「許せない気持ちが湧いてくる」

「許せない感情が続く」

「許そうとしても許せない」

「どう考えても許せない」

「許せない気持ちで自分が辛い」

「一生許さない」

など「許せない」という気持ちや感情によって私たちは苦しみ、ときに不合理な行動を犯してしまうことすらあります。

そんな「許せない気持ち」について多角的な視点から解説し、カウンセリングによる介入の可能性についても説明していきます。

「許せない」とは


「許す」という言葉には以下のような意味があります。

 (「聴す」とも書く)不都合なことがないとして、そうすることを認める。希望や要求などを聞き入れる。「外出が―・される」「営業を―・す」

 (「赦す」とも書く)過失や失敗などを責めないでおく。とがめないことにする。「あやまちを―・す」

 (「赦す」とも書く)義務や負担などを引き受けなくて済むようにする。免除する。「税を―・す」「兵役を―・す」

 相手がしたいようにさせる。まかせる。「追加点を―・す」「わがままを―・す」「肌を―・す」

 そうするだけの自由を認める。ある物事を可能にする。「楽観は―・されない」「時間が―・せば」「事情の―・すかぎり」

 警戒や緊張状態などをゆるめる。うちとける。「気を―・す」「心を―・した友」

 高い評価を与える。世間が認める。「自他ともに―・すその道の大家」

 引き張ったものをゆるめる。

 捕らえたものを逃がす。

デジタル大辞泉(小学館)

もう少しわかりやすくまとめると「許す」とは、

  • 許可する
  • 許容する
  • 免れる(まぬがれる)
  • 失敗や過ちを責めない・咎めない(とがめない)
  • ゆるめる

といった意味を持つ言葉と言えます。

そういった意味から「許せない」とは、

  • 許可できない
  • 許容できない
  • 免れない(まぬがれない)
  • 失敗や過ちを責める・咎める(とがめる)
  • ゆるめることができない

という意味を持つことになります。

「許す」と「緩む」という言葉は語源が同じようで、「許す」には縛りを緩くするという意味もあります。

「許せない」ということは、その対象を許可・許容することができませんし、失敗や過ちから責めるべき、咎めるべきと思っている状況であり、その気持ちを緩めることができません。

「許せない気持ち」には、「怒り」や「憎しみ」という感情がセットになって表に出て来ることが一般的です。

急激な情動が起こったあとその熱量が冷めていくケースもあれば、持続的・慢性的に怒りや憎しみと「許せない」気持ちが続くケースもあります。

時間が経つにつれ、「怒り」「憎しみ」から悲しみや哀れみ、寂しさなどの感情へ変化していくこともあります。

3つの「許せない」


許せないには、「自分」に対して、「他者」に対して、混合型の3つに分けることができます。

自分が許せない

  • ダメな自分を許せない
  • 失敗した自分を許せない
  • 成功しない自分が許せない
  • 完璧でない自分が許せない
  • いつもうまくいかない自分を許せない
  • 期待に応えられない自分が許せない
  • 嫌われてしまった自分が許せない
  • 相手を傷つけた自分が許せない
  • 未熟な自分が許せない
  • みんなと同じようにできない自分が許せない

など自分の未熟さや失敗に対して許せない気持ちが湧き上がってきます。

他者に原因があったとしてもその者に申し伝えすることができず、その責任の所在を自分にに転換し、自責してしまうこともあります。

反省として短期間の自責で終わるものもあれば、「死ぬまで許すことができない」と重すぎる十字架を自らに課してしまうこともあります。

また自分では気づかない、認識できないレベルで自責していたり、自分のエネルギーの制限をかけてしまう場合もあります

相手を許せない

相手とは、親、子供、兄弟、親族、彼氏、彼女、夫、妻、友人、知人、同僚、上司、部下、先輩、後輩、先生、社長などの関わりがある人間の場合もあれば、人によっては現代社会や神などの存在に対しても対象となります。

