お子さんの療育などで用いられる行動療法の技法に「応用行動分析(ABA)」というものがあります。

この心理学の技法は、子供のみならず、大人にも、スポーツやビジネスにも応用されることが多くなってきています。

この記事では応用行動分析(ABA)の中で用いられる

①DTT(ディスクリート・トライアル・トレーニング)
②NET(自然環境教育)
③IT(機会利用型指導法)
④PRT (機軸行動発達支援法)
⑤VB(言語行動:ABA/VB療育・VB指導法)

の5種類のアプローチについて書いていきたいと思います。

応用行動分析(ABA)とは何か?


「応用行動分析(Applied Behavior Analysis:ABA)」 とは、アメリカの行動分析学の創始者とされているバラス・スキナーによって体系化されたオペラント条件づけの理論に基づき、行動に着目し、行動分析を行うことで問題の解決や改善に活用していく心理技法です。

簡単に言うと「やりたいことをやれるようにするため」の科学的な心理学の方法です。

オペラント条件づけとは、ねずみがブザーを押すと餌が出てくること学習し、押して報酬を得る頻度と速度が早まることです。

特定の状況下で自発的または道具を使って行った行動に対して、報酬または罰を与えることにより、その行動を起こす頻度を強化したり、弱化したりする学習反応のことを指します。

応用行動分析(ABA)では、このオペラント条件づけの理論を基にこれから説明する「ABC分析(三項随伴性)」を行っていきます。

ABC分析

三項随伴性(ABC分析)

応用行動分析(ABA) で良く用いられる「ABC分析」は、

①先行事象(Antecedent)
②行動(Behavior)
③結果(Consequence)

の3つの要素(頭文字)から構成されています。

もう少しわかりやすい言葉でみると、

①どんな時に(環境や欲求含む)?どんなきっかけで?
②どんな行動をして?
③どんな結果になった?

という内容を明らかにすることから始まります。

行動の結果によって良いこと(好子)があれば、その行動は増え(強化)、嫌なこと(嫌子)があれば、その行動減り(弱化)ます。

そのため報酬や罰、好子や嫌子の設定を行うことで行動の強化と弱化に影響を与えることができます。

またきっかけにアプローチをすることで良好な結果がもたらされる場合もあれば、結果にアプローチする方が良い場合もあります。

ではここから5種類のABAのアプローチ法について説明していきたいと思います。

DTT(ディスクリート・トライアル・トレーニング)とは?


DTT(ディスクリート・トライアル・トレーニング)とは、ABAを利用したトレーニングで最も代表的なもので、1960年代カルフォルニア大学ロサンゼルス校で自閉症スペクトラム(ASD)児に対して早期集中療育としてスタートしました。

創始したイヴァ・ロヴァースの名にちなんで「ロヴァース法」や英語訳として「不連続試行法(断続試行法)」とも呼ばれています。

先ほどの三項随伴性(ABC分析)の中の「A 先行事象(きっかけ)」と「C結果」にアプローチを行い

①適応的な行動を促す
②不適応な行動を減らす

ことを行います。

ディスクリートは日本語で「断続(不連続)」や「個別的な」という意味が有ります。

療育の現場を利用されている方はわかりやすいと思いますが、療育現場でよく用いられている方法です。

指導員が変わっても同じ指導が可能な「構造化」がされており、一つの課題を何度も繰り返しトレーニングしていくことで学習を促していきます。

指導員は、目で見るヒント(視覚プロンプト)、言葉によるヒント(言語プロンプト)、体を使ったヒント(プロンプト)を出し、正答できるようにしていきます。

ヒント(プロンプト)があってもなくても正答できれば褒めるなどの報酬を与えることでABC分析の行動が増える(強化する)という仕組みです。

その対象となるお子さんのレベルや獲得したいスキルに合わせた課題を選び、行い易いところから徐々にステップアップしていく(スモールステップ化)ことを大切にしています。

DTTは、基本的には席に着席し、指導員の指示に従ってトレーニングを行います。

①指導員に注目する
②指示を出す(必要によりプロンプト)
③指示に従った適切な行動
④褒める(報酬)や好子(好きなもの)を与える

といった流れで行います。

具体的な事例で言うと、「本を正しく認識できるスキルを身につけたい」という場合、

机の上に本を置いて、「本を指差して(触って)」と指示をし、その課題を10回1セットを3セット行います。

このようなトライアル(試行)を「マストライアル」といいます。

実行できれば次の難易度に挑戦します。

次に机の上に本以外のものも置いてどちらが「本」であるかを識別できるように指示をします。

このトライアル(試行)を「ディストラクタートライアル」といいます。

その課題ができたら本を指差して(触って)という課題を行い、そのお子さんが習得しているスキル(例えば椅子から立って)と別の課題を指示し、また本を指差し(触って)などの課題に戻ることを行います。

このトライアル(試行)を「エクスパンディッドトライアル」といいます。

全く別の課題を提示されても本を指さす(触る)ことができるようになったら複数の名前を覚えた他の物を同じ机に置いて、「本を指差して(触って)」「えんぴつを指差して(触って)」「消しゴムを指差して(触って)」という課題を行います。

