アメリカの精神科医・催眠療法家であるミルトン・エリクソンという方をご存知でしょうか?

クライエントに応じて変幻自在なアプローチを行う天才的なセラピストとして今でも有名であり、その後の多くの臨床家に多大な影響を与えています。

カウンセラーや心理士(師)の方ならご存知のことが多いかもしれませんが、その考え方から学ぶことは多いものです。

ここではミルトン・エリクソンの3つの逸話からその考え方を学べるように書いていきたいと思います。

ミルトン・エリクソンについて


ミルトン・エリクソンは1901年にアメリカのネバダ州Aurumの生まれでアメリカ臨床催眠学会の創設者であり、初代会長も務めました。

ポリオにより全身が麻痺するという身体障害に悩まされましたが、回復するまでの期間、唯一使える目を用いて家族や人を観察し、後の観察眼や心理療法の基礎となる洞察などを鍛えていきました。

ミルトン・エリクソンの技法の考えの基礎には「利用できるものはなんでも利用する」というUtilization(意味:利用)があります。

まさに自分の障害を利用して、自らの才能を伸ばしていったのです。

この考え方は、自分の才能や資源の可能性を大きく広げてくれる視点だと思います。

また「治療に抵抗するクライエントなどいない、柔軟性に欠けるセラピストがいるだけだ」という信念も大きな影響を与えました。

抵抗する仔牛の話


ミルトン・エリクソンが幼少時代の時の逸話です。

仔牛が喉の渇きを満たしたあと牛舎に戻っていくのですが、一頭だけが戻りません。

大人が必死に力で動かそうとしても抵抗して動きませんでした。

それならばとミルトンは、逆に牛舎とは逆の方向へ仔牛の尻尾を引っ張りました。

子供の小さな力でしたが、仔牛は牛舎の方へ向かっていきました。

抵抗したい仔牛の「抵抗したいという力」を活用したのです

言い方を変えると「尊重」したのです。

「抵抗したい力」をうまく利用・活用できるものはないでしょうか?

爪を噛むことをやめない子供


親に爪を噛むことを「やめなさい」と叱られてもやめられない子供の話も新たな視点を与えてくれます。

「お父さんとお母さんは、きみにね、ジミー、爪噛みをやめなさいって、ずっといってきたよね。けど、お父さんもお母さんも、きみがまだたったの六歳だってこと、わかっていないようだね。きみが七歳になるちょっと前にごく自然に爪噛みをやめることもわかっていないようだ。だから、お父さんとお母さんが爪噛みやめなさいっていったら、とにかく知らんぷりしなさい」

選択の自由を奪われるような言われ方をするとやりたくなくなるようなことを心理学では「心理的リアクタンス」といいますが、子育てや教育、職場、学校、さまざまなところで起きることが多いものです。

相手の抵抗したい力を尊重して、活用できるものはないでしょうか?

激痛の関節炎をお持ちの車椅子の男性


この男性は長期にわたって激痛の関節炎を患っているこの男性は、動かない体に強い怒りを持っていました。

唯一動かせる頭と片方の親指という状況をもとに、このように言いました。

「動かせる親指があるのだから、それを動かさなくてはいけません。毎日その親指を動かす練習をして時間をやり過ごすんです」

男性は、「そんな事意味がない!!」ということを証明するためにムキになって毎日動かしているとほかの指も動き始め、手首や腕まで動くようになりました。

その後、トラックの運転手になり、組合のトップになり、大学にも通うようになったようです。

ここで重要なのは、今ある自分の資源を活用することと「体を動かすことに意味がない」ということを証明したい人であることを尊重している点です。

どこに反応するかは人によって異なります。

今ある資源で使っていないものはないですか?

証明したいことを何かに活用できませんか?

おわりに


催眠療法やトランスなどで有名なミルトン・エリクソンですが、これらの逸話には私たちが活用しうる考え方があるように感じます。

「そっちもあるか」というように視野が広くなるというか、神経回路が新たに形成されるような感じもあるように感じます。

悩んだり、問題を解決したいとき、ついついひとつの方向性で考えてしまうものですが、この3つの逸話から少しでも参考になるものがあれば幸いです。


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記事監修
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