「悲しい気持ちが出る」「あの出来事から悲しくなった」「悲しみがずっと続いている」など人生を歩んでいると悲しみの気持ちで苦しんだり、悩んだりすることがあります。

ここではさまざまな観点から「悲しみ」について理解し、カウンセリングの有用性について説明していきます。

悲しみとは


「悲しい」という言葉を辞書で調べると以下のような説明がされています。

心が痛んで泣きたくなるような気持ちだ。つらく切ない。 《悲・哀》 「母に死なれて-・い」 「誠意が通じなくて-・い」

三省堂 大辞林 第三版

「悲しい」という言葉の成り立ちから見てみると、「非」という文字は羽が左右反対に開いた様から「裂ける」「割れる」という意味を含みます。

悲は「非+心」で成り立っており、心や胸が裂けるような切ない感じを表しているようです。

悲しみ(英語:sadness)は、多くの方にとってあまり出ることが喜ばしくないこころの感情のひとつであり、「喜び」の反対に当たる感情とされています。

精神的ショックを受けると「悲しみ」の感情が生まれやすくなります。悲しい時には精神的ショックを受ける出来事が背景にあるものです。

怒り系の感情は上に上がってくるようなエネルギーですが、悲しみは下に下がっていくようなエネルギーの感情と言えるかもしれません。

東洋医学では、「怒りは熱を生むエネルギー、悲しみは冷えるエネルギー」といったりすることもあります。

実際に怒りは炎症を生むことが多く、悲しみは身体機能低下がよく起こります。

また「怒りは肝臓や筋肉を痛め、悲しみは肺と胃腸を痛める」といった漢方医学の伝統的な考え方もあります。

悲しい時は呼吸が浅くなったり、息が吸いにくくなったり、胃腸の不調を訴えやすくなります。

許されざる出来事に遭遇し、最初からショックで落ち込むこともあれば、最初は怒りや憎しみの気持ちが生まれ、その状態がある一定の期間続いた後、悲しみで落ち込むといったこともあります。

悲しみの感情とともに出てくる症状として

・涙が出る
・泣く
・落ち込む
・力が抜ける
・失望する
・やる気が出ない
・挫折する
・精神的ショック
・胸が締め付けられる
・胸が引き裂かれる
・運動機能の低下
・行動力の低下
・怒りや憎しみ
・手につかない
・放心状態
・絶望感

などがあります。

悲しみが深い場合は、それだけ強い衝撃とショックで動けなくなることもあります。

希望を見いだせず、やる気が喪失し、抑うつ症状がでたり、日常生活に支障をきたし、仕事を辞める、ひきこもりなどの状態になってしまうこともあります。

またそれらのストレスで二重に苦しむこともあります。

このように「悲しみ」は、こころやからだの機能を低下させるような現象が現れやすくさせてしまいます。

しかし「悲しみ」から生まれるものは悪いものばかりではありません。

イギリスの詩人ウィリアム・ワーズワースは言います。

深い悩みによって、私の魂は、人間性を与えられたのである。

イギリスの詩人ウィリアム・ワーズワース

日本の相田みつをも言います。

あのときの あの苦しみも あのときの あの悲しみも みんな肥料になったんだなぁ。じぶんが自分になるために。

相田みつを

人生において「悲しみ」は避けては通れないものでもあり、いかに有益なものへと転換できるかが鍵となります。

精神的ショックと悲しみ


悲しみは精神的ショックとの関連性が深いことも多いため、精神的ショックから発生する流れと対応を段階的に説明していきます。

精神的ショックな出来事が起きたとき、よく起こることとして「そんなことありえない」と否定したり、否認したくなります。

なぜならそのような出来事が起こると思わなかったからです。

こころに衝撃が走ります。

この段階では、出来事を受け入れることができないために

①否認「そんなわけない、そんなことあるわけない」
②ショック状態「呆然とする、言葉が出ない」

などが起きます。

この段階では無理して受け入れるよりも心に身を任せて行くことが大切です。

そして時間が経つごとに、少しずつ出来事を受け入れていきます。

この段階では、

①感情が表れる(悲しみ、怒り、虚しさ、憎しみ)
※逆に感情が感じられなくなることあります
②罪悪感(自分の問題だと感じる場合)
③相手を責める思い(相手が問題だと感じる場合)
④身体化・転換(頭痛、吐き気、めまい、体の違和感)

などが起こります。

「なんとかしなきゃ」と動きたくても衝撃とショック状態を味わっているのでなかなかうまく動くことができない場合も少なくありません。

この段階では無理して何かできるものではありませんので心が感じるまま受け入れてあげていくほうが良い状況です。

周囲の方も言葉で刺激を与えるよりもただそばにいたり、話を聞いてあげたり、相手に応じて対応するほうが良いです。

なかなか受け入れることが難しい場合も多く、自責の念にかられ

①絶望的になる
②希望がもてなくなる
③他人が羨ましく感じ、孤独感が強くなる
④死にたくなる
⑤動けなくなる
⑥抑うつ状態になる
⑦体に症状が出てくる
⑧悲しみの感情や感情が麻痺する

