この記事では「自閉症」と「自閉症スペクトラム」について書いていきますが、分類や区別がわかりにくい方もいるかもしれませんのでまずは図をご覧いただき、本文をお読みいただけましたらと思います。
もくじ
発達障害の関係図と近年の障害観
現在、国連で提唱されて広く知れ渡っているSDGsでは「誰一人取り残さない」という原則があり、2006年に国連で採択された障害者権利条約では「障害は個人ではなく社会にある」という視点を強調する提言を行っています。
個人や家族の努力だけではなく、学校や企業、コミュニティ、自治体、社会が連携してより良い社会とより良い生きやすさを創っていこうという方向性が現在の主流です。
自閉症とは何か?
自閉症(英語:Autism)とは、アメリカの児童精神科医レオ・カナーが小児の精神分裂病との違いを明らかにし、「自閉症」という疾患を初めて報告して広く認知されるようになっていきました。
この時期の心理学の世界ではフロイトが創始した「精神分析学」が発展を遂げており、その考え方と相まって「自閉症の子供は母親の愛情に問題がある」といった原因追及が認知されてしまいます。※実際は精神分析学が悪いというわけではありませんが、この問題も契機になり、行動療法や認知療法が発展していきます。
これはいわゆる「冷蔵庫マザー」と呼ばれるもので、自閉症児とその家族をその後も苦しめてしまう問題にとなってしまいます。(詳しくはブルーノ・ベッテルハイム「冷蔵庫マザー理論とその論争」にて)
現代では、遺伝的なものや偶発的な影響などによるものが発症に多く関わっていることがわかてきており、心の問題ではなく脳や神経系など身体側の問題であるということが一般的な理解になってきています。
そういった脳神経系の仕組みを利用した「応用行動分析(ABA)」や行動療法などによって自閉症児に対しての心理療法の有用性とエビデンスが多くなっていきます。
現在では、療育を行いながらご家庭でもその子にあった養育、療育、環境設定を行っていくことが有用であり、実践されるようになってきています。
このような歴史があって現在に至りますが、つぎに自閉症の特徴などについて書いていきます。
自閉症の特徴的な症状としては、
①社会性・対人関係の困難さ(空気が読めない・相手の気持ちが汲み取りにくいなど)
②言葉の発達の遅れやコミュニケーションの難しさ
③活動や興味、行動が限局的でこだわりが強い
といった三点が挙げられています。
三歳ころまでにその特徴が目立つように現れ、男性4人に対して女性が1人という割合で男性や男児に多くみられます。
知的障害を伴う場合と伴わない場合があり、知的障害を伴う場合は「低機能自閉症(カナー症候群)」といい、知的障害を伴わない自閉症を「高機能自閉症(アスペルガー症候群)」と呼ばれています。
■知的障害
知能指数は健常者でおおよそ100という基準があり、70から85程度までは「ボーダー」、50から70「軽度知的障害」、35から50が「中度知的障害」、それ以下を「重度知的障害」と診断されています。
近年では、明確に区分ができないこともあるため「自閉症スペクトラム障害(英語:Autism Spectrum Disorder,、略名:ASD)」という表現が診断基準のDSM-5以降に一般的になってきています。
自閉症スペクトラム障害
自閉症スペクトラム障害(英語:Autism Spectrum Disorder,、略名:ASD)とは、
- 自閉症
- アスペルガー症候群
- 特定不能広汎性発達障害
- 小児期崩壊性障害
を含む概念としてDSM-5で新たにつくられました。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の調査では、アメリカの68人に1人はこの自閉症スペクトラム障害であると確認されています。その調査では男性は42人に1人、女性は189人に1人といったように男性が約5倍ほど高くなっています。
遺伝率は研究によってさまざまな違いがあるために正確な数値を出すことは難しいが、遺伝によって影響を受けることが非常に多いとされています。
診断基準は、「コミュニケーション(対人関係)の障害」と「興味や行動への強いこだわり」に分類して以下のような特徴を有するかどうかで判断されます。
