心理学には様々な心理療法がありますが、その多くがフロイトの創始した「精神分析」を学び、それぞれに派生し、新たな理論と技法を生み出していったとされています。
その大本である精神分析学やその技法はその後も発展し、「力動的精神療法(精神分析的心理療法)」として今に生かされています。
精神分析の世界では様々な学派や見解がありますが、アメリカの精神分析界の第一人者のグレン・ギャバード氏の見解を中心にして書いていきたいと思います。
もくじ
力動的精神療法とは何か?
力動的精神療法(英語:Psychodynamic psychotherapy)とは、力動的心理療法や力動的アプローチ(精神分析的心理療法)とも呼ばれ、フロイトが創始した精神分析の理論に基づき発展してきた心理療法です。
■力動(りきどう)/精神力動
力動(りきどう)とは、精神力動とも呼ばれ、誰もが持っている形を変えることができる心のエネルギー(熱量)のことです。例えばフラストレーションが溜まって時間が経っても無くならなかったが、直接本人にその想いを伝えるとスッキリしてその熱量が消えた、といったようにエネルギーは形を変えることができると考えます。
フロイトの精神分析的精神療法(以下精神分析療法)では、特に無意識を重要視し、伝統的には寝椅子に患者が横たわり、心に浮かんだことを自由に話していく自由連想法という技法を用いてきました。
精神分析療法には、
◎過去の他者との関係性を無意識的にセラピストに向ける「転移」やその逆の「逆転移」
◎自分を守るための心のメカニズムである「防衛機制(適応機制)」
◎クライエントの心理を分析し、説明する「解釈」
◎確信に至るまで繰り返し深化させる「ワークスルー」
◎セラピストの「中立的態度」とバランスの良い共感、絆と合意をもとにした「作業同盟」
など今でも用いられる技法や理論が数多くあり、それらが発展して「力動的精神療法」などに活かされています。
※フロイトの人生や精神分析の原点について知りたい方はこちらへ《ジークムント・フロイトと「無意識」「自由連想法」「自我・エス・超自我」》
現在ではこの療法の名前が複雑になっていますが、
- 週四回以上の伝統的な寝椅子に横たわりながら行うものを「精神分析」
- それより低い頻度で寝椅子を使わないものを「力動的精神療法(精神分析的精神療法)」
と専門的には分けて呼んでいるようです。
では次に力動的精神療法の基礎となる原則を紹介します。
力動的精神療法の基本原則
①精神生活の大部分が無意識である
②成人期は遺伝的要因と幼少期の経験によって決定される
③クライエントのセラピストへの転移が主たる理解につながる
④セラピストの逆転移はクライエントが他者に引き起こすものへの理解につながる
⑤治療プロセスにおけるクライエントの抵抗が治療の主な焦点である
⑥症候や行動を決定するのは複合的な無意識的力動である
⑦セラピストはクライエントが真っ当でかけがえのない存在であるという感覚に到達するべく支援する
という7つの基本原則があり、以下のような目標や目的に向かっていきます。
力動的精神療法の目標や目的
- 患者およびクライエントの主訴の改善・解決
- 無意識的葛藤の理解と解決
- 養育者や幼少期での関係性による問題の改善・解決
- 自分が何者であるか?真実の探求
- 転移に焦点を当てて理解と解決
- 適応的な自分をみつける能力の向上
- 機能不全になっている重要な信念と直面化
- 自分の内面が変化させることで人との関係性を変化させる
- 意味を見出す
- メンタライゼーション(自他の内的世界への理解)の改善・向上
- セラピストとクライエントの関係の中で過去の体験を修正させる体験「修正情動体験」を通して新たな体験を行う
※メンタライゼーションとは、自分や他人の感情や精神に注意を向けたり、考える能力のことです。心で心の事を思うという「Holding mind in mind」と表現されています。
この原則から目標や目的に向かうために以下のような技法の特徴を用います。
力動的精神療法の技法の特徴
①情動と情緒表出への焦点化
②回避したがるものを探索する
③反復するテーマやパターンを同定する
④過去の体験について話し合う
⑤対人関係への焦点化
⑥治療関係への焦点化
⑦願望や夢、空想の探索
などです。
力動的精神療法のエビデンスと効果
グレン・ギャバード氏は「患者がドアの前に列をなしているので精神分析家や治療者は長いことぬるま湯に浸かっていた」と言っています。
長年にわたることの多い心理療法のため費用も時間もかかり、ひとつの疾患や障害に限定された研究では本来のものとは別物になってしまう難しさもあります。
その一方で認知行動療法(CBT)などでは多くの研究がなされ(行い易い)、科学的根拠であるエビデンスを数多く得て、エビデンスが最も高い(実際には多い)心理療法として認知されていきます。
しかし近年、精神分析や精神力動的心理療法も相応の研究によりエビデンスが増えてきており、CBTとは有意差に差がなかったものやC群および境界性パーソナリティ障害などでは有意性が高いことも知られていきました。
実際に効果的であると挙げられているものには、
- うつ病(大うつ病)
- 外傷後ストレス障害
- 不安症
- パーソナリティ障害
- 摂食障害
- 身体表現性疼痛障害
- 慢性機能消化不良
- 社会恐怖
などがあります。
心理療法にはそれぞれ特徴があり、技法も異なるため、ある程度のクライエントの好みや興味の方向性といった影響も受けます。
個人的な感想としては、自分はどんな人間なのだろうか?人生にどのような意味があるのだろうか?といった哲学的な探求をしたい方、問題の原因を過去とのつながりから見出したい方にとって好みの心理療法になるように思います。
またこの力動的精神療法で長年研究されてきた「転移/逆転移」「抵抗や回避、防衛機制」などへの考え方やアプローチは学派を超えてでも学ぶべきもののようにも思います。
おわりに
力動的精神療法(精神分析的精神療法)について書いていきました。
精神分析や力動的精神療法(精神分析的精神療法)に関係する記事はこちらへ書いておりますのでご参照ください。
フランソワーズ・ドルト「児童の精神分析と無意識への理解」
ジークムント・フロイトと「無意識」「自由連想法」「自我・エス・超自我」
メラニー・クラインと「生の衝動と死の衝動の葛藤」「対象関係論」
アンナ・フロイトと「自我心理学」「自我の防衛機制」
「防衛機制(適応機制)」知っていると役に立つ心理学
ドナルド・ウィニコットと「攻撃性と発達」「憎しみへの寛容性」「母性的没頭とほどよい母親」「独りでいられる能力と移行」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
精神力動的精神療法 グレン・O・ギャバード著
精神力動的精神医学 第5版―その臨床実践 グレン・O・ギャバード著
記事監修
公認心理師 白石
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