この記事では、自己表現に関する「アサーティブネス」と「アサーション・トレーニング」について詳しく書いていきたいと思います。
少しでもお役に立てられれば幸いです。
もくじ
アサーティブネスとは何か?
アサーティブネス(英語:Assertiveness)は、アサーションとも呼ばれ、自分と他者の双方を尊重した表現や主張のことを指します。
※「Assertiveness」には、自分の意見や感情などを表現するだけでなく、自信のある積極的な態度も含んだ自己表現という意味があります。
私たちが自己表現や自己主張を考えるときに「自分の意見をしっかり言えるか(伝えたい)」という自分側に注視してしまいますが、相手側にも尊重しながら表現・主張していくことで円滑で質の高いコミュニケーションが成立していきます。
「I’m OK! You’re not OK!」 といった他者を無視した攻撃的自己表現でもなく、 「I’m not OK! You’re OK!」といった自分を無視した非主張的自己表現でもなく、「I’m OK! You’re OK!」といった両者を尊重したWin-Winの関係を構築していきます。
近年では特にビジネスシーンなどでも求められる能力の一つとなってきています。
アサーティブネスを成立させるには、自分と相手の人権である「アサーティブ権」を尊重することが重要になります。
アサーティブ権(アサーション権)とは、誰もが尊重され、大切にされる権利があるとする基本的人権に沿った考え方です。
あまり一般では浸透されていないように感じますが、その重要性はますます高まっていくと考えられます。
どのような権利かというと、
- 誰でも自分の意見や希望を表現することができる権利
- 自分の要求を真面目に聞いてもらう権利
- 自分で決めて行動し、結果に責任を持つ権利
- 行動を実行するときに説明や言い訳をしないでも良いとする権利
- 協力して欲しい時はその旨を表現し、欲しくなければそれで良いとする権利
- 他者の助けや協力に応じても応じなくても良い権利
- 自分の気持ちが変わったら変えても良い権利
- 以前の発言を取り消してもらう権利
- 誰でも過ちを犯すことがあり、その責任を持つ権利
- 知らないことは知らないと言える権利(わからないも同様)
- 関心がないときには関心がないことを言える権利
- 支払いや仕事に見合ったものや報酬を受け取る権利
- いつも論理的でなくても良い権利
- 成功する権利(優れていたり・成功しても必要以上に謙遜しなくて良い)
- いつもアサーティブでなくても良い権利
- 一人になる権利
- 自己主張や自己表現をしない権利
などがあります。
また自分自身である権利と自分を表現する権利を主張するときには無気力感や罪悪感を感じなくて良いという権利も主張されています。
アサーションの研究者であるアルベルティ博士とエモンズ博士によると、「他人を傷つけない限り、すべての人がアサーション権を持っている」と述べました。
なかなか実際の職場やビジネスシーンではまだまだ周知されていないためなかなか活用が難しい場合もありますが、この権利を知った方から行使しながら、相手も尊重していく中で少しずつ少しずつ浸透して、広まっていくことが期待されます。
アサーティブ(アサーション)の歴史と背景
1949年に「条件反射療法」を出版したアンドリュー・サルター博士は治療や研究を行っていく中で、「人間はもっと自由で活動的な生き物であるが、子供時代のしつけやルール、社会的規範などによって抑制的になっているため、本来の活動性と自己主張を取り戻さなければならない。」と考えました。
そして神経症患者のための自己表現プログラムを開発していきます。
そのプログラムに着目したジョセフ・ウォルピ博士やラザルス博士が抑うつ患者や過呼吸を持つ患者に「アサーション・トレーニング」を行う行動療法を開発し、広く知れ渡るようになりました。
1970年代には、疾患や障害を持っている方だけではなく、健常な場合にも自己表現する権利や能力を向上させる必要があるとしてロバート・E・アルベルティ博士とマイケル・L・エモンズ博士らが目標達成プログラムをつくりました。
境界性パーソナリティ障害に対する認知行動療法を開発したことで知られるアメリカの女性の心理学者マーシャ・リネハンによって「弁証法的行動療法」のなかでアサーションの概念を利用した自己感情の調整法などに生かされていきます。
そして2000年代には、従来の形態に囚われていたアサーションの概念に対して、気持ちが伝わることや結果として動いてくれるといった機能に着目した「機能的アサーション」という概念が生まれています。
ようするに相手を傷つけず、目標や目的を達成するために適切な表現や主張を行うことに着目していくと良い結果が生まれるということです。
また機能的アサーションは「しなやかで芯のある自己表現」とも呼ばれています。
アサーティブ(アサーション)に必要なもの
アサーションを行うためには、まず大前提として
①自分を大切にして尊重すること
②他者や相手も大切にして尊重すること
が最も重要です。
