「カウンセリングはこういうものです」という説明は、行う側のカウンセラーや心理士(師)によって異なることも多いものです。
「なぜ異なるの?」「どう捉えればいいのかわからない」という声も聞くことがあります。
そういった紛らわしさと誤解が少しでも解消できるようにカウンセリングの種類と特徴について説明していきたいと思います。
もくじ
カウンセリングにはなぜ多くの種類があるのか?
カウンセリングは多くの場合、相談者(以下クライエント)の話す言葉に耳を傾ける「傾聴」、その内容について理解と尊重を大切にする「共感」、信頼関係を構築する「ラポール」、クライエントの「主体性」を大切にしています。
しかしカウンセリングの種類によっては、このような基本的なことを行わないカウンセリングもあります。
人によって考え方は千差万別で、異なるものです。
そのためカウンセラーによっては、独自のカウンセリングを行っている場合もあります。(例えば、共感をあえて行わないカウンセリングなど)
ですのでカウンセリングの定義を統一することは難しく、「当相談室は○○のように行っております」「当カウンセリングでは○○という考え方でカウンセリングを行っています」「来談者中心療法(非指示的)を行っております」「精神分析学的心理療法で行っています」「指示的カウンセリングのみ行っています」といったようにHPなどで説明されていることもあります。
行う前のイメージと行ったみた感覚が異なり、良い方に働けばいいのですが、「こんなもの求めていない」と不満がででるようなことが起きることもあります。
人によってはアドバイスが欲しい方もいれば、そういったものは一切いらないという方もいます。
そういったミスマッチがないようにカウンセリングの種類について理解がされ、カウンセラーや心理士(師)もHPなどでくわしい説明が必要かもしれません。
カウンセリングにはたくさんの種類がありますが、その理由を知るためには、「心理療法」という言葉を知らなければなりません。
心理療法(英語:psychotherapy)とは、対話や心理的技法を用いて治療や変容、心的健康の回復、維持、増進を図るための療法です。
臨床心理学においては「心理療法」、精神医学においては「精神療法」と呼び方に違いがあります。
心理療法は現在までに数百以上の種類が開発・提唱され、科学的根拠であるエビデンスが高い療法もあれば、まだ研究されていない療法も多くあります。
カウンセリングもその心理療法のひとつでもあり、心理療法に組み込まれている対話の多くはカウンセリングという技法によって行われているものでもあります。
例えば、精神分析心理療法のなかで使用されるカウンセリングと認知行動療法のなかで行われるカウンセリングは、その療法の理論や目的によって異なることがあるということです。
ですのでカウンセリングといってもその療法や理論によって目的や技法、カウンセラーの態度、応答、言葉、どこに積極性を持つかなどが異なります。
この点については、後に説明している「アプローチによって変わるカウンセリング」という項で説明を致します。
このように心理療法や心理理論によってカウンセリングの方向性や態度、目的が異なるためにカウンセリングの種類が多くあり、多様的になっていると言えます。
ではカウンセリングという療法自体の種類について最初に説明していきます。
指示的カウンセリングと非指示的カウンセリング
多種多様なカウンセリングがあるなかで、指示的か?非指示的か?という点は大きな違いがあります。
指示的カウンセリングとは、カウンセラーがクライエントに説得、助言、指導、教育を積極的に行うカウンセリングです。
これはカウンセリングではないんじゃないか?と思う方もいるかもしれませんが、指示的な技法もクライエントにとっては非常に有益なことも多くあります。
カール・ロジャースらの来談者中心療法が提唱されるまでは、指示的なカウンセリングが中心的な考え方でした。
非指示的カウンセリングは、説得や助言、指導を行わず、積極的にクライエントの話に耳を傾け、共感、繰り返し、明確化などを行っていくカウンセリングです。
クライエントの主体性を大切にし、自らが気づき、自らが立て直すことができるという考えのもと非指示的カウンセリングが行われます。
現在の「カウンセリング」という言葉は、この非指示的カウンセリングのイメージがある方も多いかもしれません。
実際に「カウンセリング」「クライエント」という言葉は、ロジャースによって生み出されて提唱された言葉であり、患者を治療するといった従来の考え方から脱却した新たな概念として広まっていきました。
近年では非指示的カウンセリングがよく用いられますが、クライエントに応じて適切に指示的・非指示的なカウンセリングを行うといった「折衷的カウンセリング」も多くなってきております。
クライエントに応じて柔軟に対応するカウンセリングが現在の主流となっておりますが、指示的カウンセリング専門、非指示的カウンセリング専門といったように専門的にそのスタイルでカウンセリングを行っている方もいらっしゃいます。
また指示的・非指示的・折衷的といった分別ですべてを説明できず、カウンセラーによって使う技法や態度、臨床経験、人生経験、性格やパーソナリティなどの違いがあります。
しかしカウンセリングの種類の大きな特徴として知っておくと役に立つかもしれません。
次に療法別の視点からカウンセリングの種類について説明していきます。
アプローチによって変わるカウンセリング
人間の心理について昔から様々な研究が行われてきました。
