心理学には「心の理論」というものがあり、その能力を推し量るために「サリーとアン課題」などの課題を通して獲得しているかどうかを調べることができます。

この記事では、それらに関する内容を含めて解説していきたいと思います。

心の理論とは何か?


心の理論(英語:Theory of mind)とは、自分と他人には「心」があると理解し、それぞれ異なる独立した心の状態があることを推測できる能力があるとする理論です。

「心の理論」という名称だと、心や心理全体の仕組みに関しての理論だと思ってしまいますが、上記のとおり心の限定的な能力に関する理論です。

自分の心と他人の心は一緒ではなく、それぞれ違う心をもって行動を行っていることが理解でき、その他人の目的や行動、心を推測できるかどうかによって測ることができます。

この理論では、私たちの行動には何らかの欲求や意図、目的、信念などが背景にあるというメンタリズム的な発想から生まれました。※メンタリズムは心によって行動が起きるという考えであり、その反対にはABAなど行動主義的な考え方があります。

1978年に霊長類研究者のプレマックとウッドルフの論文「チンパンジーは心の理論を持つのか?」において提起され、のちに発達心理学において研究が行われていきました。

相手の心を理解し、どのように行動するか予測する能力である「心の理論」を持っているかを調べるには、「誤信念」を理解できるかどうかが重要であると哲学者のダニエル・デネットと提起しました。

誤信念とは何か?

誤信念とは、他人が自分とは違った信念などの心を持つことです。

自分の情報や解釈と他人のそれとでは異なることがあり、感じ方が違ったりすることがあるということがわかるかどうかということです。

もう少しわかりやく言うと、相手の立場や気持ちになって相手の心や行動がわかるかどうかという能力のことです。

この「誤信念」を理解できているかどうかを調べる課題がハインツ・ウィマーとジョセフ・パーナーによって提案された「誤信念課題」です。

一般的な心の理論の発達がある場合には4歳~5歳ころになると正解できるようになるとされています。(3~4歳では難しく、4~7歳にかけて正解率が上昇するというデータもあります。)

4歳以降でも自閉症スペクトラムなどをお持ちのお子さんはなかなか正解できないことも知られています。(ASD児は言語精神年齢9歳2ヶ月で50%の一次信念課題を通過できる。)

ASD児は嘘(ホワイトライ)やジョーク、皮肉、失言に関する理解が難しいとも言われています。

そのため自閉症の中核障害は「心の理論の欠如(発達の遅れ)」があるのではないかという考え方も提起されました。

最近の研究では、文化や養育環境などの影響もあり、欧米の子供よりも日本の子供の方が誤信念への理解が遅く、心の理論の獲得時期も遅いと言われています。

2001年にはウェルマンによって行われた178論文のメタ分析によると、心の理論は生まれながらに備わっている生得説は支持されず、4歳頃の変化・発達によって獲得する「概念変化説」が支持されて、いまに至っています。

6つの誤信念課題


有名なサリーとアンの課題を含め6つの課題を紹介します。

※これら以外に社会的失言課題などもあります。

サリーとアンの課題

まずはこの文章を読み、質問に答えてください。

①サリーとアンが部屋で一緒に遊んでいます。
②サリーはボールをかごの中に入れて部屋を出て行きます。
③サリーがいない間にアンがボールを別の箱の中に移します。
④サリーが部屋に戻ってきます。

《問題》サリーはボールを取り出そうとして最初にどこを探しますか?

あなたの答えはどうでしたでしょうか?

サリーはアンが別の箱に移すのを知らないので「かごを探す」が正解です。

しかし心の理論の発達が遅れている場合、「箱の中」と答えてしまいます。

※ボールではなく、ビー玉という表現を使う場合もあります。

マクシ課題

この文章を読み、質問に答えてください。

①マクシ君はお母さんの買い物袋をあける手伝いをしています。
②そしてチョコレートを緑の棚に入れました。
③マクシ君が遊びに行ったあと、お母さんはそのチョコレートを青の棚に移しました。
④お母さんが卵を買いに出て行ったあとマクシ君がお家に帰ってきました。

《問題》マクシ君はチョコレートがどこにあると思っていますか?

あなたの答えはどうでしたでしょうか?

正解は「緑の棚」で、心の理論の発達が遅れている場合、「青の棚」と答えてしまいます。

スマーティ課題

この文章を読み、質問に答えてください。

①前もって被験者から見えない所でお菓子の箱の中に鉛筆を入れておきます。
②お菓子の箱を被験者に見せて何が入っているか質問します。
③お菓子の箱を開けてみると中には鉛筆が入っています。
④お菓子の箱を閉じます。

《問題》この被験者に「この箱をこの場にいないAさんに見せたら、何が入っていると言うと思うか?」と質問するとなんと答えるでしょうか?

あなたの答えはどうでしたでしょうか?

