心理学者・臨床家・研究者の人物像や提唱された内容から今に学べることは多くあります。
ここではジェフリー・ヤングと「スキーマ療法」について書いていきたいと思います。
※一部翻訳や語彙の言い換えなどで認識されているものと少し表現が異なっていることもありますのでご了承ください。
もくじ
ジェフリー・ヤングについて
ジェフリー・ヤング(Jeffrey E. Young:1950年-)は、スキーマ療法(SchemaTherapy)を開発したアメリカの心理学者です。
イエール大学で学士号を、ペンシルベニア大学では高等教育の学位を取得しました。
ペンシルベニアの認知療法センターでアーロン・ベック博士のもとで研修や研究を行い、ディレクターとしても勤務されました。
その後は、コロンビア大学精神科の教授として教壇に立ち、ニューヨークやコネチカットの認知療法センターを創設しました。
パーソナリティ障害(特に境界性:ボーダー)を対象に認知行動療法を拡張したスキーマ療法( SchemaTherapyInstitute )を開発して世界中でワークショップを行い、数千人もの認知療法家を育てています。
精神疾患をお持ちの方だけではなく、「生きづらさ」を感じる方々にも有用なアプローチ方法とされています。
「秘密を持つことは孤立しているということです。可能な限り、欠陥や認識された違いを隠さないようにしてください。」
ジェフリー・ヤング(Jeffrey E. Young)
「あなたは自分の怒りを適切かつ建設的に表現することを学ぶ必要があります。あなたの怒りがあなたをコントロールし続けるのではなく、あなたはあなたの人生の関係を改善するためにあなたの怒りを使うことを学ぶ必要があります。」
ジェフリー・ヤング(Jeffrey E. Young)
スキーマの役割
スキーマとは「構造」や「枠組み」を意味する言葉であり、心的表象(言葉には表現されにくいイメージ)と表現されたりします。
もう少しわかりやすく説明すると、その人の形成された思い込みや信念、信条、考え方や解釈の認知パターンなどのことを指します。
もともとは哲学の領域で使われており、ピアジェがシェマ(枠組み)などの言葉を用いて認知発達を説明したところに由来します。
そのスキーマの役割として、
①情報処理の削減と情報に意味を与えるのをサポートするのに役立つ
②情報探索における方向性や注意の焦点に役立つ
③問題解決や推論に役立つ
④社会的な出来事について予測するのに役立つ
といった4点が挙げられています。
スキーマは、本来は適応的であり、一貫性があり、経験や学習等によって無意識的に染み込んでいるものです。
スキーマ療法
スキーマ療法(Schema therapy)とは、認知行動療法(CBT)から発展した統合的心理療法で、根源的な信念や思い込み、パターンなどのスキーマに焦点を当てることでパーソナリティや生きづらさなどの深い問題解決に期待が持てる療法として世界中に広まってきています。
統合的心理療法とは、さまざまな心理療法を目的に応じて理論と技法を取り入れていく手法です。
表面的な要因ではなく、その根源的な構造に対してアプローチを行うため、スキーマ療法は「こころの体質改善」という表現がされることもあります。
スキーマ療法では、
◎ゲシュタルト療法(思考や感情、身体を統合し、今ここで起きていることに焦点を当てる)
◎認知行動療法(捉え方や解釈の認知に働きかけて心理や行動を変容させる)
◎精神分析的心理療法(フロイトから始まった精神を分析し、話しながら変容していく)
◎交流分析(自分と他人(家族)との交流パターンに着目する)
◎愛着理論(基本的信頼や安心感などの基礎に影響する愛着形成に関する)
など心理学派の境界を越えたものとなっています。(は要約であり、一文では説明できないほど多様な理論と技法があります。)
また基本コンセプトとして、
①子供の頃の満たされなかった「中核的感情欲求」に焦点を当てる
②自己敗北的な信念パターンと言われている「早期不適応スキーマ」を焦点に当てる
③スキーマに対処する「コーピングスタイル」に焦点を当てる
④上記を含むセットになっている「スキーマモード」に焦点を当てる
の4つで構成されます。
不合理で適応的でないスキーマであっても「認知的な一貫性」を保つためにその後の人生に活用され続けてしまう特徴があります。
これらを特定し、悪影響を与える強度を減弱させ、認知パターンを変容させたり、行動変容を行うのがスキーマ療法の特徴です。
また認知行動療法の中でスキーマ療法の理論や解釈、技法を応用することもあります。
中核的感情欲求
中核的感情欲求(basic emotional needs)とは、
- 理解して欲しい
- 共感されたい
- 守ってほしい
- 助けて欲しい
- 愛されたい
- うまくできるようにしたい
- 有能になりたい
- 自由に表現したい
- 自分の思いや感情を伝えたい
- 楽しくしたい
- イキイキしたい
- のびのびと生きたい
- 自立性のある人間になりたい
- 自分をコントロールできるようになりたい
といったように人間が基本的に持っている欲求のことです。
このような愛着(アタッチメント)や自律性、有能感、自己同一性、表現の自由、自発性、自己制御などが関連する中核的感情欲求はヤングが最も重視したコンセプトです。
特に子供時代にこの欲求が満たされないことで以下のような「早期不適応スキーマ」として傷つきや傾向が生まれてしまいます。
早期不適応スキーマ
早期不適応スキーマ(Early maladaptive schemas)は、子供時代に確立され、その後の人生においても繰り返される自己敗北的な感情・信念・認知パターンや身体感覚です。
