知っていると役に立つ心理学としてこの記事では、療育などで活用されている「感覚統合」と「感覚統合療法」について書いていきたいと思います。
もくじ
「感覚統合」とは何か?
感覚統合(英語:sensory integration)とは、人間が持っている感覚器官を通じて入ってくる複数の感覚をうまく整理したり、分類したり、まとめたりする脳の機能のことです。
この機能があるからこそいろいろな日常生活や学業、仕事が行うことができますので人間の重要な機能の一つとされています。
人間の感覚には大きく2つに分けると「自覚しやすい感覚(意識しやすい)」と「自覚しにくい感覚(無意識的な)」があります。
「自覚しやすい感覚(意識しやすい)」には、
- 視覚
- 聴覚
- 嗅覚
- 味覚
- 触覚
の5つの感覚「五感」があります。
「自覚しにくい感覚(無意識的な)」には
- 前庭感覚(バランス感覚や平衡感覚、スピード感覚)
- 固有受容覚(筋肉や関節の感覚)
の2つの感覚があり、合わせて7つの感覚を人間は持っています。
私たちはコップの飲み物を飲む時にいちいち「コップの位置を視覚的に正確に確認し、腕をコップの方に持って行ってそれをこの指でつかみ、口元へ適切に届くように肩甲骨から腕を動かし、喉の状態を確認しながら程良い満足が得られるまで飲み込みに関係する筋肉を動かして飲もう」なんて思ったり、意識しなくても自然に行っていますよね。
このように生活をしていると様々な感覚が絶えず感覚器官を通して入ってきて、この「感覚統合機能」がまるで交通整理をするおまわりさんのような働きをしてくれて上手く活動ができているということです。
「前庭感覚」と「固有受容覚」という言葉を聞いたことがないかもしれませんが、例えば子供が椅子に座れるようになるには、バランス感覚や筋肉と関節の感覚がわからなければできませんので、この2種類の無意識的な感覚が必須となります。
これら7つの感覚が感覚統合されて、
- 自分の身体をイメージ化できて把握できる
- 動きや行動ができる
- 道具を使うことができる
- モノに合わせた動きができる
- コミュニケーションがとれる
などの基礎的な行動ができるようになります。
このなくてはないない7つの感覚と感覚統合機能ですが、つぎにどのように獲得していくかを書いていきます。
感覚統合の獲得
赤ちゃんの頃は食べていいものと食べてはいけないものの区別ができない状況ですので、口に入れていくうちに学習と発達が行われ、その区別が分かるようになっていきます。
その後、味覚がわかってきて、といったように感覚が分類され、整理されてより高度に学習されていきます。
体の動かし方も寝たきりからハイハイや座りができるようになって、立ち、歩き、手を使って道具を活用する、など少しずつ日常生活や遊び、運動を通してその能力は向上していきます。
このように多くの時間を使いながらゆっくりとした順序を経て学んでいくのですが、すべてのお子さんが同じようにすべての能力を同じように獲得していく行動や遊び、コミュニケーションを行っているかというとそうではありません。
そのためどうしても「この能力を育てる動きを練習していない」「この感覚をうまく使えず発達してきている」といったことが起きます。
これは実際にはすぐに気づかないことも多く、何かの問題に直面した時に療育などで「感覚統合」という言葉を初めて聞いたという方も少なくないかもしれません。
感覚統合療法を創始したアメリカの教育心理学者であり、作業療法士のアンナ・ジーン・エアーズ博士によれば「もし脳の感覚統合がうまくいってなければ、神経の交通渋滞で身動きが上手くとれなくなってしまう」と表現しています。
では実際に感覚統合の獲得について、エアーズ博士による4段階の感覚統合獲得理論からもう少し詳しくみていきましょう。
第一段階:基礎的な感覚系の獲得
基礎的な感覚系とは、先に説明しました無意識的な「前庭感覚」「固有受容覚」と「触覚」の3つから構成されています。
前庭感覚は、バランス感覚や平衡感覚、スピード感覚以外にも自分の身体のボディーイメージや眼球運動のサポート、重力に抵抗して姿勢を保つ働き、脳の覚醒を調節する働きなどがあります。
固有受容覚は、筋肉や関節の感覚以外にも力の入れ方やコントロールの調節機能、情緒を安定する働き、前庭感覚と協同して バランス感覚やボディーイメージの把握、重力に抵抗して姿勢を保つ働きなどを行います。
触覚は、識別する働き、危険察知などの自己防衛機能、スキンシップを感じるなどの情緒を安定させる働き、前庭感覚と固有受容覚と協同してボディーイメージの把握を行う働きがあります。
ちなみに識別系触覚機能が上手く発達できないと原始系触覚機能を上手く抑制できず、特定の触覚刺激に対して強い嫌悪感や拒否反応を起こす「触覚防衛」反応が出やすくなると言われています。その場合は、意識的・主体的に触るといった識別系の触覚機能を育てていくことが大切になることも多くあります。(感覚統合療法の項で説明していきます。)
これらは生まれながらに備わっており、視覚と聴覚も合わさり、発達していきます。
第二段階:感覚と運動の統合能力の獲得
第一段階で姿勢を保つ機能を獲得した後のこの段階では、眼球運動のコントロールが上手くなり、利き手が発達し、身体のボディーイメージの全体像と部位の認識、いろいろな部位の協調使用を行う能力が伸び、身体をうまく使うことができるようになっていきます。
第三段階:知覚運動の協応の獲得
第三段階では、視覚・聴覚の識別能力が伸び、話す・聞くなどの言語能力などが発達し、視覚と身体運動との連携が上手くなり、様々な知覚運動が協応して目的をもって行動する能力が伸びる時期です。
第四段階:学習・運動能力の獲得
最後の第四段階では、自信や自尊心が芽生え、注意力の調整など自分をセルフコントロールする能力が伸び、複雑な運動や秩序が取れた行動がとれるようになり、学校で学習したり、運動することができる能力を獲得していきます。
感覚統合が上手く形成されていないとどうなるのか?
