SEL(社会感情学習)という言葉を聞いたことはありますでしょうか?

今後教育分野でますます取り組むことが増え、社会的なインパクトを与える重要な教育になると考えられているものです。

㈱グローバルインフォメーションによるレポートでは、SELの世界市場規模は2026年には「56億米ドル」になると予測されています。

この記事では、「SEL(社会感情学習)」についてできるだけわかりやすく説明していきたいと思います。

SEL(社会感情学習)とは何か?


SELとは、

  • Social(人との関わり方などの社会的能力)
  • Emotional(感情や情動をうまく扱える能力やEQ)
  • Learning(この2つの能力を学ぶ)

の略名です。

※EQは仕事や学業への姿勢や人間関係の関心の度合いなどを「感情」から測定する指数で、社会的に成功する者の多くは、感情を調整する能力に長けていると言われています。

社会的スキル・感情的スキルを学校のカリキュラムに統合することで欧米で近年盛んに実践されています。
アメリカなどではエビデンスも多く報告されており、州法で実践するところも増えているようです。

はじまりは1960年代のイエール大学の児童研究センターでジェームズ・コーマー教授が近くにある成績の悪い公立学校を対象にスタートさせたとされています。

SELは、

  • 身体的な暴力や攻撃性が減る
  • いじめが減る
  • 学業成績が上がる
  • 将来的な問題や犯罪の抑止
  • 集団結束や集団幸福度の向上

などの効果が調査によって報告されています。

SELには、

①自己認識
②自己管理
③社会的認識
④人間関係スキル
⑤責任ある意思決定

の5つの主要要素で構成されています。

これは、「CASEL(Collaborative for Academic, Social and Emotional Learning)」という機関によって評価や改善、取りまとめられていきました。

自分の感情や心理的特徴を知り、前向きな自己概念を身につけるのが「自己認識」です。

強みだけでなく弱みも理解し、自己肯定感だけでなく、自己効力感をもって前向きに進んでいく力も含まれます。

「自己管理」とは、自分の感情を調整し、行動をコントロールしたり、管理・監督する能力のことで、目標や動機付けとも関連します。

自分以外の人の感情や気持ち、ルールや社会的な状況を意識、理解するの能力が「社会的認識」になります。

自分が扱われたいように他人の人を扱ってください、という言葉がありますが、人間関係をよりよくコミュニケートできる能力を「人間関係スキル」といいます。

「責任にある意思決定」とは、自分自身で自己責任を負う能力や社会倫理やルールに則って問題を解決するスキルなどを意味しています。

これに加えて、

⑥生活上の問題防止のスキル
⑦人生の重要事態に対処する能力
⑧積極的・貢献的な奉仕活動

の3つの能力やスキルの獲得も含んで総合的に用いる場合も多くあります。

従来は親や生活環境の中で育んでいたこれらの能力を学校のプログラムに組み入れていくことで子供のより良い精神と未来を育もうとするのがこのSELの取り組みです。

PATHSカリキュラム


約80種類もあるSELプログラムの中でCASELの評価が高いのが「PATHS(Promoting Atternative Thinking Strategies)」です。

このカリキュラムでは、認知行動療法におけるABCDモデルがベースになっています。

幼稚園から小学6年生を対象とした選択的問題解決カリキュラムになっていて、

  • 自己コントロール
  • 感情理解
  • 自尊感情の構築
  • 人間関係
  • 対人的問題解決スキルの向上

の5つの要素を特別支援が必要な子供のために構成されています。

全131のレッスンがあり、数年かけて週3~5日行っていくようです。

問題解決では、

①止まって落ち着く
②問題を認識する
③感情を認識する
④目標を設定する
⑤効果的な解決法をつくる
⑥解決法のポジティブな結果評価
⑦良い解決法の選択
⑧その解決法のプランニング
⑨実施
⑩結果の評価
⑪失敗による対処やほかの解決法やプランニング作成

といった流れで問題解決スキルのトレーニングが行えるようになっています。

日本での取り組み


このSELは、今後ますます重要な教育として扱われていく流れが世界的にあります。

子供の心理的な成長や幸福度のみならず、社会的にも大きなインパクトと成長を促せるものとして期待されており、社会の問題を防いでいく大きな核になるとも言われています。

ただ文化的な影響差が大きい分野であるため、欧米のカリキュラムをそのまま使えなかったり、日本独自の文化に適応した「言葉」や「表現」なども必要です。

日本では、「SEL-8研究会」によるSELプログラムが開発・提供されています。

SELについては詳しい論文として、「社会性と情動の学習(SEL)の必要性と課題 山田洋平」を紹介します。

参考文献

PRITIMES 社会的・情緒的学習の市場規模は、2026年に56億米ドル到達予測
「社会性と情動の学習(SEL)の必要性と課題 山田洋平」

記事監修
公認心理師 白石

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