過去の心理学者・臨床家・研究者の人物像や提唱された内容から今に学べることは多くあります。

ここでは記憶研究のルーツの一人であるヘルマン・エビングハウスと「記憶と忘却曲線」「学習曲線と系列位置効果」「エビングハウス錯視」について書いていきたいと思います。

ヘルマン・エビングハウスについて


ヘルマン・エビングハウス

ヘルマン・エビングハウス(Hermann Ebbinghaus)は、1850年ドイツのバルメンで商人の家庭に生まれ、のちに記憶に関する実験的研究を行い、忘却曲線を発見したことで有名なドイツの哲学者であり、心理学者です。

17歳にボン大学で哲学を学び、戦争で一時中断を余儀なくされるものの、23歳で博士号を取得します。

学生の家庭教師として生計を立てている時にフェヒナーの「精神物理学要綱」とその数学的手順に感化されて、記憶を実験的に研究する道へと繋がっていきます。

□フェヒナーの精神物理学要綱
 1860年に精神物理学の先駆者グスタフ・フェヒナーによって、精神(心理)と身体(物質)との関係を哲学的ではなく、実験や測定によって明らかにしようとする学問体系を提唱しました。
 また彼は、フェヒナーの法則を発表したことでも有名で、100gに10gを足したときに増えたと感じる「感覚量」は、200gに20gを加えたときに増えたと感じる「感覚量」に等しいといったように、量ではなく「増加率」による感覚で知覚していることを明らかにしています。

1885年「記憶について」を公刊し、ベルリン大学の教授に就任し、心理学実験を行う研究所を設立しました。

1894年にブレスラウ大学へ移籍し、知能指数検査の基礎になる研究を行っています。

1902年に「心理学の原則」を出版し、高い評価を受け、1904年にハレ大学へと移り、1908年には最後の出版物になる「心理学の概要」を発表します。

エビングハウスは、その一年後に肺炎で亡くなるまで教壇に立ちました。

彼の功績の一つとして、導入・方法・結果・議論という4つのセクションに分けて記述した研究報告を行い、現在の調査報告の基準となっています。

記憶と忘却曲線


エビングハウス以前の記憶研究は哲学的なものが主流であり、古代ギリシャでは記憶の助けとなる特定の単語と詩を利用して覚える記憶術が活用され、イタリアの哲学者ジョルダーノ・ブルーノは知識と経験を図式化する記憶術を提唱するなどさまざまな記憶術が創意工夫されていました。

エビングハウスは自身を被験者として困窮するほど長時間の実験を行い、「学習と記憶」に対して数学的検証を取り入れた最初の心理学者とされています。

単語リストの研究では、無意味な単語の羅列よりも詩的な綴りの方が10倍も容易に覚えられることを発見します。

時間をかけて覚えたものは忘却が遅くなり、記憶直後が最も記憶想起に良い成績であることも明らかにします。

忘却に関しての実際のデータとしては以下のようである。※節約率とは、最初に記憶するのに10分かかり、再記憶に7分かかったとしたら、当初の70%の時間ですから「節約率」は30%ということとなる比較の比率です。

20分後–節約率58%
1時間後–節約率44%
1日後–節約率26%
1週間後–節約率23%
1ヶ月後–節約率21%

エビングハウスの忘却曲線

このように節約率の曲線は、最初に急降下しながら緩やかになっていきます。

これは記憶の忘れやすさを表しているデータと誤解されていますが、再学習による記憶定着への負担を表す節約率のデータです。

要するに最初に覚えるよりも負担や時間が少なく覚え直すことができますよ、ということです。

どちらにせよ繰り返し反復していくことで記憶の定着化が促されます。

この「エビングハウスの忘却曲線」の発見により、のちの記憶や学習の科学的研究の土台となっていきます。

近年、カナダのウォータールー大学での実験によると2日目に10分、1週間後に5分、1ヶ月後に2〜4分の短時間の復習によって記憶の保持率が非常に高い状態を維持出来るという研究の発表が行われています。

また脳の海馬の短期記憶は約30日とされていることから30日以内に繰り返し反復学習を行うことが有用とされています。

学習曲線と系列位置効果


エビングハウスの忘却曲線は今でも有名ですが、彼は学習曲線についても重要な提唱を行なっております。

急激な記憶増加は初回学習後に起こり、その後の反復学習では覚えることに目新しさがないために緩やかに増加する「学習曲線」も発表しています。

また最初と最後の項目を覚えていることが多く、中間で覚えたことが失いやすいという「系列位置効果(serial-position effect)」についても研究を行っています。

これはのちにポーランド出身の心理学者ソロモン・アッシュの「初頭効果(プライマシー効果)」とアメリカの心理学者ノーマン・H・アンダーソンの「新近効果(リーセンシー効果)」の発見につながる功績となりました。

初頭効果とは、最初に与えられた情報がのちの評価や印象に影響をもたらしたり、長期記憶に繋がりやすくなる効果です。

親近効果とは、直近である最後の情報が記憶に定着しやすく、評価や印象に影響をもたらしやすい効果です。

エビングハウスの錯視


エビングハウスは、相対的な大きさによる目と認知の錯覚を発見します。

最もよく知られるのは以下の図です。

同じ大きさの中心円であるにもかかわらず、周囲の円の大きさにより、中心円の大きさに違いを感じてしまうことです。(パソコンであれば中心円のなかにカーソルを持っていくとわかりやすいです)

本当に中心円は同じ大きさです

私たちは事実を正しく認知しているように感じていますが、いろいろな周囲のものに影響を受けた認知していることも多くあるかもしれません。

この研究により現代の認知心理学に大きな影響を与えることとなります。


参考文献

心理学大図鑑 キャサリン・コーリンほか著

記事監修
公認心理師 白石

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