「境界知能」という言葉は最近よく見たり聞くことも増えたかもしれません。
この情報をより多くの方々が知り、理解していただける方が増えますように、記事を作成しております。
もくじ
「境界知能」とは何か?
「境界知能(英語:Borderline intelligence)」とは、知能の一部を数値化した知能指数(IQ)において70以上~85未満の方々に対して使われることがある言葉です。
境界知能は、一般平均のIQ85~115と知的障害とされるIQ70未満の間に属します。
平均と障害のはざまになりますが、なかなか今まで一般的に理解されてこなかった境界域になります。
IQが70未満ですと早期に発見され、福祉支援としてサポートされる手厚さがありますが、境界域ではなかなか発見されないことも少なりません。
今でも一般の方に「境界知能」と言って理解できる人はどれくらいいるでしょうか?
ある統計上では約14%がこの境界知能に該当するといわれています。
14%というと1000万人以上いるのです。
学校の35人クラスがあるとすると5人くらい境界知能のお子様がいるという計算になります。
これは驚異的な事実かもしれません。
数百万人以上がその事実を知らずに困難さに向き合っている可能性があるのです。
気付かない方が適応できる場合はいいのですが、気づかないことで困難さや苦しみが増えるケースでは気が付いた方がよいかもしれません。
そういった意味でも今回の記事は少ないながらも役に立てられればと思っています。
ウェクスラ―式知能検査のWISC検査では「言語理解」「知覚推理」「処理速度」「ワーキングメモリー」の4つの指標とIQを数値化できるので、境界知能かどうか、そして得意な部分と苦手な部の凸凹が非常に分かりやすい検査になります。
境界知能では知的障害を持つ方より認知機能が発達しているために傷つきやすい脆弱性があったり、非行に走る方も少なくありません。
境界知能の学習面での問題点
学習面では、
○読み書き
○スピードについていけない
○集中できない
○理解が難しい
○上手く整理できない
○覚えられない(すぐ忘れる)
○力の加減が難しい
○見る聞くが難しい
○宿題に取り掛からない
などの問題が生じやすいと言われています。
境界知能だから学習面は諦めなくてはならない、ということではありません。
お子様によって得意で好きな学習もあれば、苦手で嫌いな課題もあるものです。
自信がなくなれば、自信がつくような得意科目で自信を取り戻し、戻って苦手な課題を行うなど工夫が必要になります。
境界知能であることを家族や先生が理解しながら、本人にとって分かりやすい教育がされることによってその伸びしろも伸びていきます。
逆に「なんでできないの!!」と怒られることが増えて学習に抵抗感や苦手意識を強めては本末転倒になります。
境界知能の対人面での問題点
対人関係では、
○会話についていけない
○ルールやマナーの理解が難しい
○相手の意図がわからない
○うまく言葉で表現するのが難しい
○上手く仲間の輪に入れない
○空気を読むことが苦手
○話すスピードや処理に問題が生じて会話がうまくできない
○抽象的な話が苦手・わからない
○集団になじむのが苦手
などの問題が生じやすいと言われています。
境界知能では、敬語やお世辞、社交辞令などの一般的な社会的なコミュニケーションに難しさを感じたりする方もいます。
また相手の気持ちや集団の空気を読むことが難しく、馴染めないことも少なくありません。
見た目には普通の人というカテゴリーで認識されるため、相手にもできると思われてしまうため誤解を受けてしまうケースも多くあります。
じぶん本人も境界知能ということを知らず、上手く人間関係を構築できない責任をじぶんへ転換して自己批判的に苦しい毎日を送ってしまうケースもあります。
境界知能の社会面での問題点
社会面では、
○忘れっぽい(おっちょこちょい)
○身だしなみを整える事が難しい
○整理整頓の困難さ
○お金の問題
○スケジュール管理
○マルチタスクの苦手さ
○口頭指示の実現の難しさ
○業務を覚えることに時間がかかる
○値段の比較や商品の比較が難しい
などの問題が生じやすいと言われています。
仕事をしていていつもミスする、しっかりできていると認識していてもぬけが多いなどの問題も抱えることが多く、自罰的な精神をもつ場合があります。
未来予測や見通しの甘さなども難しさを感じることが多く、お金の問題や作業効率に問題をもつこともあります。
口頭で指示されて動くときには、頭の中で変換しないといけませんが、そこに難しさを感じ、指示通り動けない、忘れてしまうなどの問題も起きます。
自分が境界知能であることを知ることで不必要な自責を回避して、努力しやすい土壌がつくれますが、知らないとなかなか困難さが多い方向へ進んでしまうことも少なくありません。
発達障がいと境界知能
発達障がいの問題と似ている部分もあり、発達障がいも持っている方も少なくありません。
知的障がいのない発達障がいのお子様に多いと言われています。
境界知能の大きな特徴として「認知機能の低さ」がありますが、認知機能とは物事を理解するのに必要な能力のことです。
そのため勉強などの学習だけでなく、日常生活や社会生活でさまざまな問題が起きやすくなります。
発達障がいには
①ADHD(注意欠陥多動症)
②ASD(自閉スペクトラム症)
③ⅬD(学習障害)
④DCD(発達性協調運動障害)
などがあります。
