大丈夫かな?心配だな。。。と「不安」になることは誰でも経験していると思います。

そういった不安が強くなったり、持続的・慢性的になってくると、こころが疲弊したり、日常生活に支障をきたすこともあります。

私たちが悩まされる「不安」の正体についてさまざまな角度から分析し、理解した上でカウンセリングの効用について説明していきます。

不安とは


不安について辞書では以下のように説明されています。

[名・形動]気がかりで落ち着かないこと。心配なこと。また、そのさま。「不安を抱く」「不安に襲われる」「不安な毎日」「夜道は不安だ」[派生]ふあんがる[動ラ五]ふあんげ[形動]

デジタル大辞泉(小学館)

気がかりで心配であったり、落ち着かない時に「不安」という言葉が相応します。

一方似たような言葉として「恐怖」があります。

恐怖は、おそれる、怖がるといったさまを表す言葉です。

緊急事態で目の前に迫っている時には、わたしたちは「恐怖」を感じ、未来や脅威が遠い場合には、「不安」を感じます。

不安(英語:anxious)とは、脅威が遠かったり、未来にあって、気がかりで落ち着かず、心配な様を表す言葉と言えます。

一般的な感覚と異なる場合も多いので混乱するかもしれませんが、参考のために医学的な不安について説明しておきます。

医学的には、具体的な対象がない漠然とした恐れを「不安」、具体的な対象がある恐れを「恐怖」と定義しています

一般的な感覚として、具体的な不安もありますが、その具体的な不安をみていくと実は恐怖があって不安が出ていることが多いものです。

なぜ不安がでるのか?


なぜわたしたちは不安になったりするのでしょうか?

それには人体の仕組みを知ることが必要になります。

今でこそ戦争や獣に襲われる危険性がなくなったものの、人類の歴史から言えばそういった危険性とともに歩んできた歴史があります。

動物でも同様のことが言えますが、命を守ることを最重要選択として自分を守る「自己防衛本能」が体には備わっています。

恐怖を感じると「戦うか」「逃げるか」「フリーズするか」という反応が自動的に現れます。

※フリーズは、体を硬直させ獣などの脅威から気を悟られないようにする反応です。

脅威から離れ、恐怖が遠くなると「不安」という感情を用いて対象を避けたり、リスクを考えることに専念するのです。

不安によって慎重になることで命を落とす確率を下げてきたのです。

そうやって代々受け継がれてきた命の結晶がわたしたちです。

現代ではその脅威の対象が

  • 人間
  • 失敗
  • 傷つき
  • いじめ
  • 悪口や陰口
  • 病気

などに変容してきています。

太古の昔は避けることができたものが、現代では避けることが難しいことも少なくありません。

上記から逃げることは、不条理にも人間社会から逃げるようなものになってしまいます。

家などの安全地帯に引きこもるしかないのです。

そういう仕組みを知っていることを土台にして認識していかなくては「不安」や「恐怖」の本当の意味はわかりません。

本来自分を守り、ここまで生きながらえてきた大切な本能なのです。

もし引きこもりがちになっていたとしても自分の意志や努力によって乗り越えられる可能性はありますので、過剰に自責する必要はありません。

「そういうことでなっていたのだ!」という認識で良いと思います。

日本人の不安遺伝子


住んでいる地域の特性や人種によって特徴的な遺伝情報が異なります。

日本人にも心的・性格的に特徴的な要素があります。

ここでは不安遺伝子と呼ばれる「セロトニントランスポーター遺伝子」について説明していきます。

セロトニントランスポーター遺伝子には「SS型」「SL型」「LL型」の3種類があります。

「SS型」に近いほど不安や恐怖などの悲観的(ネガティブ)になりやすく、「LL型」に近くなるほど安心などの楽観的(ポジティブ)になると言われています。

○S遺伝子だけもつSSタイプ
日本 68.2%
アメリカ 18.8%
○S遺伝子とL遺伝子をもつSLタイプ
日本 30.1%
アメリカ 48.9%
○L遺伝子だけをもつLLタイプ
日本 1.7%
アメリカ 32.3%

クラウス-ピーター・レッシュ「サイエンス」1996 中村敏昭「アメリカン・ジャーナル・オブ・メディカル・ジェネディスク」1997

「SS型」68.2%、「SL型」30.1%という結果から、日本人のほぼすべての人が不安や恐怖などの悲観的(ネガティブ)になりやすい傾向を持つということが分かっています。

