自分の心に向き合ったり、心理を勉強していく中で「中核信念(コア・ビリーフ)」についての理解は大きな手助けとなります。
知っていると役に立つ心理学用語として「中核信念(コア・ビリーフ)」説明していきたいと思います。
もくじ
中核信念(コア・ビリーフ)とは?
人は幼少期の頃から①自分自身について、②他者について、③自分をとりまく世界について一定の信念を持ちますが、その信念の最も重要な核(コア)になるのが中核信念(コア・ビリーフ)です。
※ビリーフ(英語:belief)とは、信念という意味です。様々なビリーフ群によって構成されたまとまりを「スキーマ」といいます。
例えば、
①「自分は価値がない」「自分は好かれやすい」
②「他人は信じられない」「何かあれば誰かが助けてくれる」
③「世の中は危険だ」「頑張れば良い人生を歩める」
といったような信念です。
中核信念は、自分で当たり前のように無意識的に言動で現れているためになかなか自分で気づくことは難しいものです。しかし、中核信念について学び、言動から読み解くことで自分でも理解できるようになります。
私たちは毎日のように中核信念(コア・ビリーフ)のレンズを通して物事を解釈しています。
- なぜそう思うか?
- なぜそう捉えるか?
- なぜそのような感情が出るか?
中核信念(コア・ビリーフ)が深く関係しているのです。
反応(感情、身体、行動)
↑
自動思考
↑
状況
↑
媒介信念(ルール、構え、思い込み)
↑
中核信念
のように認知の階層があり、中核信念は一番深い階層にあります。
わかりやすく理解するために「知らない人が自分の方向を向いて笑う」という現象を例としてみていきましょう。
「ただこちらを向いている状態で笑っている人がいる」が事実ですが、中核信念や媒介信念がどのように反応に影響しているのかをみていきましょう。
反応:「すごく腹が立ったが無視した」
↑
自動思考:「こちらを見て馬鹿にするように笑っていると思った」
↑
状況:「知らない人が自分の方向を向いて笑っている」
↑
構え:「馬鹿にする行為は許せない」
ルール:「怒りが出ても表に出さないでおこう」
思い込み:「他者は私に必ず意地悪をしたり、馬鹿にしたりする」
↑
中核信念「私は人から蔑まされる存在だ」「私はよく嫌われる」
上記のような中核信念(コア・ビリーフ)と媒介信念(ルール、構え、思い込み)が反応を起こす状況に遭遇することで自動思考と反応(感情、身体、行動)が生まれます。
中核信念(コア・ビリーフ)と媒介信念は認知行動療法においてアプローチを行う大切な概念です。
問題を生みやすい中核信念(コア・ビリーフ)
自分にとって肯定的な、建設的な中核信念(コア・ビリーフ)を持っている場合、悩みや問題になりにくいでしょう。
一方で問題を生みやすい中核信念(コア・ビリーフ)がありますので一例を紹介します。
これらの文章に「必ず」「いつも」という言葉が入れば入るほど問題を生みやすくなります。
「出来の悪さ」に関する中核信念(コア・ビリーフ)
- 私は出来が悪い(無力だ)
- 私は何をやってもうまくできない
- 私はちゃんとしていない
- 私は弱くてもろい(傷つきやすい)
- 私は犠牲者だ(被害者だ)
- 私は頼りにならない
- 私はどうしてよいかわからない人だ
- 私は劣っている
- 私は負け犬だ(敗北者だ)
- 私は変わることができない
- 私は閉じ込められている
- 私は努力ができない人だ
- 私は欠陥である(欠落しているところがある)
- 私は周りに迷惑をかける存在だ
- 私は周りの足を引っ張る人間だ
「好かれない・愛されない」に関する中核信念(コア・ビリーフ)
- 私は愛されない
- 私には魅力がない
- 私は好かれにくい
- 私は誰からも必要とされない
- 私は望ましくない
- 私は人を惹きつけない(人気がない)
- 私は嫌われる存在
- 私は無視される存在
- 私はイジメられる存在
- 私は一人ぼっち
- 私は見捨てられる存在
- 私は誰にも気にかけられない
- 私は変わり者だ
- 私は悪い人間だ(欠落している)