発達障がいと診断を受けている人に境界知能を併せ持つケースも多いですが、発達グレーゾーンと呼ばれる人にも多いとされています。
ですので適切な支援が受けられないケースがあります。
会社に境界知能の人もいるかもしれませんし、普通級でも一緒に学んでいるかもしれません。
境界知能という言葉とそれを持つ方々への理解が社会的に必要とされているのは、適切な支援やサポートが必要でもあるからです。
境界知能の方が学びやすくするために
学びやすくするためには、
①ゆっくり時間をかけて1つずつ理解してから次を学ぶ。
②視覚的に理解しやすい場合はうまく活用して学べるようにする。
③対象者のレベルに合わせて徐々にステップアップする(スモールステップ)
④学びやすく構造化する(学びやすいように環境を整える)
⑤コミュニケーションの問題はSSTで理解して実演し、日常で活用する
⑥難しいものや問題は、手順を分解してひとつずつ学ぶ
⑦必要に応じて身体を使って練習する
⑧努力不足だけでないことを周囲も理解する
⑨成功体験を積みやすい課題設定
等がポイントとなります。
「①ゆっくり時間をかけて1つずつ理解してから次を学ぶ」では、普通のペースで学んでいくと壁にぶつかることがあります。そういった時は、分解して分かりやすく一つ一つ理解しながら学んでいくことが大切です。
「②視覚的に理解しやすい場合はうまく活用して学べるようにする」では、視覚優位の方が多く、抽象的な概念や理解が難しいことはイラストや図にして視覚的に学ぶことで理解しやすくなることがあります。
自分の学びやすさを知って、理解しやすい学習をするとよいでしょう。
「③対象者のレベルに合わせて徐々にステップアップする(スモールステップ)」では、普通の感覚より遅くなってもいいので今わかるところから少しずつレベルアップしていくことが大切です。
普通ではこれくらいという感覚では1歩が大きい時がありますので、半歩ずつ上げていくイメージのほうが良いかもしれません。
「④学びやすく構造化する(学びやすいように環境を整える)」では、当事者が遊びやすいのであれば、遊びの部屋と学ぶ部屋を分けたり、学びやすい机や椅子、刺激の少ない環境などを整えることで学ぶことに集中しやすくできます。
「⑤コミュニケーションの問題はSSTで理解して実演し、日常で活用する」では、なかなか理解できない対人関係のルールやマナー、コミュニケーションテクニック等は一度学習で理解し、練習して普段使えるようにしていくことが大切です。
「⑥難しいものや問題は、手順を分解してひとつずつ学ぶ」では、①と同じ内容ですが、分解することが大切です。
例えば自転車に乗れなかったら、足をこぐ練習とバランスを取ることを別々で練習して、ある程度できるようになってから一緒に練習していくといったように分解していきます。
「⑦必要に応じて身体を使って練習する」では、頭でわからない場合は、行動で学習することが大切です。その場面やシチュエーションで適切な行動が出やすくなっていれば、多少の理解が出来なくても行動できていることによってリカバーできます。
「⑧努力不足だけでないことを周囲も理解する」は二次障害を防ぐ意味でも大切です。特に検査結果で境界知能と知らされないと「努力不足のレッテル」を貼られて、責め続けられる苦しみとも共存しなければならなくなります。
「⑨成功体験を積みやすい課題設定」も大事で、IQが普通のエリアの人と目標を設定すると劣等感を感じやすくなることがあります。しかし境界知能だからできなくていいという開き直りでは伸びしろが機能できなくなります。ある程度はできなくても努力すればいいといったバランス感覚をもって自身も周囲も理解することが大切です。
なかなかやってもできずに「諦め癖」がついたり、認知機能がある分、「自己否定」ができることによる鬱など二次障害に発展していくことも少なくありません。
境界知能ではない方はその苦労や難しさをわからず、「努力不足だ」と極端に思ってしまうこともあります。
一番近くて一緒に長くいる家族は、当事者の境界知能に対して理解をし、できなければ学ぶ姿勢をもつことが大切になります。
この境界知能は、普通にできるところもあるので誤解を受けやすく、一部の知的能力に関して「怠けている」「やる気がない」「努力不足」とレッテルを貼られることも少なくありません。
日本人の7人に1人と言われている境界知能は日本で1000万人以上いる計算になりますが、多くの人は「境界知能」という言葉も知りません。
知らずに苦労を重ね、社会適応できず、心療内科などで知能検査を受けてようやく気づく、こういった事が増えているものの、知らないまま生きづらさを感じている人も相当な人口がいるということになります。
発達障害を持ち、知的障害がないお子様の中に意外と多くの境界知能のお子様がいると言われています。
境界知能のお子さんの適応度の問題は主に就学後に表れやすいですが、支援級がいっぱいでなかなか通常学級で良い支援が受けられず、困難さを感じることが多くあります。
ですので気づくことや知識として知ることが大切になります。
発達障がいを一緒に併せ持つケースも少なくなく、学習面や精神的に遅れている感じがする印象を持たれます。
この機会に理解を深め、お子様や自身、家族への理解に繋がりますように願っております。
記事監修
公認心理師 白石
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