過去の心理学者・臨床家・研究者の人物像や提唱された内容から今に学べることは多くあります。
ここでは心理学の行動理論に影響を与えた一人であるB・F・スキナーと「オペラント条件付け」について書いていきたいと思います。
もくじ
B・F・スキナーについて
バラス・フレデリック・スキナー(Burrhus Frederic Skinner)は、1904年アメリカのペンシルベニア州サスケハナに生まれました。
ニューヨークのハミルトン大学で英語を学び、当時は作家志望であったようですが、性に合わないことを悟ります。
パヴロフやワトソンなどの業績や発表に感化され、ハーヴァード大学で心理学を学び、1931年に博士号を取得します。
1936年に結婚し、ミネソタ大学、インディアナ大学にて勤務し、1948年にはハーヴァード大学の教授に就任します。
1990年に白血病で亡くなるまで数多くの研究と発表を行いました。
彼の研究は心理学を哲学的ルーツから切り離し、徹底的に根拠を求める科学的検証を行うというスタイルでした。
また彼は研究で用いるさまざまな発明を行ない、「小道具マニア」と呼ばれるほどであったようです。
オペラント条件付けの研究が有名であり、現在の行動療法やその基盤は、彼なしにはなし得なかったと言われるほどの功績を残しています。
主著には、
1938年「有機体の行動–実験的分析」
1948年「心理学的ユートピア」
1953年「科学と人間行動」
1957年「言語行動」
1971年「自由への挑戦–行動工学入門」
1978年「行動主義と社会の考察」
などがあります。
スキナー箱とオペラント条件付け
スキナーは、パヴロフの条件反射やパヴロフ条件付けを「レスポンデント条件付け」とし、ソーンダイクが行なった試行錯誤学習を「オペラント条件付け」と再定義化し、行動分析学を体系化しました。
人間の行動には、レスポンデント行動とオペラント行動の2つがあると提唱しました。
彼の有名な研究として「スキナー箱(スキナーボックス)」があります。
ネズミが入れたこの箱には、バーがあり、それを押すと餌が得られる仕掛けがされています。
ネズミはこのバーを押せば餌が得られると理解し、意図的にバーを押すようになり、彼の言う「ポジティブな強化」で餌を得るようになります。
これをスキナーは「強化理論(Principles of Reinforcement)」と呼びました。
行動強化のために強化理論を用いることをオペラント条件づけと呼び、その強化度を測定する尺度として最も適切なものは応答速度だとしました。
彼が提唱した「オペラント条件付け(英語:operant conditioning)」とは、「道具的条件づけ」「スキナー的条件づけ」とも呼ばれ、特定の状況下で自発的または道具を使って行った行動に対して、報酬または罰を与えることにより、その行動を起こす頻度を強化する学習反応のことを指します。
箱の中にネズミを入れ、ブザーが鳴った時にレバーを押すと餌が出てくることを学習するとブザーが鳴った時にレバーを押す頻度が高くなり、押すまでの時間も短くなる結果が研究で得られました。
※ちなみにオペラント (operant) とはオペレート(動作する operate)からスキナー作った造語です。
ブザーの音を弁別刺激、餌を強化刺激(強化子)、ブザーが鳴った直後にレバーを押す行動をオペラント行動といいます。
※弁別刺激とは、オペラント行動の手がかりになる刺激のことを指します。
弁別刺激―反応(オペラント行動)―強化刺激が随伴する関係性のこと「三項随伴性」といいます。
古典的条件付けは、自分の意思でコントロールできない反射的な不随意による受動的な学習反応ですが、オペラント条件付けは自分の意思でコントロールできる中枢神経系が関与する随意反応によって主体的に行われる学習反応です。
実際の学習では、両方の条件づけが同時に生じていることも多く、2つの原理が相互に影響し合っています。
オペラント条件付けの特徴図を以下引用から紹介します。
上記引用:オペラント条件づけ-Wikipedia
「強化」とは、オペラント行動の自発頻度の高まることで、「弱化」とはオペラント行動の自発頻度が減ることです。
「正の強化」とは、反応(オペラント行動)後に好子(快刺激)が得られ、その反応の自発頻度が増加することです。
例)褒められて嬉しいからもっとお手伝いする
「負の強化」とは、反応後に嫌子(不快刺激)が消失し、そのオペラント行動の自発頻度が増加することです。
例)手伝っていると怒られなくなったから手伝いをすることが増えた
負の強化の「逃避」とは、オペラント行動を行うことにより、不快刺激から逃れようとすることです。
例)怒られないように離れる
負の強化の「回避」とは、オペラント行動を行わないと不快刺激を受ける場合にオペラント行動によって不快刺激を避けることです。
例)怒られるのが嫌だから先に手伝っておこう
「弱化」とは、オペラント行動の自発頻度が低下することです。
「正の弱化」は、オペラント行動を行って嫌子(不快刺激)が出現した場合、その行動は減少します。
例)手伝いをしても怒られるから手伝うことが減った
「負の弱化」は、オペラント行動を行って好子(快刺激)が消失することでその行動が減少します。
例)手伝っても喜ばれないし、褒められないので手伝うことが減った
※「正=出現すること」「負=消失すること」を意味しますので、少し誤解が生じやすくなってしまうことがあります。図にするとこのようになります。
なお「消去」とは、オペラント行動を弱めるプロセスの1つで、一定期間強化された行動が強化されなくなり、その結果、その行動が起きなくなるというものです。
このように私たちがどのように選択し、何を強化し、何を弱化させる行動を取るかどうかによって学習や行動が変化していきます。
スキナーはこのようなさまざまな研究を通して、「人の行動は当人の遺伝的、環境上の経歴によって支配される」という結論に至っていきます。
教育面ではすぐに生徒へ励ましのフィードバックができる「ティーチング・マシン」を開発し、もともと小説家希望もあって小説も書いています。
「心理学的ユートピア」では、オペラント条件付け学習がされた行動を土台としてユートピア社会を描いていますが、自由意志を否定する場面や精神(魂)を批判的に扱っていることもあって議論と論争を巻き起こしてしまいます。
行動主義心理学にはいろいろなスタイルがありますが、社会の再設計を提起したのはスキナーの徹底的行動主義だけであると言われています。
行動療法へ
行動療法(英語:behavior therapy)とは、古典的条件付けやオペラント条件付けの学習を基にした行動変容のための心理療法です。
客観的に測定できる「行動」を変容させるためにさまざまな強化技法、消去技法などを用います。
古典的条件付け
強化技法・・・覚醒条件づけ技法・情動条件づけ技法
消去技法・・・暴露法(エクスポージャ法)・脱感作技法(拮抗条件づけ技法)
オペラント技法
強化技法・・・一般的オペラント技法・バイオフィードバック技法・差異強化技法・セルフモニタリング技法・漸近的行動形成技法・トークンエコノミー技法・モデリング技法・コミュニティ強化アプローチと家族トレーニング (CRAFT)
消去技法・・・レスポンスコスト技法・一般的オペラント消去技法・条件性制止技法
おわりに
スキナーの名言として以下のような言葉が残されています。
「失敗は誤りではない。それは単に、その状況での選択に過ぎない。本当の誤りは試みをやめることだ。」
「我々は、すばらしい本を教えるべきではない。読書を愛することを教えるべきだ」
参考文献
心理学大図鑑 キャサリン・コーリンほか
記事監修
公認心理師 白石
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