心理学にはさまざまな理論とそれに基づいた心理技法がありますが、ここでは「応用行動分析(ABA)」について説明して行きたいと思います。
もくじ
「応用行動分析(ABA)」とは?
「応用行動分析(Applied Behavior Analysis:ABA)」 とは、アメリカの行動分析学の創始者とされているバラス・スキナー(Burrhus Frederic Skinner)によって体系化されたオペラント条件づけの理論に基づき、行動に着目し、行動分析を行うことで問題の解決や改善に活用していく心理技法です。
簡単に言うと「やりたいことをやれるようにするため」の心理学の方法です。
オペラント条件づけとは、ねずみがブザーを押すと餌が出てくること学習し、押して報酬を得る頻度と速度が早まることです。
特定の状況下で自発的または道具を使って行った行動に対して、報酬または罰を与えることにより、その行動を起こす頻度を強化したり、弱化したりする学習反応のことを指します。
また消去という概念では、得られていた報酬などが得られなくなって行動減少したり、不快刺激がなくなり行動が多くなるようなことを指します。
■消去バーストについて
強化されていた行動が、消去される前に一次的に爆発的に行動が増える現象です。もともとあった好子がなくなり、していた行動が爆発的に増えるといったものです。駄々をこねるとお菓子をもらえていたが消去するためにお菓子を与えないと駄々のこね方が酷くなるという感じです。ある程度は仕方がないことですので消去の手続きを継続することが大切です。(酷い駄々のこね方をすると可哀想だからお菓子をあげるという行為は良くないということです。)
上記引用:オペラント条件づけ-Wikipedia
多くの場合、良いことが起きやすい行動は多くなり、不快な嫌な現象が起きやすい行動は避けるものです。
「応用行動分析(ABA)」 では、このオペラント条件づけの理論をうまく活用し、目標とする行動を明確化し、実際に実証しながら目標行動を学習していくように促していきます。
※行動といっても実際の行動に加えて感情や思考なども含みますが、実際に見える行動に着目していきます。
まず最初に応用行動分析(ABA)の基本理論となる「ABC分析」から説明していきたいと思います。
応用行動分析(ABA)はどういう方に用いられているか?
専門家による応用行動分析(ABA)は、主に自閉症や発達障害にその有効性が示されているため、その特徴を持つお子様に用いらます。
アメリカでは科学的根拠のある心理療法・治療として保険適応が可能な州も増えています。
またその有用性が広い特徴があるため、
●子育て(お子さんの行動変容アプローチとして)
●ペットのしつけや教育
●一般相談によるカウンセリングや心理相談
●ビジネス面やスポーツ科学での応用
●組織マネジメント
などでも応用され、活用されています。
ABC分析
応用行動分析(ABA) で良く用いられる「ABC分析」は、
①先行事象(Antecedent)
②行動(Behavior)
③結果(Consequence)
の3つの要素(頭文字)から構成されています。
もう少しわかりやすい言葉でみると、
①どんな時に(環境や欲求含む)?どんなきっかけで?
②どんな行動をして?
③どんな結果になった?
という内容を明らかにすることから始まります。
きっかけにアプローチをすることで良好な結果がもたらされる場合もあれば、結果にアプローチする方が良い場合もあります。
行動を促す良いきっかけを作ったり、報酬を得られるように設計(強化)したりすることもできます。
また行動を減らす場合は、きっかけを変えたり、報酬や罰などを変化させて「消去」する方向へ持っていくことも考えられます。
①の先行刺激では、行動を起こす「きっかけ」や「手がかり」になるものです。
外的な要因だと場所や時刻、広告などの環境が該当し、内的な要因では空腹感やイライラなどによって行動を起こすもののことです。
別の言い方で言えば、行動が起きる前の出来事です。
この先行刺激に関して、その刺激があるときに行動が強化されたり(増えたり)、弱化(減ったり)させるものを「弁別刺激(SD)」といいます。(弱化として働く刺激を「弱化の弁別刺激(SDP)」という場合もあります)
弁別とは分けて理解していることで、例えば、食事の時間に音を流してから毎日食事をしている場合、経験的にその音を弁別して「食事の時間」と理解できることです。(そんな家はあまりないと思いますが、赤信号で止まる、青信号で進むみたいなことです)
②の行動は、そのきっかけや手がかりにした行動のことを指します。
③の結果は、その行動によって起きた結果のことを表します。
この結果によって行動を増やす(強化)ことや減らす(弱化)ことが起こります。
