知っていると役に立つ心理学として「自己効力感」について説明していきます。

自己効力感とは何か?


自己効力感はセルフ・エフィカシー(英語:self-efficacy)とも呼ばれ、心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念です。

意味としては、自分がある状況において必要な行動をうまく実行できることを信じ、自分の可能性を認知していることを指します。

要するに「自分は実現できる能力がある」という認知ができていることです。

■「認知」について
認知とは、物事を知覚した上で判断したり、解釈したりして認識することを指します。物事をそのまま認識することもあれば、自分の価値観や捉え方などを通して解釈が行われて認識することもあります。

自己効力感が強いほど、実際にその実現性は高くなると言われています。

また自己効力感は、困難や壁にぶつかっても、実現できるという確信度合いや信じる気持ちが立ち直りを早くし、チャレンジ精神を復活させます。

この自己効力感を高く認知したり、低く認知したり、個人によって異なるのは、過去に経験した成功と失敗が深く関わっています

成功してきた事例があればあるほど、それに関連する事例に対して自己効力感は高くなります。

新しい挑戦に関しても成功事例を多く経験していると「実現できる」という確信度合いは高まります。

実現できるという確信は、やる気やモチベーションを向上させ、実現の成功確率を高めます。

反対に失敗を繰り返すことにより「実現できない」という確信度合いが高まり、やる気やモチベーションを低下させ、時に不安や恐怖といった感情にとらわれ、失敗の可能性を引き上げてしまいます。

このような自己効力感は人格の特性として長期的に形成されることもあり、「特性的自己効力感(GeneralizedSelf-Efficacy)」と呼ばれることもあります。

自尊心や自己肯定感との違い


自尊心(英語:self-esteem)とは、自分を尊ぶ(とうとぶ)心と書くように自分のありのままの思想や言動に自信を持ち、他者に指摘されてもそれらを大切にすることを指します。

要するに自分自身を尊重する精神です。

自己肯定感(英語:self-affirmation)とは、高垣忠一郎によって提唱された概念で、良いところも悪いところも含めて自分を肯定的に認める力のことを指します。

「自分は自分であって大丈夫」という言葉が代表的です。

自己効力感(英語:self-efficacy)は、「自分は実現できる能力がある」という認知ができていることです。

意味が類似しているところもありますが、違いをまとめると

◎自尊心とは自分を尊重できる力
◎自己肯定感とは自分のありのままを肯定的に認める力
◎自己効力感とは自分の実現能力を信じて認める力

と言えます。

自己効力感の効果


自己効力感が高いことにより

・出来ると感じやすくなりポジティブ傾向が強まる
・逆境や苦難に強くなる
・問題や壁を乗り越えやすくする
・やる気とモチベーションを上げる
・肯定的精神に寄与する
・目標を達成・成功しやすくさせる
・チャレンジ精神が旺盛になる
・心身のコントロールが行い易くなる
・人間関係が良好に保たれやすい
・努力にやりがいを持て、努力する傾向が強まる
・成功事例をつくりさらに自己効力感が高まる

といった効果を期待できます。

また自己効力感が高いほど不安や恐怖の感情は減少し、心拍数は安定することが明らかになっています。

恐怖症やトラウマの治療には、この自己効力感の向上が欠かせない要素となるということです。

逆に自己効力感が低いと

・自分には無理と諦めてしまう癖がつく
・逆境や苦難に弱くなる傾向がある
・問題や壁を乗り越えにくくなる
・やる気とモチベーションが上がりにくい
・否定的精神に寄与する
・目標を未達・失敗させやすくする
・チャレンジ精神が低下する
・心身のコントロールが行い難くなる
・人間関係が良好に保たれにくい
・努力にやりがいを持てなくなり、努力する傾向が弱まる
・失敗事例をつくりさらに自己効力感が低下する

などの効果を強めてしまいます。

このように重要な働きを持つ自己効力感ですが、実はバンデューラが提唱する社会的学習理論の一部の要素でしかありません。

社会的学習理論(モデリング理論)とは?


社会的学習理論(英語:Social Learning Theory)とは、モデリング理論とも呼ばれ、学習は社会環境で相互的に行われ、自分の実体験だけでなく、観察からモデリングを行う学習も含めてさまざまな学習があることを提唱した理論です。

今では考えられないられないかもしれませんが、社会的学習理論が提唱されるまでは自分が経験したことしか学習できないと考えられていました。ですので自己効力感と同様に観察学習やモデリングによる学習を明らかにした重要な研究と理論と言われています。

ファイル:Bobodoll-en.svg
引用:Bobodoll-en.svg

■ボボ人形実験
大人たちがボボ人形を叩いたりパンチする行動を行うのを観察した子供たちは、そうでない子供たちよりもボボ人形に対して明らかに攻撃的になりました。
また大人たちが乱暴に扱わない様子を見た子供たちは同じように乱暴に扱わないことが明らかになりました。

私たちは知らぬ間にモデリングやその影響を受けていることって意外と多くないでしょうか?

