過去の心理学者・臨床家・研究者の人物像や提唱された内容から今に学べることは多くあります。
ここではゼーレン・キルケゴールと彼が提唱した「絶望」「真の自分」「主観的な真理(理念)」について書いていきたいと思います。
ゼーレン・キルケゴールという人物について
ゼーレン・キルケゴール(別訳:セーレン・キュルケゴール、デンマーク語: Søren Aabye Kierkegaard)は、デンマークの哲学者であり、思想家です。
現在では、今ここにいる私(実存)としてのあり方や生き方を哲学の中心に置く「実存主義」の創始者として評価されています。
キルケゴールは1813年にデンマークの裕福な家庭に生まれ、コペンハーゲン大学で神学と哲学を学びます。
哲学を学ぶ中で「私が本当に行いたいのは、自分が何を知るべきかではなく、自分が何を為す定めなのかを自分にはっきりさせることだ」と考えました。
「私は誰か?」という問いは古代ギリシャ以来常に問題とされてきました。
古代ギリシャの哲学者ソクラテスは「吟味されることのない人生は生きるに値しない」という有名な言葉を残しています。
キルケゴールは「自己分析こそが絶望の問題を理解する手段である」と著作『死に至る病』で語っています。
キルケゴールの父ミカエルは熱心なクリスチャンであり、商人としての成功、婚前妊娠、のちの再婚者の死、キルケゴールと長男以外の5人の子供の死などから宗教的な罪深さを抱えていました。
そのためキルケゴールも長生きができないと思い込んだり、やるべきことをやらず遊んで暮らすような放蕩生活をしたり、その宗教的な罪深さを彼自身も感じていたため憂うつな気分や絶望感を感じて生きることが長くあったようです。
1840年にレギーネ・オルセンと婚約しますが、「自分には結婚が向いていない」と婚約を破棄してしまいます。
死後の相続人を彼女にしていたところなども踏まえると、呪われた自分の生に彼女を巻き込むまいと思慮した結果であるとも言われています。
それほどの呪縛と向き合う人生から「私は誰か?」「何を為すべきか?」という疑問が湧き上がってきたのだと考えられます。
彼の著作には、1843年「恐れとおののき」「あれかこれか」、1844年「不安の概念」、1849年「死に至る病」などがあります。
彼の人生には孤独が多く、唯一の気晴らしは街で見知らぬ人とおしゃべりをしたり、長距離バスで田舎に行くことだったようです。
死に至る病とは絶望のことである
キルケゴールは「死に至る病は絶望である」といいます。
彼はまた、「自己の本当のあり方から離れてしまっていたり、そこから抜け出てしまっているときに絶望を感じる」と語っています。
「絶望」は誰でも感じ、陥るものだとしながら
①無限性の絶望(空想や想像力の中での絶望)
②有限性の絶望(現実世界・物理的な世界での絶望)
③可能性の絶望(今ある真の自分の可能性が見えない絶望)
④必然性の絶望(真の自分がわからない絶望)
の4つに分類しました。
また絶望して自己自身であろうと欲しないことを「弱さの絶望」、自分が絶望の状態にあることを知らないでいる「無知の絶望」などについても言及しています。
キルケゴールも父と同じように信仰心が強く、神から与えられた「真の自分」を知ることが最も大切であり、その自分を外に追いやることにより「絶望」に陥る(罪)と考えました。
そのため自分に対しての間違えた見方や真の自己とは別の自己を目指すことに注意を喚起します。
人間は「こうなりたい」と理想を想い努力して生きますが、それが今の絶望的な自分を否認、回避するためであるとするなら平穏と内的な調和は訪れないとしています。
今の自分が嫌いで今の自分に絶望するという状況があるとします。
その自分から別の自分になりたいと目指し、失敗すると絶望します。
成功したとしたら一見いいようですが、新たな自分になることで真の自分を捨てることになる。
結果、いずれにせよ真の自分に絶望する。
どちらにしても「真の自分」を受け入れざるを得ない。
というようにどのようにしても真の自分に向き合わざるを得ないとし、受け入れることの大切さをキルケゴールは訴えます。
現代の言うところの「ありのままの自分」を受け入れるということでしょう。
受け入れる勇気を見出すことによって絶望を砕き、内的な穏やかさを獲得できると彼はいいます。
このような考えが哲学の実存主義の始まりとされ、心理学的にはヴントの自己分析やカール・ロジャースのクライエント中心療法に発展していきます。
またキルケゴールはこうも言います。
「私たちが絶望している時には何かに絶望しているのではなく、真の自分自身に対して絶望しているのである。」と。
大切なのは主観的な真理や理念である
「私にとって真理であるような真理を発見し、私がそれのために生き、それのために死にたいと思うようなイデー(理念)を発見することが必要なのだ。いわゆる客観的な真理などを探し出してみたところで、それが私に何の役に立つだろう」
私、個人として非常に賛同できるキルケゴールの語りの一節です。
考えも、宗教も、経験も、遺伝子も異なる特性を持っている人間すべてに共通する客観的な真理や理念よりも、自分自身が生きる上で情熱や生きがいを感じられる世界観や理念を持つことが非常に重要であるように思います。
絶望への理解、真の自分への理解と受容、そしてこの主観的な理念を持つこと、この3つが個人的に心動かされるキルケゴールの提唱でした。
ご覧いただいた皆様はどのように感じたでしょうか?
最後にキルケゴールの名言の一つを紹介します。
行動と情熱がなくなると、その世界は妬みに支配される。
ゼーレン・キルケゴール
参考文献
心理学大図鑑 キャサリン・コーリンほか著
記事監修
公認心理師 白石
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