  • 傷つけてきた相手を許せない
  • 裏切った相手を許せない
  • 意地悪・陰口を言う相手を許せない
  • いじめる相手を許せない
  • プライドを踏みにじった相手を許せない
  • 人をいじめる・意地悪をする人を許せない
  • 不倫・浮気した相手を許せない
  • 言われた通りしたのにうまくいかず許せない
  • 現代社会に対して許せない
  • 信仰を大切にしているのにも関わらず報われず許せない
  • なぜかわからないけど許せない

など自分に対して・周囲に対して悪影響を及ぼす人物、学校、会社、人生、現代社会、宗教、神などに対して許せない気持ちが湧き上がってきます。

意識的な「許せない気持ち」もあれば無意識的で気づきにくい「許せない気持ち」もあります。

相手に自分の気持ちを伝えると「許せない気持ち」が緩み癒える場合もあれば、伝えても納得がいかない場合もあります。

他者が関わる場合、

  • どこまで責める・咎める行為を行うか
  • 相手がどのような反応を示すか
  • 相手に与えられる処罰・処遇

によって「許せない気持ち」の行く先が異なります。

自分の求める謝罪や処罰でなければ、気持ちが収まらないということです。

その求めが強ければ強いほど、気持ちを収める難易度も上がっていきます。

「許せない」の混合型

自分も相手も原因・要因がある場合に自分にも他人にも「許せない気持ち」が起こります。

また相手を許せず、その相手を許せない自分を許せないといったこともしばしば起こります。

なぜ許せない気持ちが生まれるのか?


許せないという気持ちは、なぜ生まれるのでしょうか?

どう考えても許せないもの

「戦争」や「犯罪」などもう二度と起こしてはならない行為に関して私たちはあえて「許せないもの」として認識し、自己を省みて、他者や国家もそのような行為を起こさせないようにしています。

これらは「許せない気持ち」がストッパーになっている大切な認識であり、継承されてきた「正義の遺産」のようなものです。

自分を向上させる

自分に対して「許せない」と認識することによって誤りの抑止や自分を向上させたり、成長させる手法が伝統的に教育されています。

例えば、

  • 人様に迷惑をかけてはならない
  • 失敗してはないない
  • 人に優しく自分に厳しく

といった認識です。

このような認識を私たちは理性を用いて活用していますが、過剰になり過ぎると正義を振りかざしすぎたり、過度なプレッシャーとなってしまうこともあります。

傷つけられることによるもの

「許せない気持ち」は、自分が不快になるような「傷つけられる」といった出来事に遭遇した場合によく生まれます。

だれでも自分という人間、権利、プライドを傷つけられることは望みません。

「人権」「人間の尊重」から生まれる許せない気持ちです。

ここには「傷つきやすさ」や「寛容さ」などのファクターが関与しています。

自分が正しい思う正義

脳科学者の中野信子さんによると人間の脳は、他人に「正義の制裁」をくだすことに悦びを感じるようにできているようです。

自分が正しいと思う正義が悪いわけではありませんが、他者を許容せずに自分だけが正しいと妄信していくことによって意見の相違が起こり、「許せない」と反応してしまうことが増えてくるかもしれません。

人の数だけ正解があることもあるという認識も必要かもしれません。

自分の信念や認知のスイッチに触れるもの

自分の持っている信念や認知によって「許せない気持ち」が生まれます。

例えば、「人に迷惑をかけることは絶対ダメであって、そういう人は悪人だ」という信念や認識を持っている場合、自分が迷惑をかけることは許されないものであり、他者でも許せないものになります。

認知の偏りによって「許せない気持ち」や「スイッチ」に大きな影響を与える場合があります。

認知の偏り(英語:Cognitive distortion)とは、精神科医アーロン・ベック(Aaron Temkin Beck)が基礎を築き、デビッド・バーンズ(David D. Burns)がその研究を引き継ぎ発表された「偏りや誇張、非合理的な認知パターン」のこと指します。