そしてアサーションを上手く行っていくにあたって、
- 自分の気持ちや意思を把握すること
- 適切な配慮のある自己表現を選ぶこと
- 敵対性が低いこと(低くすること)
- 親切さがあること
- 共感性があること
- 他者への配慮があること
- 適切な歩み寄りや譲歩ができること
- 相手に合わせた伝わりやすさがあること
- 周囲の目や結果を気にしすぎないこと
- 必要以上に罪悪感を感じないこと
- 相手がアサーションの知識を持っていなくても受容すること
- 自分を信頼し、それ相応の自信を持つこと
- 正しい正しくないといった観点より多様性として考えること
- 葛藤を覚悟しておくこと
- 勝ち負けではないこと
- 断ることが悪いことではないという認識を持つこと
- 自分の怒りに気づき、アンガーマネジメントなどの対応策を持つこと
- うまくコミュニケーションが取れない場合、第三者にお願いすること
- 「非合理的な思い込み」や「認知の歪み(偏り)」などに気づき、理解する
- 傾聴して、妥協点や共通点を探ること
などが大切です。(たくさん書きましたが、全て必要ではないです。)
人によってここが苦手、ここが得意といった個性や特性がありますが、積極的に実践・トレーニングしていくことで学習し、長期に及ぶ学習により脳や神経系の神経再編成が行われ、習得・獲得していけるものと考えられます。
アサーティブ(アサーション)の技法
アサーティブ(アサーション)で用いられる10種類の技法・テクニックを紹介していきます。
アイ・ステートメント
アイとは英語の「I(アイ)」のことで、ついつい「You(ユー)」で始まって「あなたは~」と相手を批判的に責めてしまいやすくなる文章から「私は○○だから○○して欲しい」という表現にしていくことを「アイ・ステートメント(Iメッセージ)」といいます。
ちなみに「You(ユー)」から始まって攻撃的になったり、本音が伝えにくくなる会話を「ユー・ステートメント(Youメッセージ)」と言ったりします。
感情のままにコミュニケーションを行うと「ユー・ステートメント(Youメッセージ)」になりやすいため、メタ認知や少し冷静になって話すことを構築した後に「 I(アイ)」 を主語にして話していくことが大切です。
※メタ認知とは自分の考えていることや感情を客観的にセルフモニタリングできる状態のことです。
批判的・攻撃的なメッセージが軽減されるため、相手に思いが届きやすく、要求も通りやすくなります。
この技法は多くの方が慣れていないため少し頭を冷静にして、考えてから話す工夫が必要かもしれません。
DESC法 (デスク法)
①描写する(Describe)
②表現・共感・説明する(Express,Emphathize,Explain)
③提案する(Specify)
④選択する(Choose)
の4つのステップから構成された、自分の考えをうまく提示する技法です。
①では、先ほどの「YOU」や「I」を入れないようして、データや事実など具体的に客観的に表現することに努めます。
②では、①を説明した上で相手の気持ちに共感したり、自分の気持ちや考えを表現します。感情的にならないように注意しながら建設的に表現できると良いとされていますが、状況に応じて正直な気持ちを伝えることも大切です。
③では、相手に望む要求や解決案などを提示していくのですが、無理をせず、具体的で実現可能なラインの提案を強制せずに行うことが大切です。
④では、その提案に対する相手の反応を予想し、肯定的な場合のシュミレーションや代替案、否定的な場合のシュミレーションと代替案を想定し、双方にメリットのある選択肢を再提案します。
このDESC法はあらかじめ紙や携帯のメモ機能を使って書いてまとめた上で伝えていくという手順で行われることが多いテクニックです。
①から書くのではなく、④が最も重要であるため、④から逆に書いていきます。
ブロークン・レコード・テクニック
日本語で「壊れたレコード」という呼び方もされますが、相手がしつこく要求してくる場合や頼んでくる場合にどのような質問でも「できません」と何度も断ると相手が諦めていき、断ることができるというテクニックです。
非常に強い断り方ですが、有用なことも多く、最後にあたたかい言葉やねぎらいの言葉を添えて締めくくると良いとされています。
ラダー(LADDER)
ラダー(LADDER)とは、批判を受けた時のアサーティブな応答を行うための技法です。
①フィードバックに感謝をしながらもその批判は受け入れるべきものなのかを吟味する
②対応すべき批判に対して謝罪やお礼を伝え、改善する
③悪意がある批判は感情的にできるだけならないように素直に否定・否認する
④その批判と人格否定を区別する
の4つのステップを考え、行っていきます。
LADDERとは、
- 自分の気持ちや権利に目を向けて、観察する「Look at」の「L」
- 批判に対する返答を吟味し、話すこと・話す場所などを決める「Arrange at」の「A」
- 相手の批判を聞きながらもデータや事実に基づき、具体的に応答する「Define the problem situation」の「D」
