会社でのストレスチェックが義務化されるなど「ストレスによる影響」に関して重要視されてきている傾向があります。

ストレスとはどのようなものか?なんとなく体験的にわかっているところがあると思いますが、3つのストレス理論を知ることにより深く理解することができます。

セリエの「ストレス反応モデル」、ホームズとレイの「ストレス刺激モデル」、ラザルスとフォルクマンの「ストレス評価モデル」の3つの代表的なストレス理論からストレスの実態に迫っていきたいと思います。

セリエの「ストレス反応モデル」


ストレス理論の基礎になっているのが生理学者ハンス・セリエ(英語:Hans Selye)の「ストレス反応モデル」です。

ストレス(英語:stress)という言葉自体は、物質に力が加えられた時に生じる歪みや反発力を意味する物理学用語に由来しています。

ストレスとは、「外部環境からの刺激によって起こる歪みに対する非特異的反応」であり、ストレッサーとは、「ストレスを引き起こす外部環境からの刺激」であると定義しました。

例えば、「会社の不条理な判断でイライラした」といったケースの場合、「会社の不条理な判断」がストレッサー、「イライラした」がストレス反応ということになります。

ストレッサーには、

  1. 物理的ストレッサー:猛暑、寒冷、騒音、光など
  2. 化学的ストレッサー:タバコ、有害物質、排気ガス、アルコール、大気汚染、化学物質など
  3. 生物学的ストレッサー:細菌、ウイルス、真菌、花粉など
  4. 精神的ストレッサー:怒り、恐れ、不安、憎しみ、悲しみなど
  5. 社会的ストレッサー:家庭、学校、職場の環境など

などがあります。

適応症候群からみるストレス反応モデル

ストレッサーにさらされた生体がその有害性に適応しようとする生化学的反応のことを「適応症候群」といいます。

セリエのストレス反応モデルの基本になっているのがこの適応症候群で、汎適応症候群(GAS:General Adaptation Syndrome)と局所的適応症候群に分けられます。

マウスを用いた実験では、上述した様々なストレッサーを与えた結果

  • 副腎皮質の肥大
  • 胸腺の萎縮
  • 胃と十二指腸の潰瘍および出血

という3つの症状が発現されることが証明されました。

副腎肥大は、副腎皮質からのコルチゾールの分泌過多により起こります。副腎皮質が働きすぎて疲弊するとコルチゾールが分泌されなくなり、エネルギーをうまく作れなくなります。

コルチゾールの影響から胸腺が萎縮してT細胞がうまく作られなくなるなど免疫力に異常をきたしてしまったり、胃酸の分泌に影響していたり、海馬を萎縮させたりもします。

このように疲れやすくなったり、免疫力が低下したり、集中力も低下してしまうためコルチゾールは、ストレスホルモンと呼ばれるようになりました。

コルチゾールの働きが過度に高い、持続的に高い状態であると

  • 血糖値の上昇・高血糖
  • 免疫力低下
  • 筋肉の合成を抑制し、分解を亢進(クッシング症候群)
  • 骨粗しょう症の原因
  • 海馬の萎縮
  • 脳細胞の減少(ニューロンの生成阻害)
  • 脳の早期老化
  • 無気力・無関心
  • アルツハイマー症の増加
  • 入眠困難などの不眠障害
  • コラーゲンの生成を阻害
  • 寿命が縮まる

などが起こります。

コルチゾールの働きが過度に低い、持続的に低い状態であると

  • 低血糖症(エネルギー不足を感じる)
  • 免疫力上昇
  • 無気力、無関心、不安(アドレナリンやノルアドレナリンの分泌が低下することから)
  • 中途覚醒・浅い睡眠などの不眠障害

などが起こります。

ストレスもコルチゾールも有り過ぎても無さ過ぎてもよくないということですね

汎適応症候群(GAS)には、

  • 警告期(ショック相・反ショック相)
  • 抵抗期
  • 疲憊期(ひはいき)

があります。

警告反応期は、ストレッサーが加えられた直後の時期ですので最初に抵抗力が低下するショック相を経て、抵抗力が高まる抗ショック相へと移行します。

警告期のショック相は、ストレッサーによるショックに適応できていない緊急反応状態のため

  • 血圧・体温・血糖値の低下
  • 血液の濃度の上昇
  • 意識の低下
  • 筋弛緩
  • 副腎皮質の縮小
  • 脊髄反射の減弱
  • 急性胃腸潰瘍の発生