などの気持ちや状態が現れてくる段階に入ります。

現実逃避をしたくなったり、ひきこもりたくなるような心理状態になります。

またそのような精神的ショックを受けている自分やそのように考えている自分を受け入れがたく感じてしまうこともあります。

この状態では、なかなか心や体が動いてくれないような時期ですので慎重に判断しなければなりません。

カウンセリングや相談を行う時期に多いのがこのような時期か、この時期を少し経過してもう一度頑張ろうとする時期に多く感じます。(実際はどの時期でも有用です)

時間の経過とともに出来事が風化しながら、受け入れが進み、ショックが和らぎ、悲しみも軽減し、絶望から希望へ転化していきます。

そこには当人がその出来事をどのように捉えているかが重要になってくる時期です。

不安傾向が強くなり、神経質が強くなる場合もあれば、失うものは何もないという気丈さを持つこともあります。

精神的ショックにどのように向き合い、どのように捉え、どのように活かしていくかが今後の人生においてとても大切になっていきます。

ショックと悲しみを感じる出来事と特徴


以下のような出来事によって精神的ショックを受けたり、悲しみの感情が誘因されます。

別れ

好きであった恋人と別れなければならなかった、離婚によって家族と別れなければならなかった、親友や友人と別れなければならなくなかった、大切な人が亡くなってしまった、など大切な人との死別や生き別れによって深い悲しみを感じます。

対象は人だけではなく、犬や猫などのペット、仕事や会社、趣味などの別れによっても深い悲しみを感じます。

大切にしていればしているほど、愛が強ければ強いほどその悲しみは深くなります。

大きな損害を伴う失敗

失敗は誰でもあるものですが、大きな損害を伴う失敗を起こすことも悲しみを感じやすい出来事です。

仕事で大きな損失を出した、交通事故を起こした、悪気はなかったけど大問題になってしまった、あんなことを言ってしまったために、あんなことをしてしまったために、などのようなケースが該当します。

失うものが多く感じられるほどその悲しみは深くなります。

挫折

仕事や学業、人生での目標に向かって走る途中で失敗や何らかの原因でダメになってしまう「挫折」によって悲しみの感情が現れます。

目標を達成しようと意気込んでいた気持ちが強ければ強いほど悲しみは深くなってしまいます。

落差の大きい事実の判明

あの人は自分のことをこう想ってくれていると思っていたのに、影で悪口を言っていた、SNSであんなことを、影で浮気していた、実はこんな人だった、騙された、好きだって言っていたのに、今まで健康だったのに大きな病気になった、まさか自分にこんな事が起こるなんて、治るって言っていたのに、効果が絶対あるって言っていたのに、など今までの既存のイメージや期待を大きく裏切られたときにも悲しい気持ちを感じます。

恋愛や結婚、子育て、会社の人間関係、友人、学校の人間関係、先生と呼ばれる人との関係、大きな病気の発覚、事件遭遇、治療、詐欺などで起こります。

良いイメージや期待が強ければ強いほど悲しみは深くなってしまいます

自分の理想化と現実

実際に持っている以上の価値を自分に認識してしまい、現実でその理想化が打ち砕かれることにより悲しみを感じてしまいます。

心理学(精神分析)で考える「理想化」は、他者や自己に無意識的に実際に持っている以上の価値を認識する防衛機制です。

親や周囲の期待に応えたい場合や自分の無力感や不甲斐なさを打ち消すために理想化したり、一部スピリチュアル関係や新興宗教などに理想化が深く関係していることも少なくありません。

適度な理想化は自分を向上させる働きになりますが、現実離れした理想化によって妄想の世界からなかなか抜け出せなくなる場合もあります。

実際に持っている現実的な価値より離れた理想化であればあるほど悲しみは深くなってしまうことがあります

当たり前が当たり前ではなくなった時

当たり前だと思っていたことが台風、洪水、地震など「天災」や「事件」「事故」「病気」「解雇」などによって急に当たり前ではなくなった時に深い悲しみを感じます。

その当たり前が大切であればあるほど悲しみは深くなってしまいます。

可能性がなくなった感じがする時

可能性や希望がなくなることによって悲しみの感情が生まれやすくなります。

今まで見出していた可能性がなくなり、諦めざるを得ない状況が該当します。

そのようなときに「すぐに受け入れる」ことが簡単ではないことも多くあります。

希望を見出していた分、悲しみは深くなります。

悲しみを感じやすい出来事のまとめ

悲しみを感じやすい出来事をまとめると

・天災によるもの(台風、洪水、地震、竜巻、大雨、落雷)
・大病や度重なる病気や症状の発症
・事故(加害者・被害者)
・大きな失敗
・解雇・倒産・落第
・いじめや孤立
・大切な人(動物)との別れ(生き別れ・死別)
・挫折
・裏切り・詐欺
・犯罪
・自己イメージの崩壊
・他者イメージの崩壊
・流産・不妊
・虐待
・子どもに関する問題
・コロナ禍による影響
・お金や資産の損失

