最近、目にしたり、耳にするようになってきた「心理的安全性」と「
チーミング」という言葉があります。
これらをわかりやすく理解するためにこの記事を書いていきたいと思います。
もくじ
そもそも「心理的安全性」とは何か?
心理的安全性(psychological safety)とは、ハーバード大学で組織行動学を研究しているエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念です。
彼女は、チームにおいて、たとえ的外れでも自分の意見を言うことに心配や臆することなく発言できるような安全性が確保できる心理状態があることの重要性を唱えました。
安全性が確保できる心理状態には、
●自分が発言することに恥じる必要がない状態
●拒絶される心配がないこと
●罰を与えられる不安がないこと
●チーム内が安全であるという認識
といった心理状態やチーム内認識があることが重要です。
自分の発言や意見が拒絶されない、非難されない安心感があれば発言しやすいですし、より多くのアイデアが生まれやすい状態になりますよね。
なかなか意見が言えない特性の方でも、他者の発言と周囲の対応の事例を参考として発言をするかどうかの基準にしている方にとって非常に働きやすい職場になりえるものです。
このようなチームや組織の心理的安全性が高いことにより、
●自身の才能や能力が向上する
●チーム内のモチベーションと生産性の向上
●幸福度やwell-beingの向上
●チーム内コミュニケーションや連携の改善
●離職率の低下や定着率の向上
●責任感や関心が芽生えやすい
●スムーズな情報交換ができる
●良い人材が集まりやすい
●さまざまな人材が集まるためにイノベーションが起きやすい
などの効果が確認されています。
これはかなり多くの利益と報酬をもたらしてくれるものです。
仕事が楽しくなる、自発的に取り組んで能力が伸びて自信が持てる、そして自分の人生の幸福度が上がっていく、今後ますます大切になってくるように思います。
若い人材の多くがストレスが少ない、過重負担のない職場、心地の良い職場を求めているとニュースで見ることも少なくありません。
時代はこのような安全性や快適性、幸福感を求めているように感じます。
またカウンセリングを行ってきた私にとっては、このような職場が増えることで不必要だった悩みや体調不良が全国から減っていく可能性のあるこの取り組みを非常にうれしく思います。
グーグルによる研究から
世界的に有名な企業であるグーグル社が生産性の高いチームの条件を見つけるために行ったプロジェクトでは、
①ミスをしても非難されない心理的安全性
②チーム内の信頼
③構造と明瞭さと有効な意思決定プロセス
④仕事の意味や意義があること
⑤職務のインパクトや組織への貢献の理解
などの要素が重要であることがわかりました。
心理的安全性は信頼関係や意思決定プロセス、仕事の意義やインパクトなどへも影響することからその重要性が高く感じられ、世界中の意識の高い組織に取り入れられていっています。
取り組む先進的な企業もあれば、なかなかその知識を知る機会がない
心理的安全性の低いチームとは
心理的に安全性の低いチームとは、罰があったり、非難や拒絶が起きやすい状態であったり、安心感がなく恐怖や不安を想起しやすい状態であるといえます。
心理的安全性を邪魔するものとして、
①無知だと思われる不安や恐怖(例:こんなこともわからないなんて)
②無能だと思われる不安や恐怖(例:こんなこともできないなんて)
③邪魔をしているんじゃないかという不安や恐怖(例:上記2つや言われなくても表情や空気から感じる)
④ネガティブだと思われる不安や恐怖(例:いつも否定ばかりして)
などが挙げられています。
このような心理的安全性が低いチームのメンバーは、「自己呈示行動」や「自己印象操作」を行って、自分をよりよく見せたり、偽る行動をとることが多くなるとされています。
自己呈示行動とは、社会的や相手に望ましいイメージの印象を与えるために行われる行動です。
就職や転職などで見せる面接など誰でも使っている印象操作でもありますが、あまりにも本当の自分と異なる印象付けをし過ぎることで、隠したり、無理に演じることに大変な労力がかかってしまうデメリットもあります。
良い印象を与えるための印象操作は主張的自己呈示と呼ばれ、悪いイメージを回避したいものは防衛的自己呈示と言われています。
防衛的自己呈示は、不安や恐怖を感じ、メンタルヘルスのみならず、交感神経の緊張など身体面への悪影響も起こります。
主張的自己呈示でも防衛的自己呈示でも本当に自分や能力とかけ離れたものを印象付ければつけるほど心理的・身体的負担が加味されます。
ちなみに自己呈示の印象操作は、
①取り入り(相手に気に入られるために相手の主張に合わせる)
②自己宣伝(有能な人間であることを強く主張する、俺ってすごいでしょ)
③示範(正義感がつよい、相手にも模範を求める)
④威嚇(影響力のある印象を与えるために恐怖を抱かせようとする)
⑤哀願(弱さをアピールして守られるべき存在であることを知らせようとする)
の5つに分類されることもあります。
心理的安全性が高い場所やチーム内ではこのような5つの自己呈示が不要な場所となることも多いと言い換えることもできます。
これらの無駄な労力を使っていたところを本当に必要なところに力を注げられるために、生産性や効率性が向上します。
心理的安全性を高めるためには?