などの反応が起こります。自律神経のバランスも崩れている状態です。

ショック相は、よく漫画などにある「ガーン!!」とショックを受けた時の反応ですね

警告期の反ショック相(抗ショック相)は、ショックに対する生体の適応・防衛反応が働き始めますので

  • 血圧・体温・血糖値の上昇
  • 副腎肥大(副腎皮質ホルモン分泌)
  • 胸腺リンパ組織の萎縮
  • 筋緊張の増加

などの反応により交感神経の活動が活発になりますので、過活動や過覚醒などの問題が起きることもあります。

次にストレスに耐えて適応するようになる時期「抵抗期」があります。

持続的なストレッサーとストレス耐性が拮抗している安定した時期ですが、この状態を維持するにはエネルギーが必要です。枯渇すると「疲憊期(ひはいき)」に入ります。

疲憊期では、

  • 心拍・血圧・血糖値の低下
  • 体温の低下
  • 胸腺やリンパ節の萎縮
  • 副腎皮質の機能低下
  • 衰弱
  • 身体機能の異常

などが起こり、命が危険な場合もあります。

図4 ストレス反応の3相期の変化
(ハンス・セリエ 現代社会とストレス 法政大学出版局 1988)

上図引用:文部科学省 第2章 心のケア 各論

ハンス・セリエのストレス反応モデルは現代でもストレスを理解するための基礎となっていますが、誰でも同じように反応するわけではありません。

そのため残り二つのストレス理論を知ることが必要になってきます。

ホームズとレイの「ストレス刺激モデル」


米国心理学者ホルムズ(Thomas Holmes)と医師のレイ(Rahe)は約5000人の10年間に渡る調査からライフイベントに対するストレスを点数化するスケールを発表しました。

これを「社会的再適応評価尺度 (Social Readjustment Rating Scale:S.R.R.S)」といいます。

1年間の合計点数が300点を突破した人のうち79%は翌年になんらかの心身の不調を訴え、200~299点では51%、150~199点では39%という結果がでました。

ただ日本での日本人の調査ではなく、古い調査でもありますので現代でのストレスとの違いがありますのでご注意ください

■生活上の出来事とストレス度

配偶者の死 100
離婚 73
別居 65
留置所の拘留 63
親密な家族の死亡 63
自分の病気あるいは傷害 53
結婚 50
失業 47
夫婦の和解 45
退職 45
家族の一員が健康を害する 44
妊娠 40
性の問題 39
家族に新しいメンバーが加わる 39
新しい仕事への再適応 39
経済状態の変化 38
親友の死亡 37
異なった仕事への配置換え 35
配偶者との論争の回数の変化 35
1万ドル以上の抵当か借金 31
担保物件の受戻し権喪失 30
仕事上の責任変化 29
子どもが家を離れる 29
親戚とのトラブル 29
特別な業績 28
妻が仕事を始める、あるいは中止する 26
学校が始まる 26
生活上の変化 25
習慣を改める 24
上司とのトラブル 23
仕事上の条件が変わる 20
住居が変わること 20
学校が変わること 20
レクリエーションの変化 19
教会活動の変化 19
社会活動の変化 18
1万ドル以下の抵当か借金 17
睡眠習慣の変化 16
家族が団らんする回数の変化 15
食習慣の変化 15
休暇 13
クリスマス 12
ちょっとした違反行為 11

日本でも夏目誠、村田弘によってライフイベントに対するストレス度を数値化するスケールが発表されました。

■勤労者のストレス点数のランキング

大企業に就業中の勤労者1603名(女性308名)による調査です。

ストレッサー全平均
配偶者の死838382
会社の倒産747474
親族の死737178
離婚727272
夫婦の別居676769
会社を変わる646462
自分の病気やケガ626167
多忙による心身の疲労626167
300万円以上の借金616065
仕事上のミス616065
独立・起業616161
単身赴任606060
左遷606059
家族の健康や行動の大きな変化594863
会社の立て直し(リストラ)595958
友人の死595863
会社が吸収合併される595958
収入の減少585857
人事異動585858
労働条件の大きな変化555456
配置転換545455
同僚との人間関係535257
法律的トラブル525251
300万円以下の借金515155
上司とのトラブル515150
抜てきに伴う配置転換515152
息子や娘が家を離れる505050
結婚505050
性的問題・障害494850
夫婦げんか484752
家族が増える474652
睡眠習慣の大きな変化474750
同僚とのトラブル474554
引っ越し474650
住宅ローン474650
子供の受験勉強464453
妊娠444350
顧客との人間関係444447
仕事のペース・活動の減少444543
定年退職444442
部下とのトラブル434345
仕事に打ち込む434344
住宅環境の大きな変化424245
職場の人数が減る424243
社会活動の大きな変化424143
職場のOA化424145
家族メンバーの大きな変化414044
子供が新しい学校へ変わる414045
軽度の法律違反414043
同僚の昇進・昇格404137
技術革新の進歩404041
仕事のペース、活動の増加404139
自分の昇進・昇格404041
妻(夫)が仕事を辞める403561
職場関係者に仕事の予算がつかない383838
自己の習慣の変化383742
個人的成功383740
妻(夫)が仕事をはじめる383837
食習慣の大きな変化373642
レクリエーションの減少373736
職場関係者に仕事の予算がつく353533
長期休暇353437
職場の人数が増える323232
レクリエーションの増加282730
収入の増加252523