などがあります。

悲しみと絶望感


悲しみが深くなるにつれ現れてくるのが「絶望感」です。

「絶望感」は、望みが絶たれた、希望が全くなくなったときに感じることが多いものです。

この状況は本当に苦しいものです。

明るく持ち直そうと頑張っても難しいこともあります。

そして絶望感に苛まれ、虚無感などが生まれ、自暴自棄になったり、自殺願望が出ることもあります。

ここで注意が必要です。

絶望感が出る時期は、何に対しても絶望的に見えてしまいます。またはそのように考えてしまいます。

この時期の絶望感や希望が持てないと思ってしまう現象に惑わされないようにしていくことが大切です。

このような時期は絶望感がでるものなので、出ないようにコントロールするよりも絶望感に呑み込まれないことが大切です。

この時期がすぎれば、また希望を感じて立ち上がっていくことができますが、何度も言いますがこの時期は本当に絶望的に見えやすくなりますし、希望を感じにくくなるものなのです。

そういった理解を持ちながら人の力を借りたり、人のあたたかさを感じる機会を増やしていくことが大切です。

悲しいとき


悲しいとき、その悲しみをどのように扱っているでしょうか?

悲しい気持ちが出たときに、悲しい気持ちが出た自分を責めたり、否認するということが起きることがあります。

「こういう自分はダメだと」「こんなことで悲しいと思うなんて」「また悲しくなってしまう自分はダメだ」というように。

もしそんな状態であれば、「悲しみ」のストレスに加えて罪悪感や受け入れられないストレスも余計に加わり、二重に自分を苦しめてしまいます

悲しくなるにはそれなりの理由があります。その理由がどんなものであれ悲しいのです。

ですので悲しい気持ちや悲しむ自分を受け入れてあげてください。

泣きたいときは泣いてください。

泣きたくないときは泣かないでください。

自分のこころを大切にしてあげてください。

自分の本音も大切にしてあげてください。

「悲しみ」に対してのカウンセリング


悲しみに対してのカウンセリングは、通常のカウンセリングよりも相談される方(以下クライエント)のペースを大切にしています。

「自分が何に対して悲しいのか」をゆっくり声に出して話していくことで少しずつ全貌が明らかになり、少しずつ冷静に受け止めていけることが増えていきます。

あまりうまく話せない場合は、話せるところから少しずつ話していくことが大切です。

話していくことによって悲しみに包まれて見えなかったこと、気づけなかったことにも目が行くようになり、少しずつ気持ちも変化していきます。

それでも深い悲しみをコントロールできないこともあります。

そのような深い悲しみはコントロールするよりも理解と尊重が必要かもしれません。

そういった温かい自分への眼差しと時間の経過とともに穏やかになっていくことがあります。

また悲しみは癒し消えていくものもあれば、人によっては自分の人生とともに共存していくような悲しみもあります。

自分の人生においてその悲しみはどのように扱うほうが良いのか?がカウンセリングの重要なテーマになっていくこともあります。

カウンセリングでは自分の思っている本音を声に出していくことが大切です。特に誰にも言えないようなことならなおさら重要になります。

話していく中で「ようやく涙が出ました」ということがカウンセリングではよくあります。

自分の心の世界だけでさまよっている時には出ない「こころの動き」が出せるように思います。

話すということは基本的な欲求でありながら、好きなように話せるという機会は一般的には少なく、通常は制約があります。

そのような制約の少ない、秘匿性の高い守られた場所で話していく様はなかなか経験できるものではありません。

自分の中で処理しにくい問題でもそのような場で、共感的・受容的な態度に見守られながら話していくことで気づきが生まれたり、言葉に出して初めて外に出すような経験を通してすっきりしたり、気持ちが楽になっていったりします。

悲しみの理由を追いかけていると「だからこんなに悲しかったんだ」というような事実が判明し、感動とともに涙されるようなことも起こることがあります。

そのような悲しみの感情以外にも、悲しみに付随したこころの感情やからだの症状も含めて、丁寧にカウンセリングの中で扱います。

まれに悲しみをあまり感じず、からだの症状が強いといった事例もあり、お一人お一人の状況に合わせていきます。

悲しみが癒され、クライエントにとって適切な方向へ向かっていけるようにカウンセリングは続いていきます。

ある程度の地点まで到達すると希望を感じられるようになり、その出来事の受け入れも進んでいきます。

このような時期になって、あの時に感じていた絶望感は薄れていきます。

そして少しずつ加速がつき、日常生活がスムーズになっていきます。

悲しみを乗り越えた自分を誇りに思え、ひとまわり成長した自分でこれからの人生を歩んでいけます。

今まで失っていた自信が蘇り、成長による自信も加わって新たなスタートを切ることができます。

そのときには「向き合って良かった」と思えるはずです。


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記事監修
公認心理師 白石

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