過去の心理学者・臨床家・研究者の人物像や提唱された内容から今に学べることは多くあります。

ここでは心理学の哲学的ルーツの一人であるピエール・ジャネと「解離とトラウマ」「心理力と心理緊張」について書いていきたいと思います。

ピエール・ジャネについて


ピエール・ジャネ

ピエール・ジャネ(Pierre Janet)は1859年パリの中流階級の家庭に生まれたフランスの心理学者(哲学者)です。

子供の頃は自然科学を好み、植物収集とカタログ制作に没頭していました。

15歳でうつ病となり、その後も闘病しながら学問と研究に勤しみます。

哲学者の伯父の奨励で医学と哲学を学び、ソルボンヌ大学の哲学修士号を取得し、ル・アーブルの哲学教師になります。

ジャン=マルタン・シャルコーのもとで催眠療法の研究を開始し、「ヒステリー」や「解離」についての研究を拡張しています。

1885年に行ったレオニーという患者の催眠実験で注目を浴びます。

1887年に心的外傷の意味で「トラウマ(trauma)」という述語を作り、研究を行っていきます。

トラウマの語源は1895年発表のフロイトとされていますが、それよりも前にジャネが提唱しています。

1898年にはパリのサルペトリエール病院にあるシャルコーの研究室の主任となります。

※このシャルコーの「ヒステリー」に対する研究を発展させていくのがジャネとフロイトです。

その後、ソルボンヌ大学、コレージュ・ド・フランスで心理学の教授として教壇に立ち、1947年に惜しまれながら亡くなります。

無意識に関してはジークムント・フロイトが有名ですが、ジャネも無意識について研究しており、「ジャネ理論」「フランス流無意識」と呼ばれています。

1913年ロンドンで行われた国際医学会でジャネはフロイトが自分の心理分析を無断借用していると主張したところから亀裂が大きくなります。

表舞台にフロイトが立ち、ジャネは次第に忘れ去られるようになっていきますが、アンリ・エレンベルガーによってジャネも無意識研究の発展に寄与した功績者の一人だと提起しました。

それがきっかけとなってジャネの研究や業績が再注目され、PTSDや解離性障害の理解と研究が発展していきます。

主著には、

1889年「心理自動症」
1893年「ヒステリーの精神状態」
1902年「ノイローゼ」
1907年「ヒステリーの主症状」

があります。

「解離」と「トラウマ」


ジャネは「解離」を病的状態として記述・研究した最初の人物とされています。

◾️解離について
現在の心理学で用いられる「解離(英語: Dissociation)」とは、自分にとって受け入れ難い出来事や観念、感情を自分の普段の心から切り離し(され)、統合性が失われた状態を表します。無我夢中になるような正常な解離もありますが、多重人格や意識を制御できないといった問題となる解離もあります。

ジャネはヒステリー症状や解離症状で困っている患者の治療と研究から、精神の下意識に残存する「幼児期のトラウマ」が原因であることを提唱します

フロイトは「無意識への抑圧」「幼児期のトラウマ」「感情の抑圧」「欲求の転換」がヒステリーの原因であると後に主張し、解離は精神の自己防衛メカニズムのひとつであると示唆します。

ジャネの治療は、トラウマ的記憶の破壊・消去する方法だけでなく、衰弱した統合機能を回復させるための治療も行っていたことから成果はフロイトを超えていたとの見解もあります。

心理力と心理緊張


ジャネの提唱した理論の中には「心理力」と「心理緊張」という言葉と概念があります。

ジャネのいう「心理力」とは、精神のエネルギーで、「心理緊張」とは自分を統合する能力を意味します。

精神エネルギーが低下している場合は休息や栄養補給などで対応できますが、統合能力の衰弱の場合はかえって悪化させてしまうこともある。(例:家に篭って休息する日が続くと逆に心が病んでくるような事)

統合機能の失調により、精神エネルギーの本来の行き場ではない下位機能へ充填されて、幻覚幻視、怒りや興奮、暴力や暴発へとつながるとジャネは言います。

この考えは、私たちが持っている統合力が破壊されるようなショッキングな出来事に遭遇した方には理解しやすいかもしれません。

今ではフロイトの「葛藤モデル」、ジャネの「統合–解離モデル」と説明されることもあります。

ジャネにとって人間の本質は「現実の変化に合わせて絶えず自分を更新して、創造していくことにある」とし、この創造的機能は最上位にあるとしています。

過去のトラウマを解消し、統合機能を回復させ、創造的機能をうまく使えるようにしていく治療スタンスは、現在のカウンセリングや心理療法に影響を与えています。

天才フロイトと同時期に似た分野の研究を行ったジャネは悲運に見舞われ、適正な評価がされないことが多かったようですが、現代にもフロイトにも多くの影響を与えていると考えられます。

ちなみにコンプレックスという言葉と概念は、ユングがジャネの下意識理論から着想したようですよ。

参考文献

ピエール・ジャネと「フランス流無意識」–統合・解離・時間– 田母神顯二郎

心理学大図鑑 キャサリン・コーリンほか

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