知っていると役に立つ心理学として「ストレス・レジリエンス」について説明していきます。

ストレスとは


ストレス理論の基礎になっているのが生理学者ハンス・セリエ(英語:Hans Selye)の「ストレス反応モデル」です。

ストレス(英語:stress)という言葉自体は、物質に力が加えられた時に生じる歪みや反発力を意味する物理学用語に由来しています。

ストレスとは、「外部環境からの刺激によって起こる歪みに対する非特異的反応」であり、ストレッサーとは、「ストレスを引き起こす外部環境からの刺激」であると定義しました。

要するにストレスは、ストレッサーの刺激によって起こる歪みの反応と言えます。

例えば、「会社の不条理な判断でイライラした」といったケースの場合、「会社の不条理な判断」がストレッサー、「イライラした」がストレス反応ということになります。

ストレッサーには、

  1. 物理的ストレッサー:猛暑、寒冷、騒音、光など
  2. 化学的ストレッサー:タバコ、有害物質、排気ガス、アルコール、大気汚染、化学物質など
  3. 生物学的ストレッサー:細菌、ウイルス、真菌、花粉など
  4. 精神的ストレッサー:怒り、恐れ、不安、憎しみ、悲しみなど
  5. 社会的ストレッサー:家庭、学校、職場の環境など

などがあります。

レジリエンスとは


レジリエンス(英語:resilience)とは、ストレスなどの外力による歪みを跳ね返す力や正常な平衡状態を維持することができる能力、回復力といった意味で一般的に用いられます。

心理学的には以下のようにさまざまな定義がされています。

最近のレジリエンス研究の動向と課題 齊藤和貴・岡安孝弘

レジリエンスは、弱いという「脆弱性(英語:vulnerability)」の反対の概念で「自発的治癒力」という意味もあります。

レジリエンスがあるからこそ、心理的ホメオスタシス(psychological homeostasis)としてストレッサーに曝露されても心理的な健康状態を維持することができます。

ですのでストレス・レジリエンスとは、

  • ストレスに対する「抵抗力」
  • ストレスに対する「耐久力」
  • ストレスに対する「復元力」
  • ストレスに対する「回復力」

といった内容を含みます。

レジリエンスを構成するものとして

  • 自分の人格を大切にする「自尊心」
  • 気を楽に持つ「楽観力」
  • 落ち着きを保つ「感情調節力」
  • 理性的にコントロールする「衝動調節力」
  • 原因を理解する「原因分析力」
  • 共感する「シンパシーとエンパシー」
  • 他者と「繋がる力」
  • 自分は実現できると思える「自己効力感」
  • 働きかける能力の「リーチアウト力」

などの能力が大切とされています。

このようなレジリエンス能力を高めることによって

  • ストレスに強くなる
  • ストレスの処理能力が向上する
  • ストレスによるダメージの回復

などが期待できます。

メカニズムから考えるレジリエンス


ストレスを感じるメカニズムとして以下のような流れが基本としてあります。

ストレッサー

抵抗性(耐久性)・脆弱性・認知的評価

ストレス反応

耐久性・対処能力・回復力

変化したストレス反応もしくは消失

まずはストレッサーに対する「抵抗性(耐久性)」と「脆弱性(ぜいじゃくせい)」がどれほどあるかによって、その衝撃であるストレスの大きさが異なります

※脆弱性とは、弱さや脆さ(もろさ)といったこころの側面を意味します。

「抵抗性(耐久性)」「脆弱性」は遺伝的影響を受けますが、その後の環境や成長によって変容していきます

それらを大きくも小さくもするのが、「認知的評価」になります。

その抵抗性(耐久性)・脆弱性と認知的評価のフィルターを通って「ストレス反応」が起こります。

精神的なストレス症状もあれば、身体的ストレス症状もあります。

ストレスが判明した後どのように対処するか?どのように回復するか?は当人次第であり、そのストレスコーピングは千差万別です。

またこの回復力は意識的な回復力とは別に、無意識的回復力があります。※この無意識的回復力も遺伝的影響を受けますが、その後の環境や成長によって変容していきます。

ストレスに対して強くなる耐性や回復力を持つには、

  • 抵抗性や耐久性のレジリエンスを高める
  • 認知的評価の修正や成長
  • 脆弱性の克服
  • 対処能力の多様性を持つ
  • 対処する力自体を育てる
  • ストレスから回復するレジリエンスを高める

といったことが大切になります。

上記の「5つの要素」に対するコーピング能力(対処能力)を高めることによってストレスを感じにくくなったり、ストレスを跳ね返す力が備わったり、回復が早くなったりするということです。

自尊心とレジリエンス


自尊心(英語:self-esteem)とは、自分を尊重し、大切にする肯定的な態度のことを指します。

小塩らの研究では、自尊心が高い者は、自尊心が低い者よりもレジリエンスが高いことが明らかになっています。

自分を尊重し、大切にすることはストレスによる抵抗力や回復力に重要な役割を果たしてくれるということです。

しかし自尊心はプライドとも関係が深く、過剰な自尊心によってストレスを多く感じ、レジリエンスを発揮できないこともあります。

自尊心の「欠如」や「過剰」を引き起こしている認知や思い込みにアプローチを行うことにより適切な自尊心へと回帰することができます。

楽観力


楽観力とは、ポジティブに考える思考であったり、楽観的に捉える解釈を含む能力です。

楽観的に捉えたり、楽観的に未来を描く能力は、ストレスの負荷を和らげ、可能性を引き上げていきます。

これは抵抗や耐久といった反発性を用いないレジリエンス能力になります。

しかし過度な楽観視は、問題を解決できないまま放置したり、問題を大きくしてしまうこともあるので注意が必要です。

感情調節力


自分の内から生まれた感情に対してどのように扱うかによってレジリエンスも変化します。

感情に過度に抵抗することによって強い葛藤が生まれたり、強い衝動になることがあります。

感情は多くの場合、本人の「受け入れ」に影響を受けます。

例えば、「イライラした」としましょう。

「イライラしている自分がダメだ」「イライラしていることは悪いことだ」という認知を持っている場合、その「イライラ+許容できないストレス=より大きな感情」となって感情を感じることになりかねません。

