過去の心理学者・臨床家・研究者の人物像や提唱された内容から今に学べることは多くあります。
ここでは心理学の哲学的ルーツの一人であるウィリアム・ジェイムズと「意識研究」「情動理論」「プラグマティズム」について書いていきたいと思います。
もくじ
ウィリアム・ジェイムズについて
ウィリアム・ジェイムス(William James)は、アメリカではじめて実験心理学の授業を行ったことで有名なアメリカの心理学者・哲学者です。
1842年ニューヨークにて祖父が莫大な財産を築いた冒険家であり、神学者の父を持つ裕福な家庭に生まれ、1855年にヨーロッパへ移転します。
7歳から3年間小学校に通って以来、大学までは学校教育を受けなかったようです。
祖父の子孫の七人が画家になっているともあってか、早くから芸術的才能を発揮し、最初は画家を目指していたものの成長するにつれ関心は科学へと向かい、1861年にハーヴァード大学に入学します。※弟のヘンリーはのちに有名な作家になります。
途中、体の不調や抑うつ症状により学業の断念を余儀なくされたこともありますが、医師の学位を取得します。
実際に治療を行うことはなかったようですが、アマゾンへの探検から生物学へ興味を持ちますが、精神への興味から哲学への道を歩んでいきます。
ハーヴァード大学にて哲学と心理学の教授となり、アメリカではじめて行った実験心理学の授業は現代心理学に多大な影響を与えています。
主著には、
1890年「心理学原理」
1892年「心理学」
1897年「信じる意志」
1907年「プラグマティズム」
があります。
ジェイムズの意識研究
古代ギリシャから続く「意識」への研究と探求ですが、ジェイムズもその一人です。
ジェイムズは、意識や思考が絶えず動いたり、休んだりする様を「川」や「流れ」と例えています。
その流れは、互いに分離されているが、おのおのの思考は相次いで起こり(相継起)、それでいながら結合して「統覚」されてひとつのパルス(脈動)を形作り、絶えず前方に進展し続けるとジェイムズは言っています。
意識や思考そのものよりも、その過程であるプロセスに注目し、「意識は事物ではなく過程であり、絶えず進化している」「私たちは意識を定義するように求められない限りは意識の意味を知っている」と語っています。
そしてジェイムズの意識の研究は「情動」へと向かっていきます。
ジェイムズの情動理論
ジェイムズは、同僚のカール・ランゲとともに「情動」がどのように私たちの行動と関わるのかを考えていきます。
彼らの考えでは、クマを見かけて恐怖を感じ逃げるという一連の出来事は、恐怖を感じて逃げるということではなく、クマを見て逃げただけであり、自覚されている恐れの情動は、走って息が早くなり、鼓動が激しくなることを翻訳するように惹き起こされると考えます。
幸福も自分が笑っていると自覚するから感じるものであると考えるようです。
私たちの感覚とは異なる見解も多く感じるかもしれませんが、「ひとは悲しいから泣くのではない、 泣くから悲しいのである」といった情動の抹消起源説「ジェイムズ=ランゲ説」として提唱します。
情動が惹き起こされるプロセスは、一般常識で考える「刺激→情動→身体変化」という解釈よりも、「刺激→身体変化→情動」という形で想起されるというユニークな仮説です。
その後に神経が切断されても情動が出ることや身体反応より感情的反応が早い点などが明らかとなり、この説はヴントやキャノンらによって批判されます。
そのキャノンが考えるプロセス「刺激→情動→身体反応」という中枢起源説である「キャノン=バード説」として支持されていきます。
ジェイムズの仮説はただ批判される仮説ではなく、情動(感情)と身体との関係性への注目による後世の研究や批判的に発展していくことによる理解の広がりや深まりに貢献していると言えます。
新しい視点や解釈が行われ、批判が起き、仮説や理論の正当性や妥当性を研ぎ澄ましていくにあたって斬新な切り口はいつの時代でも必要なものだと思います。
ジェイムズとプラグマティズム
プラグマティズム(英語:pragmatism)とは、客観的な結果を基に科学的に記述しようとする哲学で、実用主義とも訳されます。
心理学の行動主義や近代科学思想の起点となり、ジェームズによる貢献は非常に大きなものがあります。
物事の真理をその理念や理論から考えるよりも有用性や実用性からみていくことの重要性を説きました。
ジェイムズは、「事実は単にあるがままのものであり、真理はたんに事実のなかではじまり、終わりを迎える信念の機能だ」とし、わたしたちは真理を絶えず互いに突き合わせ、以前の真理が修正されて「新しい真理」を更新していくものだと考えました。
その修正された「新しい真理」は、科学的探求と結果により進歩していくものだと語っています。
彼の功績は、私たちが「何を信じることが有用か?有効か?」という視点を強調してくれたことです。
そんなジェイムズですが、実験嫌いであったのにも関わらず、アメリカではじめて実験心理学を行なっています。
参考文献
ジェームズの感情理論 : 教科書にあらわれるその根拠と論理 宇津木 成介
心理学大図鑑 キャサリン・コーリンほか
記事監修
公認心理師 白石
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