- 私を主語にして率直な気持ち・お願い・聞き入れてほしいことを伝える「Describe your feelings」の「D」
- 改善してほしいこと・自分の頼みを簡潔に表現する「Express」の「E」
- 協力した場合の結果とそうでない場合の結果を建設的に伝える「Reinforce」の「R」
という意味があります。
この流れを基に相手に伝えていくことによって批判を受けた時のアサーティブな対応が可能となります。
部分肯定法
批判された中で部分的に肯定することによって、相手はすべてを否定されたとは思わず、受け入れられた感覚が取り入れられ、コミュニケーションがスムースに向かう技法です。
相手も受け入れられた受容感があるため、自分の意見を部分的に聞き入れてくれやすくなる特徴があります。
褒める
基本中の基本である「褒める」という行為は意外と難しいこともあります。
褒められると嬉しい人もいれば、褒められると照れくさい人もいれば、褒められると嫌悪感を感じる人もいます。
その相手が求めているものを見抜くことこそアサーションにとって重要な意味をもたらします。
感謝をして断る
断りを入れる前に感謝を伝えることによって断りがマイルドになる方法です。
基本的な礼儀ですが、アサーションの技法の一つと言えます。
アサーティブな傾聴
相手を尊重し、理解する姿勢を持った傾聴を行っていく方法です。
「話すこと2割:傾聴8割」にすると良いとされていますが、内容によって変化させて良いと思われます。
真摯な姿勢が相手に伝わりやすいのが傾聴ですので、謙虚な姿勢で心からできるとなお伝わりやすいかもしれません。
お願いをする
「~しなさい」「なんで○○なの?」といった感情的で攻撃的な言い方をしていたとしたら「○○して欲しい」とお願いをすることによって相手の行動の反応が変わってくることもあります。
万能ではありませんが、うまく使えば効果的であったりします。
限界設定
「ここまでが可能」「ここからが無理」といった境界線を設定し、相手に伝えることでボーダーラインが明確になり、後の問題やストレスを減らすことができます。
意外とこの限界設定を行っていないことも多く、必要に応じて使用していくと双方に意外な効果があったりします。
アサーション・トレーニング
アサーション・トレーニング(アサーティブ・トレーニング)を行うためには、
①自分の気持ちや考えを素直に表現する
②他者や相手に対して誠実であり、謙虚である
③自分と相手が対等な関係として認識している
④表現について責任感を持つこと
の4つ要素を意識して行っていくことが大切とされています。
アサーション・トレーニングは多くの場合、ロールプレイによって行われます。
ビジネスシーンですと「断り役」「上司役」「観察役」といった役割を決めて行っていきます。
上述しましたDESK法などのアサーション技法を用いたり、「アサーションに必要なもの」の項で書きました方法や能力を向上させていくように行われます。
自分が、
①攻撃的自己表現型(アグレッシブタイプ)
②非主張的自己表現型(ノンアサーティブタイプ)
③バランス自己表現型(アサーティブタイプ)
のどれに該当するかを知っておく必要があります。
また自分の得意・不得意な場面や断り、批判対応などを知っておくことも大切です。
必要に応じて認知行動療法の技法も織り交ぜながら、不適応な認知を変容させたり、コラム法でより詳しく客観的に観る練習をしたり、新たな行動によって学習していくことも行ったりします。
ですが、最も重要なのは「自分も相手も大切にされ、尊重する」姿勢です。
それは言葉が先ではなく、態度(アティチュード)が先です。
その上ですべてが成り立っていきますので、ついつい進んでいく中でこの大原則がブレてくることもあるので再確認することも大切です。(しかしこれに囚われすぎても良くないこともあるのでその点の柔軟性も必要です。)
伝えたいことを一つに的を絞り、相手に伝わりやすくするような練習も実生活やビジネスシーンで必ず活きます。
おわりに
アサーティブ(アサーション)は私たちのコミュニケーション能力を向上させてくれる非常に有益なものですが、万能薬ではありません。
個人的なコミュニケーションの問題もあれば、組織自体に問題があることもあります。
アサーションばかりに囚われて全体が見えなくなることにも注意をはらいながら適切に使えば私たちのコミュニケーションを円滑にする非常に有用なツールになります。
文章中に出ていました
などもご参考になれば幸いです。
両者にとってwin-winを目指し、相互尊重のあるコミュニケーションが世の中に増えるためにもこの「アサーティブ」や「アサーション権」などの情報が広く知れ渡って欲しいと個人的には思います。
最後までお読みいただき、有難うございました。
■参考文献
行動療法におけるアサーション・トレーニング研究の歴史と課題 三田村 仰
心理教育的アプローチとしての《アサーション》 千葉工業大学 柴橋祐子
記事監修
公認心理師 白石
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