「ニューロダイバーシティ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

人間の個性や特性を新たな視点で包括していく、これからの時代に必要な考え方かもしれません。

できるだけわかりやすくこの記事では書いていきたいと思います。

ニューロダイバーシティとは何か?


ニューロダイバーシティ(英語:neurodiversity)とは、脳や神経系を表す「Neuro」と多様性という意味の「Diversity」という英語の組み合わせで生まれた新しい造語です。

この言葉は、オーストラリアの社会学者であるジュディ・シンガー(Judy Singer)が1998年にオピニオン雑誌に掲載した際に使われました。

自閉症などの脳神経系の障害や遺伝子学的な差異を「病的なもの」であるという今までの考え方に対して生み出された背景があります。

これらの脳神経系の違いは、

  • 民族の違い
  • 性的な違い(ジェンダーの違い)
  • 肌の色の違い

などのように社会的な違いとしてとらえるべきだ、というのがニューロダイバーシティの考えである。

人は誰でもある程度の神経学的なダイバース(違い)があり、定型的な脳神経系ではない人=病的と捉えるのではなく、ニューロ・マイノリティ(神経学的少数派)である、と捉えることを提唱しました。

それは自閉症や発達障害などの非定型の脳神経系は、欠陥ではなく、一つの異なった特性であり、ユニークな個性や生き方を持つものという認識を持つべきだと訴えました。

ちなみにこのニューロダイバーシティの考え方は90年代の自閉症コミュニティから生まれてきた捉え方ですが現在では、

  • ADHD
  • 発達性協調運動障害(DCD)
  • ディスレクシア
  • 統合失調症
  • パーソナリティ障害
  • 睡眠障害

などを持つ方々のコミュニティからも支持されています。

2009年に行われた自閉症やADHD、ディスレクシアを持つ学生に自分の特性をどのようにとらえるかを調査しました。

彼らの約40%ほどの学生が暴力や非暴力的ないじめや排除を経験していました。

そしてこのニューロダイバーシティという考え方を持っている学生の約7割が将来の目標や希望を持っていたというのです。

※彼らはオンラインでつながり、学び合える場を持っていた。

社会や実際の周囲の人々の認識が変わるまで時間がかかるものですが、自分の認識を変えるほうがまだ容易になるかもしれません。

この「神経学的な多様性を自分の中でとらえなおすことで得られるものは多くある」ということが分かった重要な調査結果でした。

しかしこのように障害や特性を持つ人の権利を守る活動が世界的に広まってきている中で、この考え方は様々な論争も巻き起こってしまいます。

ニューロダイバーシティと論争


論争はしばしば極論的な解釈から生まれることが少なくありません。※このような論争はいろいろな業界で同じように起こりますね。

例えば、「一つの個性や特性であるので治療や支援は不必要である」といった捉え方に対して「不必要なのであれば支援や研究に費用や資源をかけることも不必要だ」といった具合である。

この論争で問題なるのが、治療や支援の機会・研究の喪失を生むことへ発展してしまうことです。

治るという極端な話ではなく、改善する余地を減らしてしまっては、意味がありません。

世界中で開発がすすめられている遺伝子的な研究、脳神経系の研究と治療開発、支援の発展や広がりを削ぐようなことはあってはなりません。

神経学的な違いを持つ人たちが治療を受けるかどうか判断できる世の中を作ることが大切です。

またニューロダイバーシティは、発達グレーゾーンの人や高機能と呼ばれることがある発達特性を持つ者だけに適応できるものではないか?という議論もあり、支援が必要な方々も包括した捉え方や解釈も必要であると提起されました。

障害や特性を持つ方々の権利と尊厳


少しでも理解が広がるように、障害や特性を持つ方に対する権利や障害観について重要な提言がされた「障害者権利条約」の内容をわかりやすく簡潔に説明していきたいと思います。

障害者権利条約(英語:Convention on the Rights of Persons with Disabilities)とは、2006年の国連総会において採択され、2020年現在日本を含む182カ国が批准しているあらゆる障害者の尊厳と権利を保障するための条約である。

ここでいう「あらゆる障害者」とは、身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害、その他の心身の機能の障害などを指します。

この条約の一番重要な点は、障害は個人ではなく社会にあるという視点を強調しているところです。

障害がある子供や大人を差別や偏見から守り、社会的理解や配慮がなされ、社会へ参加できるようにしていくことが大切だということです。

また「われわれのことを我々抜きで勝手に決めるな!(英語: Nothing about us without us!)と言うスローガンを掲げ、障害者や特性を持つ者の視点から作られた条約であることも特徴的です。

条約では、

・当事者の自尊心と自己決定権の重視
・不可侵性の保護(人権がおかされないこと)
・雇用や医療、生活での差別禁止
・社会からの隔離や孤立の防止
・個性や違い、多様性の理解と尊重を促す
・選挙権や社会参加の権利
・インクルージョン(誰にでも参画や貢献するチャンスがあり、平等な機会があること)
・医学的実験からの保護やインフォームドコンセントの権利(わかりやすい説明と合意があること)
・社会全体の偏見や不理解への働きかけや政策の強調
・生きやすさや利用しやすさを考えたアクセシビリティ
・機会の平等

などの重要性を強調されています。

障害者や特性を持つ者自身の努力のみならず、障害者以外の者や社会全体が理解し、配慮を行えるようにしようとすることがこれからますます重要視されていきます。

また仕事を行う企業においては、それぞれの個性や特性に応じた職務や配慮、チームにおいての協力体制が見直され、新たな働き方も生まれてきております。詳しくは「心理的安全性とチーミング」へ

おわりに


お読みいただきありがとうございました。

この記事をお読みになって、どのように思われていたでしょうか?

自分や家族の特性理解に少しでもお役に立てましたら幸いです。

わたくし個人としましては、このニューロダイバーシティの視点は非常に有用なものだと思います。一方でそれを治療・研究・支援していくことを発展させていくことも重要であると考えます。

これらは自転車の両輪のように争うことなく、促し合いながら協走していくことが当事者とその家族にとって最大の利益をもたらせるものとなると信じています。

また障害や特性を持つ方々を受容し、彼らが生き生きと暮らし・活動できる場を提供できる豊かな社会を作ることは個人のみならず、人間全体の幸福度と発展を促すものであると思います。

これは簡単なものではないですが、少しずつその車輪は未来に向けて動き始めていると感じています。

記事監修
公認心理師 白石

「皆様のお役に立つ情報を提供していきたいと思っています」

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