過去の心理学者・臨床家・研究者の人物像や提唱された内容から今に学べることは多くあります。
ここでは心理学の行動理論に影響を与えた一人であるジョン・B・ワトソンと「恐怖条件付け」「子育て論」「行動主義」について書いていきたいと思います。
もくじ
ジョン・B・ワトソンについて
ジョン・B・ワトソン(John Broadus Watson)は、1878年アメリカのサウスカロライナ州の貧しい家庭に生まれます。
父は大酒飲みの女たらしで、ワトソンが13歳の時に家を出ていくような不幸な幼少期をおくり、反抗的で暴力的な青年期を歩んだとされています。
しかし学業は優秀で、ファーマン大学に通い、シカゴで博士号を取得後、ジョンズ・ホプキンス大学の助教授となります。
1913年にはこれまで主流であった内観による心理学ではなく、観察可能な刺激と反応に着目する科学的な心理学「行動主義」を宣言する講義を行い、「行動主義心理学」を創始しました。
そのため心理学的には行動主義心理学の創始者として有名な心理学者です。
第一次世界大戦で軍隊に入隊し、戦後はジョンズ・ホプキンス大学へ復職します。
1915年には若くしてアメリカ心理学学会の会長に就任しますが、1921年に研究の助手ロザリー・レイナーとの不倫スキャンダルにより辞職し、彼女と再婚後に広告の仕事に転じます。※のちに有名な広告代理店の副社長になります。
1935年に37歳という若さでレイナーが亡くなると世捨て人同然の暮らしをするようになったようですが、心理学に関する著作は刊行し続けました。
主著には、
1913年「行動主義の見地から見た心理学」
1920年「条件づけられた情動反応」(レイナーとの共著)
1924年「行動主義の心理学」
などがあります。
不条理にも行動主義で教育した子供のうち二人の子供は自殺などで亡くなっているという説もあります。※行動主義の教育が悪かったとは言い難いかもしれませんが、荒廃した家庭環境であったようです。
アルバート坊やと「恐怖条件付け」
ワトソンは、わたしたちには「恐れ」「怒り」「愛」の3つの根本情動が備わっており、刺激によって反応するように、条件付けることで新たな学習ができるかどうかを知ろうとしました。
健康で反応が穏やかであり、感情表現が平凡な生後9ヶ月のアルバートを被験者として条件付け学習が行われるかどうかを調べる実験を行います。
今では非人道的で非倫理的な方法ですが、当時は動物での実験に続く自然な展開であったようです。
アルバートは、つぎつぎに提示される動物には怯えませんでしたが、彼が怖くない白いネズミを見せて触ろうとすると金属をハンマーで叩く不快な大きな音をたてることを繰り返し経験します。
その音を聞いたアルバートは怯えて泣き出します。
そして繰り返された経験と学習により、白いネズミが部屋に入れられるとすぐに怯えて苦しげな表情を示すようになります。※誰でもそうなると思います。本当にかわいそうで、この文章を書いていて苦しくなりますが。
その後、この白いネズミ以外にも白い毛皮やウサギなどの特徴が似ているものへも同様の恐怖反応が起こり、心理学でいう「般化」という現象が起きます。
この実験から大人の抱く不安や恐怖が幼少期の経験に由来するということや人間は訓練次第でどうにでもなりうるという考えに至っていきます。
この実験の終了やその後は、母親によって連れ出されたという説、前もって終了が決められていた説、終了後に6歳で水頭症で亡くなった説、終了後に健康な人生を送り88歳で亡くなった説などさまざまな説がでており、真相はわかりません。
物議と論争に発展し、不倫スキャンダルもあって学位の剥奪と行動主義学派から追放されてしまいます。
ワトソン主義の子育て
学者から広告ビジネスの世界へ転じたワトソンは自らの提唱する行動主義を用いた子育てを一般に広めていきます。※ワトソンの考える行動主義ですので「ワトソン主義」と呼ばれています。
健康な1ダースの乳児と、育てる事のできる適切な環境さえととのえば、才能、好み、適正、先祖、民族など遺伝的といわれるものとは関係なしに、医者、芸術家から、どろぼう、乞食まで様々な人間に育て上げることができる
ジョン・B・ワトソン
1920年〜1930年には多くの書籍を出版し、行動主義的なアプローチを子育てに厳格に用いることを提唱し、多くの家庭で取り入れられていきました。
抱っこやキス、膝の上に座ることを禁止するような子供に触れない子育てを推奨するなど、極端にこころを軽視した訓練や学習により子供に潜在的なダメージを負わせることが危惧されていきます。※身体的懲罰には反対されていたようです。
子供の幸福より能率を過剰に重視する操作的な子育てに次第に批判されていきます。
当時は「育児のバイブル」とまでされていたのでその影響はすごかったようです。
再婚した妻のロザリーは、ワトソンの子育て理論の欠陥をのちに認めています。
行動主義
この時代、伝統的な内観法では人間の精神を適切に研究できないという論説が増え、観測可能な実験のデータを測定する形で研究され始めている流れがありました。
パヴロフの「条件反射と条件付け」、ソーンダイクによる「S–R連合学習」、ワトソンの「恐怖条件付け」、スキナーの「オペラント条件付け」などの研究により行動主義心理学が発展していきます。
行動主義とは簡単に言えば「心理学の対象を行動に集中」させた理論です。
ここでいう行動とは、刺激と反応、そして条件付けによって説明されることが多く、その手法は内観や哲学的な心理学とはまた異なる方向からのアプローチです。
ワトソンの考える行動主義は、この時期の「遺伝か?環境か?」という論争が巻き起こる最中で環境の重要性を強調しました。
科学的な心理学とも言えますが、しばしば哲学的な心理学との論争があったり、批判的に発展していったり、融合や統合する理論に発展したりしながら今に至ります。
現在用いられる古典的条件付けによる技法として、
・暴露療法(エクスポージャー法)
・洪水法(フラッディング)
・系統的脱感作療法
・嫌悪療法
・漸進的筋弛緩法
などがあります。
オペラント条件付けによる技法としては、
・シェイピング法
・モデリング技法
・ソーシャルスキルトレーニング(SST)
・バイオフィードバック法
・タイムアウト法
・トークン・エコノミー法
・レスポンス・コスト法
などがあります。
行動主義理論と技法は、現在有名な「認知行動療法(CBT)」の基礎の一つとして組み込まれています。
参考文献
心理学大図鑑 キャサリン・コーリンほか
記事監修
公認心理師 白石
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