3つの行動要因

社会的学習理論では、人間が「よし、やろう」と行動を決定する要因として

・先行要因
・結果要因
・認知的要因

の3つがあることを挙げています。

1つ目の「先行要因」とは、行動を起こす前(先行)における条件(要因)のことで、

  • 生理・情動反応(体調や気持ちや感情)
  • 学習の生得的機制(今まで生きてきて得た学習)
  • 予期機能(効力予期:これが自己効力感、結果予期:他者や環境に対しての効力感)

の3つがあります。

2つ目の「結果要因」とは過去の結果から学習したものを指します。

結果要因には、自分の中で行動意欲を掻き立てる「自己強化」、外部から行動意欲を掻き立てられる「外的強化」、他者の結果から喚起される「代理的強化」があります。

3つ目の「認知的要因」には、認知に基づく動機付けと随伴性の認知的表象があります。

努力すれば成功するという動機付けが強い場合、自己効力感も高まり、良好な結果を期待でき、実現に向けて良好なスタートを切ることができます。

このような認知が自然にできる場合もあれば、自らがそのように解釈して認知することもできます。

このように

  • 体調や気持ち(感情)
  • 今まで生きてきて得た学習
  • 他者や環境に対しての効力感
  • 自分の中で行動意欲を掻き立てる
  • 外部から行動意欲を掻き立てられる
  • 他者の結果から行動意欲を喚起される
  • 行動意欲が沸く動機付けができる認知
  • 行動意欲が自然に湧いてくる認知

自己効力感と関連しており、行動意欲に大きな影響を与えると言えます。

学習性無力感と自己効力感


学習性無力感(英語:Learned helplessness)とは、ポジティブ心理学で有名なマーティン・セリグマンが提唱した概念で、努力を重ねても望む結果が得られない経験が続くと「何をしても無駄だ」と認知するようになり、不快な状態を乗り越えようとしたり、脱する努力を諦めてしまうことを指します。

■マイヤーとセリグマンの学習性無力感の研究
スティーブン・マイヤーとセリグマンの共同研究では、鍵をかけた檻に犬を閉じ込め、痛みを伴う電気ショックを繰り返し与えました。2人はこれを「逃避不能ショック」と呼びました。
何度か電気ショックを与えた後、鍵を開けて、檻の扉を開き、逃げられる状況を作り、再び電気ショックを与えました。
それまで電気ショックを与えられていなかった犬たちはすぐさま逃げ出しましたが、電気ショックを繰り返し受けていた犬たちは、全く逃げようとせず、ただその場に横たわり、鳴きながら脱糞していました。
逃避不能の経験によるショックは、強烈な学習として認識され、無力感を感じ、あっさり諦めてしまいます。
このような学習から生まれる無力の認知と努力を諦めてしまう現象を「学習性無力感」と呼びました。

学習性無力感に陥ると自己効力感は著しく低下し、これからの未来に希望を持てなくなります。

精神的ショックの大きい出来事の遭遇や何度挑戦しても繰り返し失敗する経験、蓄積した慢性的なストレスなどによってそれは起きます。

軽いものだと苦手意識で終わるかもしれませんが、うつやひきこもり、自殺願望へと進展してしまうこともあります。

そのような場合、無理に自己効力感を引き上げることはせずに、今の自分を大切にしながら1ミリずつゆっくり進むように丁寧に自分を扱うことが求められます。

そのような時はカウンセリングなど専門的な相談を行うことが推奨されます。

おわりに


自己効力感について説明していきましたが、いかがだったでしょうか?

自己効力感が低くても高めることはできますし、上述したような他の要因を高める事によって自己効力感も変化し、やる気やモチベーション、可能性を高め、実現力を増していくことが可能になります。

当カウンセリングでは、「自己効力感や関連する要素」に対してのカウンセリングセッションを行っています。

今まで染み付いた思い癖、諦め癖にしっかり向き合って専門的にみていくことにより不思議とその方にとってちょうど良い捉え方や解釈が生まれ、「なぜうまくいかなかったのか」が見えてきます。

そういったさまざまな気づきを持って進んでいくと達成癖、成功癖がついてくるようになるものです。

そのようになれば自己効力感も本来のものとなります。

興味が沸いたときに是非!

■参考文献
特性的自己効力感尺度の検討−生涯発達的利用の可能性を探る−成田健一 下仲順子 中里克治 河合千恵子 佐藤眞一 長田由紀子
自己効力感の現状と今後の可能性 池辺さやか 三國牧子


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記事監修
公認心理師 白石

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