「いつも落ち込んでしまう」「何でこんなに落ち込みやすいんだろう」と自分の落ち込みやすさに悩んでしまうことがあります。
ここでは「落ち込みやすい」性格的特徴に対しての理解とカウンセリング の有用性について説明していきます。
もくじ
落ち込みやすい性格的特徴とは
落ち込む(英語:depressed)とは、気持ちが沈んだり、イキイキしていた気力が失われたり、落胆、意気消沈する様を表す言葉です。
ほかの言葉として
・凹む(へこむ)
・テンションが下がる
・気落ちする
・挫ける(くじける)
・クヨクヨする
・ションボリする
・生気が萎える(なえる)
・ガックリくる
・うなだれる
・肩を落とす
などの表現がされることもあります。
落ち込みやすさ(英語:Easy to get depressed)とは、上記のような落ち込みが多いという特徴を表します。
どの程度の落ち込みの繰り返しで「落ち込みやすい」と判断するかどうかは人によって異なることもあります。
なかなか目安がないため他人との比較により「落ち込みにくい」「落ち込みやすい」と判断していることが多いかもしれません。
落ち込むこと自体、つらい気分になるものですが、落ち込みやすいという特徴もストレスとなり、二重の苦しみを感じてしまうこともあります。
落ち込みやすい性格というように「性格」として認知されていることが多いと思いますが、変化することもあるためここでは「性格的特徴」という言葉を用います。
何か嫌な、不快な出来事が起きた時のこころの情動には大きく分けて二つの方向性があります。
他者に対して怒りがでる、注意や怒りを表現するといった「外に向いていく心の動き」と自分に対して怒りや悲しみを向ける「内に向いていく心の動き」です。
外に向いた心の動きでは落ち込むことは難しく、内に向いていく心の動きでは容易になります。
このように何かが起きた時にどちらの方向へ向かっていくかによって「落ち込みやすさ」が変わってきます。
ようするに自己批判的であったり、自己内省的な要素が強くなれば落ち込みやすくなると言えます。
これが悪いというわけでもないのですが、あまりに過度であったり、人に注意することができなかったり、あまりに自分の責任に転換したりすることがあれば自分の不利益を持続させてしまいます。
そのような方向性も遺伝であったり、現在までの経験をもとに培われたものではありますが、カウンセリングや心理的アプローチを用いて本来あるべき姿へ少しずつ変容や成長を加えてあげてくことが推奨されます。
落ち込みと脆弱性(もろさ)
脆弱性(ぜいじゃくせい)とは、弱さや脆さ(もろさ)といったこころの側面を意味します。
誰もが何らかの脆弱性を持っているものですが、
・どのような側面で脆弱性を持っているか?
・どれくらいの脆弱性を持っているか?
は人によって異なります。
こういう出来事に弱い、こういうことを言われると脆い(もろい)などの側面が多くなればなるほどストレスも多く、落ち込むことも増えます。
また脆弱性の度合いも強ければ強い分、その落ち込みやストレスも強くなってしまいます。
遺伝的・個性的に持っている性格的特徴でもありますが、馴化(慣れ)、経験値、捉え方や解釈などの認知的評価、専門的な心理アプローチ等によって変容したり、成長によって強さを獲得することもできます。
落ち込みと抑うつ
抑うつ(英語:depression)とは、気分が落ち込んだり憂鬱で、意欲が低下した状態のことを指します。鬱々(うつうつ)とする、鬱っぽさなどを表す言葉です。
なんらかの出来事や悩みから気分が落ち込み、鬱々と「抑うつ状態」がでるといった流れがよく起こるように、落ち込みと抑うつ状態は連動することが多いものです。
抑うつ状態の精神症状には、
- 気分が落ち込む(憂鬱)
- めんどくさくなる(億劫になる)
- エネルギーが出ない
- 悲しい気分になる
- 集中力が落ちる(注意欠陥)
- 人に会いたくなくなる
- 希望が持てない
- 自分の価値がないように感じる
- ネガティブになる
- 生きる気力がわかない
- 喜べない(笑えない)
- 落ち着かない
- 気持ちが不安定
- 死にたくなる(なぜ生きているかわからなくなる)
などがあります。
身体症状には、
- 不眠(睡眠障害)
- 頭痛やめまい
- 耳鳴り
- 喉の違和感(つまり)
- 首コリと肩こり
- 胃痛や胃の不調
- 胃腸症状
- 腰痛
- だるさ・倦怠感
- 食欲不振・食欲増進
- 体重減少・体重増加
などがあります。
落ち込んで鬱々と抑うつ状態が持続化すると心的な負担も大きく、当人にとって非常に苦しいものになってしまいます。
抑うつ状態から回復することが望まれますが、そのためにはレジリエンスという能力も大切になっていきます。
落ち込みとレジリエンス
レジリエンス(英語:resilience)とは、ストレスなどの外力による歪みを跳ね返す力や正常な平衡状態を維持することができる能力、回復力といった意味で一般的に用いられます。
レジリエンスは、「脆弱性(英語:vulnerability)」の反対の概念で「自発的治癒力」という意味もあります。
レジリエンスがあるからこそ、心理的ホメオスタシス(psychological homeostasis)としてストレッサーに曝露されても心理的な健康状態を維持することができます。
レジリエンスは、