このトライアル(試行)を「ランダムローテーション」といいます。

このDTTのメリットも多いですが、療育現場のみの場面限定的になりやすい特徴もあり、日常生活のスキルの獲得も並行して行うことで実際の日常に応用される「般化(はんか)」が促されます。

またその子の親は「優れた教師」になり得ると研究結果からも裏付けられているように指導者のみならず親も積極的に参加していくことで良好な療育を行うことができます。

NET(自然環境教育)


NET(英語:Natural Environment Teachingの略名)はDTTへの批判から生まれた自然環境での教育を行うものですが、同じABAの基礎的原理をベースとして実践されています。

子供を椅子に座らせる必要は無く、自然な流れや遊びの中で指導員と自然な強化子を用いて学習とトレーニングを行っていきます。

DTTでは習得したスキルを一般生活に応用する「般化」を促すことは得意としていません。

このNETはスキルを新たな環境や新たな場面で活用できるようにトレーニングできることに特化しています。

スキルを習得しても実生活で生かせなければ意味がありませんし、使わなければそもそも忘れてしまうことにつながってしまいます。

そういった意味でDTTとNETは相互補完的に用いることができます。

指導員と対象児童のみならず、このアプローチも両親と協力し、実生活で療育現場や園などで学んだことが活かせるようにトレーニングを行うことが大切です。

ただNETでは子供の興味が頻繁に変わることで目標を機能的に保つことが難しい場合があります。

IT(機会利用型指導法)


IT(英語:Incidental Teching)は、機会利用型指導法とも呼ばれ、子供に好きな活動をしてもらうというNETと似ている自然環境を用いますが、児童の主体性を引き出したり、合間に指示やプロンプトを出します。

楽しい活動や遊びを利用して学習やスキルの獲得を行っていきます。

また子供の方から自発的に他者へ要求を行うような環境設定をすることで言語行動やコミュニケーション能力の向上につながっていきます。

偶発的な機会を利用することで「般化」が促され、スキルの獲得と応用に繋がっていきます。

PRT(機軸行動発達支援法)とは?


機軸行動発達支援法(英語:Pivotal Response Treatment、以下略名:PRT)とは、

①動機付け
②対人へのやりとりのきっかけ
③多様な刺激に対する反応性
④自己管理
⑤共感

といった中核になる領域「機軸」に焦点を当てて介入を行っていく技法です。

ロバート・ケーゲル博士とリン・ケーゲル博士によって開発され、2005年にカンザス大学のリチャード・シンプソン教授がPRTを科学的に基づいた自閉症治療の重要な治療であるとしました。

PRTでは、自然な遊び場を設定して子供の主導で自然な強化子を用いてセラピーが行われます。

ですのでDTTよりも日常生活スキルを自然に学ぶことができやすくなり、お子さんの主体性も伸ばすことができます。

例えば「本をちょうだい」と要求(マンド)を行うことができれば、その「本」を渡すといった日常的なスキルなどが該当します。

場所は自然な状態である「その子の家」や「公園」で行いますが、療育現場でもこのアプローチを用いてできる限り自然に行うこともあります。

PRTでは、

  • 注意を引く
  • 多様な手がかり刺激を与える
  • 明確で適切な先行刺激を与える
  • 子供が主体的に活動を選択する
  • 最適な強化子を提示する
  • 試み行動を強化する
  • 習得した課題と新規の課題を混合させる
  • 交互交代を行う

といった点を重要視しています。

DTTではなかなか行えない自然な環境化による習得とその応用である「般化」が行いやすく、日常スキルの獲得に非常に有効な支援法であると言えます。

こちらもご両親もPRTを学んでいくことによってご家庭でも療育環境を整えていくことができます。

VB(言語行動)


VB(英語:Verbal Behavior)とは、スキナーが「言語も行動である」として考えたことから生まれた「言語行動」という概念です。

私たちの言語行動は、「他者を介して強化されるオペラント」とスキナーは定義しました。

「言語行動」には、

①マンド(動機付けがあって要求することで強化子を獲得する行動)
②タクト(報告することで強化子を獲得する行動)
③オートクリティック(聞き手に対して有効な言語を修飾する行動)
④イントラバーバル(多くの会話に見られる関係のある別の言葉・回答・返答を発する行動)
⑤エコーイック(発声を真似ることで同じように発声する行動)
⑥コピーイング(文字を見てその文字を書き写す行為)
⑦ディクテーション(声を聞いて文字にする行為)
⑧テクスチャル(文字を聞いたり、見たりするものを読み上げる行為)

があります。

私たちは言語を用いて思考し、行動も言語と密接な関係にあることから「言語の理解と使い方」を習得することが非常に大切になります。

このVB(言語行動)をABAに取り入れたアプローチが「ABA/VB療育(VB指導法)」というものになります。

「ABA/VB療育(VB指導法)」では遊びを通して指導員との会話や他者とのコミュニケーションを行い、そのお子さんにとって必要な言葉から効率よく学習できるように実施していきます。

また言語だけでなく、言語の代わりになるサインやジェスチャーなどを覚え、使用していくことでコミュニケーションを円滑にさせ、言語習得にもつながっていきます。

記事監修
公認心理師 白石

「皆様のお役に立ちますように」

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