べない

まるでエンジンで動かされているように行動する

しゃべりすぎる

質問が終わる前に出し抜けに答えてしまう

順番を待てない

他人の邪魔をする

国立精神・神経医療研究センター (NCNP病院) ADHD(注意欠如・多動症)

「注意欠如・多動症(ADHD)」の苦手なこと


「注意欠如・多動症(ADHD)」の苦手なことや困り事として、多動性・衝動性・不注意以外に

  • 片付けや整理整頓が苦手
  • 空間認知力が弱く、ボール遊びなどが苦手
  • 時間の感覚や方向感覚がおかしい
  • ワーキングメモリが弱く、一時記憶が難しい
  • 気が散りやすい
  • 順番が待てない
  • 意思や興味がコロコロ変わってしまう(一貫性がないように見える)
  • 思いつきで話してしまう(虚言癖のようになってしまう)
  • 興味があること以外に集中できない
  • 段取りが難しい
  • めんどうなことが苦手で先延ばしにする
  • 物忘れやうっかりが多い
  • 嘘やその場しのぎが多くなる
  • 管理や継続が苦手
  • 確認作業や同じ作業が苦手
  • 人間関係が続きにくい
  • 余裕がなく対人スキルが未熟
  • 勉強に興味があれば成績が非常に優秀
  • 爪を噛む、貧乏ゆすり、チック、抜髪癖があり、なかなかやめられない
  • 脳の覚醒が弱いため、覚醒させようとして薬物やタバコ、アルコールなどに依存しやすい
  • 脳のストレス耐性が弱く、傷つき易い
  • スリルのある選択を行いやすい
  • 方向性を間違えると犯罪や半社会的行動に発展してしまいやすい

などがありますが、これはどの特性が優勢か?にもよります。

先に挙げました3つの特性が有名すぎてこれらの症状からADHDと連想できないケースもよくあるようです。

ADHDの得意なことと強み


同じ発達障害であっても人にはそれぞれ才能を持っていたり、得意なことがあったりします。

ついつい発達障害というレッテルでその子が持っている隠れた才能や得意なことが見えづらくなってしまうこともあるものです。

「注意欠如・多動症(ADHD)」 において得意なところや強みとして、

①アグレッシブでエネルギッシュ、積極性がある
②興味のあることに没頭できるためその分野で優秀で、時に天才的な才能を発揮する
③頭の回転が早く、アイデアが豊富にある
④ついつい余計になることもあるが、積極的なコミュニケーション能力がある
⑤新しいものや新たな刺激に興味があるため発見や発明が起きることがある
⑥良い意味でも悪い意味でも危機意識が薄い・鈍感
⑦決断力があり、スピーディ

といったところが挙げられます。

ある調査によると狩猟時代にはアグレッシブで瞬間的な集中力に長けているADHD特性は人間の中でも優位な存在特性であったようです。

そのため狩りのようなワクワクすることを求めますが、リスクのあることや危険のスリルがあることも選択しやすい傾向があるようなので注意が必要です。

不注意優勢型の方はクリエイティブなお仕事、多動・衝動性優勢型の方は営業や起業家、エンジニア、研究者などが向いていると言われています。

何より自分が興味のあるものに集中力が高まりやすいのでその興味と仕事が結びつけば大きな成果になりやすいですが、そうでない場合は趣味の領域に留めておくことも必要かもしれません。

「注意欠如・多動症(ADHD)」 特性を持った人として、エジソンやスティーブ・ジョブス、アインシュタイン、坂本龍馬、モーツァルトなどの偉人たちが挙げられています。

苦手なところ改善させたり、発育を促すことも大事ですが、興味のあることを行い、長所や得意なことを伸ばしていくこともとても大切であると言えますね。

発達障害の関係図と近年の障害観


引用:厚生労働省 政策サポート

現在、国連で提唱されて広く知れ渡っているSDGsでは「誰一人取り残さない」という原則があり、2006年に国連で採択された障害者権利条約では「障害は個人ではなく社会にある」という視点を強調する提言を行っています。

個人や家族の努力だけではなく、学校や企業、コミュニティ、自治体、社会が連携してより良い社会とより良い生きやすさを創っていこうという方向性が現在の主流です。

気をつけたい二次障害


なかなかうまくできない、みんなと同じようにできないという経験からからかわれてしまったり、怒られ続け、自信を失い、自尊心を喪失してしまうことがあります。

そういった経験から行為障害、反抗挑戦性障害、適応障害、ひきこもり、気分障害、パーソナリティ障害などへ発展してしますこともあります。※素行障害は規則違反を起こし、反抗挑戦性障害では権力に逆らう行動を主とします。

この障害の認識がない大人、先生、組織、社会によっては、障害を持つ方に「怠けている」「なんでそんなこともできないのか!」といった印象を持ちやすく、努力不足というレッテルを張ってしまいます。

本人からすると「なんで自分はこんなにダメなんだ」と思ってしまうこともありますが、「人よりも○○といったことが苦手な脳の構造や処理過程を持っている」という認識を持って、自分の特性を理解していくことが大切です。

そして問題は社会側にもあります。

「障害者権利条約」では、障害は個人ではなく社会にあるという視点を強調し、障害がある子供や大人を差別や偏見から守り、社会的理解や配慮がなされ、社会へ参加できるようにしていくことを訴えています。

障害児(者)自身の努力も重要ですが、障害児(者)以外の者や社会全体がその障害を理解し、配慮を行えるようにしようとすることがとても重要になります。

またそういった特性を配慮するということだけでなく、「活かしていく」ことができる社会にしていくことが求められています。

ADHDの療育や心理療法として良く用いられるものとして、

①認知行動療法(CBT)
②ペアレントトレーニング
③応用行動分析(ABA)
④ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)

などがあります。

クリックすると読むことができますので、興味がありましたらご参考ください。

おわりに


「注意欠如・多動症(ADHD)」 についての説明と苦手・得意なことについて書いていきましたが、いかがでしたでしょうか?

自分やお子さんのADHDの特徴を知っておくことによって今後の療育や人生において有用な知識を得ることができます。

少しでも参考になれば幸いです。

■参考文献
「知って良かった、大人のADHD」 星野仁彦 著
国立精神・神経医療研究センター (NCNP病院) ADHD(注意欠如・多動症)
厚生労働省 政策サポート

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記事監修
公認心理師 白石

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