「すぐに諦(あきら)めてしまう癖」とはどのように形成されてしまうのか?癖は改善できるのか?などについて言及し、カウンセリングの有用性について説明していきます。

すぐに諦めてしまう癖とは?


すぐに諦めてしまうことは誰でも一度は経験しているかもしれません。

「自分の能力や状況では無理だ」と直感的に理解できる場合に「諦め」が起こります。

それは実用的な場合もあります。

無駄に労力を使うより、ほかの手段やほかの目的に力を使うことを選択できるからです。

しかしその「諦め」の頻度が多くなったり、本来頑張ればできることでも諦めてしまうことが増えてしまうと問題や悩みに発展してしまいます。

そのような「諦め」を多用することにより、すぐに諦めてしまう「癖」になってしまうことがあります。

神経可塑性から考える「諦めぐせ」

神経可塑性(読み:しんけいかそせい、英語:synaptic plasticity)とは、外界から入ってきた刺激に対して神経系が構造的・機能的に変化する性質です。

ようするに活動や心的経験に応じて、脳や神経が自らの構造や機能を変える性質のことです。

神経可塑性は、

「よく使用する神経は強化され、使わない神経は弱化する」

「よく使うものが使いやすくなり、あまり使わないものは使いにくくなる」

といった特性があります。

諦める方向へと紐づく神経を多用しているとその神経系が強くなり、諦めない方向へと紐づく神経が弱くなる可能性があります。

またその強化された神経は使いやすくなり、諦めない気持ちや神経は使いにくくなります

このように人体の神経系の仕組みから「癖(くせ)」になってしまいます。

すぐに諦めてしまう癖をつくる原因と要因


「すぐに諦めてしまう癖」をつくってしまう原因と要因について説明していきます。

諦めを多用する

上述したように諦めをたくさん用いることにより、諦めやすくなってしまいます。

以前は諦めるかどうかの判断をしていたのに自動的に諦めてしまうことが起きてしまうのもそのためです。

苦手分野

人には個性があり、得意な分野もあれば苦手な分野もあります。

苦手な分野は、うまく行うことができないために諦めやすくなってしまいます。

ある程度できるようになることが望ましい場合もあれば、得意分野に注力したほうが良い場合も有り、状況や人によって異なります。

目標や目的が明確でない

目標や目的が明確でなかったり、自分がしたいと強く思うものではないときに、そこに「やりがい」や「生きがい」を感じることができなかったりします。

それらを感じることができないためにやる気やモチベーションが維持できなくなってしまいます。

遺伝的要素

性格の遺伝は概ね50%ぐらいとされており、残りは生まれてからその後の後天的な環境によって影響されていると一般的に言われています。(30%~50%と考えられていることもあります)

「すぐに諦めてしまう」性格的特徴が遺伝によって特徴付けられていることもあるということです。

遺伝だから仕方ないと全てをあきらめる必要はなく、遺伝子のスイッチがONになったり、OFFになったりする働きがあることが分かっています。

大人になっている方はわかると思いますが、昔よく諦めていた苦手なことが今ではできるようになっているものはないでしょうか?

そういったスイッチによるものや環境によって成長・学習・馴化(慣れ)によって私たちは「諦め」を少なくすることができます。

ただ遺伝についてはまだわからないことも多く、どこまで乗り越えることができて、どこまでが限界なのかははっきりわかっていません。

失敗を恐れる

失敗を恐れるということは、失敗を回避したくなる欲求に駆られます。

「やって失敗する」よりも「やらないで失敗しない」方が良いとついつい考えてしまいます。

そのため諦めやすくなってしまいます。

失敗して恥をかいた、ひどく怒られたなどの経験を繰り返し、失敗を恐れるようになってしまうことがあります。

失敗を恐れやすい人もいれば、恐れにくい人もいます。性格的特徴や価値観や信念、脆弱性、ストレス耐性、回復力などによって恐れやすさに個人差があります。

トラウマと恐怖

トラウマ(英語:psychological trauma)とは、肉体や精神に強い衝撃を受けた事で恐怖反応を示したり、長期にわたって囚われたりするなど否定的な影響を持っていることをいいます。

精神的ショックを受ける出来事に遭遇し、ひどく傷つき、恐怖や不安にとらわれ、逃走・回避行動が増えてしまいます。

それに従って、諦めることも多くなってしまいます。

トラウマは慎重に安全に対応する必要があるため専門家への相談する必要があるかもしれません。

傷つきやすい

傷つきやすいほど、精神的ショックを受けやすく、恐怖が生まれ、回避したくなりますので諦めやすくなってしまいます。

傷つきも遺伝的な影響がありますが、経験を積み重ねたり、傷つきやすい自分と向き合ったり、その自分を受け入れたりしていくことで傷つやすさを改善していくことができます。

恥ずかしがり屋

恥ずかしい気持ちに敏感であったり、恥ずかしいことが脅威であることに関連付けして学習している場合、恥ずかしさは恐怖となってしまうことがあります。

そのため回避・逃避行動が増え、諦めも増えてしまいます。

恥ずかしさは、馴化(慣れ)していこうとする意志と経験によって少しずつ克服していけるものです。

自己効力感と自信の低下

失敗する経験が多かったり、成功体験が少ない場合、自分には実現できると信じて認識する気持ち「自己効力感」が低下してしまいます。

それは自信の低下も意味しています。

自己効力感が低下しても成功体験を増やしたり、達成癖をつけていけば自己効力感は高めていくことができます。

それに従って自信も変化します。

認知の偏り

私たちが物事を知覚し、判断するときによく解釈が行われます。失敗した時に能力が不足していると重く受け取る人もいれば、足りないところを補えばいいだけと簡単に解釈する人もいます。