■主婦のストレス点数のランキング

424名の主婦を対象とした調査からストレス点数を高い順にランキングしたものです。

ストレッサーストレス度
配偶者の死83
離婚75
夫の会社の倒産74
子どもの家庭内暴力73
夫が浮気する71
夫婦の別居70
自分の病気やケガ69
親族の死69
嫁・姑の葛藤67
夫がギャンブルをする66
家族の健康や行動の大きな変化64
友人の死63
多忙による心身の疲労63
法律的トラブル61
近所とのトラブル61
上司とのトラブル60
300 万以上の借金60
収入の減少59
親族とのトラブル59
夫の単身赴任58
親との同居57
労働条件の大きな変化56
転職56
話し相手がいなくなる56
睡眠パターンの大きな変化55
家族パターンの大きな変化55
夫婦げんか55
夫の定年退職55
住宅環境の変化55
引越し54
仕事を辞める54
子どもの受験勉強53
妊娠53
息子や娘が家を離れる53
PTA や自治会の役員になる53
性的問題・障害52
軽度の法律違反51
夫の転勤・配置転換51
300 万円以下の借金51
乳幼児の養育51
結婚50
子どもの成績が下がる50
住宅ローン49
子どもが新しい学校へ変わる49
教師・保母との人間関係の変化49
家族との会話の減少48
食生活における大きな変化45
体重の増加45
自己の習慣を変える43
レクリエーションの減少42
個人的な成功38
自分の昇進・昇格37
体重の減少36
長期休暇34
技術革新の進歩34
夫の昇進・昇格33
近所の人との和解32
夫婦の和解31
レクリエーションの増加31
子どもが志望校に合格30
話し相手が増える30
家族との会話の増加29
収入の増加28
子どもの成績が上がる28

ラザルスとフォルクマンの「ストレス評価モデル」


アメリカの心理学者ラザルス(Lazarus,R.S)とフォルクマン(Folkman,S)は、単にストレッサーがストレスになるといった一方向の考えだけではなく、その間に認知的評価があることに着目しました。

最初に行われる一次評価では、その刺激が自分にとって脅威であるかどうかを評価します。

  1. 無関係
  2. 無害-肯定
  3. ストレスフル

の3つに分類します。

その出来事が意味を持たない場合や得るものも失うものがないと評価するものを「無関係」、その出来事には害がなくプラスになると評価するものを「無害-肯定」といいます。

ストレスフルには、出来事に害があり何かしら失われたと評価する場合の「害-損失」、脅かされたもしくは今後も脅かされるといった「脅威」、害はあるものの利益や成長がとなもう場合の「挑戦」などの評価があります。

有害か無害か、有益か損失かを評価する一次評価ですが、個人により評価が異なります。

例えば「上司からの指摘」があった場合、人によっては「無害-肯定」や「挑戦」として扱える場合もあれば、「害ー損失」「脅威」として害悪でしかないように見える場合もあるということです。

前者は指摘されることで自分の至らないところに気づき成長できるという考え方や認知が強い傾向に多く、後者は指摘される=ダメな自分を露呈した・傷つけられたといった受け取り方が強い傾向の場合に起きることが多いと思います。

そういった自分の考え方・捉え方・信念・認知などが評価に大きく影響しているのです

二次評価では、一次評価で「ストレスフル」と評価したときに、過去の経験や周りにある資源などを考え併せて、その出来事や状況に対してどう対処すべきか判断していく段階です。

自分で考えたり、誰かに相談することによって判断を行い、自分で乗り越えていく、他者に働きかける、環境に働きかけるなど対処行動を行っていきます。

このストレスに対処(コーピング)することを「ストレス・コーピング」といいます。

選択した対処法(コーピング)を実行に移し、その結果から再評定をしたり、コーピングの再選択を行います。

コーピングには、主に問題解決を中心に置く「問題焦点型コーピング」と感情を中心に置く「情動焦点型コーピング」の2種類があります。

多くの場合、この2種類を上手く組合わせて対処していくことが必要とされます。

おわりに


セリエの「ストレス反応モデル」ではどのようなストレッサーがあって、どのように反応するものなのかが理解できます。

ホームズとレイのライフイベントの「ストレス刺激モデル」では、ストレッサーの点数化により可視化しやすくなりました。日本人での調査として「ライフイベント法とストレス度測定 夏目誠 村田弘」もあわせて紹介しました。

ラザルスとフォルクマンの「ストレス評価モデル」では、認知的評価によってストレスの種類が変化することがわかります。

どれがストレスに対して正解か?といったことではなく、この3つのモデルにより「ストレスとストレッサー」への理解が深まります。

最後に「ストレスによって身体に現れる症状」を引用して紹介します。

心理学用語では「身体化」「転換」などということもありますが、自分でも気づかないストレスが体の症状によって気づくことがあります。

図5 ストレスによって身体に現れる症状

上図引用:文部科学省 第2章 心のケア 各論

カウンセリングや心理療法に興味がある方やそれらを受けられる方にとって少しでも参考になれば幸いです。

参考文献・サイト

ハンス・セリエ ウィキペディア(Wikipedia)
文部科学省 第2章 心のケア 各論
ライフイベント法とストレス度測定 夏目誠 村田弘