ビジネスや産業分野など組織の中での心理学について研究されてきている「組織心理学(産業心理学)」について、この記事で書いていきたいと思います。

組織心理学とは何か?

組織心理学は応用心理学の一つの分野で産業などの組織における人間行動を科学的に研究する学問です。

応用心理学とは、基礎心理学で解明されたメカニズムや原理を応用して社会に役立てていく心理学になります。

応用心理学には、組織心理学以外に

  • 臨床心理学
  • 災害心理学
  • 環境心理学
  • スポーツ心理学
  • 動物心理学
  • 教育心理学
  • 認知心理学
  • 犯罪心理学

などがあります。

組織心理学は1960年代頃より発展したまだ新しい心理学です。(当初は産業・組織心理学と呼ばれていました)

研究がすすめられ、実践的に応用がされはじめ、近年では国連やNASAなどでも組織心理学を利用しています。

組織に所属すると人間個人の状態とは異なり、

  • 職務や権限などが生じる
  • 上下関係が生じる
  • 集団力学が加わる
  • 職位や階層がある
  • 職務や人間関係などの相互関係が生じる
  • 指揮命令や社内(社会)ルールに縛られる

などによる影響が生まれます。

ですので個人の状態とは異なる心理的影響を受けます。

そういったところを解明していき、現場で使えるように応用していくことがこの組織心理学に求められています。

具体的には、

  • 組織における人間心理と相互関係は?
  • リーダーシップをどうすれば発揮できるか?
  • どのようにしたらモチベーションが上がるのか?
  • 職場の多様性を保つにはどうすればいいか?
  • パフォーマンスを長期的に高く発揮するためには?
  • 適切な組織内コミュニケーションとは?
  • 現場のアイデアが意思決定者に伝達されるには?
  • 組織改革を行うためには?
  • 人間が興味を持つ、惹かれるものとは?
  • 仕事の動機付け
  • 勤労意欲の仕組み
  • 作業行動のしくみ
  • 消費者行動のメカニズム

などの内容について科学的に研究がされています。

次に組織心理学において研究され、発表された理論の一部をご紹介します。

様々な組織心理学の理論やバイアス


損失回避性

損失回避性(英語:loss aversion)とは、得するよりも損する方を嫌い回避したり、少しの損失でも本来の数値より強く損を感じてしまう認知バイアスです。

「これをすると10万円得ですよ」という情報と「これをしないと10万円損しますよ」という情報では、損してしまう情報の方が重要視してしまう傾向があります。

「損失回避の法則」とも呼ばれます。

プロスペクト理論では、研究調査によって「人間は、利得よりも損失を2.5倍くらい大きく感じる」ことがわかっています。

ピグマリオン効果

ピグマリオン効果(英語:pygmalion effect)とは、期待によって学習・成績・成果が向上する認知バイアスです。

他者からの期待値がその後の成長を決定づける大きな要因のひとつになると考えられています。

「教師期待効果」「ローゼンタール効果」とも呼ばれます。

リンゲルマン効果(社会的怠惰)

共同作業の時に無意識に手を抜いてしまうような現象をさします。

集団になることで責任感が薄れ、同調行動によって促され、手抜きが起きやすくなるというものです。

これは心理的・認知的な面もあれば、肉体的な行動に関しても起きます。

1人の時のパフォーマンスが100%とした場合、

2人の場合は93%

3人の場合は85%

4人の場合は77%

と人数が増えれば1人が発揮する力が減少していきます。

似ている効果に傍観者効果というものがあり、集団になると率先して行動を起こしにくくなり、傍観しやすくなるというものです。

確実性効果

確実性効果(英語:Certainty effect)とは、不確実なものよりも確実なものを好む認知バイアスです。

プロスペクト理論の一つです。

100%だけではなく0%も含む確率の極端な数値に感応度が高くなります。

コンコルド効果(埋没費用効果)

コンコルド効果(英語:Concorde effect)とは、ある対象への金銭的・精神的・時間的投資や努力をしつづけることが損失につながるとわかっているにもかかわらず、それまでの投資や努力を惜しみ、やめられない状態を指す認知バイアスです。

別名「埋没費用効果(英語:sunk cost effect)」とも呼ばれます。

同調バイアス

同調バイアス(英語:Majority bias)とは、他者や大多数の人たちに合わせてしまう、同調してしまう認知バイアスです。

功を奏すこともありますが、大多数の人間が大きな過ちを犯すこともあり、注意が必要であったりします。

バンドワゴン効果

バンドワゴン効果(英語:bandwagon effect)とは、ある選択肢を多数が支持している場合、その選択肢を選択する者を更に増大させる効果をもたらせる認知バイアスです。

「人が持っているものが欲しくなる」「人気があるものに興味が出る」といった場合が該当します。

人気者がより人気がでるものもこの効果によります。

保有効果(授かり効果)

保有効果(英語:endowment effect)とは、所有した物や今の環境を高く評価し、手放すことや環境が変化することを損と捉えてしまう認知バイアスです。

自分の持ち物や環境、心理状態などに愛着があると捉えることもできます。

プロスペクト理論では利益を得ようとするとき「確実に手に入る」ことを優先し、損失は「最大限回避する」ことを優先する法則があります。

グーグルにおける組織心理学の応用モデル


組織心理学を取り入れたGoogleの取り組みモデルでは、

① チーム内の「心理的安全性」が高いこと
② チーム内の「信頼性」が高いこと
③ チーム内の「構造」が「明瞭」であること
④ チームの仕事に「意味」を見いだしていること
⑤ チームの仕事が社会に対して「インパクト(影響)」をもたらすと考えていること

とされています。

その中でも注目すべきは「心理的安全性」です。

心理的安全性

組織心理学者のエイミー・エドモンソンは心理的安全性を「チーム内において対人関係上のリスクをとったとしても安心できるという共通の心理状態」と定義しました。

組織において、他者やチーム内で

  • 無知・無能だと思われる不安
  • 足を引っ張っている(邪魔をしている)と思われる不安
  • 悲観的(ネガティブ)だと思われる不安

という不安を抱えることは少なくありません。

その不安を解決するために大きな労力を消費したり、本来のパフォーマンスを発揮することができなくなることが二次的に起こります。

そのある種無駄な感情労働を減らし、心理的に安全な組織にしていくことで、離職率は低下し、アイデアが豊富にでて、信頼関係や協力体制が向上し、仕事のパフォーマンスも発揮しやすい状態になります。

そのためには、他者の特性を理解し、発言やチャンスの平等性、交流・協力しやすい職場づくり、評価方法の見直しなどが求められます。

心理的安全性についてはこちらの記事をクリックしてご覧ください。【心理的安全性とチーミング】

おわりに


いかがでしたでしょうか?

一生のうちで多くの時間を費やす職場や組織(家族含む)。

その中で心地よく、心理的安全な状態(自然体)で生活できることは人生における幸せやWell-beingにも非常に強い影響をもたらしてくれます。

組織心理学をうまく活用していくことで、

良い組織が増え、

良い会社も増え、

良い地域になっていき、

国の幸福度も高まり、

世界がより平和になっていく、

そんな足掛かりにもなるように個人的には思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

記事監修
公認心理師 白石

「皆様のお役に立つ情報を提供していきたいと思っています」

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