わずかなことにもこわがってしまう「怖がり」。
子供の頃は特に過敏になってしまうこともある「怖がり」について説明を行い、カウンセリングや心理療法による介入の可能性を考えていきます。
もくじ
「怖がり」とは
- 2歳の子供が怖がり
- 3歳の子供が怖がり
- 4歳の子供が怖がり
- 5歳の子供が怖がり
- 小学生の子供が怖がり
- 中学生になっても怖がり
- 高校生になっても怖がり
- 大人になっても怖がり
- 極度の怖がり
のように多くは子供の頃に多い「怖がり」ですが、人によっては大人になってもその傾向が強い人もいます。
大人の場合や診断名などでは「恐怖症」という言葉が用いられます。
「怖がり」を辞書で調べると以下のように説明されています。
ある物や事をひどくおそれる。おびえる。 「犬を-・る」
三省堂 大辞林 第三版
[動ラ五(四)]こわいという気持ちを態度や表情に表す。「小さな子が暗がりを―・る」
デジタル大辞泉(小学館)
「怖がり」には
①ひどく恐れたり、怯えてしまう
②その思いを表に表現してしまう
という2つの側面から構成されていると考えられます。
みんなが怖がることに同じように怖がっていても「怖がり」という表現にはならないことから「他者との比較」による影響が大きいものと考えられます。
周囲よりも強く怖がったり、その表現が表に出る場合に「怖がり」という表現がされるということです。
また「怖がり」は、
- 意気地なし
- 勇気がない
- 腰抜け
- 小心者
- 臆病
- 弱虫
- びびり(ビビリ)
などの性格的特徴に相互関連があります。
臆病になっている時に「怖がりだな」と表現したり、怖がっている時に「ビビリだな」と表現したりします。
次に「怖がり」の対象についてみていきます。
「怖がり」の対象
子供の「怖がり」の代表的な対象として、
- おばけや鬼
- 暗闇
- 雷
- 大きな音
- 犬
- 虫
- 高所
- 注射
- 血
- 怒る人
- 恥
などがあります。
怖がりは対象によっては恐怖症として扱われる場合があります。
恐怖症の種類としては
- 広場恐怖症
- 高所恐怖症
- 視線恐怖症
- 失敗恐怖症
- 発言恐怖症
- 霊魂恐怖症
- 悪魔恐怖症
- 穴恐怖症
- 暗闇恐怖症
- 犬恐怖症
- 嘔吐恐怖症
- 雷恐怖症
- 外傷恐怖症
- 学校恐怖症
- 決断恐怖症
- 孤独恐怖症
などがあります。
このようにたくさんある「怖がり」ですが、そもそも人間はなぜ「怖がる」のでしょうか?
なぜ怖がってしまうのか?
人間は外界からの刺激に対して、危険であるか有益であるかを無意識的に判断する機能を備えています。
その判断により末梢の反応である交感神経の興奮や骨格筋の緊張などが起こり、感情として「怖い」と認識します。
この機能がなければ、人類は滅んでいた可能性があるくらい大切な機能です。
生きているということは、命を守りながら歩んでいくものなので「恐怖」というアラームが必要だということです。
この働きを「自己防衛本能」と呼んだりします。
「怖がりは治すもの」という考えを否定できませんが、本来悪いものでもなく、このようにある程度必要なものでもあります。
大切な働きなのですが、現代ではこの自己防衛本能の「過剰な反応」に苦しめられることもよく起こります。
自己防衛本能の反応により自分の内側から「恐怖」の感情が押し寄せていく感覚があり、
- すくみ(硬直する)
- 怯え
- 震え
- 泣く
- パニック
- 動悸(バクバクする)
- 冷や汗
- 緊張
- 切迫感
- 血の気が引く
- 吐き気
- 頭痛
- 腹痛
- めまい
- おもらし
などの症状を伴うことがあります。
これらは自己防衛本能が反応し、交感神経が過度に緊張した結果起こるとされています。
ご本人は環境に適応して最善を尽くしたいのに、体の反応が強すぎてかえって適応しにくくなる問題が増えているように感じます。
怖がってしまう原因・要因・誘因
怖がりの原因や怖がりを強くしてしまう要因、怖がりを引き起こす誘因などを紹介していきます。
