日本での過敏性腸症候群(IBS)の有病率は10~20%といわれているぐらい日本人に多い疾患とされています。
ストレスや心理的影響を受けることが多いため、なかなか治癒や改善が難しいことも少なくありません。
過敏性腸症候群(IBS)の相談をたくさん受けてきたことから改善していくために何ができるか考えていきたいと思います。
もくじ
過敏性腸症候群(IBS)とは何か?
過敏性腸症候群(英語:Irritable Bowel Syndrome、略名:IBS)とは、検査を行っても物理的な異常が見当たらないにも関わらず、便秘や下痢、腹痛、ガス(おなら)がでる症状が慢性的に現れる消化器疾患です。
症状の苦痛だけではなく、学業、仕事、日常生活に支障をきたすことも多いため、慢性的な強いストレスに苛まれていることも多くあります。
長年の原因不明の症状がこの過敏性腸症候群(IBS)だったという方もいれば、「実は大きな病気があるのではないか?」と思う方もいます。
大きな病気かどうか検査することが大事ですが、異常がない場合は安心できることもありますが、そうではない場合もあります。
何が原因かわからないという怖さや納得がいかないという気持ちがでることがあります。
病院などではその場合、「病気不安症」や「心気症」という形で診断されることがあります。
原因がなかなかわからなかったり、改善の兆しが見えない場合、誰でも不安や心配は強くなることもあります。
症状によっては「ここで漏れたらどうしよう」「ここで出たらどうしよう」という強烈な恐怖を日々感じてしまうこともあり、その苦労と苦痛は体験したことがない人にはわからないものがあります。
周囲から「気にしなければいい」と言われても気になってしまうものですからなかなかそうすることができず、逆にその言葉によって苦痛を味わうということもあります。
過敏性腸症候群(IBS)は以下のように分類されています。
・下痢型過敏性腸症候群(IBS-D)
・便秘型過敏性腸症候群(IBS-C)
・混合型過敏性腸症候群(IBS-M)
・分類不能型過敏性腸症候群
・ガス型過敏性腸症候群
過敏性腸症候群(IBS)の原因と考えられるもの
過敏性腸症候群(IBS)の原因として考えられるものとして、
・自律神経の問題
・ストレスによるもの
・腸内フローラによるもの
・生活習慣によるもの
・心理的な影響
・フードアレルギー・SIBOによるもの
・脳と腸の信号が強くなる
・感染性の腸炎
などがあります。
はっきりとした原因がまだわかっていないところも多い過敏性腸症候群(IBS)ですが、上記のように多くの原因が考えられています。
この図は日本消化器病学会ガイドラインによるもので非常にわかりやすいために紹介しております。
科学的根拠であるエビデンスから考えると過敏性腸症候群(IBS)では、脳と消化器の信号が強くなっていることが明らかになっています。
脳は知覚過敏状態になり、少しの違和感でも症状を強く感じてしまい、腸は少しの刺激で症状が出てしまう状態になってしまうということです。
この脳と腸の過敏状態が病態としての原因として明らかになっています。
ではなぜそうなるのか?は現在も研究されていますが、その始まりとなる起因は、感染症や強い精神的ショック、トラウマティックな強い心理的影響などがあると言われています。
原因追求も改善に至るために大切ですが、過敏状態が解除され通常の状態へ回帰することに注力していくことも大切かもしれません。
過敏性腸症候群(IBS)の改善や治療の難しさはこの「脳と腸の過敏状態」にあるように感じます。
どうしても気にしてしまう気持ちや恐怖感情による影響もあるためこの過敏状態を抑えたり、解除することはそんなに簡単ではありません。
しかし時間をかけて地道に自分に合った方法を行なっていくことで神経や脳、腸も変化していくことをたくさんみてきました。
自分に必要なものを探る
どんな時に症状が悪化しているでしょうか?
そこには何が影響していると考えられるでしょうか?
どんな時に少し良い状態でしょうか?
そこには何が影響しているでしょうか?
この過敏状態は何がそれを助長させているでしょうか?
この過敏状態が改善するには何が必要でしょうか?
