心理学者・臨床家・研究者の人物像や提唱された内容から今に学べることは多くあります。
ここではデイヴィット・ローゼンハン「健常と異常」について書いていきたいと思います。
デイヴィット・ローゼンハンについて
デイヴィット・ローゼンハン(David L. Rosenhan)は1929年にアメリカのニュージャージーに生まれました。
1951年にイェシヴァ・カレッジで数学と経済学の学士号を取得し、1958年にコロンビア大学で心理学の博士号を取得しました。
ローゼンハンは、証人審査や陪審選考、陪審審議など法的裁判と意思決定の専門家として活躍していきます。
プリストン大学やスタンフォード大学などで心理学と法学の教授として研究を続け、トライアル分析グループを創始し、メンタルヘルス患者の法的権利を提唱しました。
主著には、
1968年「異常心理学の基礎(ペリー・ロンドン共著)」
1973年「異常な場所で正常であること」
1997年「異常性(マーティン・セリグマン、リサ・バトラー共著)」
などがあります。
健常と異常
1960年代〜1970年代、患者の要望や反応を無視することの多い精神医学を批判する人々は「反精神医学者」と呼ばれ、精神医学者、心理学者、介護士などが中心的グループとなり、批判的主張をしていました。
1973年にローゼンハンはアメリカで精神病診断の妥当性を検討するフィールドワークに従事した結果、精神病院の中では健常者と異常者の区別ができないという驚くべき結論に達しました。
健康な健常者8人を幻聴がでる症状に悩まされている(嘘ですが)という設定にして、医師の診断を受けたところ、12の精神病院で入院することとなり、全員が精神病として診断されてしまいました。
また入院中に病院スタッフと接点があったのが毎日わずか7分ということもあり、その嘘は見抜かれませんでしたが、その嘘も見抜けないほどの接点しかない実情を浮き彫りにしました。
もう一つの実験として、病院スタッフに偽の患者が数ヶ月中に入院するという嘘の情報を流す実験をローゼンハンは行いました。
やってきた193人のうち、41名が疑いを持たれ、23名が精神科医によって偽患者であるかもしれないと判断されてしまいました。
これらの実験から精神病の診断は客観的というよりも観察者の心の中にしか存在しないというような結果となってしまいました。
ローゼンハンの研究により多くの論争が起こり、多くの施設が患者への対処や待遇を改善する方向へ向かいました。
精神科病院行っての中では、誰が健常で誰が異常か見分けがつかない
デイヴィット・ローゼンハン
おわりに
この2つのローゼンハンの実験を知って、どのように感じましたでしょうか?
私達がどのような方向性で物事を考え、観るかによって、見えるものが非常に歪曲することがあります。
健常と異常の線引きも時代によって異なりますし、自分自身への認識として「健常」か「異常」か、という判断によって自分という存在自体がそのように見えてしまうことすら多いかもしれません。
その判断が他者に向けられて被害を被るということもあるかもしれません。
そういった二極的な認識が人間にあり、時として他人や自分を傷つける刃になることがあるということを教えてくれています。
参考文献
心理学大図鑑 キャサリン・コーリンほか
記事監修
公認心理師 白石
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