知っていると役に立つ心理学として「ストレス・コーピング」について説明していきます。

ストレスとは


ストレス(英語:stress)という言葉自体は、物質に力が加えられた時に生じる歪みや反発力を意味する物理学用語に由来しています。

ストレスとは、「外部環境からの刺激によって起こる歪みに対する非特異的反応」であり、ストレッサーとは、「ストレスを引き起こす外部環境からの刺激」であると生理学者ハンス・セリエ(英語:Hans Selye)は定義しました。

ようするにストレッサーからの刺激を受けた時の反応がストレスということです。

例えば、「上司の不条理な判断でイライラした」といったケースの場合、「上司の不条理な判断」がストレッサー、「イライラした」がストレス反応ということになります。

ストレッサーには、

  1. 物理的ストレッサー:猛暑、寒冷、騒音、光など
  2. 化学的ストレッサー:タバコ、有害物質、排気ガス、アルコール、大気汚染、化学物質など
  3. 生物学的ストレッサー:細菌、ウイルス、真菌、花粉など
  4. 精神的ストレッサー:怒り、恐れ、不安、憎しみ、悲しみなど
  5. 社会的ストレッサー:家庭、学校、職場の環境など

などがあります。

ストレスコーピングとは?


ストレスコーピング(英語:stress coping)とは、ストレスに対処する(コーピング)ことを意味する言葉です。

ストレスコーピングという言葉は、アメリカの心理学者ラザルス(Lazarus,R.S)とフォルクマン(Folkman,S)によって提唱されました。

ラザルスとフォルクマンは、単にストレッサーがストレスになるといった一方向の考えだけではなく、その間に認知的評価があることに着目しました。

認知とは、対象を知覚した上で、それが何であるかを判断したり解釈したりする過程です。ものごとの考え方や捉え方、信念、バイアス(偏り)などによって知覚する情報の解釈が異なってきます。

一次評価

最初に行われる一次評価では、その刺激が自分にとって脅威であるかどうかを評価します

  1. 無関係
  2. 無害-肯定
  3. ストレスフル(「害-損失」「脅威」「挑戦」)

の3つ(細かく見ればに5つ)に分類します。

その出来事が意味を持たない場合や得るものも失うものがないと評価するものを「無関係」、その出来事には害がなくプラスになると評価するものを「無害-肯定」といいます。

ストレスフルには、出来事に害があり何かしら失われたと評価する場合の「害-損失」、脅かされたもしくは今後も脅かされるといった「脅威」、害はあるものの利益や成長がとなもう場合の「挑戦」などの評価があります。

有害か無害か、有益か損失かを評価する一次評価ですが、個人の認知により評価が異なります。

例えば「上司からの指摘」があった場合、人によっては「無害-肯定」や「挑戦」として扱える場合もあれば、「害-損失」「脅威」として害悪でしかないように見える場合もあるということです。

前者は指摘されることで自分の至らないところに気づき成長できるという考え方や認知が強い傾向に多く、後者は指摘される=ダメな自分を露呈した・傷つけられたといった受け取り方が強い傾向の場合に起きることが多いと思います。

そういった自分の考え方・捉え方・信念・認知などが評価に大きく影響しているのです。

上記の5つの分類に合わせてこのような認知傾向を知り、適切に修正・変容していくことも大切です。

二次評価

二次評価では、一次評価で「ストレスフル」と評価したときに、過去の経験や周りにある資源などを考え併せて、その出来事や状況に対してどう対処すべきか判断していく段階です。

  • そのストレスに対処する方法を知っているか?考えられるか?
  • その対処方法は実現可能か?

という2点が二次評価で大切なポイントです。

自分で考えたり、誰かに相談することによって判断を行い、

  • 自分で乗り越えていく
  • 他者に働きかける
  • 環境に働きかける

など対処行動を行っていきます。

選択した対処法(コーピング)を実行に移し、その結果から再評定をしたり、コーピングの再選択を行います。

コーピングには、主に問題解決を中心に置く「問題焦点型コーピング」と感情を中心に置く「情動焦点型コーピング」の2種類があります。

問題焦点型コーピング

問題焦点型コーピングとは、直面しているストレッサー自体に対処していくことで問題を解決していくコーピングです。

「上司の不条理な判断でイライラした」という前述した例でいくと、

・上司の不条理な判断が起きないように事前に働きかける(行動的対処)
・その上の上司に働きかける(行動的対処)
・上司に直接問題を提起する(行動的対処)
・あえて対決する(行動的対処)
・転職や職場の転属を行う(行動的対処)
・上司な不条理な判断に慣れる(行動的・認知的対処)
・同僚の助けを得る(行動的対処)

