発達障害を持つお子さんの支援や療育の技法として「TEACCH(ティーチ)」というものがあります。

この技法も療育の現場などで発達障害やグレーゾーンの方が受けられることが多いですが、どのお子さんにとっても子育てなどで活かせるエッセンスが詰まっているように思います。

この記事ではこの「TEACCH(ティーチ)」について説明する前に自閉症の一般的な基礎知識からできるだけわかりやすく書いていきたいと思います。

自閉症についての基礎知識


自閉症は近年まで養育者の冷淡な養育や育て方の問題が原因で発症するという誤解や誤認があり、親や養育者の方々の心理的苦痛や葛藤を生む問題がありました。
(詳しくはブルーノ・ベッテルハイム「冷蔵庫マザー理論とその論争」にて)

しかし現代では、遺伝的なものや偶発的な影響などによるものが発症に多く関わっていることがわかてきており、一般的な理解になってきています。

TEACCHでも自閉症は身体的な問題で起きていると捉えて、少しでも自分の力で自立できるようにケアを行うことを大切にしています。

自閉症の特徴的な症状として、

①社会性・対人関係の困難さ(空気が読めない・相手の気持ちが汲み取りにくいなど)
②言葉の発達の遅れやコミュニケーションの難しさ
③活動や興味、行動が限局的でこだわりが強い

といった三点が挙げられています。

三歳ころまでにその特徴が目立つように現れ、男性4人に対して女性が1人という割合で男性や男児に多くみられます。

知的障害を伴う場合と伴わない場合があり、知的障害を伴う場合は「低機能自閉症(カナー症候群)」といい、知的障害を伴わない自閉症を「高機能自閉症(アスペルガー症候群)」と呼ばれています。

近年では、明確に区分ができないこともあるため「自閉症スペクトラム障害(英語:Autism Spectrum Disorder,、略名:ASD)」という表現が診断基準のDSM-5以降に一般的になってきています。

「TEACCH(ティーチ)」とは何か?


エリック・ショプラー博士

TEACCH(読み方:ティーチ)とは、英語の「Treatment and Education of Autistic and Communication handicapped Children」の略名で、自閉症やコミュニケーションに障害を持つ子供たちへの治療や療育、教育のプログラムのことです。

1960年代にアメリカのノースカロライナ大学のエリック・ショプラー博士らによって創始され、アメリカのみならず日本を含めた世界中で自閉症やコミュニケーションの障害を持つ子供たちの支援に活用されています。

予測不能な状態が苦手な自閉症の特徴に対して、環境や手順などを整理していく「構造化」が特徴的な技法です。

つぎにTEACCHプログラムの核である重要な考え方や理念を説明していきたいと思います。

①障害が生涯にわたりやすいことからできる限りの自立を目指す

治療的な側面もありますが、自閉症は生涯にわたることが多いため、地域や社会で可能な限り自立ができるように支援とケアを行うことを目的としています。

自閉症の人たちの行動や考え方も文化のひとつとして認識し、より良い生活と未来を創るという観点が特徴的です。

②こころの問題ではなく、脳と神経系の問題である

自閉症の本質は脳や神経系などの生体的な問題であるという認識を持ち、その子の持つ自閉症の特性を理解していきます。

③理論よりもその子から得られる情報を重要視する

理論よりもその子の行動観察から得られる情報を重要視します。

それは行動だけでなく、考え方などの認知面も含めて理解を深め、行動療法と認知療法を組み合わせてプログラムを行っていきます。

④できないことよりも「できることができる方向」に視点を持っていく

もちろん弱点の克服や改善も行っていきますが、不適切行動を治すといった焦点の当て方よりも適切な能力や技能を発達させるといった方向性へ焦点化することが大切にされています。

一見同じことのように感じますが、行動療法的には大きな違いがあります。

⑤親と専門家が協力して支援する

親(養育者)は一番身近で長期にわたる支援者であるため専門家とともに理解を深め、協同療育者して支援を行っていきます。

⑥環境を整えて構造化する

自閉症は視覚的な理解が強く、決まった手順やルーティンによって行動を行なう特徴があるためその子にとって理解や学習がしやすい環境や苦手さを補える環境を整える「構造化」を行っていきます。