セロトニンに関係してる遺伝子という限定的な見解ではありますが、日本人の不安や恐怖、悲観的な特徴はこういったところから説明が付きます。

不安がでやすい、不安をよく用いてきた民族であることを遺伝子が物語っています。

戦や山賊、海賊、切腹といった人為的な脅威、地震や洪水、台風などの自然の脅威が多い日本では、不安や恐怖のアンテナを強くしておかなければ生き残ることが難しかったのかもしれません。

恐怖−過敏−不安のシステム


恐怖を感じ、恐怖を学習すると神経は高ぶります。

要するに過敏になるということです。

ですので通常よりも不安もたくさんでてくるものです。

また不安によって強迫的傾向が強まることも少なくありません。

このような「恐怖−過敏−不安」システムがあるということをご存知でしょうか?

このような人体の防衛の仕組みを知らないことによって、「なんで自分はこんなに不安なんだろう?」「なんでこんなに神経質になったんだろう?」と疑問を自分に投げかけ、その責任の所在を自分の心的弱さにしてしまいます

そうすることによって自責し、ますます自分を弱め、より恐怖が強く感じるようになり、より過敏に、より不安になっていく負のスパイラルに巻き込んでしまいます。

ですのでこういった仕組みがあることを知ることがまずは大切になります。

恐怖を知り、認める


あなたは恐怖に感じるものや怖がっているものはありますでしょうか?

実際多くの人は、恐怖や怖がっていることを認める方向に持っていかないことが多いものです。

恐怖対象があることは、恥ずべきことであったり、心的弱さの表れだという古い認識が今でも残っているからです。

でも実際は、誰でも恐怖や怖がりを持っているものです。

不安の先には恐怖があります。

恐怖があるから不安があるのです。

その不安を止めたければまずは何が脅威で怖がっているのかを知る必要があります。

認めることが本来難しい前提で、すこしずつ歩み寄っていくことで見える景色が変わって行ったりします。

恐怖条件付け学習を知る


恐怖条件付けとは、人間(動物)に本来備わっている学習による恐怖に関する条件的反応の働きのことを指します。

古典的条件付け(レスポンデント条件付)の一つです。

ネズミに音を聞かせながら電気ショックを与えると翌日から音を聞いただけですくみや硬直状態といった反応を示すようになります。

このように音と電気ショックを関連付けて学習することで危険を避けようとします。

危険な動物や生物と近い環境で暮らしてきた我々にとって危険を回避する、命を守るために重要な役割を果たしていました。

現代社会ではそのような危機・危険が日常にはありませんが、恐怖を感じる人間関係や環境、状況などを経験することにより条件付けて学習が行われ、反応を示してしまいます。

すくみ反応、瞳孔散大、血圧上昇、心拍数の増加やストレス応答ホルモン放出などが恐怖反応として発現します。

強烈な恐怖や持続的な恐怖は、パニック障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、強迫性障害、不安障害などの原因となってしまいます。

恐怖条件付け学習が成立した後に非条件刺激(電気ショック)がない条件下で、条件刺激(音)のみを、繰り返し提示し続けると、条件刺激に対する恐怖反応が見られなくなります。

これを「消去」といいます。

消去は、反応をする必要がないことを新たに学習することにより反応が消えるのですが、条件付け記憶自体は消えないと言われています。(弱くはなります)

なぜなら消去学習が行われた後、ほかの感覚刺激等により再び恐怖反応を示す「復元」が行われたり、期間をあけたのちに同じ刺激を加えると恐怖反応を示す「自発的回復」という現象が確認されているからです。

恐怖対象に馴化(慣れる)したり、心的変容を加えて恐怖心を克服したり、記憶と神経に強力に学習された恐怖を心理療法で消去したりすることにより克服することができます。

恐怖が減少するにあたって神経の過敏も収まり、不安も減少していきます。

不安を強くしてしまう「認知の偏り」


認知の偏り(英語:Cognitive distortion)とは、精神科医アーロン・ベック(Aaron Temkin Beck)が基礎を築き、デビッド・バーンズ(David D. Burns)がその研究を引き継ぎ発表された「偏りや誇張、非合理的な認知パターン」のことを指します。