このような質問が自分に必要なものを探る手がかりになります。※わからない場合、わからないでいいかもしれません。
人によってはお薬が必要であったり、生活習慣を変える必要があったり、食べ方や食べる量を一時的に変化させる必要があったり、脳や頭を休ませる必要があったり、勇気が必要であったり、心理的な変化が必要であったりするかもしれません。
自分の症状には何が効果的かを見ていくことが大切です。
しかしここで注意が必要なのは、少しやっただけで改善しないものを効果がないと簡単に判断してしまうことがあります。
この過敏性腸症候群(IBS)はジワジワと改善していくものに良いものが多くあるように感じます。
しかし症状の苦痛と恐怖が強く、「早く逃れたい」「早く解決したい」という思いが強くなってしまうもので、その分だけ焦りが強くなります。
そういったことからいつのまにかすぐに改善できるものばかり探してしまうこともあります。
このあたりもこの疾患の難しさだと思います。
この難しい過敏性腸症候群(IBS)を改善するために「神経可塑性(しんけいかそせい)」と「恐怖条件付け学習」について理解することが役に立つかもしれません。
神経可塑性について知る
神経可塑性(英語:synaptic plasticity)とは、外界から入ってきた刺激に対して神経系が構造的・機能的に変化する性質です。
活動や心的経験に応じて、脳が自らの構造や機能を変える性質があるということです。
神経可塑性の原理は、同時に発火するニューロンがお互いの結束を強める経験の繰り返しによって処理するニューロン間の結合を強化し、ニューロンの構造的変化をもたらします。
逆に長い間経験を中断すると対応する結合は弱まり次第に消失へ向かっていきます。
ようするに「よく使用する神経は強化され、使わない神経は弱化」する特性があります。
神経の損傷が行われた場合もそれを代償するように脳や神経における可塑的な変化があります。「傷ついた神経回路は修復されない」「神経は新しく新生されない」と信じられていましたが、最新の研究では、神経回路は修復され、新しい神経細胞も生まれることがわかってきました。
上記のように神経ネットワークの再編や新生には時間がかかります。
過敏性腸症候群(IBS)で過敏になった神経やネットワークの改善にも少し時間的な配慮をしつつ、長期的に考えていくことが必要かもしれません。
恐怖条件付け学習
恐怖条件付けとは、人間(動物)に本来備わっている学習による恐怖に関する条件的反応の働きのことを指します。
古典的条件付け(レスポンデント条件付)の一つです。
ネズミに音を聞かせながら電気ショックを与えると翌日から音を聞いただけですくみや硬直状態といった反応を示すようになります。
このように音と電気ショックを関連付けて学習することで危険を避けようとします。
危険な動物や生物と近い環境で暮らしてきた我々にとって危険を回避する、命を守るために重要な役割を果たしていました。
現代社会ではそのような危機・危険が日常にはありませんが、恐怖を感じる人間関係や環境、状況などを経験することにより条件付けて学習が行われ、恐怖反応を示してしまうことが多いかもしれません。
過敏性腸症候群(IBS)の場合、下痢や腹痛、おなら(ガス)がでることに恐怖を感じ、学校、職場、電車やバスなどの特定の場所が余計に症状と関連付けて学習されてしまうということです。
身体の反応としては、すくみ反応、瞳孔散大、血圧上昇、心拍数の増加やストレス応答ホルモン放出などが恐怖反応として発現します。
強烈な恐怖や持続的な恐怖は、パニック障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、強迫性障害、不安障害などの原因となってしまこともあります。
恐怖条件付け学習が成立した後に非条件刺激(電気ショック)がない条件下で、条件刺激(音)のみを、繰り返し提示し続けると、条件刺激に対する恐怖反応が見られなくなります。
これを「消去」といいます。
消去は、反応をする必要がないことを新たに学習することにより反応が消えるのですが、条件付け記憶自体はなかなか消えないと言われています。
なぜなら消去学習が行われた後、ほかの感覚刺激等により再び恐怖反応を示す「復元」が行われたり、期間をあけたのちに同じ刺激を加えると恐怖反応を示す「自発的回復」という現象が確認されているからです。
しかし神経は可塑性を持っています。
使わなければ弱くなり、使えば強くなります。
逆にこの機能を活用していく方法もあります。
多くの時間や努力が必要ですが、地道に神経可塑性の理論に沿いながら新たな学習をしていくことにより新たな神経系が再構築されていきます。
心理療法などの専門的なアプローチを用いるとより早く心的改善がみられるので、神経可塑性もそのように再構築されていると思われます。
恐怖−過敏−不安のシステムと神経可塑性
恐怖を感じ、恐怖を学習すると神経は高ぶります。
要するに過敏になるということです。
ですので通常よりも不安もたくさんでてくるものです。
また不安によって強迫的傾向が強まることも少なくありません。
このような「恐怖−過敏−不安」システムが私たちには備わっています。
それは自分自身を守る自己防衛本能から生まれる働きです。
このようなシステムも人体的には神経可塑性が深く関わっていると考えられます。
このような人体の防衛の仕組みを知らないことによって、「なんで自分はこんなに不安なんだろう?」「なんでこんなに神経質になったんだろう?」と疑問を自分に投げかけ、その責任の所在を自分の心的弱さにしてしまいます。
そうすることによって自責し、ますます自分を弱め、より恐怖が強く感じるようになり、より過敏に、より不安になっていく負のスパイラルに巻き込んでしまいます。
ですのでこういった仕組みがあることを知ることがまずは大切になります。
そして時間はかかるものの新たな学習をしたり、消去をおこなったりすることで神経が再編されていきます。
神経可塑性を中心としたカウンセリング・心理療法
カウンセリングしらいしでは、過敏性腸症候群(IBS)に対する神経可塑性を利用したカウンセリング・心理療法を行っております。
特に「恐怖」をどのように扱い、アプローチしていくかがキーになることが多くあります。
相談されるクライエントによって何が重要で、必要か、不必要かが異なることもあります。
そういった個人個人の特性や思いも考慮しながらクライエントに適したセッションを行っていきます。
詳しくは、直接お問い合わせください。
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記事監修
公認心理師 白石
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