やる気が出ない、無気力、モチベーションが上がらないなどの状態はなぜ起こるのでしょうか?
それらの原因やメカニズムを追求し、カウンセリングの有用性について説明していきます。
もくじ
やる気がでない無気力状態とは何か?
「やる気がでない無気力状態」とは、なにかをする気力がない、 その意欲のないなどの状態を指し、 意欲や自発性が低下したり、感情の起伏が小さくなったり、周囲に無関心になったりする状態のことです。
無気力状態は「アパシー(apathy)」とも呼ばれ、無気力や無関心、感情の欠如などを意味する言葉です。
「やる気がでない無気力状態」は、軽いものならだれでも経験したことがあるものだと思います。
重いものだと「うつ病」や「無気力症候群(アパシー・シンドローム)」といった病名や症状名と関係するような病態になっていきます。
・甲状腺機能低下症
・認知症
・双極性障害
・アジソン病
・慢性疲労症候群
・更年期障害
などの病気によってもやる気が出ない状態や無気力状態の症状が出ることがあります。
身体的なメカニズム
やる気ホルモンと呼ばれることもある「甲状腺ホルモン」、やる気の源と呼ばれる「ドーパミン」、そのドーパミンを出す側坐核における「グルタミン酸の量に対するグルタミンの量」がやる気やモチベーションに対して重要な役割を持っていることが研究などで明らかになっています。
「作業興奮」という言葉をご存知でしょうか?
心理学者のクレペリンが発見したと言われる「作業興奮」は、やる気がない状態であっても一度行動を始めるとやる気が出て、行動を継続できるようになる心理現象のことを指します。
行動を起こすと側坐核からドーパミンが分泌され、やる気が出てきて行動を行うことでさらにドーパミンが分泌されていきます。
やる気がある・なしに関わらず「まずはやること」がドーパミンなどのやる気を感じる物質を分泌させ、やる気が出ない無気力状態から脱する最も基本的で強力な一手になります。
「うつ病」「無気力症候群」「学習性無力感」の違い
うつ病と無気力症候群では「やる気が出ない無気力状態」の症状が異なることがわかっています。
うつ病ではある対象のみならず、あらゆることにやる気が出ず、無気力になる傾向があります。
無気力症候群ではある対象のみやる気がでず、無気力になりますが、その対象以外の遊びや興味のあることにはやる気があり、気力を持ちます。
学習性無力感(英語:Learned helplessness)とは、ポジティブ心理学で有名なマーティン・セリグマンが提唱した概念で、努力を重ねても望む結果が得られない経験が続くと「何をしても無駄だ」と認知するようになり、不快な状態を乗り越えようとしたり、脱する努力を諦めてしまうことを指します。
■マイヤーとセリグマンの学習性無力感の研究
スティーブン・マイヤーとセリグマンの共同研究では、鍵をかけた檻に犬を閉じ込め、痛みを伴う電気ショックを繰り返し与えました。2人はこれを「逃避不能ショック」と呼びました。
何度か電気ショックを与えた後、鍵を開けて、檻の扉を開き、逃げられる状況を作り、再び電気ショックを与えました。
それまで電気ショックを与えられていなかった犬たちはすぐさま逃げ出しましたが、電気ショックを繰り返し受けていた犬たちは、全く逃げようとせず、ただその場に横たわり、鳴きながら脱糞していました。
逃避不能の経験によるショックは、強烈な学習として認識され、無力感を感じ、あっさり諦めてしまいます。
このような学習から生まれる無力の認知と努力を諦めてしまう現象を「学習性無力感」と呼びました。
うつ病や無気力症候群にも重なるところもあるかもしれませんが、学習性無力感は問題に対して乗り越えよう、戦おうという方向に行かないばかりか、逃げたり回避しようとすることすらできなくなるような無気力状態です。
一生懸命頑張ったのに期待した結果が得られないことから陥る「燃え尽き症候群(バーンアウト)」は一種の学習性無力感でもあり、無気力症状に苛まれます。
やる気が出ない無気力状態になる原因や要因
やる気が出なかったり、無気力になってしまう原因や要因は千差万別です。
しかし代表的なものとしてあげられるのが「目標を失った時」と「傷つきが蓄積」したときです。