そのため細分化すれば数え切れないほど多くの心理療法やカウンセリングがありますが、大きく見れば以下の4つのアプローチに分けることができます。
・フロイトの精神分析を起源とする「精神力動論」
・認知行動療法の理論である「行動論・認知論」
・来談者中心療法などの「体験論」
・家族療法などの理論である「システム論」
これらの理論をわかりやすく簡潔に説明していきます。
精神力動論によるカウンセリング
精神力動論とは、フロイトの無意識的な心理プロセスを探求を行った精神分析を起源とした理論です。
こころはどういう動きをするか(精神力動)という規則性を研究した理論です。
精神力動論にも様々な考え方がありますが、
・対話によって気づきを拡張する
・自己の探求を行う
・こころの無意識的領域を知り、アプローチを行う
・先天的な遺伝と幼少期の経験があいまって成人期を形成するという考え方
・カウンセラーとの間で起こる「転移」が重要な鍵となる
・幼少期の経験、愛着形成、トラウマなどに焦点を当てる
・願望、夢、空想にも焦点を当てる
・自分を守る、適応するための「防衛機制・適応機制」という概念を持つ
・治療への抵抗がある場合、抵抗が主な焦点になる
といった特徴があります。
カウンセリングとしては、幼少期や愛着形成、トラウマなどの過去に焦点を合わせたアプローチを行うことが多くあります。
また過去に焦点を合わせず、カウンセラーとの間で起こる「転移」に焦点を合わせてカウンセリングを行うこともあります。
※転移とは、クライエントがカウンセラーに対して抱く感情や気持ちであり、クライエントの養育者などの存在への感情や気持ちが重なって出ることが多くあります。
行動論・認知論によるカウンセリング
行動論・認知論では、精神分析や力動論のような過去の原因を追求することはあまり行わず、クライエントの習慣や学習、認知(捉え方や解釈など)などの修正や馴化(慣れ)によって直接的に解決、改善、軽減していく技法を行います。
有名なものとして認知行動療法(CBT)があります。
「認知の歪み(偏り)」という自分の解釈や捉え方が偏(かたよ)っていることを注目し、その偏りであるバイアスに気づき、適切な形へ修正することによって行動が変容されるという技法がよく用いられます。
精神分析や力動論との比較がよくされますが、どちらもクライエントによっては有益であることもあり、相互補完的に用いるカウンセラーや心理士(師)もいます。
行動論・認知論によるカウンセリングでは認知の起源に遡ることはあるものの現在の認知と行動に焦点を当てて、
・何を強化して、何を弱化させる行動を取るか?
・どのように馴化と消去を行うか?
・条件付け学習から考えるアプローチ
・どのような認知の偏りがその言動を生むのか?
・どのように認知の偏りを修正するか?
といったところを重視するカウンセリングを行うことが多いと思います。
体験論によるカウンセリング
体験論とは、来談者中心療法などを代表とするアプローチ方法で、クライエントの現在の問題や悩みに焦点を当ててカウンセリングを行います。
「ありのままの自分」と「こうなりたいという理想像」の不一致や葛藤などを改善することで問題や悩みを解決しようとする試みを行う心理療法です。
また「今どのように感じているか?」といった自分の内面にフォーカスしていくことも多く、フォーカシングや芸術療法などの心理療法もこの体験論的アプローチに含まれます。
体験論的カウンセリング(来談者中心療法)は、
・傾聴と共感的理解、ラポール形成を重視する
・自己概念と経験的自己の自己一致が大切とされる
・クライエントに対する無条件の肯定的関心と受容
・感情の反射による気づき
・非指示的
などが特徴的です。
クライエントを理解し、共感し、不一致が一致していくことによって、指示的なカウンセリングを行わなくてもクライエント自身で気づき、成長していくことができるという考え方が核になっています。
システム論によるカウンセリング
システム論とは、家族療法が代表的な心理療法で、クライエントだけでなく、家族なども含めた相互関係のシステムに対して働きかけるアプローチです。
原因を個人に求めるという考え方ではなく、人間関係の中で生まれるという考え方があり、家族システムの中の悪循環に関してのみ介入を行い、安定していくように向かわせる技法を用います。
また家族のみならず学校や企業などでも行われることもあります。
システム論によるカウンセリングでは、
・関係性を変える
・行動を変化させる
・リフレーミング
・相互理解
・原因追求よりも家族内尊重や協力を重視
・ダブルバインド
・解決思考
などが特徴的です。
おわりに
カウンセリングの種類について指示的・非指示的・折衷的という3つの視点と心理療法別の4つの視点から説明していきました。
これらはそれぞれに特徴がありますが、カウンセラーや心理士(師)によっても異なり、またクライエントに応じてカスタマイズ(統合)されることもあります。
自分が行いたいカウンセリングや興味のある心理療法があれば、そのキーワードで調べられるといいかもしれません。
自分が相談したいところがあれば事前に問い合わせして見るのもいいかもしれません。
ちなみに当カウンセリングでは、指示的カウンセリングと非指示的カウンセリングを用いる折衷的カウンセリングを行っております。
心理療法では、クライエントに応じて上記4つを含む統合的なカウンセリングと心理療法を用いております。
記事監修
公認心理師 白石
「皆様のお役に立つ情報を提供していきたいと思っています」