知っていると役に立つ心理学として「学習性無力感」について説明していきたいと思います。

学習性無力感とは何か?


学習性無力感(英語:Learned helplessness)とは、ポジティブ心理学で有名なマーティン・セリグマンが提唱した概念で、努力を重ねても望む結果が得られない経験が続くと「何をしても無駄だ」と認知するようになり、不快な状態を乗り越えようとしたり、脱する努力を諦めてしまうことを指します。

別名として「学習性無気力」「学習性無力症」「学習性絶望感」という名前で呼ばれることがあります。

学習性無力感は、乗り越えよう、戦おうという方向に行かないばかりか、逃げたり回避しようとすることすらできなくなることも意味しています。

繰り返し失敗してしまうことによって「もう無理だ」と諦めた経験はないでしょうか?

だれでも軽いものであれば経験したことがあると思います。

自分が苦手だと思う領域の中には、このような失敗の繰り替えしと学習性無力感によって形成されたものも多くあるかもしれません。

重いものになるとやる気が出なくなり、無気力状態になってしまいます。

監禁、虐待、暴力、人格否定、いじめ、モラルハラスメント、自分の価値や尊厳が踏みにじられる経験によって大きな精神的ストレスとなり、学習性無力感に悩まされてしまいますが、繰り返し小さな挫折や失敗を繰り返しや積み重ねによっても発現します。

学習性無力感は、不快な感覚である嫌悪刺激の量に左右されるというより、コントロール不可能な体験によって学習性無力感は大きな影響を受けるとされています

※嫌悪刺激とは、嫌な不快な刺激を意味し、研究では電気ショックなどを指します。

トラウマは主に嫌悪刺激の量に左右されるといわれています

どうコントロールしてもうまくいかない経験の繰り返しが学習性無力感を形成してしまう大きな原因となります。

コントロールできると捉えることができる認知は、嫌悪刺激によるストレスを緩和するとも言い換えることができます。

次に「学習性無力感」が提唱されるきっかけとなった実験(少し倫理的に引っかかりを感じるかもしれません)を紹介したいと思います。

スティーブン・マイヤーとセリグマンの共同研究では、鍵をかけた檻に犬を閉じ込め、痛みを伴う電気ショックを繰り返し与えました。

2人はこれを「逃避不能ショック」と呼びました。

何度か電気ショックを与えた後、鍵を開けて、檻の扉を開き、逃げられる状況を作り、再び電気ショックを与えました。

それまで電気ショックを与えられていなかった犬たちはすぐさま逃げ出しましたが、電気ショックを繰り返し受けていた犬たちは、全く逃げようとせず、ただその場に横たわり、鳴きながら脱糞していました。

逃避不能の経験によるショックは、強烈な学習として認識され、無力感を感じ、あっさり諦めてしまいます。

このような学習から生まれる無力の認知と努力を諦めてしまう現象を「学習性無力感」と呼びました。

その後、猿や人間に対しても実験を行い、「うつ病」に類似した症状が発現することも明らかになりました。

このことからセリグマンは学習性無力感とうつ病の内容はほぼ同様であるとする「うつ病の無気力感モデル」を提唱しました。

現在において「うつ病」=同モデルという認識では全て説明がつくものではありませんが、うつ病などにおける「無力感」や「無気力感」を説明をする上での一つのモデルであると言えます。

学習性無力感の症状


学習性無力感の代表的な症状として

  • 乗り越えようとしない・意欲がわかない
  • 逃げようとしない・意欲がわかない
  • 回避しようとしない・意欲がわかない
  • 努力をしなくなる
  • 諦めてしまう

がありますが、それら以外に

・頑張れなくなる
・暗いトンネルに入り込んだ気分
・絶望感を感じる
・心や体の動きが悪くなる
・表情が暗くなったり、無表情が多くなる
・必要以上に自分の所為(せい)にしてしまう
・情緒不安定になる
・感情や欲求が沸かなくなる
・五月病
・抑うつ状態やうつ病
・不安障害や適応障害
・食欲低下
・免疫力の低下
・体重の減少