⑦できないことや苦手なことをそのまま受け入れ、向上させていく

苦手さやできないことをそのまま受け入れることを大切にし、伸ばしていきたいところのスキル向上につながっていくプログラムを組みます。

⑧個別の適正な評価とアセスメントを行う

評価というのは、その子の苦手なことや得意なこと、考え方などの認知の特徴や行動の特徴を知り、理解することから始まります。人には特性や個性があるため個別に適正な評価やアセスメントを行う必要があります。

⑨ジェネラリストとして包括的に調整する

療育者はスペシャリストを発展させてジェネラリストとして包括的に調整することが求められます。包括的な支援には、自閉症を取りまくあらゆる問題や知識が求められます。

実際どのようなことをするの?


物理的構造化では、○○をする場所という活動別に場所を設定し、囲いやカーペットなどを用いて区切ります。

例えばスケジュールや何をすればいいかが視覚的によくわかる「トランジションエリア」や勉強や作業を行う「ワークエリア」、遊ぶ「プレイエリア」、感情的になったときの「クールダウンエリア」などを設定します。

これらを整備することでどの場所で何をすべきかがわかり、安定した行動を行い易くなります。

前もって予定を示すことで不安や混乱も減り、予期しない状況下での恐怖や困惑も少なくなります。

絵とそれ対応する言葉が書いている「絵カード」を用いることでコミュニケーションが行い易くなります。

自分の感情もこのカードがあれば伝えやすくなるなどこのような「視覚的構造化」も重要になります。

①どんな課題・作業か?
②いつまでにどれくらいのことをするのか?(時間と量)
③どうなったら終わるのか?
④終わったら次はどうするのか?

という4点を示すことで「動機付け」を高めることができます。(ワークシステムの設定)

実際にワークを繰り返し、達成感を得て、成功体験を重ねていく中で学習と発達が促進されていきます。

コミュニケーションでは、

①場面などのコミュニケーションの文脈(場所・誰と)
②内容などのコミュニケーションの機能(要求・注意喚起・拒絶(拒否)・説明・情報提供・情報請求・感情や共感の表現)
③手段などのコミュニケーションの形態(泣いたりパニックになる動作・身振りやジェスチャー・直接・間接に物を示す・絵や写真を用いる・文字・言葉・サイン言語・発声)

の3つの要素があると捉えていきます。

そしてそれらにおいて重要になるのが、

  • その子が行いやすいコミュニケーション手段をみつける
  • その子が理解しやすく、使いやすいスキルを教える
  • たくさん教えるより、一回につき一つを教える方が結果的に良い場合も多い
  • 発達障害ではシチュエーションによる練習を課題とすることが多く、自閉症ではコミュニケーション自体を教えることが重要になる
  • 成長してくるに従って構造化された手順や空間を適応的に崩していくことで成長を促す

といった点です。

実際にTEACCHがどのようなことを理念とし、どのようなプログラムをするかをここまで説明してきました。

しかしこのプログラムで最も重要なところは、家族の中だけでなく、学校、支援施設(支援者)、自治体、社会が連携し、包括的な助け合いを行うコミュニティを形成することにあります。

日本ではまだまだ難しいところもありますが、「チーム医療」や「生物-心理-社会モデル(BPSモデル)」の重要性が訴えられている現代においてその整備はますます必要となります。

おわりに


療育の技法「TEACCH(ティーチ)」について書いていきましたが、いかがでしたでしょうか?

療育の先進国であるアメリカでは、自閉症の子供たちに有用な教育・療育プログラムとしてこのTEACCHと「応用行動分析(ABA)」を挙げています。

これはどちらが良いということよりも相互補完的に用いられたりしています。

特に「応用行動分析(ABA)」は非常にエビデンスが多くあり、その分析学をベースにした療育技法(ペアレント・トレーニングなど)も多く生まれています。

どの療育の技法も重要な理念などは共通していることも多く、その子に合わせた療育を行っていくことが大切になります。

少しでもご覧頂いている方の参考になれば幸いです。

最後までお読みいただき、有難うございます。

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記事監修
公認心理師 白石

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