この記事では「学習障害(LD)」とその障害での特徴的な苦手なところ、困り事、原因や要因などについて書いております。
もくじ
学習障害(LD)とは?
学習障害(英語:Learning Disorders、略名:LD)とは、全般的な知的発達に遅れがないものの、読み書きや計算などの学習や行うことが困難な状態をいいます。
健常児(者)とは異なった学習アプローチをするため「学び方の違い」と呼ばれる場合もあります。
診断がなかなか難しいところもある障害ですが、100人中3~5人はこのような学習の困難さを持つお子さんがいると言われています。
クラスでいうと教室に1~3人くらいいるといった割合です。
ADHDやASDなどを併発していることも多く、それらの状況も踏まえて配慮や支援がされる必要があります。
発達障害の中にある「学習障害」は読み書きや計算などの学習障害はありますが、会話や判断力などの知能面では障害があまり見られません。
「知的障害」では学習面に加えて知能面においても障害を持つことが大きな違いとなります。
学習障害(LD)の困り事と苦手なこと
学習障害は大きく分けて
①読むことが難しい「識字障害(ディスレクシア)」
②計算や推論が難しい「算数障害(ディスカリキュリア)」
③書く事が難しい「書字表出障害(ディスグラフィア)」
の3つのタイプに分けられます。
ではつぎに上記3つの障害の困難なところを具体的にみていきたいと思います。
①の「識字障害(ディスレクシア)」では、
- 幼児期に文字に興味を持たない(覚えようとしない)
- 読み方がわからない
- 文字と音が結びつかない
- 単語が理解できない
- 文字を間違えずに読むことが難しい
- すらすらとスムーズに読むことが難しい
- 音が記憶できない
- 形の似ている文字の分別が難しい
- 文字が歪んだり、にじんだり、ぼやけてみえる
- 読んだ内容を理解するのが難しい
- 文字や本を読むとすぐに疲れる
- 自分で変えて読み替えてしまう
- 指で読んでいる場所を抑えていかないと読めない
といった困り事や苦手な特徴があります。
似たような障害として脳の損傷によって起きる「失読症」があります。
音韻処理の問題や視覚情報処理課程の問題があり、その活動を行う脳の基底核が過活動していたり、前上側頭回が低活動している状態が研究によって明らかになってきているようです。
識字障害への正しい知識と理解を深め、できることに注目しながら視覚機能を高めるトレーニングやそれらを意識した生活を送るなどの工夫が必要になります。
②の「算数障害(ディスカリキュリア)」では、
- 数を数えることが難しい
- 大小や概念を理解するのが難しい
- 簡単な計算が難しい
- 自分で計算式をつくれない
- 数学に関する記憶が難しい
- 図形が理解できない
- 九九や暗算、筆算、分数などが難しい
- 時計を読む・理解するのが難しい
といった困り事や苦手な特徴があります。
算数障害への正しい知識と理解を深め、できることに注目しながら数を意識した生活を送るなどの工夫が必要になります。
③の「書字表出障害(ディスグラフィア)」では、
- 正しく文字が書けない
- 書く文字が判読できない
- 鏡文字を書いてしまう(左と右の認識不全)
- 書く文字のバランスが悪い
- 似た文字を書き間違える
- 書いた文字がマスや行からはみ出す
- 文法がうまく使えない
- 句読点などの打つ位置が不適切
- 書く事が苦手(書いて表現することが苦手)
- 視覚過敏
といった困り事や苦手な特徴があります。
視覚情報の処理、音韻処理、協調運動の処理などの問題によって起こるとされています。
読みが難しい「識字障害(ディスレクシア)」も併発していることも多く、その場合は「発達性読み書き障害」と読んだりもされています。
書字表出障害への正しい知識と理解を深め、できることに注目しながらも反復練習を意識した生活を送るなどの工夫が必要になります。
気をつけたい二次障害
なかなかうまくできない、みんなと同じようにできないという経験からからかわれてしまったり、怒られ続け、自信を失い、自尊心を喪失してしまうことがあります。
そういった経験からうつ病や適応障害、ひきこもりなどへと発展してしまうこともあります。
この障害の認識がない大人、先生、組織、社会によっては、障害を持つ方に「怠けている」「なんでそんなこともできないのか!」といった印象を持ちやすく、努力不足というレッテルを張ってしまいます。
本人からすると「なんで自分はこんなにダメなんだ」と思ってしまうこともありますが、「人よりも○○といったことが苦手な脳の構造や処理過程を持っている」という認識を持って、自分の特性を理解していくことが大切です。
そして問題は社会側にもあります。
「障害者権利条約」では、障害は個人ではなく社会にあるという視点を強調し、障害がある子供や大人を差別や偏見から守り、社会的理解や配慮がなされ、社会へ参加できるようにしていくことを訴えています。
障害児(者)自身の努力も重要ですが、障害児(者)以外の者や社会全体がその障害を理解し、配慮を行えるようにしようとすることがとても重要になります。
時間がかかりますので、ゆっくり地道にともに進んでいきましょう。
学習障害(LD)の原因や要因
原因や要因をみていくにあたって注意が必要なのが「○○のせいだ」といった何かの責任にし過ぎたり、責任追及に時間と労力を取られ、本来の目的である治療や改善の方向へ向かっていかないこともあります。
学習障害(LD)では「遺伝によるもの」と「環境によるもの」の双方の影響を受けていると考えられています。
現在では、先天的な脳機能の偏りの特性が発達のプロセスにおいて学習障害の症状が出てきてしまうという理解が一般的な見解です。
しかし以下のようなところも影響を与える可能性があり、その環境を整えていくことによって学習障害の改善や学習をより良いものにしていくことができます。
- 家族や関係者がその子の学習障害(LD)について理解する
- 子供が読み書き、計算が楽しく練習できるような環境にしていく
- 家族のストレスが多く、慢性的であれば、より良い状態へしていく
- テレビやゲーム、スマホの多い環境から楽しく学べる学習時間を増やす
- 子供の摂取する栄養素を整える
- 社会経済的な問題があれば改善させる
- 周囲や自治体の支援を受ける
- 治療や療育を行っていく
学習障害(LD)の得意なところや強み
同じ発達障害であっても人にはそれぞれ才能を持っていたり、得意なことがあったりします。
ついつい発達障害というレッテルでその子が持っている隠れた才能や得意なことが見えづらくなってしまうこともあるものです。
また「学習障害(LD)」において、上述したような苦手なことや困り事以外に得意なことや強みになるところもあります。
学習障害(LD)の得意なところや強みとして
①論理的思考能力が高い(複雑なことをシンプルにできる、相手にわかりやすく伝えられるなど)
②視空間能力が高く、視覚的な表現に長けている
といったところが挙げられます。
広告業界や芸能界、クリエイティブなお仕事などで活躍している方が多いのも頷けます。
ウォルト・ディズニーやスティーブンスピルバーグなどもディスレクシアを持っていたと言われており、得意なことや興味のあることに打ち込んで成功されていきました。
また有名なアインシュタインは学習障害に加えてアスペルガーも有り、子供の頃は勉強ができなかったようです。
苦手なところ改善させたり、発育を促すことも大事ですが、興味のあることを行い、長所や得意なことを伸ばしていくこともとても大切であると言えますね。
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公認心理師 白石
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