子供さんの場合と大人のケースではいろいろ異なるところもありますが、まとめて記載していきますのでご了承ください。
遺伝子による「怖がり」
オランダのユトレヒト大学の研究グループの研究によると以下のような遺伝子と「怖がり度」の関係があるようです。
rs2180619というSNPが「G」であると、恐怖感があまり持続しない、つまり比較的怖がりでない傾向にあることが分かりました。
怖がり度 MYCODE
rs2180619というSNPにはGG,GA,AAの3通りの遺伝子型があります。
日本人平均に比べると、以下のような遺伝的傾向を持っていると言えます。
GA,GGの遺伝子型をもつ人は「怖がり度低めタイプ」
怖い思いをしても、比較的すぐに恐怖感が消えるタイプです。
AAの遺伝子型をもつ人は「怖がり度高めタイプ」
怖い思いをすると、比較的恐怖感が残るタイプです。
性格の遺伝は概ね50%ぐらいとされており、残りは生まれてからその後の後天的な環境によって影響されていると一般的に言われています。(30%~50%と考えられていることもあります)
50%は遺伝なので諦めないといけないと考える必要はなく、遺伝子のスイッチがONになったり、OFFになったりする働きがあることが分かっています。
大人になっている方はわかると思いますが、昔怖かったものが「今は怖くない」と思えるものはないでしょうか?
そういったスイッチによるものや環境によって成長・学習・馴化(慣れ)によって私たちは「怖がり度」を下げることができます。
ただまだわからないことも多く、どこまで怖がらないようにできて、どこまでが限界なのかははっきりわかっていません。
不安遺伝子とも呼ばれるセロトニントランスポーター遺伝子には「SS型」「SL型」「LL型」の3種類があります。
「SS型」に近いほど不安や恐怖などの悲観的(ネガティブ)になりやすく、「LL型」に近くなるほど安心などの楽観的(ポジティブ)になると言われています。
○S遺伝子だけもつSSタイプ
クラウス-ピーター・レッシュ「サイエンス」1996 中村敏昭「アメリカン・ジャーナル・オブ・メディカル・ジェネディスク」1997
日本 68.2%
アメリカ 18.8%
○S遺伝子とL遺伝子をもつSLタイプ
日本 30.1%
アメリカ 48.9%
○L遺伝子だけをもつLLタイプ
日本 1.7%
アメリカ 32.3%
「SS型」68.2%、「SL型」30.1%という結果から、日本人のほぼすべての人が不安や恐怖などの悲観的(ネガティブ)になりやすい傾向を持つということが分かっています。
セロトニンに関係してる遺伝子という限定的な見解ではありますが、日本人の不安や恐怖、悲観的な特徴はこういったところから説明が付きます。
戦や山賊、海賊、切腹といった人為的な脅威、地震や洪水、台風などの自然の脅威が多い日本では、不安や恐怖のアンテナを強くしておかなければ生き残ることが難しかったのかもしれません。
遺伝もありますが、本人の乗り越えようとする意思と努力が一番大切なのかもしれません
心的外傷(トラウマ)
心的外傷・トラウマ(英語: psychological trauma)とは、肉体や精神に強い衝撃を受けた事で、長い間囚われたり、恐怖反応を示すなど否定的な影響を持っていることをいいます。
- フラッシュバック
- 回避行動
- ネガティブに解釈・捉えてしまう
- 過覚醒(リラックスできない)
などの症状が特徴的です。
強力な記憶形成がされるため簡単に改善ができるものではないですが、専門的な心理療法やケアによって軽減、改善していけるものです。
傷つきやすさと怖がりやすさ
小さなことでも傷つくような「傷つきやすさ」がある場合、自己防衛本能は小さな危険でも大きな脅威と感じてしまい「過剰な反応」を出してしまいます。
遺伝的に「傷つきやすさ」が強い場合もあれば、後天的にショックな出来事の遭遇などで「傷つきやすく」なる場合があります。
傷つきやすさは、
- 落ち込みやすくなる
- 本来の力が発揮できなくなる
- 小さなことでも過敏になる
- 神経質傾向になる
- 行動が起こしにくくなる