コミュニケーション(対人関係)の障害では、以下の3つの項目で持続的な障害があるかが診断基準となります。
1.会話のやりとりや感情を共有することが難しい
2.人と交流する際、身ぶり手ぶりなどの非言語的コミュニケーションがとれない
3.年齢に応じた対人関係が築けない
興味や行動への強いこだわりでは、以下の4つの項目のうち2つの項目以上が当てはまるかが診断基準です。
1.常に同じ動きや会話を繰り返す
2.同一性への強いこだわりがある
3.非常に限定的で固執した興味がある
4.音や光などの感覚刺激に対して、極度に過敏。あるいは鈍感。
診断基準に該当していてもその項目数以上が当てはまらない場合はその診断が出ませんが、一般的には「グレーゾーン」という言葉が使われています。※グレーゾーンは診断名ではありません
高機能自閉症(アスペルガー症候群)
高機能自閉症(アスペルガー症候群)では、IQが70以上あり、知的障害を伴わないですが、対人関係の特異性やコミュニケーションの障害、言葉の遅れ、強いこだわりなど自閉症の特徴がみられます。
高機能自閉症とアスペルガー症候群は基本的に類似しているため臨床では区別がつきにくいようですが、言語発達においては明確な違いがあります。
アスペルガーでは言語発達に遅れはありませんが、高機能自閉症では言語発達に遅れがあります。
心理検査などを行うとアスペルガー症候群では「言語性IQ>動作性IQ」、高機能自閉症では「言語性IQ<動作性IQ」といった結果が出ます。
アスペルガー症候群は他者理解・共感力の欠如が特徴的です。
ゲノム解析によると遺伝率は50~90%とされています。
・他人の情緒を理解するのが苦手
・裏の意味を理解できず、真に受けやすい
・間違いの指摘や意見の否定を通常より強く苦痛を感じる
・順序だったもの・規則的なものに魅力を感じる
・真面目な傾向が強い
・傷つきやすくトラウマになりやすいことが多い
・コミュニケーション障害からイライラしたり落ち込んだりしやすい
といった特徴があります。
うつ病や依存症、タイムスリップ現象(フラッシュバック)などの二次的な症状が併発することもあります。(二次的併存症)
ちなみにアスペルガー症候群という命名や自閉症スペクトラムという概念は、イギリスの医師ローナ・ウイング博士によって生みだされました。
彼女の愛する娘さんが自閉症であることから研究が始まり、世界中にその成果が反映されました。
低機能自閉症(カナー症候群)
低機能自閉症(カナー症候群)はIQが70以下であり、中程度以上の知的障害を持つ自閉症です。
自閉度も高く、言語発達に極端の遅れがあることが多く、3人に一人は重度の状態であり、パニックや身体障害、自傷行為などを引き起こすことがあります。
他にも痙攣やてんかん、食偏などもあり、危険察知能力が低いことから事故が起きやすいと言われています。
孤立傾向や自傷、他害、常同行動、異常恐怖、パニック、自発性の欠如は加齢や教育・支援によっても改善されにくい傾向にあるようです。
あるデータによるとすべての自閉症の人の約7割はこのタイプであると報告されています。
低機能自閉症の発見者レオ・カナー博士の名前から「カナー症候群」とも呼ばれていますが、医学的診断名ではありません。
下の図は自閉度と知能指数(IQ)から視覚的に理解しやすい自閉スペクトラム概念です。
折れ線型自閉症(折れ線型発症)
折れ線型自閉症とは、いままで出ていた言葉がでなくなったりするような成長の途中で言語の退行が起きるタイプの自閉症です。
赤ちゃん返りや発達が遅れていると間違えられて発見が遅れることが多くあります。
また折れ線型自閉症は「折れ線型発症」とも呼ばれ、自閉症の子供の3分の1くらいがこのタイプもしくは経験をするとも言われています。
折れ線型自閉症(折れ線型発症)は予後が重度になりやすいとも言われていましたが、早期の療育や介入により非折れ線型自閉症と差がない状態に発育できるという結果も出てきているようです。
社会性の特徴から考える自閉症の種類と特徴
自閉症では、社会的な役割やコミュニケーション、集団内での振る舞いなど「社会的な相互交渉」に特性があり、質的な障害があると表現されたりします。