逆に「イライラすることもある」「イライラするのもたまにはいいだろう」という認知である場合は、イライラの感情のみ感じることになります。この場合、抵抗や葛藤がないため前者よりもイライラが収まりやすい傾向が有ります。

そのような受け入れや受け入れ難くなっている認知や思い込みにアプローチしていくことによりレジリエンスが高められます。

また感情を消化する力やコントロールする力、感情を穏やかに鎮める力、昇華していく力も「感情調節力」を高めます

※昇華とは、好ましくない心的情動や欲求を好ましいものへと変化させることを指します。

そういった感情調整力により「落ち着いた状態」をつくりやすくなります。

衝動調節力


衝動調節力とは、自分の衝動や欲求をコントロールして理性的に判断する能力です。

衝動調整力は、衝動や欲求を

  • 抑える
  • 諦める
  • 悪影響を及ぼさないように発散する
  • 自分の中でコントロールする
  • 昇華する

といった能力に応じます。

衝動調整は感情調整と密接につながっています。

原因分析力


原因を分析する力によってレジリエンスは高められます。

  • 何がその原因か?
  • 何がその要因か?
  • 何がその誘因か?

といった因子を明らかにした上で

  • 何をすればいいか?
  • どのように改善すればいいか?
  • その上で何に気をつければいいか?

を考え、実行に移していくことです。

※「原因」はその問題の大元になったもの、「要因」はその問題を起こした要素、「誘因」はその問題を誘導した因子、という意味です。

共感性


シンパシー(英語:sympathy)とは、思いやりや同情、共感などを意味する言葉で相手を心配して思いやる気持ちを表します。

エンパシー(英語empathy)は、感情移入のように、他人が抱いている感情や思いを自分のものとして感じることを意味しています。

双方ともに「共感」に関するもので、シンパシー能力、エンパス能力といったりします。

こういったシンパシーやエンパシーのような共感能力があることにより問題を起きにくくなったり、同調できる仲間が増えたり、周囲の助けを借りることができる礎になったりします。

繋がる力


他者と「つながる」ことによってレジリエンスである耐久力や回復力が向上します。

非常につらい時、誰かに相談できたり、そばにいてくれる人がいるだけでこころが救われることがあります。

以前の日本では、近所の誰かや近くに住む親戚も含めてつながりの多い人間関係を持つことができていましたが、現在ではそのようなつながりが希薄になってきました。

あえて自分から「繋がろう」という意思と行動がなければ、なかなか「つながり」が発生しないのが現代です。

人によっては、宗教やスピリチュアリティの世界観による「先祖や神、大いなる存在とのつながり」もレジリエンスに対して大きな役割を持っていたりします。

自己効力感


自己効力感とは、目標などの成果を自分が実現できるという確信の程度「できる予感」を表す言葉です。

セルフエフィカシーともいい、

  • 今までの人生で達成した経験
  • 他者の達成を観察した経験
  • 承認されてきた経験

などが自己効力感の形成に大きな影響を与えています。

自己効力感が高いとストレスの多い逆境でも「乗り越えられる」と信じることができ、ヴァイタリティーが湧き、行動を行いやすくなります。

大きな達成だけでなく、小さな達成も重要視しながら毎日達成をしている自分を認識していくことが大切です。

リーチアウト力


リーチアウト力とは、働きかける力という意味です。

道を切り開いて行くにはこの力が必要不可欠です。リーチアウト力が高ければ人生が拡張していき、新たな可能性が生み出されていきます。

逆にこの力が弱ければ、失敗を回避し、自分の殻に閉じこもり、新たな可能性の扉を閉じてしまいます。

リスクを重視していると、この力はあまり上手く使えずレジリエンスも発揮できません。

おわりに


ストレスに抵抗する力、ストレスに対する耐久力、ストレスから回復する力を意味する「レジリエンス能力」は私たちが現代で生きていく上で欠かせない能力の一つとなっています。

生まれ持った遺伝的要素である能力が多少低くても、自分の努力と行動次第でレジリエンス能力は向上していきます。

それに従って、私たちは生きやすく人生を歩むことができます。

カウンセリングは、レジリエンスの一種として活用されるものであり、レジリエンス能力を高めるものでもあります。

当カウンセリングではクライエントのストレスコーピング能力(ストレス対処能力)とレジリエンスが向上できるようにセッションを行っています。

最後にアメリカ心理学会が提唱する「レジリエンスを築く10の方法」を紹介します。

1.親戚や友人らと良好な関係を維持する。
2.危機やストレスに満ちた出来事でも、それを耐え難い問題として見ないようにする。
3.変えられない状況を受容する。
4.現実的な目標を立て、それに向かって進む。
5.不利な状況であっても、決断し行動する。
6.損失を出した闘いの後には、自己発見の機会を探す。
7.自信を深める。
8.長期的な視点を保ち、より広範な状況でストレスの多い出来事を検討する。
9.希望的な見通しを維持し、良いことを期待し、希望を視覚化する。
10.心と体をケアし、定期的に運動し、己のニーズと気持ちに注意を払う。

レジリエンス (心理学)『ウィキペディア(Wikipedia)』

参考文献
「ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性-精神的回復力尺度の作成」 小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治

最近のレジリエンス研究の動向と課題 齊藤和貴・岡安孝弘


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記事監修
公認心理師 白石

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