などがあるといわれています。

体内では、通常の時よりはるかに多くのストレスホルモンが分泌されているていることがマイヤーとセリグマンの研究で報告されています。

伝染する学習性無力感


他者がコントロールできず、失敗を繰り返している様子を観察することによって、「自分もできない、無駄だ」という認知が生まれ、努力を諦めてしまうことが起きます。

学習性無力感がモデリングされて伝染するということです。

特に自分より優れていると感じる他者がそのような状況に陥った時や大多数の人間(集団)がそのようになった時に起こりやすくなります。

しかしこのような状況によってモデリングされず、自分がなんとかしようと活力がみなぎるケースもあり、人により、認知により、個性により異なります。

空腹のカマスを透明な仕切りのある水槽に入れ、反対側に小魚を入れる実験があります。空腹のカマスは、小魚を食べようとしますが、透明な仕切りにぶつかり、繰り返していくうちに何をやっても食べられないと学習します。

それは透明な仕切りを取り払っても、小魚を食べようとしないという学習性無力感の現象として継続されますが、別のカマスを水槽に入れて小魚を食べるのを観察すると小魚を食べるようになります。

このように新たな学習や観察学習によって学習性無力感の解除や軽減が行われます

3つの障害反応


学習性無力感には、3つの障害反応があると言われています。

①自発性が低下する

自発性とは、他からの影響や強制によってではなく、自らの意図や意思によって行動することです。

学習性無力感では、自分の自発的行動が環境に対して望ましい結果が得られない、コントロールできないことから、行動の自発性そのものが低下してしまいます。

また自発性の低下から知的活動の低下が見られることも少なくありません。

②成功の学習が阻害される

成功できる場合でも成功できると思えなくなるような「自己効力感」が低下し、成功の学習が阻害されてしまいます。

学習性無力感では、このような否定的な認知が進んでしまいます。

③情動性の昂進と潰瘍

情動性の昂進(こうしん)とは、特に抑うつ状態(鬱々とした状態)などが現れ、強くなってしまいます。

身体的には、潰瘍ができるなどの症状が現れやすくなると言われています。

動物による実験では、免疫はコントロール不可能な状況になると低下するが、コントロール可能な状況では低下しないということが明らかになっています。(Laudenslager et al.,1983)

しかし人に対する実験では、コントロール可能な状況でもリンパ球の幼若化反応の低下が示された実験もあり、人による個人差があることが明らかになりました。

※リンパ球の幼若化反応とは、免疫システムの働きを示す指標のことです。

改訂学習性無力感理論


セリグマンの学習性無力感理論では「学習性無力感」のメカニズムは以下のように考えられています。

コントロール不能状況

悲観的な結果の予測

無気力や抑うつ、絶望感

マーティン・セリグマンの「学習性無力感」をエイブラムソンら(Abramson et al, 1978)が「改訂学習性無力感理論(Reformulated learned helplessness theory)」として改訂し、発表しました。

コントロール不能状況をどのように捉えて解釈するかという認知的評価が不足していると指摘し、以下のようなメカニズムの説明を行いました。

コントロール不能状況

認知的評価

原因帰属

結果の予期

問題・症状

対処可能か?不可能か?の影響


同じストレスを受けても「コントロールして対処が可能か?」「不可能か?」によって学習性無力感に陥るかどうかに大きな影響を与えます。

コントロール可能な場合、ストレスは緩和され、学習性無力感の影響を受けづらくなります。

コントロール不可能な場合は、ストレスを強く感じ、学習性無力感に苛まれてしまいます。

ここで大切なのが「コントロールできない」、「対処できない」と思っている状況でも考え方や行動次第によってコントロールできたり対処できたりするものもあるということです。