自分の持っている自閉症の特性をより良く知っていくことも重要ですので、ここで社会性の特徴から考える自閉症の種類を紹介していきます。
孤立型
孤立型は小さい子供の頃に特徴的でもちろん感情はあるのですが、人に無関心であったり、警戒するという特徴が強くでます。
人に興味を示さないことも多く、まるで他人が存在していないように振舞ったり、呼ばれても反応がなかったり、同情が難しいこともあります。
何かをしたいときの言葉や指差しが苦手で親の手をクレーンのように使って表現する「クレーン現象」が成長しても続くこともあります。
また視覚や聴覚などの感覚が過敏により不快感を感じやすく、騒がしい場所が苦手であることも孤立を好む、求める理由になっている場合もあります。
受動型
受動型では、コミュニケーションを自分からはじめることが難しく、受身になることが特徴的です。
指示に従順で問題行動は少ないのですが、本音が言えなかったり、断れなくてストレスやフラストレーションが実は溜まっていたり、コミュニケーションのきっかけでなかなか動けずに友達を作るのが難しかったり、問題がなかなか目に見えないことも多いので注意が必要です。
積極奇異型
積極奇異型では、自分から積極的に他人へと係わろうとしますが、相手が嫌がっていてもその状況が読めなかったり、一方的で強要的なところもあり、気を使えないことも多くあります。
そのため問題やトラブルが起きやすく、自閉症の積極奇異型という特性を知らないと自己中心的な人として印象を持たれます。
思い通りいかないと攻撃的な側面がでることもあるため、自分を受け入れてくれる人やお世話をしてくれるような人に近づくことが多くあります。
尊大型
尊大型では見下しているような高圧的態度で自分の主張を振りかざしたり、悪気なく傷つける・不快にさせることが多くあります。
自閉症では多くの場合、自分を責める自罰型が多いのですが、このタイプでは人のせいにする他罰型が特徴的です。
尊大に出来る場所とそうでない場所があり、気の許せるところでないと尊大さを出さないこともあります。
「こじらせた孤立型」という表現がされることもあります。
大仰型
大仰という言葉は「大げさ」という意味で、この大仰型では過度に礼儀正しく、どちらかというと堅苦しい雰囲気を与えることが多くなります。
ルールにとらわれすぎてその微妙な調整やグレーゾーンの理解が難しく、形式ばった徹底したこだわりが特徴的になります。
自閉症の得意なことと強み
同じ発達障害であっても人にはそれぞれ才能を持っていたり、得意なことがあったりします。
ついつい発達障害というレッテルでその子が持っている隠れた才能や得意なことが見えづらくなってしまうこともあるものです。
また自閉症や自閉症スペクトラムにおいて、上述したような苦手なことや困り事以外に得意なことや強みになるところもあります。
得意なところや強みとして、
①興味があることはやめることが難しいくらい熱中できる
②得意なことに対して集中力と記憶力が凄い
③細かいことに気づきやすい
④独創的なアイデアや発想が生まれる
⑤いつも変わらないルーティンができる
⑥コツコツと物事に取り組み努力ができる
⑦視覚情報に強い
といったところが挙げられます。
アスペルガーの特性を持った偉人として、アインシュタインやレオナルド・ダ・ヴィンチ、スティーブ・ジョブス、イーロン・マスクなどそうそうたる顔ぶれです。
日本では織田信長、イチロー、米津玄師さんなどもその特性を持っていると言われています。
苦手なところ改善させたり、発育を促すことも大事ですが、興味のあることを行い、長所や得意なことを伸ばしていくこともとても大切であると言えますね。
おわりに
「自閉症」「自閉症スペクトラム」の種類と特徴について書いていきましたが、いかがでしたでしょうか?
自分やお子さんの自閉症の特徴を知っておくことによって今後の療育や人生において有用な知識を得ることができます。
少しでも参考になれば幸いです。
記事監修
公認心理師 白石
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