などの対処が該当します。

多くの場合、行動的な対処によってストレスコーピングが行われます。

ストレスコーピングでは、「コーピング能力が高い人ほど、人に相談できる」といわれています。

自分の力だけではなく、周囲の助けも借りていくことも大切です。

そういった周囲の助けや社内の相談部門、公的な相談窓口などを利用することを「社会的支援探索型コーピング」ともいいます。

また不適切なコーピングにより事態が悪化し、ストレスが大幅に増えてしまう事態になることもあり、慎重にストレスコーピングを行う必要があります。

しかしながら問題を問題として提起することも大切であったりします。

情動焦点型コーピング

情動焦点型コーピングとは、ストレッサー自体ではなく、ストレスを感じたこころの情動(感情や思い)に対してアプローチをしていくストレスコーピングです。

前述の例で説明すると、

・不条理な判断に対する苦手意識を克服する(認知的対処)
・ストレス発散・気晴らしを行う(行動的対処)
・人に相談する(行動的・認知的対処)
・ポジティブに捉える(認知的対処)
・あえて気にしない(認知的対処)
・ストレス耐性やレジリエンスを向上させる(認知的対処)
・認知の偏りを修正する(認知的対処)

などが該当します。

自分のこころの認知を修正、成長させていく対処のことを「認知的再評価型コーピング」といいます。

多くの場合、この2種類の「問題焦点型コーピング」と「情動焦点型コーピング」を上手く組合わせて対処していくことが必要とされます。

メカニズムから考えるストレスコーピング


ストレスを感じるメカニズムとして以下のような流れが基本としてあります。

ストレッサー

抵抗性(耐久性)・脆弱性・認知的評価

ストレス反応

耐久性・対処能力・回復力

変化したストレス反応もしくは消失

まずはストレッサーに対する「抵抗性(耐久性)」「脆弱性(ぜいじゃくせい)」がどれほどあるかによって、その衝撃であるストレスの大きさが異なります

※脆弱性とは、弱さや脆さ(もろさ)といったこころの側面を意味します。

「抵抗性(耐久性)」「脆弱性」は遺伝的影響を受けますが、その後の環境や成長によって変容していきます

その抵抗性や脆弱性を大きくも小さくもするのが、「認知的評価」になります。

その抵抗性と脆弱性、認知的評価のフィルターを通って「ストレス反応」が起こります。

ストレス反応には、精神的なストレス反応もあれば、身体的ストレス反応もあります。

ストレスが判明した後どのように対処するか?どのように回復するか?は当人次第であり、そのストレスコーピングは千差万別です。

ストレスに対して耐性や回復力を持つには、

  • 抵抗性や耐久性のレジリエンスの向上
  • 認知的評価の修正や成長
  • 脆弱性の克服
  • 対処能力の多様性を持つ
  • 対処する力自体を育てる
  • ストレスから回復する力(レジリエンス)の向上

といったことが大切になります。

上記の「5つの要素」に対するコーピング能力を高めることによってストレスを感じにくくなったり、ストレスを跳ね返す力が備わったり、回復が早くなったりするということです。

コーピングとレジリエンスの違い


コーピングは、問題やストレス反応が起きた後の対処行動を指します。

レジリエンスは、問題やストレスに対する抵抗力、耐久力、回復力を指します。

先ほどのストレスのメカニズムから違いを見ていくと

ストレッサー

抵抗性(耐久性)・脆弱性・認知的評価

ストレス反応

耐久性対処能力回復力

変化したストレス反応もしくは消失

オレンジ色がレジリエンス、青色がコーピングになります。

緑色の「認知的評価」はレジリエンスにもコーピングにも影響を与えます。

コーピング能力とレジリエンス能力によってストレス反応が大きく変化し、反応の改善や消失に大きく貢献しています。

レジリエンスは、上記の「脆弱性(英語:vulnerability)」の反対の概念で「自発的治癒力」という意味もあります。

レジリエンスがあるからこそ、心理的ホメオスタシス(psychological homeostasis)としてストレッサーに曝露されても心理的な健康状態を維持することができます。

レジリエンスを構成する

  • 自分の人格を大切にする「自尊心」
  • 気を楽に持つ「楽観力」
  • 落ち着きを保つ「感情調節力」
  • 理性的にコントロールする「衝動調節力」
  • 原因を理解する「原因分析力」
  • 共感する「シンパシーとエンパシー」
  • 他者と「繋がる力」
  • 自分は実現できると思える「自己効力感」
  • 働きかける能力の「リーチアウト力」