・ストレスに対する「抵抗力」
・ストレスに対する「耐久力」
・ストレスに対する「復元力」
・ストレスに対する「回復力」
といった内容を含みます。
このようなレジリエンス能力を高めることによって、落ち込む機会が減り、その度合いも弱めたり、回復が早くなったりします。
- 自分の人格を大切にする「自尊心」
- 気を楽に持つ「楽観力」
- 落ち着きを保つ「感情調節力」
- 理性的にコントロールする「衝動調節力」
- 原因を理解する「原因分析力」
- 共感する「シンパシーとエンパシー」
- 他者と「繋がる力」
- 自分は実現できると思える「自己効力感」
- 働きかける能力の「リーチアウト力」
などの要素を強めていくことでレジリエンスを高めていきます。
急に能力を高めていくよりも地道に修練しながら高めていくように計画されることが大切です。(詳しくはカウンセリングでお聞きください)
落ち込みとストレス・コーピング能力
ストレスコーピング(英語:stress coping)とは、ストレスに対処する(コーピング)ことを意味する言葉です。
対処能力が高ければ、落ち込みにくくなる、落ち込みが軽減される、落ち込みから回復することが早くなるといった可能性を引き出します。
コーピング能力が高い人ほど「人に相談できる」能力が高いと言われています。
落ち込むようなときに自分だけで乗り越えるのは良いことでもありますが、人に聞いてもらう、相談することも同じくらい大切なことかもしれません。
専門的なコーピングは一次評価と二次評価があり、説明がたくさん必要になりますのでここでは割愛させていただきます。
落ち込みやすい性格的特徴の原因や要因
上述した「責任所在の方向性」「脆弱性」「レジリエンス」「コーピング」などの要因も踏まえた上で、ここでは「落ち込みやすい性格的特徴」の原因や要因について考察していきたいと思います。
遺伝的影響
性格の遺伝は概ね50%ぐらいとされており、残りは生まれてからその後の後天的な環境によって影響されていると一般的に言われています。(30%~50%と考えられていることもあります)
「落ち込みやすい」性格的特徴が遺伝によって特徴付けられていることもあるということです。
遺伝だから仕方ないと全てをあきらめる必要はなく、遺伝子のスイッチがONになったり、OFFになったりする働きがあることが分かっています。
大人になっている方はわかると思いますが、昔よく諦めていた苦手なことが今ではできるようになっているものはないでしょうか?
そういったスイッチによるものや環境によって成長・学習・馴化(慣れ)によって私たちは「落ち込みやすさ」を少なくすることができます。
ただ遺伝についてはまだわからないことも多く、どこまで乗り越えることができて、どこまでが限界なのかははっきりわかっていません。
経験的影響
経験が増えると、慣れる(馴化)ことが増え、次から容易に行うことができる学習のシステムを私たちは持ち合わせています。
自転車や車の運転がわかりやすいですが、最初はいろいろなところを考えながら行わないとうまく動かなかったりしますが、慣れてくると意識せずに運転できるようになります。
ですので落ち込むことに慣れる(馴化)ことによって落ち込みが軽減と改善が促されます。(少し意識的な技術が必要です)
このような学習のシステムは、私たちがあまり覚えたくないものにも適応されてしまうこともあります。
神経系には可塑性(かそせい)という機能があります。
「よく使用する神経は強化され、使わない神経は弱化する」
「よく使うものが使いやすくなり、あまり使わないものは使いにくくなる」
といった特性があります。
これは良いことも学習しますが、悪いと思うことも同様に学習されてしまいます。
しかし落ち込まない経験や落ち込みにくくなるという経験を繰り返していると落ち込みにくくなったりするということも期待できます。(この点は直接お聞きください)
また経験には気づきがうまれます。
気づきによって自己成長が生まれ、「落ち込みやすさ」が軽減、改善していくこともできます。
経験や経験値はどのように捉え、どのように解釈するかで良いものにも悪いものにも変化します。
認知的影響
認知とは、物事を知覚した上で判断したり、解釈したりして認識することを指します。
物事をそのまま認識することもあれば、自分の価値観や捉え方などを通して解釈が行われて認識することもあります。
ストレスに対する捉え方や受け止め方である「認知的評価」は経験や脆弱性、レジリエンスにもコーピングにも大きな影響を与えます。
例えば「自分の方向を見て笑っている人がいる」という状況があったとしましょう。
「自分は価値が低く、人に嘲笑われる」と認知している場合、自分に対して軽蔑して笑っていると捉えてしまいます。
そのような認知がない場合、「何かいいことあったのかな?」「自分の後ろの人に笑っているのかな?」といった捉え方が強くなります。
このように当人がどのような認識、考え、解釈、信念をもっているかによって起きている事実の捉え方が変化し、ストレスは大きくも小さくもなりえます。
ですので認知的評価に偏りがあるとストレス反応も偏りの影響を受けるということです。
ストレスを大きくしてしまう認知の偏りには代表的な10パターンがあります。
・全か無かの思考(All-or-nothing)