不安を強くしてしまう代表的な10のパターンを紹介します。

①0か100か?白か黒か?というような極端な判断軸(二極思考)で考えてしまい、グレーがない認知パターンである「全か無かの思考(All-or-nothing)」

②一部の要素をすべてのことのように当てはめて捉えてしまう認知パターンである「過度の一般化(Overgeneralization)」

③「~すべき」「~しなければならない」といった基準で物事を考え「そうでなければならい」と思ってしまう認知パターンである「すべき思考(should statements)」

④ネガティブや否定的な側面ばかり目がいき、それが全てであるように思い込んでしまう認知パターンである「マイナス化思考(Disqualifying the positive)」

⑤全体的に見ることができず、悪い部分のほうへ目が行ってしまい、良い部分が除外されてしまい結果、現実を悪く見てしまう認知パターンである「選択的抽象化(selective abstraction)」

⑥当人に確認することなくネガティブや否定的に推測してしまう「心の読み過ぎ(Mind reading)」と物事が悪い方向になると先読みしてしまう「先読みの誤り(Fortune-telling)」の二種類の認知パターンがある「結論の飛躍(Leap conclusion)」

⑦事実や根拠よりも感情を根拠として、自分の考えが正しいと結論を下す認知パターンである「感情の理由づけ(Emotional reasoning)」

⑧失敗や悪いことが実際より大きくみえる「拡大解釈(magnification)」と成功や良いことが小さく見える「過小解釈(minimization)」

⑨「私は~な人間だ」「あの人は~な人間だ」というようにレッテルを貼り、誤った人物像を創作してしまう認知パターンである「レッテル貼り(labeling)」

⑩自分とは関係ないものでも自分のせいだと自責の念や罪悪感を感じたり、自分を称賛してしまう認知パターンである「個人化(personalization)」

不安に対するカウンセリング


不安な状態が続いているクライエントにとってカウンセリングは安心できる場でなければなりません。

慢性的な不安を抱えるクライエントのこころは、疲弊していることも多く、その場合は、まず心的回復が行われるようにセッションを行っていきます。

すこしずつ話していく中で「よく頑張って耐えてきた」「治そうと頑張ってきた」自分に出会えたりするものです。

こころが少しずつ安定してきたら

  • 自分の不安の正体
  • 何が恐怖なのか?
  • なぜそのような学習が行われたのか?
  • どのように強化してしまったか?

などを理解していくことができます。

そういった「わからなかった」ことが「わかる」に変わる経験がすこしずつ安心感を増やしてくれます。

多くの場合「恐怖−過敏−不安のシステム」が強固なため、徐々に変化させていくことが大切です。

そのため「焦り」が禁物になります。

地道にひとつずつ積み重ねていくことで神経システムの変容が行われるしくみや「なんでぶり返すことがあるのか?」という疑問に対して明確な人体の仕組みから理解することで安心したりします。

恐怖症が関連する場合、カウンセリングの中で対応する心理療法を用いて「消去」技法を用いたり、馴化(慣れる)技法を用いていきます。

一気に治すような効果を過剰に期待して行うことはせずに、一ミリ一ミリ減らしていく感覚で進めることが長期的に成果が出やすくなります。

ある程度の安心感が持てるようになってきたら恐怖や不安に対して正面から向き合っていくこともあります。

苦痛が伴いますが、乗り越えていくことでその後の人生において同様に乗り越えていく力をつけていく絶好の機会となります。

内容によっては慎重に扱い、周囲の理解やサポートなどを得ることも大切な場合があります。

不安が嘘のように消えることもあれば、なかなかなくすことができない不安もあります。

不安は全てなくせばいいかというとそうでもないことも多いので、ある程度許容できる建設的な「不安」になったところで落ち着くこともあります。

おわりに


不安全般について説明していきましたが、いかがだったでしょうか?

カウンセリング内でお伝えする心理教育である

  • 不安の仕組み
  • 日本人の不安傾向
  • 恐怖−過敏−不安のシステム
  • 恐怖条件付け学習を知る

などを中心に解説していきました。

そういった情報で多くの方に喜ばれ、安心が増えてきた背景から記載するに至りました。

不安を治すことも大切ですが、不安をうまく扱える自分になることも大切であったりします。

■参考文献
不安のメカニズム クレア・ウィークス著
不安でたまらない人たちへ ジェフリー・M・シュウォーツ著


★参考にすると良い記事

「怖がり」に対するカウンセリングと心理療法
認知の偏り(認知の歪み)
「恐怖条件付け」-知っていると役に立つ心理学


記事監修
公認心理師 白石

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