過去の心理学者・臨床家・研究者の人物像や提唱された内容から今に学べることは多くあります。

ここでは心理学の行動理論に影響を与えた一人であるイヴァン・パヴロフと「条件反射」「パヴロフ条件付け」について書いていきたいと思います。

イヴァン・パブロフについて


イヴァン・パブロフ

イヴァン・パブロフ(Ivan Pavlov)は1849年ロシアのリャザンの牧師の長男として生まれます。

父の影響により司祭になるため神学校で神学を学ぶのですが、社会の発展には自然科学が重要であると考え、父の理解を得て、大学では自然科学や医学を学び、外科医となります。※両腕が使える両利きであったため、手術が上手であったようです。

研究の初期では実験用の動物も私財を投げ打って買わなければいけないほどの生活の困窮がありますが、農村の学校で働く妻セラフィーマの助けや研究への情熱により次第に功績が認められていきます。

1890年に軍医学校の教授になり、翌年には実験医学研究所の生理学実験室の室長になります。

1902年、飼育員の足音で犬が唾液を分泌していることを発見し、条件反射や条件付けについての研究と実験を行う。

1904年にロシア人ではじめてのノーベル生理学・医学賞を受賞し、1907年にロシア科学アカデミーの会員に選出されます。

その後ロシアは内戦で賞金の没収などにより生活の困窮を経験しますが、レーニンの支援などにより研究は続いていきます。

1924年に洪水で犬が溺れかけた時、犬に固定されていた条件反射が変化したり消滅していることを発見し、実験と研究を行います。

毎日運動をしたり、規則正しい生活を実践していましたが、1936年に肺炎で亡くなります。

主著には、

1897年「主要消化腺のはたらきについての講義」
1928年「条件反射についての講義」
1941年「条件反射と精神医学」

などがあります。

条件反射とパヴロフ条件付け


1888年、大学時代に研究していた膵臓の神経の研究に再び取り掛かり、膵液を出す神経を発見します。

この研究を通じてこれまでの乱暴な手術や電流での研究では正しい結果を観察できないということを確信し、動物に苦しみや負担が少ない実験方法を模索していきます。

パヴロフは、つぎに胃腺という消化腺から胃液が出る仕組みについての研究に取り掛かります。

「偽餌法」などを使って胃液を観察すると、胃に来ている神経を切った場合に胃液が出ないことを発見します。

要するに胃液を出す神経があることを発見します。

胃の観察により食物の種類により胃液の出方や種類が異なることも明らかになっていきます。

これらの研究は「消化腺のはたらきについての講義」という本になり、世界中で知られるようになり、この研究にノーベル賞を授与されました。

その後パヴロフの研究室では胃液と唾液の研究が行われていきます。

餌が出される直前にメトロノームが鳴るという設定を繰り返していくと、メトロノームの音を聞くだけで唾液が出てくることを発見します。

酸っぱいと唾液が出ることや熱いものを触ると手を引っ込めるといった反応を「無条件反射」と呼び、このメトロノームで条件づけられて学習された反応を「条件刺激」と呼びました。

その後、メトロノームの代わりにブザー、ベル、フラッシュライト、ホイッスルなどで行いますが、刺激の性質にかかわらず結果はいつも同じになりました。

無条件刺激(US:)→ 無条件反射(UR)

この刺激と反応は、学習ではなく生まれつきにあるもので、一生無くならないものです。

条件刺激(CS)→ 条件反射(CR)

この刺激と反応は、餌が与えられないことを学習していくと獲得された条件反射が失われ、学習されていない状態に戻る特性が明らかになります。

また大脳を取ってしまうと条件反射(CR)は無くなってしまうことからパヴロフは、大脳にある神経に注目していきます。

そのため「条件反射(CR)」は大脳が発達した動物だけに見られるはたらきと考えました。※後に昆虫でも学習の繰り返しにより条件反射が起こることが明らかになっています。

高度な発達をした人間は、実際に体験しなくても梅干しを想像するだけで唾液が出るように条件反射が起こります。

この反射をパヴロフは「言語条件反射」と呼びました。

これら条件反射の研究は「パヴロフ型条件付け」と呼ばれ、ソビエト政府が発足してからなのでパヴロフが60〜80歳にかけての時期に研究されていたようで、普通の人が引退や死を迎えるこの年齢でも研究を続けられたのも絶えぬ情熱と日々の健康的な鍛錬であったようです。

その後、アメリカの心理学者ジョン・ワトソンが幼児アルバートに行った実験により「恐怖条件付け」が可能であることが明らかになり、条件反射理論から「古典的条件付け(レスポンデント条件付け)」として広く知られていきます。