偏りもその人の人生において必要があって形成されている場合も多く、一概に「悪」として処理するものではありません。

ある程度は個性として肯定できるものですが、本人も周囲も困ってしまう「偏り」がある場合、修正や変容を加える必要があるかもしれません。

「許せない」気持ちを強めてしまう代表的な10のパターンを紹介します。

0か100か?白か黒か?というような極端な判断軸(二極思考)で考えてしまい、グレーがない認知パターンである「全か無かの思考(All-or-nothing)」

一部の要素をすべてのことのように当てはめて捉えてしまう認知パターンである「過度の一般化(Overgeneralization)」

「~すべき」「~しなければならない」といった基準で物事を考え「そうでなければならい」と思ってしまう認知パターンである「すべき思考(should statements)」

ネガティブや否定的な側面ばかり目がいき、それが全てであるように思い込んでしまう認知パターンである「マイナス化思考(Disqualifying the positive)」

全体的に見ることができず、悪い部分のほうへ目が行ってしまい、良い部分が除外されてしまい結果、現実を悪く見てしまう認知パターンである「選択的抽象化(selective abstraction)」

⑥当人に確認することなくネガティブや否定的に推測してしまう「心の読み過ぎ(Mind reading)」と物事が悪い方向になると先読みしてしまう「先読みの誤り(Fortune-telling)」の二種類の認知パターンがある「結論の飛躍(Leap conclusion)」

事実や根拠よりも感情を根拠として、自分の考えが正しいと結論を下す認知パターンである「感情の理由づけ(Emotional reasoning)」

失敗や悪いことが実際より大きくみえる「拡大解釈(magnification)」と成功や良いことが小さく見える「過小解釈(minimization)」

⑨「私は~な人間だ」「あの人は~な人間だ」というようにレッテルを貼り、誤った人物像を創作してしまう認知パターンである「レッテル貼り(labeling)」

自分とは関係ないものでも自分のせいだと自責の念や罪悪感を感じたり、自分を称賛してしまう認知パターンである「個人化(personalization)」

偏った考えを成長させるチャンスになる「許せない気持ち」です。

社会通念・ルール・モラルによるもの

社会通念・ルール・モラルにも共通理解があり、そこに違反するものにスイッチが入ってしまいます。

ポイ捨てを行うことを禁止している国と道端にゴミを捨ててゴミ拾い業者が清掃することで成り立っている国では、同じ行為を行っても「許せない」スイッチが異なります。

これらは、時代によっても異なり、変化していくものです。

期待や欲求によるもの

自分は「こうありたい」「こうでなければならない」という期待や欲求を裏切った場合にも「許せない気持ち」が生まれます。

これは他者に対しても同様のことです。

その期待が本当に必要なものなのか?かえってうまくいかない方向になっていなか?を改めてチェックすることが必要かもしれません。

自分の光と影を知り、受け入れる大切な機会になります。

責められない・咎められないとき

自分の「許せないスイッチ」が反応しても伝えられない、責められない、咎められない場合、その気持ちが持続的になる傾向があります

またこのようなとき、伝えられない、責められない、咎められない自分に対して「そんな自分が許せない」と自責してしまうこともあります。

本当に責めることが必要なのか?咎めることが必要なのか?考える必要があるかもしれません。

そして勇気を持って伝える経験がこれからの人生に活かされていきます。

相手の反応によるもの

相手にその気持ちを伝えても

  • 言い訳をする
  • 嘘をつく
  • 責任転嫁する
  • ふてぶてしい態度
  • 逃げる
  • 悪びれた素振りがない
  • 反省しない
  • 逆ギレする
  • こちらを攻撃する

などの反応を示す場合にも「許せない気持ち」が増幅していまいます。

問題が明るみになった後、その人物の処罰によっても同様のことが起きやすくなります。

許せない気持ちをどうすればいいのか?