・過度の一般化(Overgeneralization)
・すべき思考(should statements)
・マイナス化思考(Disqualifying the positive)
・選択的抽象化(selective abstraction)
・心の読み過ぎ(Mind reading)と先読みの誤り(Fortune-telling)
・感情の理由づけ(Emotional reasoning)
・拡大解釈(magnification)と過小解釈(minimization)
・レッテル貼り(labeling)
・個人化(personalization)
また中核信念(コアビリーフ)が認知の偏りや認知的評価に大きな影響を与えることが多くあります。
中核信念(コアビリーフ)とは、①自分自身について、②他者について、③自分をとりまく世界に持っている信念の中でも最も重要な核(コア)になっている信念のことをいいます。
物事に対して何故そう思うのか?という疑問を自己に投げかけた時にその考えや解釈の大元になっている信念ということです。
「人に笑われて落ち込んだ」という例で説明すると、
なぜ落ち込んだ?⇨「自分がなにかオカシイからだ」⇨なぜ?⇨「昔からそうだから」⇨なぜ昔から笑われる?⇨「周囲がいつもそうだったから」⇨なぜそんなに笑われると自分に思っていたと思う?⇨「自分はダメな人間だから」「人はいつも馬鹿にするから」「人生はわたしにあまりに不条理だから」
というように「自分はダメな人間」という自分自身に対する中核信念や「人はいつも馬鹿にする」という他者に対する中核信念、「人生はわたしにあまりに不条理だ」という取り巻く世界に対する中核信念をみつけることができます。
これらの中核信念自体は悪いものでないこともありますが、その中核信念に否定的情動が強かったり、許せない憎しみなどの感情も強く同期している場合、当人にとってその現象はただの出来事では済まされない心的な苦しみになります。
そういった中核信念に対して、心理的アプローチを行うことで情動の軽減や消失が起こり、最適な中核信念に回帰できるようになります。
落ち込みやすい性格的特徴に対するカウンセリング
落ち込みやすい性格的特徴をお持ちの相談者さん(以下クライエント)がどのような落ち込みやすさを持ち、どのように対処や認知をし、どのような経過をたどるかを改めて明らかにすることが大切です。
全貌を把握しているようで言葉に出して把握する経験はあまりないことも多く、話していくことで気づきが生まれたり、理解が深まったりします。
落ち込みやすさは心理的な苦しみを蓄積させているケースが多く、自己批判や自責を多く内在していることがあります。
そのような場合、その「心的苦しさ」が癒えていくようにカウンセリングを行っていきます。
なぜこんなに苦しいのか?なぜこんなに落ち込みやすいのか?といった所在が明らかになっていくと気持ちが軽くなったり、気分も楽になっていきます。
そして何にアプローチするべきか?何にアプローチをしない方が良いかがわかってくると、その気持ちはより改善していきます。
誰もが脆弱性を持っています。
脆弱性の意味や成り立ちを理解していくことで「そういうことだったんだ」という安堵や安心感も生まれやすくなります。
しかし厳しい局面もあります。
自分が受け入れたくなかったことや受け入れたくない自分に直面していくことは苦痛を伴います。
しかしその苦痛を乗り越え、受け入れが進んでくると、自分が思っていたような世界と異なり、成長を感じられるようになります。
ようするに「弱さを認める強さ」を獲得できたということです。
またこの頃には自分を客観的・俯瞰的にみることもできるようになってくるため「メタ認知能力」も備わっていきます。(※メタ認知とは、客観的に自分や物事を認知・判断できる能力)」
このように進んでくると不思議と「落ち込みやすさ」が気にならなくなってきます。
しかしある「程度の落ち込みやすさ」はあるもので、そのあたりは人によって異なります。
その変化した「落ち込みやすさ」をいかに扱うか?以下に対処するか?いかに運用するか?というテーマでカウンセリングが進んだりします。
人に注意することが苦手であったり、自分の責任にしすぎているような傾向が強い場合、それらが変化することによって「落ち込みやすさ」は大きな影響を受けます。
また「脆弱性」「レジリエンス」「コーピング」「認知的評価」などを高めるセッションを組み入れることで自分のこころの土台に安定感と強度が増していきます。
このように書くと簡単なように思わせてしまいますが、地道に行いながら地道に成長するといった流れをベースとしています。
そのような地道な努力によってさまざまな心的成長が得られ、カウンセリング終了後の人生においてその能力が発揮されていきます。
そのため自分への自信や自己肯定感、自己効力感なども高まりやすくなります。
「あの時、向き合ってよかったな」と思える機会をたくさん作れるように丁寧にカウンセリングを行っております。
お読みいただきありがとうございます。
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記事監修
公認心理師 白石
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