生まれ持った気質(あまり変わらない性格の核)と子供時代の苦痛の経験の相互作用によって「早期不適応スキーマ」が形成されるとヤングは考えました。
①人との関わりを断絶・拒絶してしまう傾向が強くなる(断絶と拒絶)
②自信がなく、出来ない自分にしかなれないと思ってしまう(自律性と行動の損傷)
③他者を優先し、自分を後回しにして抑えてしまう(追従)
④悲観的に考えてしまい、自分や他者を追い詰めてしまう(過剰警戒と抑制)
⑤自分をコントロールできずに自分勝手になってしまう(制約の欠如)
という5つの領域において不適応なスキーマが形成されてしまいます。
もっと細かい分類で行くと、
①の「繋がれない・一人ぼっち」の領域では、
- 私は愛されないと思ってしまう「愛されないスキーマ」
- 他人からはわかってもらえないと考える「わかってもらえないスキーマ」
- 人は私をいずれは見捨てると考えてしまう「見捨てられスキーマ」
- 人は私に攻撃してくると考えてしまう(信頼できない)「不信・虐待スキーマ」
- 私は欠陥があって恥ずべき存在と思ってしまう「欠陥・恥スキーマ」
- 自分はいつもひとりぼっちとしてしまう「孤立スキーマ」
があります。
②の「自信がなく、出来ない自分と感じる」の領域では、
- 私は出来ないと思い込んでしまう「無能・依存スキーマ」
- なにがあるかわからないし、自分はすぐにやられてしまうと思う「弱者スキーマ」
- 誰かや何かに同調していないと安心できない「巻き込まれスキーマ」
- 自分は失敗ばかりすると思い込む「失敗スキーマ」
があります。
③の「他者優先、自分後回し」の領域では、
- ついつい従属・服従してしまう「服従スキーマ」
- 他者を優先するあまり自己犠牲が多くなる「自己犠牲スキーマ」
- 周囲の評価を過剰に気にする「褒められたい・評価してほしいスキーマ」
があります。
④の「悲観的・がんじがらめ」の領域では、
- どうせいいことないと思ってしまう「否定・悲観スキーマ」
- 感情がなかなか表に出せない「感情抑制スキーマ」
- 完璧にやるべきと思う「完璧主義スキーマ」
- 罰に過剰に反応する「罰スキーマ」
があります。
⑤の「コントロールできない・自分勝手」の領域では、
- 私は特別であると考えてしまう「俺様・女王様スキーマ」
- 我慢は必要ないと思ってしまう「コントロール不能スキーマ」
があります。
これらのスキーマはある程度誰でも持っているものもあり、社会生活を行う上である程度であれば気にならないものもあれば、個性的なものであることもありますが、その強度が強く、問題が起きることがあればスキーマ療法などのテーマとして焦点化していきます。
コーピングスタイル
コーピングスタイル(Coping styles)は、スキーマに対する対処行動(コーピング)です。
不適応なスタイルには、
①回避(回避行動をとる)
②降伏(戦わずスキーマに参加する)
③反撃および過補正(スキーマを恐れ、反撃行動や過剰に補正する)
の3つがあります。
スキーマ・モード
スキーマ・モードとは、上述したようなスキーマとコーピングスタイルをセットにして頻繁に運用する「モード(流儀)」のことです。
「怒れるチャイルドモード」や「見捨てられ従順・服従モード」といった感じです。
こちらも分類があって、
①子供モード(傷つき/怒っている/衝動的/幸せ)
②不適応コーピングモード(従順な降伏者/分離可能な防具/過剰補償)
③機能不全の親モード(懲罰的/要求的)
④健康な大人モード
の4種類があります。
スキーマ療法では、一般的に「健康な大人モード」に到達することを目標とすることが多い。
実際どんなことを行うのか?
スキーマ療法では、上記の「中核的感情欲求」、「早期不適応スキーマ」、「コーピングスタイル」、「スキーマモード」がどのように関連しているかわかるために「概念図」に書きおこしていきます。
ネガティブサイクルの概念図とポジティブサイクルの概念図を作成し、いろいろな気づきや方策を得て、書き換えていったりします。
早期不適応スキーマは適応的な思考や信条へと変換する「ハッピースキーマ」にしていきます。
そのためにも自分がどのようなスキーマを持っているか、どのように関連付けられているかを知ることが一番最初に重要になっていきます。
そしてスキーマの修復を行うため、中核的感情欲求をある程度満たし、早期不適応スキーマを緩和・変換し、健康なオトナモードへと向かっていきます。
認知的技法や感情体験技法(イメージを用いて書き換えを行う「モード・ワーク」)、行動技法などを用いたり、マインドフルネスを応用することもあります。
その認知的技法として、
①妥当性はあるか?
②根拠の再検討
③関連するコーピングのメリットとデメリット
④スキーマ間でのディベート
⑤フラッシュカードの作成
⑥スキーマ日記の活用
などがあります。
また治療関係も重要視しており、カウンセラー(セラピスト)側の理解と尊重、焦点化、そして満たせなかった感情欲求の補完を行うことも大切であったりします。
おわりに
スキーマ療法について書いていきましたが、いかがでしたでしょうか?
実際に似ている理論や技法もありますが、モードやコーピングスタイルに関連付けている点に非常に有用な視点があるように思います。
参考文献が非常に整理されているためもっと知りたい方は読まれるといいと思います。(スキーマ療法の本もいくつかあるのでご覧いただくと良いかもしれませんね)
少しでもお役に立てられれば幸いです。
■参考文献
スキーマの概念とスキーマ療法のレビューに関する一考察 加藤 雄士
記事監修
公認心理師 白石
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