許せない気持ちをどうすればいいのか?について考えていきたいと思います。

  • 時間が経ってもどう考えても許せないもの
  • 時間をかけて許せない気持ちに対処していくべきもの
  • 今はどうやっても許せないもの
  • 許せない気持ちから自分の信念や認知に気づきを得ていくもの
  • 許せない気持ちから離れていくほうが良いもの
  • 許す方向へ持っていくもの

などのように分類してみることが大切かもしれません。

許す方向へ持っていければいいですが、そのように努力してかえってご本人が苦しむことも多くあります。

そういった時は、「今はまだ許せない」という認識で落ち着くことが最初の段階であったりします。

許せないレベルが強ければ強いほど、怒りや恨み、憎しみの感情が強くでることも多いと思います。

そういった時は、その感情に抗わないほうが得策です。

かえって肯定したほうが時間とともに鎮まりやすくなることもあります。

少し落ち着いてきたら誰かに話したり、カウンセリングを行うこともいいでしょう。日常の生活に集中したり、熱中できることを行うなどが功を奏すこともあります。

大きな問題では、そのようにしても「許せない」気持ちと感情が沸々と湧いてきて、囚われてしまうこともあります。

日常とそういった現象を繰り返しながら多くの問題は「風化」していくことを待ちます。

その間当人は、大変な苦痛とともに時間を経過しなければならず、必要に応じて周囲の協力や第三者のサポートが必要であったりします。

カウンセリングでできること


カウンセリングでは、自分の日常では関係のない第三者であるカウンセラーに自分のペースで話をしていくことができます。

カウンセラーは一般の聞き手と異なり、受容的・共感的態度でお話を聞いていきます。

自分の素直な気持ちを表に出して話していくことにより、スッキリする解放感があったり、癒されていく感情があったりします。

なかなか許すことができない場合、その理由や信念、認知などに気づいていくことが大切であったりします。

ずっと見ないように、否認していた「自分」や「相手」を受け入れていく作業は苦痛を伴います。

それでも受け入れが進んでくると次第に力が緩み、一回り大きな人間へと成長していく感覚を実感していきます。

そういった感動や達成感を味わえるのもカウンセリングならではかもしれません。

またそういったセッションを進めていくと、クライエントが人生で大切にしてきたドラマティックな情動や信念が浮かび上がってくることがあります。

そこには、その人だけの人生の物語があったりします。

相手に「許せなかった」思いを伝えたい場合、勇気を持って発言できるように進めていきますが、伝えることができない場合は、自分の心の中で処理をしていくしかありません。

ゆっくり時間をかけて丁寧に自分のこころをみていくことによって少しずつ変化が生まれてきます。

許すという行為から自分の許容範囲が広まり、自己成長につながっていきます。

最初は苦痛を伴いますが、自分のこだわりを乗り越えて「許す」というプロセスを経験すると一気に視界が広がった感覚になります。

そういった成功事例を持っていると今後の人生も同様に考えられる資材となります。

しかしクライエントや状況によって、「許す必要がない」前提で進める場合もあります。

「許すだけが人生ではない」という現実的な土台で建設的に進めていくことも必要であったりします。

おわりに


許せないというお気持ちにはさまざまな出来事や状況が異なるためにご覧いただいた方に少し伝わりにくさを感じる記事であったかもしれません。

実際のご相談では、多種多様な悩み、問題をお聞きします。

そこで必ず出てくるといっても過言ではないのが「許せない気持ち」です。

それほどわたし達は許せない気持ちと密接で、しばしば悩まされるものです。

それは「ひっかかり」のようなもので、長くなると数年、数十年もひっかかったまま共に生きていることもあります。

そこには自分の大切にしているものと手放そうとする自分との葛藤が垣間見えることが多いものです。

簡単に結論に結べない、結ぶべきではないことがほとんどです。

ゆっくりと話しながら、自分のこころを整理し、納得していくことによって区切りをつけていきます。

今までのこだわりとお別れしなければならない寂しさを感じることもあります。

しかし「許せない」から「許す」を経験すればするほど、人生は生きやすくなります。

そういった経験が年齢とともに進み、健やかで穏やかな人生を歩むことができます。

ぜひこの機会に自分を大切にする一歩を進めてみてください。

記事監修
公認心理師 白石

「皆様のお役に立つ情報を提供していきたいと思っています」

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