この場にいないAさんはお菓子の箱の中に鉛筆が入っていることは知らない情報なので、正解は「お菓子」となり、心の理論の発達が遅れている場合は、「鉛筆」と答えます。

アイスクリーム課題

まずはこの文章を読み、質問に答えてください。

①ジョンとメアリーがいる公園にアイスクリーム屋さんの車が来ました。
②メアリーはアイスクリームを買いたかったが、お金を持っていませんでした。
③今日の午後も同じ公園で売っていることを知り、お金を取りに家に戻りました。
④その後、アイスクリーム屋さんは教会に行くとジョンに伝えて去りました。
⑤またアイスクリーム屋さんはメアリーの家に行き、教会に行くことをメアリーに伝えました。
⑥家に戻ったジョンは宿題のことがあってメアリーの家に行ったが、メアリーはすでにアイスクリームを買いに出かけていた。
⑦ジョンはメアリーを追いかけていった。

《問題》ジョンはメアリーがどこに行ってると思い、どこに行きましたか?

あなたの答えはどうでしたでしょうか?

ジョンはメアリーがアイスクリーム屋さんに教会へいくことを伝えに行ったことを知らないので「公園」が正解です。

しかし心の理論の発達が遅れている場合、「教会」と答えてしまいます。

誕生日課題

まずはこの文章を読み、質問に答えてください。

①ピーターは誕生日に子犬が欲しいことを知っているお母さんはピーターに内緒で子犬を買い、驚かそうと地下室で隠しておきました。
②ピーターには誕生日プレゼントを買ったが、おもちゃを買ったと伝えました。
③そんなときに偶然、ピーターは地下室の子犬を見つけてしまいます。
④この家族にはおばあちゃんもいます。

《問題》おばあちゃんはお母さんに「ピーターは誕生日プレゼントの中身はなんだと思ってる?」と聞きました。お母さんはどのように答えたでしょうか?

あなたの答えはどうでしたでしょうか?

ピーターは子犬が誕生日プレゼントだとまだ明かされていないので「おもちゃ」が正解です。

しかし心の理論の発達が遅れている場合、「子犬」と答えてしまいます。

妨害・欺き課題

まずはこの文章を読み、質問に答えてください。

①鍵のかかる箱の中に「お菓子」が入っています。
②今から「友達」と「泥棒」が来ます。
③友達は助けてあげて、泥棒は助けないようにしてください。

《妨害の問題》友達が来た時は鍵をかける?かけない?泥棒が来た時は鍵をかける?かけない?

《欺き(あざむき)の問題》箱に鍵が掛かっている設定の上で友達が来た時に「この箱開けられる?」と聞かれました、どう答える?泥棒が来た時に「この箱を開けられる?」と聞かれました、どう答える?

あなたの答えはどうでしたでしょうか?

心の理論の獲得があれば、妨害問題では友達の時には鍵を開けて、泥棒の時には鍵をかけます。

欺き問題では、友達には開けられることを伝え、泥棒の時には開けられないと答えます。

非言語誤信念課題


上記6つの誤信念課題は言葉の理解ができなければ、その意味を汲み取ることができません。

そのため「非言語」の誤信念課題を用いることも考えられました。

日本人の子供は欧米の子供よりも心の理論の発達に遅れがあると記述しましたが、非言語誤信念課題を行うとそれほど差がなかったため、言葉の理解による影響が大きいことが要因であるとされました。

非言語誤信念課題には、

①馴化試行
②信念誘導試行
③テスト試行

があります。

上記の5つの課題をイラスト化したり、演劇を取り入れて視覚的に行う方法もあります。

詳しい手順は、幼児期の「心の理論」研究の展望(瀬野由衣)の論文に詳しく記述されています。

嘘をつけることと心の理論


嘘をつくためには、他人の心の状態を理解する必要があります。

他人の心の理解を必要としない「ものを隠す」といったことは2歳くらいまでにできるが、完全に相手をあざむくような嘘を付けるようになるには4歳以降になります。

真実ではないことを真実だと思い込ませるには、心の理論の獲得が必要であると考えられています。

サリーが考えていることは「一次的信念」、アンの考えを知ってサリーはこう考えたという複雑な構造を「二次的信念」といい、二次的信念の理解は6歳~9歳にかけて獲得されると言われています。

一般的には、第一次信念課題は4歳~5歳で通過(4歳で50%通過)でき、第二次信念課題では6歳~7歳で通過できるとされています。 

心の理論の獲得に必要なもの

心の理論を獲得するためには、

  • 表情を読み取る力
  • 状況と表情の理解と関係性
  • 欲求と感情との関係性の理解
  • 信念と感情との関係性の理解
  • 自分と他人との視点の違い
  • 視点の違いの複雑な理解
  • 見ることと知ることの違い
  • 他人の知識に基づく行動の予測
  • 事実と異なる信念の理解

が必要であるとHowlinはマインドリーディングトレーニング課題を通して伝えています。

日常の生活で少しこのことを注目しながら、適切に質問していくことで能力の獲得に役立てることもできるとも思います。

ただその児童のできるところからスモールステップで、その子の特性に合わせて行う方が良好な結果を生みます。

記事監修
公認心理師 白石

「皆様のお役に立ちますように」

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