過去の心理学者・臨床家・研究者の人物像や提唱された内容から今に学べることは多くあります。

ここでは心理学の哲学的ルーツの一人であるヴィルヘルム・ヴントと「内観」「要素主義」「民族心理学」について書いていきたいと思います。

ヴィルヘルム・ヴントについて


ヴィルヘルム・ヴント

ヴィルヘルム・マクシミリアン・ヴント(Wilhelm Maximilian Wundt)は、1832年ドイツのマンハイムに代々学問的業績を上げる家の第四子として生まれ、後に実験心理学の父と称されるドイツの哲学者・心理学者です。

牧師の父を持ち、若い頃は厳しい教育規制に縛られ、遊ぶ時間もなかったと言います。

ハイデンベルク大学医学部を卒業後、視知覚の研究で有名なヘルマン・ヘルムホルツの助手となり、チューリッヒ大学、ライプツィヒ大学の教授を歴任し、世界ではじめての実験心理学の研究室を開設します。

研究室には各国から多くの研究者が集まり、そこには精神医学の祖とも称されるエミール・クレペリンも研究を熱望し、影響を与えています。

ヴントのライプツィヒ大学の実験心理学を継承した学派を「ライプツィヒ学派」と呼び、アメリカ臨床心理学の父と称されるウィットマーなど多くの優秀な研究者を輩出しています。

代表的な主著として、

1863年「人間と動物のこころについての講義」
1896年「心理学概要」
1873年〜74年「生理学的心理学原理(綱要)」
1900〜20年「民族心理学」

などがあり、88歳で生涯を終えるまでに490以上の著作を残し、科学の分野では最も多産な書き手としても有名です。

※給料があまり出なかったこともあり、多くの著書を出さなければいけない理由があったという逸話もあります。

精神生活は生命のはじまりと共にはじまった


こころや精神についての見解の起源は、5世紀ごろアリストテレスとプラトンが「動物には人間とははっきり区別される低次の意識が備わっている」と主張し、17世紀にデカルトが「動物は感情を欠いた自動機械」と述べ、19世紀にはダーウィンが「意識は進化のスケールが最も低次の生きる物から人間まで機能している」と断言しています。

ヴントは「生理学的心理学原理(綱要)」の中で、「意識とはあらゆる生ける有機体が共有している普遍的な所有物であり、進化の過程がはじまるとともに存在してきた」と主張しています。

この動物や生物に意識があるかどうかという論争は現在も続いています。

ヴントの「内観」と「要素主義(構成主義)」


意識の精密な記述こそが実験心理学の目標だとヴントは考えました。

意識を「内的経験」であると理解しながらも、研究と数量化が可能な「行動」を直接的に観察することを研究対象とします。

観察には、

①外的観察(反射のような刺激に反応するような物体に生じる因果関係を評価する)
②内的観察(内観や自己観察を記録して評価する)

の2つがあると考えました。

行なっていた光知覚の実験では、反射的な反応だけでなく、意志的な反応を起こすまでのタイムラグに着目し、個人差があるとともに共通に何を語るのかも関心を抱きました。

このような感覚実験から意識は、「表象と意志、感情という行為に関わる3つの要素から成っている」と主張します。

これらの3つの要素が一体となり、出来事の統一的な経過の印象が形成されるということです。

感情に関して内観を通じて、

・快-不快
・興奮-沈静
・緊張-弛緩

の3つによって記述されるとしました。

ヴントは、このように自分の精神の内的観察する「内観」という方法を用いて意識を観察・分析し、意識の要素と構成法則を明らかにしようとしました。

ヴントの心理学は要素主義(構成主義)と呼ばれ、さまざまな心的要素の働きが「統覚(アパーセプション)」によって統合されるとしました。

内観法は哲学的な内観とは異なる客観性は持っていたものの被験者の主観的な感覚に偏りや観念不能な概念を扱っているなどの批判があったり、要素主義(構成主義)の要素だけでは全体的視野を欠くとして批判されます。

しかしその批判により、要素の全体性に注目した「ゲシュタルト心理学」や観察可能な行動のみを研究対象としたワトソンの「行動主義」への発展に繋がっていきます。

哲学から心理学へ


ヴントの功績の一つとして、「心理学は形而上学ではなく、経験可能な事柄を扱った方法論をもった経験科学である」という考えを打ち出したことにあります。

※形而上学(読み:けいじじょうがく)とは、世界の根源的な成り立ちや人間の存在理由や意味を考えていく哲学的学問。

哲学的な考察ではなく、実験による客観性を持って実証することを重視しました。

ヴントの方法は、外部から刺激を与えて「外部の反応」と「内部の経験」を調べるものであったり、先に述べた自分自身の心理的経験を観察する「内観法(introspection)」などがあります。

この内観法では自分にしかわからないような哲学的な自己観察を否定していました。

実験的に統制された条件下で自分自身の意識経験を組織的に分析するこの心理学を「生理学的心理学」と呼びました。

この時代の哲学的な心理学とは異なるこの心理学は「新心理学」と呼ばれるようになります。

晩年の民族心理学


ヴントは、今までの実験による心理学を「個人心理学」と呼び、晩年には社会制度や慣習、文化などと精神の関係による心理学「民族心理学」の研究に精力的になります。

彼の意識や心理の研究は個人のみならず、関わりや集団、社会制度、慣習、文化などの影響を外しては捉えることができないと考えていたようです。

全10巻からなるこの「民族心理学」には、言語、法律、社会、歴史、文化慣習、宗教、神話といった分野について深く触れられています。

「人類は文明や文化の点では進歩したが、本質は変わっていない」、「死や病に対する恐怖心が信仰心の始まり」などの推論を述べました。

参考文献

心理学大図鑑 キャサリン・コーリンほか

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