そういった状況に対して重要な役割を果たしているのが「自己効力感」です。

自己効力感と学習性無力感


自己効力感(英語:self-efficacy)とは、自分がある状況において必要な行動をうまく実行できることを信じ、自分の可能性を認知していることを指します。

遺伝的な要素もありますが、生まれてから現在までの自己実現や達成グセ、周囲からの評価や教育等によって自己効力感が高い人もいれば、低い人もいます。

自己効力感が高い人は、コントロール感を実際よりも高く評価し、学習性無力感を感じにくく、自己効力感が低い人は、コントロール感を実際よりも低く評価し、学習性無力感を感じやすくなってしまうことが明らかになりました。(論文:学習性無力感の生起事態における特性的自己効力感と免疫機能の変動)

自尊心の維持や防衛がもたらすもの


自尊心(英語:self-esteem)とは、自分を尊ぶ(とうとぶ)心と書くように自分のありのままの思想や言動に自信を持ち、他者に指摘されてもそれらを大切にすることを指します。

要するに自分自身を尊重する精神です。

人の意見ばかりを重要視してしまうと自尊心は低下し、自分の思想や言動、自信は脆弱性(もろさ)を増してしまいます。

逆に行き過ぎた自尊心は、他者の意見を排除し、自分が正しいと偏った見方をしてしまうことに繋がりかねません。(しかしこれが功を奏すこともあります)

ある程度の自分への尊重と他者への理解、指摘された箇所の検討、そこからの改善、謙虚さなどは大人になればなるほど必要になってくるものです。

研究などから「抑うつの者」は「非抑うつの者」よりも自尊心の防衛や維持する動機付けが弱いと言われています。

動機付けは、目標に向かわせる心理的過程を意味し、モチベーションをうまく上げていく動機をうまく付けられるかどうかを表します。

「自尊心の防衛や維持する動機付けが弱い」とは、自分を守る力や大切にする力、自分のモチベーションを上げる力が弱いということです。

そういったことにより「自分はダメだ」「自分はできない」という認知が増え、できる可能性が見えないことなどにより失敗が増え、自己効力感が失われ、学習性無力感を感じてしまう機会を増やしてしまいます。

自尊心の維持や防衛は、自己効力感とともに学習性無力感を遠ざける重要なファクターであると言えます。

うつ、ひきこもり、不登校、ニート


職場や学校などから逃避・回避して自宅にひきこもるケースは、安全性が確保されていますが、自宅にいることも苦しみでもあり、そこからも逃げることや回避ができないといった学習性無力感の典型的な現れかもしれません。

頑張ってもうまくいかないことを繰り返し体験し、無力感を感じ、自己効力感が低下し、自尊心が傷つき、学習性無力感を感じたゆえに「うつ病」になったり、「ひきこもり状態」になったり、「不登校」になったり、「ニート」になったりすることがあります。

動物も含めてこの学習性無力感を感じるとこのような状態になることが明らかになっています。

そのような状態にいらっしゃる方には、この「システムの所為(せい)」であることも認識することが大切かもしれません。

不運にも他の人が体験しないような傷つきを繰り返し経験してしまったりすることもあるでしょう。

このように責任の所在を正しく見ながら、自分のこころに向き合っていくほうが得策です。

マイヤーとセリグマンはどうすれば学習性無力感に陥った実験の犬たちがその状況からどのように抜け出せるかを調べた結果、無理にでも外に出ることを身体的に学習することが良好な結果をもたらすことを発見しました

動物と人間を一緒に考えることはできませんが、誰かと話さなくても、誰かに会わなくてもいいので外に出るという身体的な経験が学習性無力症の軽減や解除に貢献してくれることがあるのかもしれません。