- 私は拒否される運命だ
- 私は天涯孤独の運命だ
「価値のなさ」に関する中核信念(コア・ビリーフ)
- 私には価値がない
- 私は受け入れられない
- 私は認められない
- 私はダメな人間だ
- 私は役立たず
- 私に魅力はない
- 私は邪魔だ
- 私は危険だ
- 私は道徳に反する存在だ
- 私は存在してはいけない
- 私は有毒で邪悪だ
- 私は生きる価値がない
他者に関する中核信念(コア・ビリーフ)
- 他人はわたしを嫌う
- 他人は信頼できない
- 他人は助けてくれない
- 他人は意地悪だ
- 他人は悪者だ
- 他人はわたしに攻撃してくる存在だ
- 他人は私を蔑む存在
- 他人は見て見ぬふりをする
- 他人は有毒で邪悪だ
- 他人は邪魔だ
- 他人が変なのである
- 他人は出来が悪い
- 他人は私に迷惑をかける
世界観に関する中核信念(コア・ビリーフ)
- 世の中はいつも私に残酷だ
- どうせうまくいかない世の中だ
- どうせまた被害を被る
- 世の中がおかしい
- 人が集まるところは危険だ
- 世の中は間違っている
- 世の中は私をひどく扱う
- 世の中は私を排除する
- 生きていても良いことが起こらない
- いつも悪いことがおきるものだ
- 生きていても意味がない
- 生きるに値しない世の中だ
- 頑張っても意味がない世の中だ
- 世の中は破壊されるべきだ
- 私が悪いのではなく世の中が悪い
- 世の中は危険だ(社会生活は危険だ)
中核信念(コア・ビリーフ)の変容
中核信念(コア・ビリーフ)の変容を行うには、どのようにして中核信念(コア・ビリーフ)が形成されるかを知ることが役に立ちます。
よく知られているのが親などの主たる保護者の言葉です。
「なんであなたはいつも失敗するの」「本当にダメな子ね」といった言葉によって中核信念(コア・ビリーフ)に刷り込まれていきます。
また言葉だけでなく、「よくできた時だけ愛され、できないときは過度な誹謗中傷や冷徹な態度」などを体験することによって「頑張らなければ価値がない、愛されない」と自らが認識することもあります。
強烈な体験を通して刷り込まれる場合もあれば、繰り返し経験することによって学習し、中核信念(コア・ビリーフ)を形成していきます。
親などの主たる保護者の影響も大きいですが、実際は多種多様な影響を受けて形成していきます。
- 兄弟、姉妹、いとこなど
- 家庭、親族
- 友人
- 保育園、幼稚園、託児所
- 小学校~大学までの学生生活と部活、サークル
- アルバイト、パート、就職、転職、仕事
- 事故、病気、別れ、ショックの強い出来後、感動的出来事
- 努力と結果とプロセス
- 多種多様な他人との関わり
- 宗教・スピリチュアル思想
- 書籍・芸術・映画
- 人生
での経験や受けた指摘、そこからの推測、自認したものによる影響などがあります。
- いつの間にか刷り込まれていた
- 人から言われて形成された
- ショックな出来事で一気に形成された
- 指摘され続けて学習した
- 観察して学習した
- 自分で推測して形成した
- 無意識的に形成された
- 洗脳による形成
などのように刷り込み、学習、形成が行われます。
中核信念(コア・ビリーフ)や信念(ビリーフ)は、人生を歩む中で少しずつ変化することもあれば、変わらないものもあれば、時に大きく変化することもあります。
ビリーフには、信じている是認している「ビリーフ」と、信じていない否認している「ディス・ビリーフ(英語:disbelief)」があります。
中核信念(コア・ビリーフ)や信念(ビリーフ)は、推量によって支えられているところもあり、解釈によって大きく変化します。
「お母さんは片付けられないあなたが嫌い」と言い続けられて「片付けられない自分はダメな人間で愛されない」と信じたとしましょう。
お母さんの本当の真意は「片付けられるようになって欲しい」でということであって、そのためにあえて極端に「嫌い」と表現し、問題意識を高め、変わってほしいという厳しい言葉になっていたという事実がわかった場合、先程まで信じていたものをどう感じるでしょうか?