感覚統合の機能が上手く形成されていないと、動作、感覚、対人、言語、情緒、学習などに問題が出やすくなってしまうと言われています。
もう少し具体的に書くと、
- 落ち着きがない(じっとしてられない)
- 多動
- 集中できない
- 不注意が多い
- 2つのことを同時に行うのが苦手
- 怠けていると誤解されやすい
- 気分の切り替えができない
- 自分の感情を抑えるのが苦手
- 衝動的になる
- こだわりが強すぎる
- 我慢ができない
- 順番が待てない
- 乱暴な動作が多い
- 怒りやすい
- 細かい作業が苦手
- 言葉がうまく出ない
- 自分が思っていることを伝えられない
- 友達とうまくコミュニケーションや遊びができない
- 話しかけても気がつかない
- 言葉の発達が遅れてしまう
- ルールが理解できない
- みんなと同じ行動が取れない
- 不器用
- 転びやすい
- 転んだ時に手をつく受身ができない
- たくさん回っても目が回らない
- 触られることが苦手
- 感覚が過敏もしくは感覚が鈍感
- 大きな音が苦手
- 体を動かす(スポーツ)が苦手
- 縄跳びや鉄棒が苦手
- 三輪車や自転車に乗れない
- トイレで自分のお尻を拭くのが苦手
- ジャンプやつま先歩きなどが難しい
- ぎこちない歩き方になってしまう
- 自分を叩く
- 偏食
などの問題が起きる可能性があると言われています。
詳しくは感覚統合学会が公表しているチェックシートをご覧下さい。
すべてが感覚統合だけの問題とは言えないこともあると思いますが、7つの感覚と感覚統合をうまく育ててあげることで問題の改善ができるものも多くあるかもしれません。
感覚統合療法
感覚統合療法は、エアーズ博士が自閉症やLDなど発達障害を持つお子さんに対するリハビリテーションとして開発した技法です。
偏った感覚や発達がうまくいっていない感覚に対して、正しく働くように発達を促すトレーニングを行っていきます。
感覚統合療法で重要な概念になってくるのが、「原始系感覚」と「識別系感覚」です。
原始系感覚とは、危険を回避するために反射的・本能的に身を守る防衛本能です。
識別系感覚とは、さまざまな情報からその状況を判断・識別する能力のことです。
発達障害などではこの原始系感覚が過剰に働き、過度な自己防衛反応を引き起こしているという仮説を基に識別系感覚を育て、活性化することを重要視しています。
感覚統合療法ではさまざまな遊具が設置されており、自由に遊びながらトレーニングやリハビリテーションを行っていきます。
そこで大切になるのが、お子さんの
①やってみたい!!という興味や主体性
②楽しい!!という気持ち
③うまくいったという達成感
の三点です。
そのお子さんのやってみたいことや興味があること、楽しいことをスモールステップ化して程良い設定でチャレンジを行い、達成感を感じていけるように行っていくのが基本です。
作業療法士などが関わり方や感覚入力をうまく整理してお子さんが適切に身体を使えるようにしていきます。
ただ身体的な発達を促すだけではなく、
・ボール遊びなどで物を介して人とやりとりできるようになる
・一緒に遊具で遊ぶことで要求することの大切さや楽しさ、援助が受けられることを学ぶ
・体の触れ合いを通してコミュニケーションを学ぶ
などいろいろな発達を促すことができます。
そういった中からお家の環境設定や学校などでのアドバイスなども行っていくことで多角的にアプローチをしていきます。
おわりに
「感覚統合」と「感覚統合療法」について書いてきましたが、いかがでしたでしょうか?
実際に感覚統合療法を受けたい方はこの技法を用いているお近くの医療機関や発達支援施設に問合わせてみるとよいでしょう。
また自宅で行いたい、もしくは通常の子育てに生かしたいという方は書籍が多く出ていますのでそういったものを参考にしていくのもおすすめです。
少しでも参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、有難うございます。
記事監修
公認心理師 白石
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