※「好子」とは欲している嬉しい刺激で、「嫌子」とは避けたい嫌な刺激のことです。
上の図を少しわかりやすく説明すると、
正の強化は、嬉しいこと(好子)が行動後の結果にあって行動が強化(増える)ことです。
正の弱化は、嫌なこと(嫌子)が行動後の結果にあって行動が弱化(減る)ことです。
負の強化は、嫌なこと(嫌子)が行動後の結果に無くなって行動が強化(増える)ことです。
負の弱化は、嬉しいこと(好子)が行動後の結果に無くなって行動が減ることです。
なんだかややこしく感じるのはおそらく「正」と「負」の日本語的なイメージで考えると「正=嬉しいこと、負=嫌いなこと」として勝手に認識してしまうことにあるのではないかと思います。
「正」=出現(上のアンダーラインのあっての部分)、「負」=消失(上のアンダーラインの無くなっての部分)という意味ですので、「出現による強化」とか、「消失による弱化」と言ったほうが分かりやすような気がしますが。。。
とにかく行動は「負(消失)」にアプローチするよりも「正(出現)の強化」によって変化させたり、維持することが有用とされています。
押さえ込んだり、罰があるよりも褒められたり、欲しているものが手に入るほうが人間の行動を変えるには重要だということです。
嫌子や罰が多くなると回避や逃避が多くなり、新しいことにチャレンジしなくなったり、望まれる行動に目が行かなくなってしまうこともあります。
問題行動の4つの目的
ABAでは、「正の強化」として嬉しいから適正な行動が増えるという方向で療育を行っていきますが、問題行動にもアプローチしなければなりません。
その問題となっている行動は、
①何かを手に入れたい(物の獲得)
②誰かの注意・注目を得たい(注意の獲得)
③やめたい・避けたい(逃避)
④感覚刺激を得たい(感覚刺激の獲得)
の4つの目的があるとしています。
そしてABC分析を行っていく中でどこにアプローチするのか?どのような環境設定や対応を行うことが望ましいかを決定していきます。
言語オペラント
私たちの言語行動は、「他者を介して強化されるオペラント」とスキナーは定義しました。
そしてその「言語オペラント」には、
①マンド(動機付けがあって要求することで強化子を獲得する行動)
②タクト(報告することで強化子を獲得する行動)
③オートクリティック(聞き手に対して有効な言語を修飾する行動)
④イントラバーバル(多くの会話に見られる関係のある別の言葉・回答・返答を発する行動)
⑤エコーイック(発声を真似ることで同じように発声する行動)
⑥コピーイング(文字を見てその文字を書き写す行為)
⑦ディクテーション(声を聞いて文字にする行為)
⑧テクスチャル(文字を聞いたり、見たりするものを読み上げる行為)
があります。
応用行動分析ではこれらの行動に対して訓練や指導などを行っていきます。
ABAでの5つのアプローチ方法
一般的な療育などで応用行動分析(ABA)の中で用いられるアプローチとして、
①DTT(ディスクリート・トライアル・トレーニング)
②NET(自然環境教育)
③IT(機会利用型指導法)
④PRT (機軸行動発達支援法)
⑤VB(言語行動:ABA/VB療育・VB指導法)
の5種類のアプローチがあります。
詳しくは、「応用行動分析(ABA)の5つのアプローチ(DTT・NET・IT・PRT・VB)」の記事をご覧下さい。
応用分析(ABA)の中で用いられる各技法
行動を細かく分析していくことを「課題分析」といって 応用行動分析(ABA) 技法の中で用いられます。
その内容から本人が行いやすいようにスモールステップ化していきます。
これはシェイピングという技法で、行い易いところから始め、少しずつ目標を引き上げ(漸次的接近法)、目標達成したらすぐに報酬や賛辞を与え、挫折した時は、戻ったり、目標を引き下げたり、再設定をします。
そして、
●逆行連鎖化・逆行性チェイニング(最後の手順やステップだけ本人が行う)
●順行連鎖化・順行性チェイニング(最初から教わりながら一つずつ本人が行う)
●総課題提示法(最初から最後まで本人が行う)
●行動連鎖中断法(行動連鎖の中で目標行動を成立させるために中断状況を設定する)
といった行動連鎖(チェイニング)という技法を用います。
望ましい行動を行えたときにあらかじめ報酬(トークン:代替通貨)を決めて獲得できるように「強化」していく方法もよく用いられます。
プロンプト・フェイディングという技法では、目標行動がとれるように「ヒント」や「手助け」などの刺激(プロンプト)を与えていきます。
身体、視覚、言語、モデリングなどさまざまな領域から刺激を与えていき行動学習が獲得されたら、本人がその行動を自発的に行えるようにあえて刺激を与えず(出ない場合は補助する)獲得を定着化させる「時間遅延法」を用いていきます。