獲得


CS(条件刺激)とUS(無条件刺激)を繰り返し対呈示することでCR(条件反応)の割合は徐々に増加し、その強度が増加していく期間を「獲得期」といいます。

そしてCR(条件反応)が増加し続けてそれ以上の増加が見られなくなる頂点を「漸近値」と呼び、強い刺激ほど漸近値は高くなります。

般化と弁別


類似した刺激に条件づけが転移する現象は「般化」と呼ばれ、CR(条件反応)が誘発される割合はCS(条件刺激)が最も高くなり、逆にであれば低くなるという「般化勾配」を示します。

CSに類似した刺激に反応しないことは「弁別」と呼ばれます。

消去


時間経過だけではCR(条件反応)は消失しないため、CS(条件刺激)とUS(無条件刺激) の対呈示をやめてCSだけを繰り返し呈示し、消去手続きを行っていきます。

なお消去されても、条件づけ前とまったく同じ状態に戻るわけではなく自発的回復、再獲得、脱制止などがみられる。

再獲得


一度獲得した条件反応を消去しても再獲得させる条件づけを行うと1回目よりも速い学習(条件付け)が行われます。

自発的回復


消去したとしても、後日にCS(条件刺激)を呈示するとCR(条件反応)は回復することを「自発的回復」といいます。

消去手続きを毎日繰り返すと自発的回復の量は徐々に小さくなり、最終的に全く見られなくなります。

内制止


古典的条件づけにはS-R連合に基づく行動反応を抑制する「制止(inhibition)」という概念があります。(消去と呼ぶこともあります。)

後天的な学習による「内制止」には以下の4種類があります。

①実験的制止(対呈示をやめてCSだけを単独呈示し続けると制止が起きます)
②延滞制止(CSの後に十分に長い時間をとってUSを呈示すると、連合が緩んで条件反射の制止が起きます)
③条件性制止(複合刺激に対する条件反射の頻度が減って抑制される現象)
④分化制止(刺激Aと無条件刺激を対呈示し、刺激Bのほうは単独呈示する(分化条件づけ)と刺激Bへの般化は制止される現象)

外制止


条件づけの形成後にCS(条件刺激)と別の新規刺激を呈示すると、新規刺激がCSに対するCRを抑制するためCRは小さくなります。

脱制止


CRを消去してか新規刺激とCSを呈示すると、CRは一時的に回復する「脱制止」が起きることもあります。

カウンセリングや心理療法での応用


現在のカウンセリングや心理療法では、この古典的条件付け(レスポンデント条件付け)の特性を利用した

・系統的脱感作
・嫌悪性抗条件づけ
・漸進的筋弛緩法
・暴露療法

などが用いられています。

学習されてしまった条件付けを慣れて緩やかにしたり、消去して行ったりする方法や新たな嫌な刺激を条件付けることで変化を起こす方法などが行われます。

動物実験について


「パヴロフの犬」という代名詞で有名になったパヴロフとその研究ですが、当時の上流階級の人々の間で動物実験を非難する人が大勢いたようで、このような抗議文が送られてきました。

 「動物実験は、科学と生活に何の役にもたっていない。動物実験は誤まった考えに導く。
 科学の進歩にとって無用なばかりでなく、有害である動物実験は動物を苦しめるだけだ。
 だから動物実験は、できるだけやらないようにしなければならない。
 そのためには、動物愛護協会のきびしい監督下におく必要がいる。」

ロシア動物愛護協会会長 メイェンドルフ男爵夫人

これを読んだパブロフは怒りで体が震え、このように心の中で叫びました。

 「毛皮や羽毛にくるまり馬に乗り、どんな獣でも鳥でも食べたいだけ食べ、狩をしたりして自分の勝手な欲望のためにたくさんの動物を苦しめたり殺したりしているくせに、動物を苦しめるといって真面目に科学を研究している学者を、攻めるとはなんということだ。
 我々が動物を実験に使うのは、全人類の苦しみや悩みを解決するためなので、自分勝手な欲望のためではないのだ。
 我々が研究しなければ、健康な体についての知識も得られないし、苦しんでいる病人を救うこともできないのだ。」

イヴァン・パヴロフ

この記事では、動物実験について説明する箇所が多くあるのであえてこのような理念を持って研究と実験を行なっていたパヴロフを紹介する意味があると思い、引用させていただきました。

参考文献

イワン・ペトローヴィッチ・パブロフ よくわかる科学史

心理学大図鑑 キャサリン・コーリンほか

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