心理的安全性を高めるためには、
●チーム内の心理的安全性に関する見直し
●発言の機会の平等性
●評価方法の見直し
●協力体制の見直し
●チーム内交流の機会を増やす
●ポジティブで建設的な捉え方を心掛ける
などが実際には求められます。
またエドモンドソン教授は、チーム内の心理的安全性を7つの質問で計測する方法を提唱しました。質問に対して「強くそう思う」「そう思う」「どちらとも言えない」「あまりそう思わない」「そう思わない」で回答します。
①チームの中でミスをするとたいてい非難される
②チーム内で課題や難題を提起することができる
③自分と違うという理由で他者を拒絶するメンバーがいる
④リスクのある行動をしても安全である
⑤他のメンバーに助けを求めることは難しい
⑥メンバーは自分を意図的に陥れるような行動をしない
⑦自分のスキルや能力が尊重されて、活かされていると感じる
①③⑤が「そう思わない」という度合いが強いほど心理的安全性は高くなります。
②④⑥⑦は「そう思う」という度合いが強いほど心理的安全性が高くなります。
また心理的安全性の高い職場にみられる特徴として、
- 健全で建設的な意見の交流や衝突がある
- 笑いやユーモアがある
- 助け合いの文化が形成されている
- 必要な雑談ができる
- ミスや課題に関して話したり、相談できる機会が多い
- ポジティブな発言が多い
- 発言や話しのしやすさがある
- 挑戦することを歓迎する
- 新しいアイデアや別の視点を歓迎できる体勢がある
- 失敗した挑戦も称える精神
などがあります。
エドモンドソンは言います、「恐怖は学習意欲を阻害する」と。
チーミングとは何か?
チーミング(英語:teaming)とは、アメリカの心理学者エドガー・シャインが「これからはチームよりもこれからはチーミングが重要である」と提唱した概念です。
チーミングの成功には、
- はっきり意見を言い合える
- ともに協同する
- 試みる
- 省察(自分自身を省みて良し悪しを考える)
することが必要であるとされています。
それらを実践するには「学習する組織づくり」と「リーダーシップ行動」が重要になるため、
- 心理的安全な場をつくる
- 失敗から学ぶことを大切にする
- 学習するための骨組みをつくる
- 職業的・文化的な境界をつなぐ
などを意識する必要があります。
また心理的安全性のためにリーダーは、
- 自分が間違えることがあることを認める
- 持っている知識の限界性を認める
- 直接話のできるような親しみやすい人になる
- 失敗した人の制裁をやめる
- 職務と境界性をはっきり分ける
といった点を理解していく必要性があることに言及しています。
「上手に失敗して早く成功しよう」という言葉も生まれてきていますね。
話は戻りますが、エドモンドソン教授によると「チーミングとは、複雑で不確実性の高い状況でより良い仕事のやり方を考え出しながら、協働して課題を片づける方法」と語っています。
既存のビジネスの現場では、担当の部署があってその中で動くことが多いと思いますが、既存のチームよりもっとフレキシブルにチームを結成して事に当たることができるようにするために考え出されたのが「チーミング」です。
メンバーが固定化されず、組織や必要であれば業界もまたいで協同し、適材適所に職務を遂行できるようになるため、新しいビジネスチャンスが生まれやすくなります。
このチーミングの中でも心理的安全性は重要な核の一つでもあり、活発な意見交換や既存のフレームを超えたアイデアを生みやすくなります。
おわりに
さてここまで書いていきましたが、いかがでしたでしょうか?
能力がないことがばれないように。。。
実はこんな弱みがあることを悟られないように。。。
また怒られるから。。。。
自分の意見は通らないから。。。
プレッシャーで。。。。
まだ新人だから。。。。
周囲の目が。。。
本当はいいアイデアがあるんだけど。。。
まだ認められてないし。。。
このような気持ちや我慢をしながらお仕事の現場で働かれている方は少なくないかもしれません。
こういったところにストレスに労力を注いだり、もっと良い仕事ができるのに本来のパフォーマンスを発揮できなかったり、ストレス過多となってしまって疲弊しやすくなることもあります。
このような職場環境が改善されて行ってほしいですね。
もちろん個人的な特性や課題などで問題となるケースは個人の問題でもありますので、それは職場の経験で成長させたり、研修や心理カウンセリングなどを活用されると思います。
まだまだ改善するところの多い日本の職場ですが、少しずつ、この心理的安全性が浸透し、広がっていってほしいものです。
心理的安全性がない職場ほど無駄が多く、生産性が低いといった認識が広まっていけば、ますますそのムーブメントは浸透するように思います。
少し経てば以前の常識が非常識になることも多くなっています。
職場の誰かがこの知識を知り、チーム内で話し、少しずつその取り組みが職場に反映されていきますように願っております。
リンク:組織心理学(産業心理学)
参考文献:
恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす エイミー・エドモンドソン著
チームが機能するとはどういうことか「チーミング」 エイミー・エドモンドソン著
記事監修
公認心理師 白石
「皆様のお役に立つ情報を提供していきたいと思っています」