実際、勝手に解釈を行ったり、極端に偏って信じ込み、中核信念(コア・ビリーフ)や信念(ビリーフ)を形成していることが多いのです。
真意が正しく伝わらないことは日常で頻繁に起こっていますので、そのようななかで形成してしまったものもあるという認識を持つことが大事です。
上記の例での新しい認識から再解釈を行うと
①片付けられない自分もいるけど片付けられる自分もいる
②片付けられないときに相手に不快感を与えてお互いに嫌な気持ちになる
③片付けられないからダメだと思うこともあるけど「ダメ人間」ではない
④母は自分が求める愛情表現をするときもあれば、しないときもあって、求めている表現でない時に「愛されていない」と自分は思ってしまう
というように捉えることもできます。
このように偏っている捉え方や勝手な推論をバランスよく捉えて行くことで中核信念(コア・ビリーフ)や信念(ビリーフ)が少しずつではありますが変化していきます。
人は自分が信じている信念(ビリーフ)が正しいと証明できる証拠を集めてしまうが多いことも知っておく必要があります。
「自分はダメな人間で愛されない」という中核信念(コア・ビリーフ)を持っていることで、上手くいかなかったことや愛されていない体験をピックアップしやすくなり、証拠を集めてしまい、「やっぱりそうなんだ」というように証明を強くしていくということです。
「確かにそういうことやっているな」と肯定的に捉えて、客観的(メタ認知)に認知しておくと良いでしょう。
変容を進めていく中でとても大切なのが、「そのように信じた自分」を否定しないことです。
その時そのように感じたのには理由がありますので、そのときは仕方なかったという寛容さを持つ必要性があります。
変容には、
①どのような問題になっている「中核信念(コア・ビリーフ)」があるかを知ることから始まります。
②その中核信念(コア・ビリーフ)を理解しながら偏り、推論を探しながら適切に捉え直していきます。
③中核信念(コア・ビリーフ)を再構築もしくは新規形成していきます。
④新しい中核信念(コア・ビリーフ)を強化したり、浸透させる
⑤新しい中核信念(コア・ビリーフ)が自然になる
などのような手順があります。
中核(コア)ですので簡単に変化すると思わず、ひとつずつ手順を踏みながら地道にアプローチを行っていくことが大切です。
中核信念(コア・ビリーフ)や信念(ビリーフ)へアプローチできるものとして論理療法、認知行動療法、カウンセリング、NLP(神経言語プログラミング)、ビリーフチェンジセラピーなどがあります。
※変容の流れ、理論、技法は、心理療法によって異なります。
注意点
問題がない限りは、掘り下げて変容のためのプロセスを行う必要はありません。
中核信念は、その方にとってとても中心的な役割がありますので安易に考えてはいけません。
慎重に大切に扱いながら、様々な点を留意しながら行われることが推奨されます。
「コア・ビリーフが変わればすべてが変わる」といった標榜がされている場合もあります。確かに言動や解釈に深い関係はありますが、それだけで全て変わると過大評価しないほうが長期的には良い傾向があります。
「ブロックをはずす」という形でアプローチが行われていることもあります。ブロックはずしに力を傾けすぎて大変になる場合やいつの間にか大切な信念・常識的な信念まで外してしまい後になって問題になることがあるようです。
「当人にとって無理が生じる新しい中核信念」はクライエントにとって非常に苦しいものとなるため、適切なものでなければなりません。
心理的なアプローチだけがアプローチできものではありません。新たな行動によって新たな体験が生まれ、信じるものが変化に至るプロセスも大切です。
なによりバランスの良い自分の適した方法で行うことをおすすめします。
おわりに
いかがだったでしょうか?
ジュディス・ベックの認知行動療法を中心に置きながら「中核信念(コア・ビリーフ)」の説明を行ってきました。
自分に向き合ったり、認知行動療法やカウンセリングを受ける際に「中核信念(コア・ビリーフ)」を知っておくと役に立ってくれることが多いと思います。
当カウンセリングでも「中核信念(コア・ビリーフ)」に対するカウンセリングと認知行動療法を行っています。
皆様のお役立てにご利用いただければ幸いです。
参考文献・サイト
認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第2版 -ジュディス・ベックの認知行動療法テキスト ジュディス・S・ベック著
記事監修
公認心理師 白石
「皆様のお役に立つ情報を提供していきたいと思っています」