- 怖がりやすくなる
- 勇気が持てなくなる
などのような状態になることがあります。
「傷つきやすさ」が成長・学習・馴化していくことで耐性が向上し、「怖がり」が軽減していくことがあります。
恐怖条件付け学習
恐怖条件付けとは、人間(動物)に本来備わっている学習による恐怖に関する条件的反応の働きのことをいいます。
ネズミに音を聞かせながら電気ショックを与えると翌日から音を聞いただけですくみや硬直状態といった反応を示すようになります。
このように音と電気ショックを関連付けて学習することで危険を避けようとします。
このような「恐怖条件付け学習」がおこなわれたものが「怖がり」と深く関連しています。
恐怖条件付けは、学習するのは簡単ですが、消去したり軽減することは簡単ではありません。
しかし、実生活での馴化(慣れ)や新たな学習、カウンセリングや心理療法などを行いながら軽減・消去していくことは可能です。
ご本人の意思があってできるものなので、無理強いしたり、その「怖がり」を持つ当人を否定していてはなかなか難しいものになります。
「怖がり」を過度に悪いものと決め付ける
「怖がり」を過度に悪いものと決めつけてしまうことによりかえって「怖がり」を強くしてしまうことがあります。
治そうという意気込みもその分強まってしまい、かえってうまくいかず、治すことができない失敗をくり返し自己効力感を失ってしまうこともあります。
※自己効力感とは、自分はうまくできる・乗り越えられると信じる力や予測する力
上述したような「怖がり」を持つ理由や日本人が多く持つものであること、遺伝などの影響もあることを知っていくことが必要です。
子供さんの場合、親の反応も大きく影響することがありますのでご両親の理解も必要です。
ゆっくり地道に改善させるくらい「ゆるい」お気持ちをもつことが功を奏します
比較による劣等感が強すぎる
みんなは怖くないのに自分だけ怖いという状況は、とても劣等感を感じやすくなる傾向があります。
そのように捉えて上手く頑張って乗り越えられれば問題はありません。
劣等感から強い自分への自責に繋がったり、「自分はダメな人間だ」といった行き過ぎた信念として捉えてしまう場合に注意が必要です。
その場合、行き過ぎた自責であることを理解する必要があります。
想像力が豊か
想像力が豊かな場合も「怖がり」を助長させてしまうことがあります。
「ああなったら、こうなる」「もしかして○○ではないか?」といった予測や推測などです。
ネガティブな思考と組み合わさるとしばしば事実を歪めてしまうことも多いものです。
少し現実よりに意識を戻していくことが大切です。
素晴らしい個性でもあるので、そういった側面を大切にしつつ、ネガティブに想像力を働かせることに気をつけたいものです。
霊感やおばけを信じている
霊感やおばけを信じていることによって必要以上に「怖がり」になることがあります。
「目に見えない脅威がある」ということを信じているので、「もしかしたら」の世界が成立してしまい、さまざまな推測や幻想を作り出してしまう可能性があります。
「オバケが出るから早く寝なさい」「○○しないと鬼が来るよ」という伝統的なしつけもありますが、今ではあまり良い教育方法と呼べないものになっています。
大人でも幽霊や生霊の存在を肯定している場合、人に出会ったり、そういう場所に行ったときに強いストレスを感じてしまいます。
個人それぞれの考え方が尊重されるエリアではありますが、あまりにも怖がったり、強いストレスの負荷がある場合、その信じているものに対して何かしら修正を加えていく必要もあるかもしれません。
強がり・プライドが高い
強がりやプライドが高い傾向にある場合、「怖がり」が強くなってしまうことがあります。
「弱い自分」を否認して、「理想化した自分」のみを肯定するといった傾向が強くなってしまいます。
受け入れがたいのでより「怖がり」になってしまうことがあります。
「怖がってはダメだよ」「絶対ダメだよ」と禁止すると余計怖くなるものです。
そういった現象が心の中で起きてしまいます。
切り替えと回復力