学習性無力感に陥りやすい要素


前述したように「自尊心の維持・防衛する力」や「自己効力感」は学習性無力感に影響を及ぼす要素として重要なものです。

そのほかにも関連する要素をここでは紹介していきます。

自分の尊厳や価値を虐げられる環境にいる

自分のいる環境が自分にとって尊厳や価値を虐げられるような場所であれば、学習性無力感に陥るリスクは高くなります。

自分だけで乗り越えようとせず、誰かに相談したり、無料の公的機関に相談したり、カウンセリングなどを利用することが推奨されます。

悲観主義(ネガティブ思考)

ネガティブや悲観的に考えたり、捉えることによりコントロールすることができないと思い込んでしまったり、「どうせ実現できない」と可能性を狭めてしまいます。

諦めやすさ

物事がうまくいかないときにすぐに諦める人もいれば、なかなか諦めない人もいます。

そういった諦めやすさによって学習性無力感を強めてしまうことがあります。

その諦めやすさと自分を責めてしまうことが繋がりやすい人はさらにそれを強化しかねません。

成功体験が少ない

過去の人生において成功体験が少ないケースも自己効力感がうまく養われず、成功する機会を減らしてしまうことにつながってしまいます。

自分がうまくできるようにサポートがなされなかったり、うまくいく方法を学べなくて諦めやすさを学習してしまうケースもあります。

また成功体験のレベル設定が高いことにより、成功が少なくカウントされてしまうこともあります。

頑固さと固執

自分のやり方に固執してしまうと別の方法や手段を選ぶことができません。自分のやり方に固執し、それが通用しない場合、同じようにミスや失敗をしてしまう可能性が高くなります。

そういった頑固さや固執が学習性無力症の引き金になることもあります。

完璧主義

完璧にできないと気が済まないといった完璧主義により成功体験が非常に少なくなり、自己効力感も低い状態が維持されやすくなります。

繰り返し否定される

特に親や先生、職場の上司などから強く人格否定をされたり、失敗を過度に責められたり、「ダメ人間」扱いを受けることにより、トラウマになったり、学習性無力感に陥ったりしてしまうことがあります。

コーピング能力

コーピング能力とは、問題が起きた時の対処能力を意味しています。

人に相談したり、出来ている人をモデリングしたり、今ある問題をどのように乗り越えるかを柔軟に対処する力です。

このような能力が低下している場合、単純な解決策しか持ち合わせず、自分の力だけで乗り越えようとします。

あまのじゃく

あまのじゃくは個性でもありますが、正解があっても正解をあえて避けて他の新たな方法や自分が開発した方法にこだわることがあります。

それでうまくいけばいいのですが、うまくいかなくても辞められず失敗を続けてしまうことも学習性無力感に陥りやすくさせてしまいます。

解釈と認知的評価

エイブラムソンらの「改訂学習性無力感理論」では認知的評価の重要性が提唱されました。

学習性無気力に陥りやすい解釈や認知がある場合、その認知を修正・変容していくことによって学習性無力感の改善を進め、陥るリスクを軽減させます。

おわりに


ここまで「学習性無力感」について説明していきましたが、いかがだったでしょうか?

学習性無力感を提唱したセリグマンはその後「ポジティブ心理学」という新たな分野を開拓しました。

研究では、楽観主義やポジティブマインドが「学習性無力感」を防いだり、乗り越えたりするのに効果があることがわかってきました。

負の学習をするだけでなく、正の学習も行うことができるのが人間です。

学習性無力感に苛まれる期間があってもそれを乗り越え、「良き学び」として新たな学習を進め、自己成長につなげていくことができます。

学習性無力感という生体反応があることを学び、「今はそう思ってしまう時期だ!!」と認識できる認知力を持っておくことが大事なのかもしれません。

■参考文献
身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法 ヴェッセル・ヴァン・デア・コーク著
人間の学習性無力感に関する研究 鎌原雅彦 亀谷秀樹 樋口一辰
学習性無力感の生起事態における特性的自己効力感と免疫機能の変動 久野真 由美 矢澤久史 大平英樹