過去の心理学者・臨床家・研究者の人物像や提唱された内容から今に学べることは多くあります。
ここではジョン・ボウルヴィ「マターナル・デプリベーション(母性的養育の剥奪)と愛着理論」について書いていきたいと思います。
ジョン・ボウルヴィについて
ジョン・ボウルヴィ(John Bowlby)は1907年ロンドンに住む外科医であり男爵の爵位を持っている父親の家庭の6人兄弟の4番目として生まれました。
幼い頃は使用人などに育てられ、7歳になると全寮制の学校へ通うことになった体験がのちに幼い子供の愛着障害に関心を持つことに繋がっていきます。
外科医の父親の勧めでケンブリッジ大学で心理学を学び、ユニヴァーシティカレッジ病院で医学を学びます。
非行少年の教育なども経験し、精神分析や発達心理の専門家として志すようになります。
第二次世界大戦中は、イギリス軍の医療部隊で従軍し、プライベートではウルスラ・ロングスタッフと結婚し、4人の子宝に恵まれています。
幼い子供が親しい人を奪われ、新たな環境に適応できず発達が遅れたり、身体に不調をきたす現象を研究し、愛着の問題である「分離不安」や愛着形成理論について提言を行い、世界中へその重要性が広まる研究を行っております。
特に愛着理論では、ボウルヴィの理論を基本土台として後進の研究者たちが発展的提唱を数多く行っております。
主著には、
1951年「乳幼児の精神衛生」
1956年「分離不安」
1969年、1973年、1980年「母子関係の理論1〜3」
などがあります。
マターナル・デプリベーション(母性的養育の剥奪)と愛着理論
ボウルヴィによれば、新生児は完全に無力であるため母親との関係に強い愛着形成を行う遺伝子的プログラムが働くように設計されていると言います。
そのため母親との愛着形成に問題をきたすとその後の人生において否定的な帰結やネガティブな考えに苦しめられてしまう可能性を高めてしまいます。
WHOの要望から第二次世界大戦後の乳幼児の発達の遅れや愛情を受ける機会を失った子供達を調査し、そのような状態になった場合に「愛情遮断症候群」という名称を命名しています。
母親の喪失によって人間の心が感情の欠落した精神病質になりえる危険性を提言し、母性的養育が喪失したケースを「マターナル・デプリベーション(母性的養育の剥奪)」と呼びました。
それは社会への適応を難しくさせ、非行や反社会的な心情へ発展させることも多く報告されています。
のちの研究により、母親以外にも子供は愛着行動をを示すことが確認されていますが、やはり母親の果たす役割は非常の広範で深いものがあるようです。
特に2歳までの臨界期に至るまでにしっかりとした愛着形成をさせてあげることが重要であるとボウルヴィは言います。
これらの研究によりボウルヴィはアタッチメント理論(愛着理論)を提言し、
①非弁別的社会的反応段階(0〜2ヶ月:人を区別できないが人に関心がある)
②愛着形成段階(2ヶ月〜6ヶ月:区別できるようになるために人見知りが始まる)
③能動的近接維持段階(6ヶ月〜3歳:分離不安や他者への愛着形成がされ始める)
④目標修正的な協調性形成(3歳以降:母親を安全基地として、母親がいなくても行動範囲が拡大できる)
といった4つの段階を通して人間は発達すると考えました。
最後にボウルヴィの名言を紹介します。
幼い頃の情緒的絆は、人間の本性を統合する部分だ
ジョン・ボウルヴィ(John Bowlby)
愛着行動は、ゆりかごから墓場まで人間の存在を特徴づけることだ
ジョン・ボウルヴィ(John Bowlby)
参考文献
心理学大図鑑 キャサリン・コーリンほか
記事監修
公認心理師 白石
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