目標に向かったいた中で打ちのめされたり、うまくいかない失敗を繰り返したり、目標が頓挫したり、これ以上進めない何かがあったりすることによって目標を失ったり、傷つきが蓄積してしまいます。
そこから向かうべきところが無くなったことにより気力が湧かなかったり、傷つきによって気力自体が出ない状態になってしまいます。
また「自己効力感」の低下によりやる気が出ない無気力状態をつくってしまう要因となります。
自己効力感(英語:self-efficacy)とは、自分がある状況において必要な行動をうまく実行できることを信じ、自分の可能性を認知していることを指します。
遺伝的な要素もありますが、生まれてから現在までの自己実現や達成グセ、周囲からの評価や教育等によって自己効力感が高い人もいれば、低い人もいます。
自己効力感が高い人は、コントロール感を実際よりも高く評価し、学習性無力感を感じにくく、自己効力感が低い人は、コントロール感を実際よりも低く評価し、学習性無力感を感じやすくなってしまうことが研究で明らかになっています。(論文:学習性無力感の生起事態における特性的自己効力感と免疫機能の変動)
他にも
・人生の方向性に迷いが出る時
・何のために生きているのかわからない時
・勇気がくじかれた時
・目標が遠すぎる時
・やることが多すぎて許容範囲を超えてしまう時
・やりたくない気持ちが強くなる時
・なぜそれをやる必要があるかわからない時
・悩みや過去に意識が強く向いている時
・同じことの繰り返しが続く時
・ストレスが重なり蓄積した時
・向き合いたくない時
・何から手につければいいかわからない時
・何をしたらいいかわからない時
・自分の状態が良くない時
・自分の価値や尊厳を虐げられる環境にいる時
にもやる気が出なかったり、無気力になることがあります。
また睡眠不足や栄養不足、生活習慣の乱れなどによってもやる気を出しにくくなったり、気力が弱い状態になってしまうことがあります。
・悲観主義(ネガティブ思考)が強い
・諦めやすい性格
・成功体験が少ない
・頑固さ
・やる気を出す力が弱い
・問題対処能力が低い
・ストレス耐性が弱い
・ストレスからの回復力が弱い
・心理的脆弱性(もろさ)
などの性格的傾向や遺伝的特徴によってストレスや問題の影響を受けやすくなったりします。
「どうせ自分はダメなんだ」という方向へ入り易さがあれば、それだけやる気が出にくくなったり、無気力になる可能性が高まります。
特に重要なのが「認知的評価」です。
認知とは、出来事に対しての解釈や捉え方などを意味しています。
解釈次第で出来事が良いものにもなれば悪いものにすることもできます。
認知の偏り
認知の偏り(英語:Cognitive distortion)とは、精神科医アーロン・ベック(Aaron Temkin Beck)が基礎を築き、デビッド・バーンズ(David D. Burns)がその研究を引き継ぎ発表された「偏りや誇張、非合理的な認知パターン」のことを指します。
「やる気が出ない無気力状態」になりやすくしてしまう代表的な10のパターンを紹介します。
①0か100か?白か黒か?というような極端な判断軸(二極思考)で考えてしまい、グレーがない認知パターンである「全か無かの思考(All-or-nothing)」
②一部の要素をすべてのことのように当てはめて捉えてしまう認知パターンである「過度の一般化(Overgeneralization)」
③「~すべき」「~しなければならない」といった基準で物事を考え「そうでなければならい」と思ってしまう認知パターンである「すべき思考(should statements)」
④ネガティブや否定的な側面ばかり目がいき、それが全てであるように思い込んでしまう認知パターンである「マイナス化思考(Disqualifying the positive)」
⑤全体的に見ることができず、悪い部分のほうへ目が行ってしまい、良い部分が除外されてしまい結果、現実を悪く見てしまう認知パターンである「選択的抽象化(selective abstraction)」
