過去の心理学者・臨床家・研究者の人物像や提唱された内容から今に学べることは多くあります。

ここでは心理学の哲学的ルーツの一人であるジャン=マルタン・シャルコーと「ヒステリー」「支配:被支配関係」について書いていきたいと思います。

ジャン=マルタン・シャルコーについて


ジャン=マルタン・シャルコー

ジャン=マルタン・シャルコー(Jean-Martin Charcot)は、1825年にパリで生まれ、現代神経学の創始者とも称されるフランスの神経科医です。

小さい頃から画才があり、画家を目指すが医師の道へ進みます。後に評される鋭い観察眼はこのような背景が影響していると言われています。

サルペトリエール病院で多くの功績を挙げ、教授となり、多くの門下生を育てました。

彼の功績は、内科医や病理解剖学者としての功績、神経病学における功績、そしてヒステリーと催眠術研究による功績があります。

反教権主義的な実証主義者である反面、メスメリズムや催眠、心霊主義といった技法を用いることから賛否が分かれることも多かったようです。

本物の催眠を「大催眠」、そうでない暗示によるトランスを「小催眠」と呼び、磁気理論を主張していましたが、催眠は暗示の効果による心理現象であるというナンシー派の正当性が国際学会において証明され、催眠療法から精神分析に至る流れとなります。

またメスメルからフロイトへとつながる「無意識の発見」や「精神力動医学」「精神分析」への貢献も大きく評されています。

シャルコーの考える「ヒステリー」


シャルコーによるヒステリーへの催眠治療の講義

この時代、過度に情動的(感情的)な行動を行う女性に対して用いられた「ヒステリー」。

ヒステリーは、ギリシャ語で子宮を意味するヒステリアが語源とされています。

紀元前1900年頃のエジプトでは「さまよう子宮」によって女性に引き起こされる行動障害が報告されており、紀元前400年頃ヒポクラテスが「ヒステリー」という病気の述語を始めて用い、1662年イギリスの医師トーマス・ウィリスがヒステリー状態の女性を検死解剖して子宮になんら病的症候は見つからないことを明らかにしています。

度を超えた泣き笑い、激しい身体行動、卒倒、麻痺、痙攣、視覚・聴覚異常などの症状であるヒステリー患者がいるサルペトリエール病院にてシャルコーは症例を観察するにあたり法則性を見つけます。

その法則とは、ヒステリーは普遍的なもので生涯続く遺伝的なものであり、ショックを受けることにより発症すると考えました。

長年女性の病であるとされたヒステリーは男性にもあるということも取り上げ、子宮病のイメージの変革に努めました。

後に暗示効果であったとされますが、その治療は磁気理論による催眠療法が有効と考え、彼の講義でも多くの実演が行われました。

シャルコーのヒステリーでの研究や提唱は、女性の子宮病というイメージから心理的影響による可能性を示唆したことにあります。

要するに心理的影響により身体的な症状への関連性への探求に至る筋道を作ったとも言えます。

後にシャルコーの影響を受けたフロイトは、自身の精神分析でヒステリーを一番最初に取り上げ、性的虐待、心的外傷、抑圧などの病因を提唱することに至ります。

現代では、ヒステリーは感情の起伏が強い場合に一般的に用いられることがありますが、医学的には自分が自分であるという感覚が失われて心理や精神面に症状が現れるものを「解離性障害」、体に症状が現れるものを「転換性障害」と呼んでいます。

その病因は、心理的葛藤やトラウマ、抑圧、ストレス、ショックなどの心理的な影響、脳腫瘍やてんかんなどの身体的な影響、両方の影響を受ける場合もあると言われています。

医師と患者の支配:被支配関係


シャルコーの弟子ビネによると、シャルコーの催眠療法や研究、実験において患者に対し批判しうる要素があったことを語っています。

シャルコーのみならず、この時代は特に医師や科学者が真実の探求の名において患者の身体や精神を操り、性的、権力的な行為が少なくなかったようです。

そう批判したビネも自らの心理実験で同様の態度があったと報告されています。

また先生の主張理論とは異なっていても患者側がその主張に寄添わなければいけない環境、寄り添いたくなる心理によって理論に正確ではない歪みが出てしまったり、かえって問題が大きくなることもあったようです。

大きな功績があった反面、このような側面も正しく勉強をする必要があるように思います。

支配:被支配関係や主従関係では、個人的な問題以外にもその関係性による影響が当人たちを本来の精神から逸脱させてしまうことがあります。

カウンセラーや心理士(師)において倫理観や自己内省が特に重要であることはこういった事例からも読み取れるものであり、相談されるクライエントとの関係性や環境設定も大切なのです。

参考文献

S. フロイトのヒステリー論 中野明德
シャルコーの臨床講義とその文化的影響について ―アンドレ・ド・ロルド『サルペトリエール病院の講義』を中心に―真野倫平
心理学大図鑑 キャサリン・コーリンほか著


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記事監修
公認心理師 白石

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