などの能力を高めることにより、レジリエンス能力も向上します。

認知的評価


ストレッサーに対する捉え方や受け止め方である「認知的評価」はレジリエンスにもコーピングにも大きな影響を与えます。

また脆弱性を増長させてしまう認知もあるため、その広範な影響は計り知れません。

上述の例「上司の不条理な判断でイライラした」で考えると、上司の不条理な判断というストレッサーに対してイライラするという情動が生まれるにはその間に認知的評価が内在しています。

「不条理なことは絶対に許されない」と認知している場合、イライラや怒りの感情が強くなります。

「仕事をしていたら不条理なことはつきものだ」と肯定的に認知している場合、そのイライラは少なく、収まりやすいものとなります。

このように当人がどのような認識、考え、解釈、信念をもっているかによってストレスは大きくも小さくもなりえます。

認知的評価に偏りがあるとストレス反応も偏りの影響を受けます。

認知の偏り

ストレスを大きくしてしまう認知の偏りの代表的な10パターンを紹介します。

①0か100か?白か黒か?というような極端な判断軸(二極思考)で考えてしまい、グレーがない認知パターンである「全か無かの思考(All-or-nothing)」

②一部の要素をすべてのことのように当てはめて捉えてしまう認知パターンである「過度の一般化(Overgeneralization)」

③「~すべき」「~しなければならない」といった基準で物事を考え「そうでなければならい」と思ってしまう認知パターンである「すべき思考(should statements)」

④ネガティブや否定的な側面ばかり目がいき、それが全てであるように思い込んでしまう認知パターンである「マイナス化思考(Disqualifying the positive)」

⑤全体的に見ることができず、悪い部分のほうへ目が行ってしまい、良い部分が除外されてしまい結果、現実を悪く見てしまう認知パターンである「選択的抽象化(selective abstraction)」

⑥当人に確認することなくネガティブや否定的に推測してしまう「心の読み過ぎ(Mind reading)」と物事が悪い方向になると先読みしてしまう「先読みの誤り(Fortune-telling)」の二種類の認知パターンがある「結論の飛躍(Leap conclusion)」

⑦事実や根拠よりも感情を根拠として、自分の考えが正しいと結論を下す認知パターンである「感情の理由づけ(Emotional reasoning)」

⑧失敗や悪いことが実際より大きくみえる「拡大解釈(magnification)」と成功や良いことが小さく見える「過小解釈(minimization)」

⑨「私は~な人間だ」「あの人は~な人間だ」というようにレッテルを貼り、誤った人物像を創作してしまう認知パターンである「レッテル貼り(labeling)」

⑩自分とは関係ないものでも自分のせいだと自責の念や罪悪感を感じたり、自分を称賛してしまう認知パターンである「個人化(personalization)」

中核信念(コアビリーフ)とそこから生まれるもの

中核信念(コアビリーフ)とは、①自分自身について、②他者について、③自分をとりまく世界に持っている信念の中でも最も重要な核(コア)になっている信念のことをいいます。

物事に対して何故そう思うのか?という疑問を自己に投げかけた時にその考えや解釈の大元になっている信念ということです。

前述した例で行くと、

なぜイライラする?⇨「不条理な判断を行う人間は許せない」⇨なぜ?⇨「昔から許せない」⇨なぜ昔から許せない?⇨「親がいつもそうだったから」⇨なぜそんなに不条理な判断を自分に対して行っていたと思う?⇨「自分は愛されていない」「人はいつも身勝手だ」「人生はわたしにあまりに不条理だ」

というように「自分は愛されていない」という自分自身に対する中核信念や「人はいつも身勝手だ」という他者に対する中核信念、「人生はわたしにあまりに不条理だ」という取り巻く世界に対する中核信念をみつけることができます。

これらの中核信念自体は悪いものでないこともありますが、その中核信念に否定的情動が強かったり、許せない憎しみなどの感情も強く同期している場合、当人にとってその現象はただの出来事では済まされない心的な苦しみになります。

そういった中核信念に対して、心理的アプローチを行うことで情動の軽減や消失が起こり、最適な中核信念に回帰できるようになります。

こういった中核信念がさまざまな思い込みや解釈に影響を与え、認知的評価を構成し、レジリエンス、コーピングに影響を与えています。

おわりに


ストレスコーピングについて説明してきましたが、いかがだったでしょうか?

ストレスに対処する能力は年々注目されており、私たちの人生に大切な役割を果たしてくれます。

自分が行ってこなかったコーピングでも、やってみると実に効果が高いコーピングもたくさんあるものです。

ちょっとしたアイデアによって転覆しかけていた人生に逆転劇をもたらすこともあります。

この機会にコーピングの駒を増やしてみてはいかがでしょうか?


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記事監修
公認心理師 白石

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