気持ちの切り替えが遅かったり、回復力が弱いことによって「怖がり」の時間が長引いてしまうことがあります。
無理して切り替える必要はないですが、あまり悩みすぎることが得策ではないことも多いものです。
どのように切り替えるのか?回復力については人に応じて異なることもあり、カウンセリングの中などで話し合いながら見えてくるものがあります。
恥ずかしがり屋(シャイ)
恥ずかしいことに脅威を感じる場合、「怖がり」がでてくることがあります。
恥ずかしがり屋(シャイ)傾向が強く、失敗などを繰り返していく中で精神的ショックを味わい、トラウマになってしまうことがあります。
「怖がり」と「恥ずかしがり屋(シャイ)」に対して学習・馴化、心理アプローチなどを行っていくことで軽減および改善が期待できます。
性格的特徴によるもの
上述した
- 意気地なし
- 勇気がない
- 腰抜け
- 小心者
- 臆病
- 弱虫
- びびり(ビビリ)
などの性格的特徴によっては「怖がり」という表現がされることがあります。
こういった性格的特徴を受け入れながら少しずつ慣れて、乗り越えていくことで自信がつき、性格的特徴が徐々に変化していくことができます。
一時的には誰でも起こるものという認識が役に立つこともあります
「怖がり」に対するカウンセリングと心理療法
子供さんの「怖がり」の場合は、親御さんとの話し合いの中で解決法を見つけたり、原因の特定、心理教育などが行われます。
ご両親が問題の原因を知り、お子さんを理解してあげて、正しい知識を教えてあげるられるかが重要になってきます。
また内容によっては子供さんへのカウンセリングや心理療法を行うこともあります。
子供さん・大人への「怖がり」に対するカウンセリングと心理療法として、まずはどのような「怖がり」があって、いつから、どのように、どのくらい怖いかをお聞きしながら詳しい内容を調べていきます。
質問によっては、ご本人も「そういうことだったんだ」と改めて言葉に出す事によって気づきや理解が生まれることも少なくありません。
わからないということが怖さを助長していることもあるため、「わかる」ことが有益になることが多々あります。
怖がる自分をカウンセラーが受け入れていく中で、こころが「ふっ」緩むような感覚を感じられる方もいます。
共感的に受容的にカウンセリングを進めていく中で「怖がり」が緩んでいくこともあれば、それだけでは難しい場合もあります。
トラウマのように強固な恐怖反応を形成している場合、安全を確保しながら慎重に進めていかなければなりません。
精神的ショックの傷を優しく癒しながらもクライエントの中に眠る「乗り越える力」が表に立てられるようにカウンセリングを進めていきます。
「怖がり」は焦れば焦るほどうまくいかないケースも多く、ゆっくり地道に時間をかけて改善するという認識が必要です。
そういったゆったりとした時間の中で心の余裕も生まれてきます。
怖がりは、
- 恥ずかしさ
- 劣等感
- 罪悪感
- 焦り
- 傷つき
などが生まれやすいため、そういった感情や思いもカウンセリングの中で同時に大切にしていきます。
自己防衛本能などのからだに染み付いた「恐怖条件付け学習」などを軽減・消去していくような心理療法も組み合わせて進めていきます。
大きなところを乗り越えようとせず、本当に小さな一歩を進めることを繰り返すことによって苦手意識の克服や自己効力感の回復などが起きていきます。
最初は牛歩ですが、少しずつ変化していく中で希望が見えてきて加速力が出てきます。
このあたりからクライエントは、明るい気持ちや自信を取り戻していきます。
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精神的ショックに対するカウンセリングと心理療法
認知の偏り(認知の歪み)
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記事監修
公認心理師 白石
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