なかなか目標行動を取れない場合、取り組む行動を決め、守らなければ罰則を規定し、契約する「行動契約」という方法をとることもあります。
ペナルティが弱いと契約が弱まりやすいことも多くあり、不快な刺激であればあるほどその契約は強固になっていきます。(本人の同意はもちろんあってできます)
口約束にならないように契約書を作成することで真剣に向き合っていくことができます。
実際に使ってみる 簡易版「応用分析(ABA) 技法 」
応用分析(ABA)技法をカウンセリング相談でそのエッセンスを使っていくために簡単な問いではありますが、設問と例を出していきます。※本来専門家と行うことで有益な効果を期待できるため専門的な方法は専門家とともに行ってください。
例として、「なかなかやめられない禁煙」を題材にしてみます。
①現状のなかなかやりたいけどやれない事はなんですか?(例:止めてもまた吸ってしまう)
②どんな環境やどんなきっかけでそうなりますか?(例:ストレスが溜まるとスッキリしたくて吸ってしまう)
③そしてどんな行動をとりますか? (例:罪悪感を感じながらもタバコを買いに走って吸う)
④ABCがでてどのような気づきがありますか?(例:ストレス発散で吸っている、すっきりしたくて吸っていることに気づく)
⑤目標行動はどういう行動ですか? (例:禁煙、ストレスが溜まってもタバコを吸わなくていい自分になる)
⑥どこにアプローチすると良いでしょうか?(例: 禁煙、ストレスが溜まっても違うことでスッキリさせる)
⑦トークンやチェイニング、プロンプト、行動契約は?(例:家族に伝え、失敗した場合の罰則をつくる)
⑧強化するための設定(報酬など)や弱化するための設定(罰など)(例:タバコ代分の金額を自由に趣味に使える、一本でも吸えば夕飯なし、タバコを買って満足したら吸わずに捨てる)
⑨行い易い行動段階はどこから始めます?(例:スッキリさせる方法を見つけ、その行動をする)
⑩それを続けて達成したらどのような報酬・賛辞がいいですか?(例:よくやったと自分を褒める)
このような設定ができたら実際に行動し、学習し、定着化させていきます。
うまくいかない場合は、もう少しレベルを下げたり、方法を変えたり、第三者に相談・協力を仰いだりしながら少しずつ目標を引き上げていきます。
特に前述した「消去バースト」があることも鑑みて、うまく対応できるといいですね。
うまくいかなくても「なぜうまくいかないのか?」という理解を進めていくことを大事にしてください。
例えば、「タバコを吸わない」にアプローチをしてうまくいかない場合、「タバコを買わない、もらわない」という一点にアプローチを変更して禁煙が成功した、という方策転換もこの技法ならではです。
習慣性の行動は脳神経系まで深く刻み込まれ、なかなか容易に変えることはできないものですが、逆に時間をかけて新たな習慣が神経系に定着すれば、そちらが優位になればなるほど使いやすく、行動しやすくなるものです。
そういった特性を知り、途中の苦難も知っておきながら長期的な視点で進めていくことが大切です。
カウンセリングでも有用な「応用分析(ABA) 技法 」
カウンセリングは心理相談になりますので「こころ」という目の見えない領域の話をテーマに進んでいくことが多くあります。
そういった中で「こころ」ばかりにフォーカスが行き、「行動」という重要な点に着目できないこともよく起こります。
行動が変われば心理的問題が解消されることも実際には多くあります。
行動主義、行動療法と呼ばれる心理療法はそういった視点に対して良いアプローチがたくさんあります。
問題にフォーカスしがちな人にとって、やりたいことをやれるように目標にフォーカスする 「応用分析(ABA) 技法 」 が役に立つこともあると思います。
またどこにアプローチをするのか?という点に優れており、行動が変化することに特化しているのがこの技法です。
ただ実際の臨床では、この技法のみで行うというよりはもう少し補完する技法やクライエントに適した技法の選定も必要であったりします。
どの心理技法にも言えますが、万能な技法はありません。
もっと深く専門的に説明すればいろいろある応用分析(ABA)ですが、少しでもそのエッセンスが伝わりましたら幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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記事監修
公認心理師 白石
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