⑥当人に確認することなくネガティブや否定的に推測してしまう「心の読み過ぎ(Mind reading)」と物事が悪い方向になると先読みしてしまう「先読みの誤り(Fortune-telling)」の二種類の認知パターンがある「結論の飛躍(Leap conclusion)」
⑦事実や根拠よりも感情を根拠として、自分の考えが正しいと結論を下す認知パターンである「感情の理由づけ(Emotional reasoning)」
⑧失敗や悪いことが実際より大きくみえる「拡大解釈(magnification)」と成功や良いことが小さく見える「過小解釈(minimization)」
⑨「私は~な人間だ」「あの人は~な人間だ」というようにレッテルを貼り、誤った人物像を創作してしまう認知パターンである「レッテル貼り(labeling)」
⑩自分とは関係ないものでも自分のせいだと自責の念や罪悪感を感じたり、自分を称賛してしまう認知パターンである「個人化(personalization)」
「やる気が出ない無気力状態」に対するカウンセリング
これをご覧頂いている方で「やる気が出ない」「無気力感に苛まれている」状態がある場合、なぜそのようになったか覚えていますでしょうか?
頑張っていたけど成果が出ない、コントロールできない苦しみを繰り返した、精神的ショックをたくさん味わった、何のために生きているのかわからなくなった、目標や向かっていく先が無くなったなど人によって千差万別だと思います。
そこにはたくさんの感情や傷つきがあるかもしれません。
そういった気持ちを実生活で全く関係のない第三者であるカウンセラーに自分のペースで話しながら共感され、受け入れられ、感情や傷つきを癒していくことができます。
話すということは最も基本的ではありますが、なかなか自由に話したり、本音で話すことは機会として珍しいものです。
少しずつ話していくことにより気持ちが整理され、スッキリとした感覚が得られるようになります。
傷つきが重度の場合、丁寧に自分を見てあげなければなりません。
そこには頑張ってきた証があります。自分では当たり前であってもいざ見直してみると非常にたくさんのがんばりがあるものです。そういった頑張りを再発見しながらその傷が自然に癒えるようにカウンセリングは進んでいきます。
傷つきをみていくと精神的ショックやトラウマのような恐怖学習が行われている場合があります。
それらがあると「また頑張ろう」とはなかなかなりません。学習性無力感のように身動きがとれなくなってしまうこともあります。
人間は恐怖を学習することもできれば、恐怖を克服することや安心感も学習することができます。
この学習のシステムを深く知ることで今後の人生に活用され、自信につながっていきます。
そして恐怖と向き合い、克服するための最善の手段と安全な場を整えていきます。
恐怖を乗り越えると出てくる言葉があります。「なんであんなに怖がっていたんだろう、不思議!」という言葉です。
このように実現できるようにカウンセリングを進めていきます。
やる気が出ない無気力状態、うつ病、アパシーシンドロームなどは「ある程度誰でも人生であるものだ」という見解を持つことにより回復に役立ちます。
・悲観主義(ネガティブ思考)が強い
・諦めやすい性格
・成功体験が少ない
・頑固さ
・やる気を出す力が弱い
・問題対処能力が低い
・ストレス耐性が弱い
・ストレスからの回復力が弱い
・心理的脆弱性(もろさ)
上記の性格的傾向や遺伝的特徴に対してベースアップを図るセッションを行うことによって能力が向上していくことが期待できます。
ストレスに強くなり、ストレス対処能力が向上していくことは自信や自己肯定感、そしてやる気の向上につながります。
またカウンセリングの中では、自分の人生を見直し、再構築や再認識を行い、自分のこれからの人生の目標や目的を定めることを行っています。
この目標や目的があるからこそやる気が出るとも言えます。
そういったさまざまなアプローチを経て、「向き合って成長した自分」としてカウンセリング終了後の人生を歩んでいくことができます。
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記事監修
公認心理師 白石
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