過去の心理学者・臨床家・研究者の人物像や提唱された内容から今に学べることは多くあります。

ここではメラニー・クラインと「生の衝動と死の衝動の葛藤」「対象関係論」について書いていきたいと思います。

メラニー・クラインについて


メラニー・クライン(Melanie Klein)

メラニー・クライン(Melanie Klein)は1882年オーストリアの医師の家庭の4人兄弟のひとりとして生まれました。

両親は離婚しましたが、もともと冷淡で愛情が薄かったようです。

17歳の時に産業科学者であったアルトゥール・クラインと婚約し、医学の研究を断念します。

1910年ジークムント・フロイトの著作から感銘を受け、精神分析家への道を目指します。その頃のクラインはうつ病に苦しめられ、死に取り憑かれていたと語っています。

クラインは、最愛の長姉が4歳の時に亡くなり、長兄が自殺で亡くなり、自分の息子は1933年に山登りで命を落としている不幸を経験しています。

クライン自身は特に形式的な資格を取得してはいなかったようですが、精神分析の領域で著しい影響を与える存在となり、児童に関する著作や精神分析、遊戯療法などの開発など功績を残しております。

主著には、

1932年「児童の精神分析」
1935年「抑うつ状態の心因論への寄与」
1955年「羨望と感謝」
1961年「児童分析の記録」

などがあります。

「フロイトは大人のこころに幼児を発見したが、クラインは子どものこころに幼児を発見した」という言葉があるほど子供の精神分析の発展に務められました。

生の衝動と死の衝動の葛藤


1818年ごろ、ドイツの哲学者アルトゥール・ショーペンハウアーは「実存は生きる意志によって駆り立てられているが、この衝動は同等の強さを持った死の衝動が常に対峙する」といい、1910年ごろヴィルヘルム・シュテーケルは「性衝動の社会的抑圧が死の本能の成長と並行して進む」と語り、1932年ごろフロイトが「充足を求める最も基本的な衝動は実際、死への衝動だ」と主張しました。

心の中で対立し合う諸力は心理学者や作家、科学者に関心を抱かせ、一方で困惑させていました。

その諸力の中で最も強力とされるのが「生」と「死」の本能的衝動です。

フロイトによれば、自分の死の衝動に滅ぼされないように利己的な本能であるリビドーを用いて、死の本能と対抗し、死の本能を他の対象に向けさせる必要があると言っていました。

クラインはこれを拡張して発展させ、死の本能を外部に向けてもこの衝動によって破壊されるかもしれないという危機を感じていくことになると主張します。

成長と創造を駆り立てる「生の衝動」には同等に強力な破壊と分裂を駆り立てる「死の衝動」があり、絶えず心的葛藤を生み、その争いは生涯続くと考えました。

どのようにしてもこのような原始的な衝動を捨てることはできず、いかにこの葛藤に対して「寛容」になれるかどうかが重要であるというのがクラインの大切な主張です。

今の私達にとっても破壊的・攻撃的な衝動を持っていることやその葛藤に「寛容」になることで落ち着いたり、豊かになるものが多いかもしれませんね。

対象関係論


対象関係論とは、クラインから始まったとされる精神分析のひとつの理論で、フロイトの無意識やリビドーの抑圧とは異なり、対象関係が問題の中枢であると考え、自分以外の存在との関係性やそのズレなどをみつけて治療していきます。

発達の初期に母親の乳房が対象になると考え、自分を満たす良い乳房とそうではない悪い乳房の両面のイメージを持ちます。

良い対象には自分の良い部分が投影され、悪い対象には自分の攻撃衝動が投影され、乳児は2つの対象と感情を同時に持ち、矛盾を抱えます。

その矛盾に対して、

・妄想–分裂ポジション(悪い対象が良い対象を上回り、原始的防衛機制を用いる状態)
・抑うつポジション(攻撃衝動を抱くことに対する罪悪感による状態)

という2つのポジションを行き来します。

この行き来する葛藤に耐えながら対象との関係が安定し、良い対象が上回ると統合が進んでいきます。

そして統合された結果、安定的な関係性が維持され、多少のことではその関係性が崩れないような状態「対象恒常性」となり、母子の分離が可能となります。

逆に言えば、良い印象や愛情を受けることができないと対象の統合ができず、分裂したままとなり、これが境界性人格構造(BPO)の原因になると考えました。

その後、マーラーの「分離個体化理論」、ウィニコットの理論、ビオンの「コンティナー/コンテインド理論」などによりクラインから始まった対象関係論は発展していきます。

いろいろな子育て理論が世の中にはありますが、この「対象恒常性」は非常に重要視されるべきものだと思います。

参考文献

心理学大図鑑 キャサリン・コーリンほか

記事監修
公認心理師 白石

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