そのような解釈や価値観が偏っていたり、ネガティブな方向へ捉えやすくなってしまうと自己批判的になりやすく、自信を失ってしまいかねません。

カウンセリングなどでは、このようなところに適切にアプローチを行い、認知の偏りを修正・変容していきます。

飽きやすい性格

飽きやすい性格によっても諦めが多くなってしまいます。

特に「少しでもうまくいかないと飽きてしまう」といった完璧主義的な飽きやすさがあると、なかなかうまくいかないことが多い現代では、諦めの連続となってしまいます。

完璧主義的な判断に対して変容のアプローチを行いながら、飽きない自分を育てていくことが大切です。

楽天的な性格

「まあ、いいか」と楽天的に考える性格的特徴が強い場合もあきらめが多くなります。

それが良い場合もあるかもしれませんが、「まあ、いいか」の中にはそのように諦めてはいけないものがある場合もあるかもしれません。

嫌悪刺激が苦手

快楽を好み、不快な感覚である「嫌悪刺激」が苦手な場合も諦めやすさが多くなります。

努力しているとつらいこともあります。そのつらさに耐えかねてやめてしまうということが起きてしまいます。

嫌悪刺激の捉え方と成長への結びつけが弱い可能性が有るかもしれません。

潜在的な破壊欲求が高い場合

あまり聞いたことのあない言葉かもしれませんが、自分でも気づかない破壊欲求によってせっかく作り上げたものを破壊したり、辞めたり、諦めてしまうことがあります。

そこには作り直したい、仕切りなおしたい欲求と深い関連性があります。

学習性無力感

学習性無力感(英語:Learned helplessness)とは、ポジティブ心理学で有名なマーティン・セリグマンが提唱した概念で、努力を重ねても望む結果が得られない経験が続くと「何をしても無駄だ」と認知するようになり、不快な状態を乗り越えようとしたり、脱する努力を諦めてしまうことを指します。

学習性無力感は、乗り越えよう、戦おうという方向に行かないばかりか、逃げたり回避しようとすることすらできなくなること意味しています。

軽いものであれば、苦手意識で終わるものもありますが、ショックから「何をしても無駄だ」と虚脱状態になってしまうことがあります。

うつ病や抑うつ状態、不安障害、トラウマ、恐怖症などになってしまう可能性もあります。

このような場合、専門機関へ適切に相談されることが推奨されます。

子供が諦めやすい場合


子供さんが諦めやすい場合、そのことをひどく叱りつけたり、人格否定にならないように気をつける必要があります。

諦めるということは何かしら理由があるのです。

子供さんが親に正直に言う場合もあれば、言わない場合も有り、本人もわかっていない場合もあります。

そういった子供さんを受け入れながら、少しずつ諦めないで努力して達成していく素晴らしさを教えてあげていくことが大切です。

「諦めやすい癖」に対するカウンセリング


「あきらめが肝心」という言葉があるように良い諦めもあります。

そのような建設的でポジティブな諦めもあれば、破滅的でネガティブな諦めもあります。

「建設的」とは現状をより良くしていこうという積極的な態度を意味し、建設的でポジティブな諦めは問題にならないだけではなく、よりよく生きるために必要なスキルと言えるかもしれません。

実際の問題の多くは、破滅的なネガティブな諦めであることが多いと思います。

しかしそこには必ず理由があります。

傷つきであったり、悩まされている性格的特徴であったり、恥らいの回避であったり、トラウマになってしまっていたり、自己効力感や自身を失っていたり、学習性無力感のような状態に苛まれていることもあります。

カウンセリングは、クライエントの状態を大切にしながらクライエントのペースで話を進めていきます。

受容的・共感的態度に見守られながら自分の本音や人には話せない内容を話していくことで少しずつ気持ちが晴れていくことがあります。

気持ちが癒されたり、スッキリする爽快感があることもあるでしょう。

そういった中で向き合うべきところが見つかっていきます。

自分の脆弱性だったり、受け入れていないところだったり、偏った捉え方であったりする問題に焦点化していきます。

抵抗感や苦痛がありながらも向き合い、受け入れ、乗り越えていくなかで自分の人生で大事にしてきたドラマティックな場面に感動したりすることもあります。

受け入れと乗り越えが行われたあとは、ひとまわり成長した自分と出会い、自信や自己効力感が自然と引き上がっていく感じを知覚することができます。

「癖には癖を」ということで神経可塑性の原理からも新たな癖を習慣化することにより神経系から変化してくるように設計していきます。

子供さんの場合、直接子供さんとのカウンセリングというよりご両親や周囲の方の理解と配慮が優先されます。

周囲が変化してくると子供さんも変化が生まれ、問題が軽減したり、カウンセリングを行う土台が出来上がります。

自分の「生きがい」や「やりがい」が重要でないことを知ったほうが良い場合もあれば重要であることを知ったほうが良い場合もあります。

そういったところから人生や仕事、家族、学業などの目標や目的が定まり、基盤が整い、安定感が増していきます。

諦めやすい癖によって人生がうまくいかなかった方向から自分が向き合った分だけ、諦めにくい方向や諦める必要のない方向へ向かっていくことができます。

カウンセリングが進むと諦めやすい自分の要素も「そういうことだったんだな、仕方ない」と軽く扱えたりするものです。

そのように扱えるようになってくると気持ちが軽くなっていきます。

気持ちが軽くなると動きも軽くなるものです。


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記事監修
公認心理師 白石

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