PTSD・トラウマ・恐怖症で困っている場合や恐怖記憶・恐怖学習に関連して心理的症状や身体的症状が発現する場合に知っておくと役に立つのが「恐怖条件付け」です。

ここでは「恐怖条件付け」についてわかりやすく説明していきたいと思います。

恐怖条件付けとは?


恐怖条件付けとは、人間(動物)に本来備わっている学習による恐怖に関する条件的反応の働きのことを指します。

古典的条件付け(レスポンデント条件付)の一つです。

ネズミに音を聞かせながら電気ショックを与えると翌日から音を聞いただけですくみや硬直状態といった反応を示すようになります。

このように音と電気ショックを関連付けて学習することで危険を避けようとします。

危険な動物や生物と近い環境で暮らしてきた我々にとって危険を回避する、命を守るために重要な役割を果たしていました。

現代社会ではそのような危機・危険が日常にはありませんが、恐怖を感じる人間関係や環境、状況などを経験することにより条件付けて学習が行われ、反応を示してしまいます。

すくみ反応、瞳孔散大、血圧上昇、心拍数の増加やストレス応答ホルモン放出などが恐怖反応として発現します。

強烈な恐怖や持続的な恐怖は、パニック障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、強迫性障害、不安障害などの原因となってしまいます。

恐怖条件付け学習が成立した後に非条件刺激(電気ショック)がない条件下で、条件刺激(音)のみを、繰り返し提示し続けると、条件刺激に対する恐怖反応が見られなくなります。

これを「消去」といいます。

消去は、反応をする必要がないことを新たに学習することにより反応が消えるのですが、条件付け記憶自体は消えないと言われています。

なぜなら消去学習が行われた後、ほかの感覚刺激等により再び恐怖反応を示す「復元」が行われたり、期間をあけたのちに同じ刺激を加えると恐怖反応を示す「自発的回復」という現象が確認されているからです。

恐怖体験が長期にわたって学習を保持してしまいますが、本来は自分を守るためなのです

恐怖条件付けの種類


「恐怖文脈条件付け」と「恐怖音条件付け」を紹介しますが、恐怖体験時の五感(視覚、嗅覚、触覚、味覚、聴覚)に関連付けられてしまいます。

似たような状況や五感に遭遇すると、恐怖記憶が想起されて、恐怖反応が発現します。

恐怖文脈条件付け

場所を含めた状況(文脈)と恐怖を条件付ける学習です。

例)ねずみが小箱の中で電気ショックを与えられると、電気ショックを与えられない小箱の中でもすくみ反応がでてしまう。

恐怖音条件付け

音と恐怖を条件付ける学習です。

例)音が鳴ると電気ショックを与えられた場合、音が聞こえるとすくみ反応がでてしまう。

恐怖条件付けのしくみ


恐怖条件付けの獲得、記憶の形成、保持、想起は「扁桃体」が中心的な役割をしています。

恐怖文脈条件づけには海馬も関係していることが明らかになっています。

恐怖条件付けのしくみ
げっ歯類を用いた解析に基づいた扁桃体内神経回路図。恐怖条件づけを制御する投射経路を黒矢印で示した

恐怖条件づけ – 脳科学辞典より引用(上図)

恐怖体験が記憶として脳に刻まれるメカニズムの解明への研究から引用してご紹介します。

研究チームは、光遺伝学[2]とよばれる神経活動を操作する技術を用いて、ラット脳内の扁桃体の神経活動を抑制しました。その結果、実際に恐怖記憶の形成が阻害されただけでなく、扁桃体[3]でのニューロン同士のつながりの強化も妨げられ、ヘッブ仮説を支持する結果が得られました。また、光遺伝学によって扁桃体のニューロンを人工的に活性化しても、怖い体験は与えずに音刺激を与えるだけでは、恐怖記憶は形成されないことが分かりました。しかし、扁桃体のニューロンの人工的な活性化に加えて、覚醒や注意に作用する神経修飾物質[4]「ノルアドレナリン[5]」の受容体を同時に活性化させると、怖い体験を与えなくても、恐怖記憶が形成されることが明らかになりました。この結果は、恐怖体験の記憶形成においてヘッブ型可塑性は有力な仮説であるものの、それだけでは十分ではなく、神経修飾物質の活性化も重要であることを示唆しています。

怖い体験が記憶として脳に刻まれるメカニズムの解明へ 理化学研究所

ヘッブ型可塑性とは、「ヘッブのシナプス可塑性仮説」とも呼ばれ、神経細胞間の結合強度が刺激によって変化していく性質のことを指します。

神経も条件付け学習と同じように神経細胞間の結合が強化されたり、弱化されたりします

以前は傷ついた神経は修復されないという常識がありましたが、修復されたり、新たに新生されることも研究で明らかになり、脳の再生能力が備わっていることがわかりました。

扁桃体ニューロンとノルアドレナリンの受容体を活性化すれば恐怖体験をしていないのに恐怖記憶が形成されるところまで研究が進んでいることは驚きです。

おわりに


恐怖条件付けの学習のシステムを理解することによってなぜ恐怖反応を示すのかがわかるようになります。

ヘッブのシナプス可塑性仮説や神経可塑性などの神経のしくみを学ぶことでより理解が深まり、恐怖に対する治療の可能性を高めてくれます。

本来は自分を守るために働くシステムが自分を過度に苦しめてしまうことを減らしていくためには、「学習-神経」の理解とアプローチを行っていくことが有用になります。

カウンセリングや心理療法はこのような理解のもとに消去や馴化(慣れていく)、学習への介入を行っていきます。

なお条件付けに関してより詳しい情報は「古典的条件付けとオペラント条件付け」へ

参考文献・サイト

恐怖条件づけ – 脳科学辞典
恐怖条件付け記憶の想起, 消去に対する扁桃体亜核の役割

記事監修
公認心理師 白石

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